今日の日経を題材に法律問題をコメント

2012年01月31日(火) 厚労省がパワハラを定義

 日経(H24.1.31)社会面で、厚生労働省のワーキンググループが、パワーハラスメントを6つに類型化した報告書をまとめたという記事が載っていた。


 パワーハラスメントを定義を付けるということは、パワハラかどうかの判断の基準になるわけであり、会社にとっても有用であろう。


ただ、報告書は、上司からだけなく、同僚間や部下から上司へのいじめや嫌がらせもパワハラに含めるべきと提案しているようである。


 しかし、そこまで定義を広げると、パワハラの概念が曖昧になり、判断基準としての有用性を失うのではないかという懸念がある。



2012年01月27日(金) 何歳以上が成人か

 日経(H24.1.27)2面で、政府が選挙年齢や成人年齢の引き下げに関する検討を再開すると報じていた。


 憲法改正の可否を決める国民投票の投票権年齢を18歳以上とした国民投票法が2007年5月に成立したが、その後この問題は放置されていた。


 私は成人を一律に18歳以上にしていいのではないかと思うが、18歳、19歳は少年法が適用されなくなり保護に欠ける、消費者被害に遭うおそれがある、18歳、19歳の飲酒・タバコをどうするかなど様々な問題が生じる。


 何歳以上が成人であるかにについて明確な基準がないだけに、なかなか難しいようである。


 当面は選挙権・投票権だけでも18歳以上に引き下げ、問題がなさそうなところから徐々に成人年齢を引き下げるのが現実的なのかもしれない。



2012年01月26日(木) JR福知山線脱線事故 神戸地検は控訴を断念

 日経(H24.1.26)社会面で、JR福知山線脱線事故で業務上過失致死傷罪に問われたJR西日本の山崎前社長を無罪とした判決について、神戸地検は控訴断念を表明したと報じていた。


 神戸地検は「控訴しても一審判決を覆し、有罪を獲得できる新たな主張・立証をできる見込みがない」と判断したとのことであり、やむを得ない。


 「前社長の起訴は、市民目線を重視した」のであるが、逆に言えば、証拠が不十分な中での危うい起訴であったといえる。


 この事故では、他にも歴代3社長が強制起訴され、同地裁で公判前整理手続き中である。


 無罪となった山崎前社長は安全対策を統括する鉄道本部長だったが、歴代3社長はそれよりもなお現場から遠いから、無罪になる可能性は高い。


 かりに、強制起訴した事件で次々と無罪判決が出た場合、制度そのものを見直す必要が生じるのではないか。



2012年01月25日(水) 議会による請求権放棄は有効か

 日経(H24.1.25)社会面で、首長等に損害賠償を求める住民訴訟で、議会が賠償請求権を放棄して住民側が敗訴するケースが相次いだ問題で、最高裁は、上告されていた6件の訴訟について弁論を開くことを決めたという記事が載っていた。


 議会の議決によって請求権を放棄することの適否について、この6件は高裁段階で3対3で判断が分かれていたが、最高裁が判断を統一することになる。


 議会による請求権の放棄を認めると、住民訴訟制度を否定することになりかねない。


 しかし、住民の代表である議会の判断を尊重すべきともいえる。


 悩ましい問題であり、高裁段階で判断が分かれるのも理解できる。


 個人的な考えを言わせてもらえば、住民訴訟制度は間接民主制を補完するものに過ぎないから、一住民の訴訟によって、住民を代表する議会の判断を制限することは原則として許されないのではないか。


 つまり、議会による請求権の放棄は原則として有効である。


 ただ、請求権放棄の目的に合理性がなく、ただ単に首長等の責任を免れさすためであれば、それは権利の乱用として違法になると考える。


 予想では、最高裁も似たような判断をするのではないかと思うのだが。



2012年01月24日(火) 死刑執行は法相の責務である

 日経(H24.1.24)社会面で、小川敏夫法相が、日本経済新聞社などのインタビューに答えて、国会会期中の死刑執行について「(国会で)質問されるから嫌だという考えはない」と述べたという記事が載っていた。


 やや張り切り過ぎのきらいがあるが、死刑執行は法相の責務であるから、国会会期中だからといって避けるのはおかしいであろう。


 その意味では、法相の言っていることは間違っていないと思う。



2012年01月23日(月) 暴排条例と弁護士の受任

 日経(H24.1.23)2面の広告欄で、東洋経済「暴力団対策と企業」という見出しがが載っていた。


 その雑誌の記事の中で、どのような取引がアウトなのか(利益供与にあたるのか)の例を書いていた。


 弁護士が暴力団員から刑事弁護を受けるのはセーフとしていた。


 それはそうであろう。憲法で弁護人依頼権を保障しており、その価値が優先すると思うからである。


 では、暴力団が支配している企業(フロント企業)から、民事訴訟を依頼された場合はアウトなのだろうか。


 民事訴訟であって、憲法で保障した弁護人依頼権が優先する場面ではなく、受任する義務もないのであるから、断ることも可能である。


 しかし、私は、その主張が正当な権利に基づくものと判断できれば、たとえフロント企業であっても受任すると思う。(これまでそのような依頼があったわけではないが)


 正当な権利の実現しようとすると、それは同時に暴力団の利益になるわけで、悩ましいところではあるが、やはり正当な権利の実現に寄与することこそが弁護士のあり方だと思うからである。



2012年01月20日(金) ダルビッシュ投手 養育費月200万円

 日経(H24.1.20)夕刊で、米大リーグのレンジャーズに入団が決まったダルビッシュ投手について報じていた。


 ところで、別の報道で、ダルビッシュ有投手が妻の紗栄子と離婚したと報じていた。


 子供2人の親権は妻が持ち、慰謝料はなし、養育費は毎月200万円程度とのことである。


 養育費月額200万円が多いか少ないかは意見が分かれるところであろう。


 裁判所が決めている計算式を単純に当てはめると、ダルビッシュ投手の昨年の年俸が5億円とすると、養育費は2人で月約1000万円になる。


 しかし、高額所得者だからといって養育費が比例的に増加するわけではないから、機械的に計算式を当てはめても意味がない。


 そのため、高額所得者については最終的に裁判官の判断に委ねられている。


 計算式では1000万円であるが、養育費の実額ではそこまではかからないであろうし、高額収入がいつまで続くか分からないという不安定さを考慮すると、200万円というのは穏当な金額かもしれない。



2012年01月19日(木) 単純逃走罪を厳罰化

 日経(H24.1.6)社会面で、小川法相が、広島刑務所の受刑者脱走事件を受け、上限を懲役1年とする逃走罪の厳罰化を検討する考えという記事が載っていた。


 確かに逃走罪は軽すぎるかもしれない。


 なにしろ、単純逃走罪の場合は懲役1年以下だからである。


 これに対し、受刑者等を奪取した者は3か月以上、5年以下の懲役であり、器具を提供するなどして逃走を援助しただけでも3年以下の懲役である。


 つまり、逃げた者よりも、逃げることを助けた者の方が罪が重いとされているのである。


 その理由として、逃げた者は、逃亡を抑止する期待可能性が低いからとされている。


 逃げる気持ちも分かるということであろう。


 実際、ドイツ、フランスなどでは単純逃走は処罰の対象となっていないようである。


 しかし、「逃げる気持ちは分かる」というのであれば、「貧しい人が窃盗する気持ちも分かる」という理屈になりかねない。


 すなわち、逃走の期待可能性の程度を刑罰の重さに反映させるほど、重視すべき問題ではないのではないか。


 それゆえ、せめて逃走援助罪と同じ「懲役3年以下」としても不合理ではないと思う。



2012年01月17日(火) 二本松市のマンション室内で高い放射線量が測定

 日経(H24.1.17)社会面で、福島県二本松市のマンション室内で屋外より高い放射線量が測定された問題の続報について書いていた。


 この問題では、砕石会社が、原発事故後から4月22日の計画的避難区域指定まで、県内の建築資材会社約20社に計約5200トンの石を販売したそうである。


 このマンションは賃貸用であり、一階部分の住民が退去するとなると、所有者は大変な損害である。

 マンションの建築費用全額を賠償してもらいたい気持ちであろう。


 しかし、その当時の知識を前提にすると、砕石会社が砕石を出荷したことに過失があるとまではいえないのではないか。


 同様に、生コンクリートに加工した建築資材会社も、過失を認定するのは難しいかもしれない。


 東電の責任はどうであろうか。


 汚染された砕石代金相当額の賠償義務はあるだろう。


 しかし、居住できなくなったマンション一階部分の賃料相当額まで賠償義務があるかどうかは何ともいえない。

 ましてや、マンションの建築費用までの賠償責任を負わせるのは難しいのではないか。


 マンション所有者としてはたまらないことである。



2012年01月16日(月) 社外取締役への過度の期待は禁物

 日経(H24.1.16)19面で、会社法改正における社外取締役義務付けについて論じていた。


 記事によれば、会社法改正作業の社外取締役の義務付けについては、経営の自主性確保、人材不足などを理由に、「義務付けまではされない感触」であった。

 ところが、社外取締役を置いていたオリンパスで、社外取締役が十分機能しなかったことから、より独立性の高い社外取締役を義務付けるよう求める声が大きくなったとのことである。


 独立性の高い社外取締役となると、すぐに思い浮かぶのが弁護士、とくに元検事の弁護士である。


 しかし、たとえ弁護士であっても、経済的に完全に独立していなければ、辞める覚悟で言いにくいことを言うのは容易ではない。


 そう考えると、社外取締役の義務付けに反対するつもりはないが、社外取締役への過度の期待は禁物であろう。



2012年01月13日(金) 9年連続で刑法犯が減少

 日経(H24.1.13)社会面で、2011年の全国での刑法犯の認知件数が前年より6.6%減少し、30年ぶりに150万件を下回ったと報じていた。


 窃盗など、ほとんどの種類の犯罪が減少しているようである。


 刑法犯の減少は9年連続であるから、減少化傾向は一時的なものではないといえる。


 ただ、その原因はよく分からない。


 警察関係者としては、防犯対策が成果を挙げていると言いたいところであろうし、ひったくり犯についてはそれは当てはまるかもしれない。


 ただ、それだけでほとんどの種類の犯罪が減少していることの説明はつきにくい。


 私は、平成7年ころから始まった生産年齢人口(15〜64歳の人口)の減少が影響しているのではないかと思っているのであるが、残念ながらあまりそのような説は聞かない。



2012年01月12日(木) 経産省幹部をインサイダ取引疑惑で逮捕

 日経(H24.1.12)夕刊で、東京地検特捜部は、経済産業省の前資源エネルギー庁次長をインサイダー取引疑惑で逮捕の方針という記事が載っていた。


 経産省幹部のインサイダ取引疑惑はずいぶん以前から報道されていたが、ようやく強制捜査に踏み切った。


 本人は容疑を否認しているようであり、事実関係はよく分からない。


 しかし、「李下に冠を正さず」であって、担当していた会社の株式取引すること自体が官僚として問題である。



2012年01月11日(水) オリンパスの旧・現経営陣に約36億円の損害賠償請求

 日経(H24.1.11)3面で、オリンパスが、損失隠し問題で会社に損害を与えたとして旧・現経営陣19人に計36億1000万円の損害賠償を求めて提訴したと報じていた。


 損失隠しに直接関与していなかった取締役でも、巨額買収を承認したことで責任を追及されている。


 請求額は最低でも2億5000万円であるから、おそらく払いきれないであろう。


 世の取締役にとっては大変な脅威であるが、取締役として本来要求されている義務を自覚し、その責任をまっとうするしかない。



2012年01月10日(火) 特別養護老人ホームだけが虐待が多いわけではない

 日経(H24.1.10)社会面で、特別養護老人ホームで、入居する高齢者に対する職員らによる虐待が増えているという記事が載っていた。


 介護施設別の割合では最も多いとのことである。


 しかし、高齢者虐待はどこの施設でもあり得るわけで、特別養護老人ホームが特別ひどいというわけではであろう。


 平成18年に高齢者虐待防止法が制定され、相談窓口を設けたりしている
が、行政側はいまだ受身の姿勢のように見受けられる。


 実際の虐待は多いと思われるだけに、法律で認められた権限をもう少し積極的に行使すべきではないかと思う。



2012年01月06日(金) 裁判員を100日間も拘束 証人は63人

 日経(H24.1.6)社会面で、男性3人を殺害した罪などに問われた木嶋被告の裁判員裁判がさいたま地裁で始まるが、裁判員の在任期間は過去最長の100日間になるという記事が載っていた。


 裁判員の方は、仕事がある人も多いであろうに、100日間も拘束されるわけで、その意識の高さに敬服する。


 ただ、証人は63人も予定されており、次々と証人尋問が行われるから、専門家でない裁判員は証拠調べについていけないのではないだろうか。


 そうすると、適正な事実認定ができないのではないかという危惧がある。


 裁判官や、検察官、弁護士であっても、63人の証人尋問をすべて集中して聞くのは難しい。


 ただ、専門家は、重要な証言とそうでないところの区別がつくので、メリハリをもって参加できるが、裁判員はそれは難しいと思われる。


 とりわけ、この事件は直接証拠がなく、状況証拠で判断せざるを得ないから、細かい証拠の積み重ねが必要となり、余計難しい判断となる。


 辞退せずに裁判員になられた方には敬意を表するが、このような事件を裁判員裁判として審理することには無理があるのではないだろうか。(但し、現行法では、裁判員裁判でやるしかない)



2012年01月05日(木) 「食べログ」にやらせ業者が存在

 日経(H24.1.5)社会面で、「食べログ」に、金銭を受け取って飲食店に好意的な口コミを投稿するなどし、ランキングを上げようとする「やらせ業者」が存在しているという記事が載っていた。


 運営会社によれば、悪質な業者に対しては法的措置も検討するそうである。


 ただ、法的措置と言ってもなかなか難しいのではないだろうか。


 考えられる措置としては、「実際のものより著しく優良なものと誤認させる書き込みであり、景表法違反である」として、消費者庁などに情報提供することがある。


 しかし、「おいしかった」などの単なる感想の書き込みであれば、景表法違反には該当しないであろう。


 別の措置としては、「やらせ業者」の書き込みは口コミサイトの信用を毀損するものであり不法行為に当たるとして、損害賠償請求するということが考えられる。


 ただ、「やらせ業者」が実際に口コミサイトに書き込んだことの証拠収集は難しいのではないだろうか。


 そうすると、法的措置といってもなかなか難しそうであり、「やらせ業者」に対してはシステムで工夫するしかないのではないだろうか。



2012年01月04日(水) マンションの建て替えを促進

 日経(H24.1.4)1面トップで、老朽化したマンションの建て替えを促すため、5分の4以上の同意を必要とする決議条件を3分の2に減らし、建て替えをしやすくするという記事が載っていた。


 建て替えは、それに反対する人の財産権を侵害することになるので、建て替えの必要性と、反対する人の財産権との調整から、これまでは5分の4以上の同意が必要としてきた。


 しかし、5分の4ではなかなか建て替えが進まず、マンションの老朽化が進む恐れから法改正をすることになったようである。


 気になるのは、記事の中で「内需が低迷するなか、政府は住宅関連投資を押し上げるためにも、建て替えルールを見直す必要がある」としていることである。


 改正の趣旨が投資の促進も含むのであれば、反対する人の財産権(憲法29条で保障されている)よりも、投資の促進を重視していることになり、問題ではないだろうか。


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