今日の日経を題材に法律問題をコメント

2014年02月28日(金) ビットコイン取引所の民事再生申立て いずれは破産に移行か

 日経ネットニュース(H26.2.28)で、ビットコインの取引所「マウントゴックス」を運営するMTGOXが、東京地裁に民事再生の申し立てを行ったと報じていた。


 記事によれば、顧客が保有する75万ビットコインのほか、購入用の預かり金約28億円が消失しているとのことである。


 しかし、MTGOXにはみるべき資産はないようであるし、一度失った信用を取り戻すことは不可能であろう。


 そのような状態で何を「再生」するというのだろうか。


 結局、手続のどこかの段階で民事再生は廃止となり、破産手続きに移行する可能性が高いと思う。



2014年02月26日(水) 事前に辞任届を提出させることの問題点

 日経(H26.2.25)ネットニュースで、NHKの籾井会長が、理事に対し、辞任届を預けるよう求めていたと報じていた。


 予め辞任届を提出させることについては当然批判が強いが、他方、「一般の会社でもよくあること」と擁護する声もある。


 確かに、一般の会社において、社長が取締役に予め辞任届を提出させることはあるようである。


 しかし、そのようなことは止めた方がいいと思う。


 なぜなら、取締役に辞任の意思がなければ、その辞任届は効力がないからである。


 つまり、予め提出された辞任届は法的には無効である。


 そもそも、社長(代表取締役)には取締役の解任権はない。取締役を解任するのは株主総会である(会社法339条1項)。


 それゆえ、辞任届を提出させておいて、社長が事実上の解任権を得ておこうとするのは、法が予定しているガバナンスとは異なる。


 そのようなコンプライアンスに反することまでして社長の権限を強くしようとする発想自体が問題である思う。


 ひるがえってNHKの問題を見ると、放送法では、理事が職務執行の任にたえないと認められるときであっても、会長は、経営委員会の同意を得なければ罷免できない。


 会社の取締役は、株主総会の決議によっていつでも解任できるから、NHKの理事は会社の取締役よりも地位が保障されているといえる。


 それを、会社の誤った常識を持ち込み、辞任届を提出させたのであるから、取締役と理事を同列に扱った誤りと、事前に辞任届を提出させること自体の誤りという二重の誤りがあるといえる。



2014年02月25日(火) 東日本震災 七十七銀行に対する訴訟

 日経(H26.2.25)夕刊で、東日本大震災で七十七銀行女川支店の屋上に避難して津波の犠牲になった従業員の遺族が、七十七銀行に対して損害賠償を求めた訴訟で、仙台地裁は原告の請求を棄却したと報じていた。


 裁判所は、屋上(2階建て、高さ約10メートル)への避難の是非について、「屋上を超えるような巨大津波の予見は困難だった」として、屋上避難には合理性があり、銀行側の安全配慮義務違反には当たらないとした。


 興味深いのは、同じ裁判長が担当した宮城県石巻市の日和幼稚園訴訟では、「大津波は容易に予見できたのに、園長らは情報収集義務などを怠った」として園側の安全配慮義務違反を認めたことである。


 ただ、判断が矛盾しているわけではないだろう。


 日和幼稚園訴訟では、園のバスは高台から海岸へ向って出発し、津波に飲まれている。


 そのことと、2階建て建物の屋上(しかも業務用建物なので1階当たりの高さは居住用よりは高い)に避難したことと同列に論じることは出来ないだろう。


 遺族の気持ちは理解できるが、控訴審でも銀行側の法的責任は認められないのではないだろうか。(2.26一部修正)



2014年02月24日(月) 送り付け商法が復活

 日経(H26.2.24)夕刊で、電話で強引に購入契約を結ばせたり、断ったのに魚介類が届いたりして代金の支払いを要求する「送り付け商法」が復活しているという記事が載っていた。


 商品はほとんどがカニであるが、金額は高額というわけでなく、届いたものを「腐らせてもいけないから食べようか」と思う心理を利用した商法である。


 値段相応のものであれば諦めもつくかもしれないが、送りつけても支払わないケースもあるだろうから、元を取るためには原価は相当安いと思われる。


 したがって断るに限るが、被害者の多くが一人暮らしの高齢者というのが悔しい。



2014年02月21日(金) 自殺教唆が成立?

 日経(H26.2.21)夕刊で、交際相手の女性にLINEで「死ねよ」「手首切るより飛び降りれば死ねるじゃん」などとメッセージを送り、翌日、飛び降り自殺させたとして、慶大3年生の容疑者が自殺教唆の疑いで逮捕されたという記事が載っていた。


 この男性の行為はひどい。


 ただ、自殺教唆は、自殺の決意をしていない者に自殺する決意を与え、自殺を行わせることである。


 ところが、LINEで「手首切るより飛び降りれば」と言っているので、この女性はすでに自殺をほのめかしていたのではないだろうか。


 そうなると自殺教唆罪の成立は難しいだろう。


 と思っていたら、この男性の勾留請求が却下されたそうである(2.22日付)。



2014年02月20日(木) 口コミサイトの情報掲載

 日経(H26.2.20)社会面で、「秘密の隠れ家」を売りにバーを営業している店が、「食べログ」に勝手に掲載されたとして、情報の削除と損害賠償を求める訴えを大阪地裁に起こしたという記事が載っていた。


 この店では、客がインターホンで入り口の解錠を求めるシステムで、「隠れ家としての演出で他の店との差別化を図ってきた」。

 ところが、店の情報や写真が「食べログ」に投稿されたので削除を求めたところ、表現の自由などを理由に削除要請を拒否されたそうである。


 なかなか難しい問題だが、店の写真は、店側の管理権を侵害して撮影されている可能性が高く、削除要請以降も「食べログ」で掲載を続けたことは不法行為にあたるのではないだろうか。


 他方、店の情報自体は店側の管理権の範囲外であり、それを掲載したことが不法行為に該当するとは思えない。


 食べログに限らず、様々な業種の口コミサイトがあるが、「口コミサイトに勝手に掲載された」として不満を持つ経営者は多い。

 実際に「投稿の削除を請求できないか」と相談されたこともある。


 しかし、その情報が虚偽でない限り、削除を求めることは難しいだろうと思う。



2014年02月19日(水) 商業目的の情報公開請求

 日経(H26.2.19)夕刊で、自治体への情報公開請求によって公立中学、高校の過去の定期テストを入手し、それを販売していたインターネットサイトが閉鎖されるという記事が載っていた。


 これについて、コピー販売は著作権の侵害ではないかという問題があるが、それと同時に、情報公開制度の悪用ではないかという点も問題視された。


 実際、商業目的の情報公開請求は、請求全体の65%にも上るという調査もあり、行政側の労力と経費と経費は大変なものになっている。


 そのため、商業目的の請求は制限すべきという議論も出ている。


 他方、それは民主主義のコストであり、目的によって制限すべきでないという考え方も強い。


 非常に難しい問題であるが、商業目的による情報公開の労力、経費まで民主主義のコストとは思えず、それは本来請求者が負担すべきコストではないだろうか。


 それゆえ、目的を明記させ、商業目的の場合には手数料を高くするなどの工夫は必要ではないかと思う。



2014年02月18日(火) 刑事事件では一審の方針の立て方が重要

 日経(H26.2.18)社会面で、京都大の物品購入を巡る汚職事件で収賄罪に問われた京大大学院元教授に対し、東京地裁は、懲役2年(求刑懲役3年)の実刑を言い渡したと報じていた。


 贈賄側は懲役1年6月、執行猶予4年であった。


 贈賄側よりも収賄側の方が刑は重く、しかも、実刑になることもしばしばある。


 そうはいっても、この程度の事件では執行猶予が付くことも多いと思う。


 それが、実刑になったのは、被告人が、研究費をプールする「預け金」だったとして無罪を主張していた点が、反省の色なしと取られたためであろう。


 こうして一旦一審で実刑判決になると、控訴審で事実を認めたとしても、執行猶予までは付かないことが多い。


 それゆえ、弁護側としては、一審での方針の立て方というのは重要である。



2014年02月17日(月) 淡々と処理すれば

 日経(H26.2.17)社会面で、アクリフーズの農薬混入事件で、群馬県警は、農薬「マラチオン」を混入して冷凍食品を毀損したとして、阿部容疑者を器物損壊の疑いで再逮捕したと報じていた。


 この事件では、捜査機関は、偽計業務妨害罪で逮捕しながら、起訴せず、記事のように器物損害罪で再逮捕した。


 しかし、容疑者の目的は、食品を損壊することではなかったであろう。


 それゆえ、再逮捕された容疑者自身が一番、「なぜ器物損壊罪なの?」と思っているかもしれない。


 この事件は、本来であれば傷害罪で起訴すべきと思う(もちろん、容疑者が農薬を混入させたことが前提である)。


 しかし、証拠上それが難しいようである。


 そうであれば偽計業務妨害罪でさっさと起訴すればいいのではないだろうか。


 ただ、世間がそれを許されないので、器物損壊罪という罪名で逮捕したのであろう。


 捜査機関の気持ちも分かるが、あまり無理すると違法な別件逮捕や冤罪につながる可能性があり、淡々と処理すればいいのではないだろうか。



2014年02月14日(金) ビットコインの引き出しを一時停止

 日経(H26.2.14)社説で「ビットコイン」について論じていた。


 ビットコインとは、インターネット上の仮想通貨であり、電子決済や海外送金などに使え、ほぼ手数料がかからないという特徴がある。


 社説では、「ビットコインに対する各国政府の対応はまちまちで、利用を促すには信頼できる取引所の設置など安全対策が必要だ。仮想通貨は現行通貨制度への挑戦ともいえるだけに、各国通貨当局は早急に実態を解明し、対応を急いでほしい。」と、どちらつかずのスタンスであった。


 ところが、いいタイミングか悪いタイミングかは分からないが、2月7日から「システムメンテナンスに伴う一時的なビットコインお引き出し停止のお知らせ」と称して、ビットコインの引き出しを一時的に停止しているようである。


 ビットコインはサイバー攻撃に晒されており、それが原因であるという話も聞く。


 しかし、サイバー攻撃に晒されてダウンするようでは、とても通貨としての信頼性は得られないであろう。


 最終的には、ピットコインは信頼性を勝ち得ないまま消滅するのではないかという気もするのだが。



2014年02月13日(木) 検察官は自信がないのだろうか

 日経(H26.2.13)社会面で、パソコン遠隔操作事件で威力業務妨害罪などに問われた片山被告の初公判が開かれたという記事が載っていた。


 検察側の冒頭陳述に1時間、弁護側の冒頭陳述も1時間かけたようである。


 検察側の冒頭陳述は、検察官が事件の全貌を明らかにする主張であり、それにより最判所に対し審理方針等を樹立させ、また被告人側の防御に資するものである。


 それゆえ、偏見や予断を生じさせるものでない限り、ある程度詳しくても差し支えないとはいえる。


 ただ、冒頭陳述に1時間も割くというのは少し長い気がして、逆にこの事件についての検察官の自信のなさを感じてしまう。



2014年02月12日(水) 根拠なく令状請求したのは違法だが、そのまま令状を出したのは違法でない?

 日経(H26.2.12)社会面で、警視庁による違法な家宅捜索を受けたとして、労働組合が東京都に損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁は「十分な根拠がないまま捜索令状を請求したのは違法だった」として10万円の支払いを命じたという記事が載っていた。


 このような場合、十分な根拠なく令状請求したことが違法なら、十分な根拠がないのに令状を発布した裁判官もまた違法ではないかと思う。


 しかし、最高裁は、裁判官の国賠法上の責任について、「違法または不法な目的をもって裁判したというような特別な事情があるとき」と限定的に解している。


 そのため、裁判官が責任を問われることはほとんどない。




2014年02月10日(月) 第三者委員会の意義

 日経(H26.2.10)法務面で、企業不祥事の原因究明や再発防止のために設置される第三者委員会が社会の厳しい視線にさらされているという記事が載っていた。


 第三者委員が企業と歩調を合わせた報告をして批判を浴びたり、逆に会社と対立して目的を果たせなかったりする例が出ているためである。


 記事では、「第三者委の報告書を評価するために、有識者や市場関係者の団体などで任意の格付け機関を作ることも考えられる。」としていた。


 しかし、第三者委に多大な期待をする必要する必要はないのではないだろうか。


 再発防止ができる会社は、第三者委に委ねなくても対応は可能であろう。(もちろん、第三者委に報告を委ねてもよいが。)。


 他方、問題ある会社については、第三者委を通じて多少は明らかになる会社の資料や、第三者委との対応で現れる会社の本音が分かればそれで十分と考えた方が現実的ではないだろうか。


 第三者委のための評価機関をつくるのは屋上屋を重ねるようなものだと思う。



2014年02月07日(金) 「聞こえない」と言えば、依頼者の言うことを信じるしかない

 日経(H26.2.7)社会面で、作曲家の佐村河内守氏の楽曲を別人の新垣氏が作っていた問題で、新垣氏が「(佐村河内氏の)耳が聞こえないと感じたことはない」と述べたと報じていた。


 さらに記事は、佐村河内守氏の代理人弁護士が、「耳が聞こえないのは本当だと思う。聴覚障害2級の障害者手帳を持っていた。」と説明したと報じていた。


 その弁護士と、佐村河内氏とがどのようにして打ち合わせたのかは多少気にかかるが、依頼者が聴覚障害と言っているのに、「本当に聞こえないのですか」と尋ねられるはずもない。


 「聞こえない」と言っている以上、依頼者の言うことを信じるしかないだろう。


 担当した弁護士も、まさか新垣氏が「耳が聞こえていた」というとは考えておらず、変な争いに巻き込まれたなあと思っているのではないだろうか。



2014年02月06日(木) 使用中止までは求められない

 日経(H26.2.6)社会面で、作曲家の佐村河内守氏の楽曲を別人が作曲していた問題を報じていた。


 その記事の中で、フィギュアスケートの高橋大輔選手がソチ冬季五輪で使用予定であるが、JASRACは「曲の差し替えができないケースでは利用者の判断に委ねている」としており、使用中止までは求めていないとしていた。


 しかし、そもそもJASRACは使用中止を求めることは出来ないであろう。


 JASRACが管理する著作物でなかった場合には、利用許諾を取り消すことはできるにせよ(約款でそのように定めている)、JASRACは当該著作権の管理者の権限を失い、差止めを求める根拠もなくなるからである。



2014年02月04日(火) 談合は割に合わない

 日経(H26.2.4)社会面で、千葉の震災復旧工事に談合があったとして、公取委は、20社に2億2000万円の課徴金を課したという記事が載っていた。


 平均すると1社1100万円である。


 20社には小規模の会社がかなりあるだろうし、課徴金は会社経営に相当なダメージを与えるのではないだろうか。


 現場では「談合も時には必要である」という意見を聞くこともあるが、結局は割が合わないということを自覚するしかないであろう。



2014年02月03日(月) ビットコインについて

 日経(H26.2.3)法務面で、インターネット上の仮想通貨ビットコインについて報じていた。

 「国内でも現実に利用できる店舗が出現するなど、投資・決済手段として広がりつつあるが、日本の法律では、モノなのか通貨なのかさえ定義されていないのが現状」とのことである。


 ただ、揚げ足取りではあるが、「モノなのか通貨なのかも定義されていない」というが、通貨ではないだろう。通貨だと通貨偽造罪になってしまう。


 それはともかく、ビットコインで懸念されているのはマネーロンダリングである。


 ビットコインの仕組みでは、「取引はすべて公開されている」とのことであるが、公開されているという保証はないのではないだろうか。


 だからといって、最初から危険なものと考えるのも「羮に懲りて膾を吹く」ような気もする。


 結局は、問題が生じるごとに規制をしていくしかないのかも知れない。


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