今日の日経を題材に法律問題をコメント

2011年04月28日(木) ソニーの配信サービスにハッカーが侵入

 日経(H23.4.28)3面で、ソニーが運営するインターネット配信サービスにハッカーが侵入し、約7700万人の個人情報が外部に流出した事件の続報が載っていた。


 この事件では、早くもアメリカでソニーに対し訴訟が提起されたそうである。


 ソニーはハッカーとバトルを繰り広げていたという報道もある。


 仮に全世界のハッカーを相手していたとすると、ハッカーたちが物量作戦に出た場合、100%安全ということはあり得ないのではないか。


 だからといって、ソニーに過失がないとなるのかは分からない。


 情報を持つことのリスクを改めて認識されられた。



2011年04月27日(水) 海外在住日本人の国民審査権

 日経(H23.4.27)社会面で、最高裁裁判官の国民審査について、海外に居住する日本人が投票できないのは違憲と訴えた事件で、東京地裁は、原告側の請求を却下したと報じていた。


 ただ、判決理由で、在外審査制度を創設しないことは、違憲の疑いがあると指摘している。


 この問題についてはこれまであまり議論されていなかったが、衆議院・参議院選挙の選挙区に関し、最高裁が、海外居住日本人に選挙の機会を与えないことは違憲であると判断してから問題にされるようになった。


 もっとも、選挙権は国民主権に直結する極めて重要な権利であり、最高裁はこの点を重視したと思われる。
 

 他方、国民審査制度は国民主権に必要不可欠な権利とまでは言えない。

 
 そうすると、技術的な問題を理由に海外居住日本人に国民審査の機会を与えなくてもやむを得ないということもできるかもしれない。

 
 ただ、在外在住日本人に選挙の機会が認められている現在、衆議院総選挙と同時に行われる国民審査について、その機会を付与することは技術的に困難とはいえないだろう。


 とするなら、国民審査も憲法上の権利であることからすれば、海外在住日本人に国民審査の機会を与えないことに合理的理由はなく、違憲といえるのではないだろうか。



2011年04月26日(火) がれきなどについて遺失物法を適用

 日経(H23.4.26)1面トップで、政府は東日本大震災の復旧・復興の妨げになっている自動車や船舶などを含むガレキについて、遺失物法を適用して3カ月をめどに市町村などによる処分を可能にする検討に入ったと報じていた。


 遺失物とは遺失者の占有を離れた物をいうが、通常は忘れ物や埋蔵物などを想定しており、そのため警察への届け出、公告などの手続きが定められている。


 つまりガレキの処分などは予定していない。


 しかし、緊急事態にそんなしゃくし定規なことを言っていられない。


 使えそうな法律はどんどん適用し、早期に復興を図ることを優先すべきであろう。


 その意味で、すでに地震から1か月以上経過しているのに「処分を可能にする検討に入った」というのでは少し遅いのではないか。



2011年04月25日(月) 情報の自由な流通こそ保障すべきでないか

 日経(H23.5.25)社会面で、『論点・争点 メディアと人権・法』というコラムで、東日本大震災の発生直後にインターネット上に流れたデマ情報に対し、警察庁が書き込みの削除依頼を行ったことを書いていた。


 関東大震災の例を引くまでもなく、地震直後には流言飛語が飛び交いやすく、実際に今回の地震でもデマ情報が流れていたい。


 そのため、警察庁は県警本部を通じて、緊急措置として、プロバイダーやサイト管理者らに対し、問題のある書き込みの削除依頼を行った。 


 しかし、問題は警察が削除を要請する根拠が明確でないまま行ったことである。


 警察庁は、「あくまでもお願い」とするが、依頼された側はどう受け取るだろうか。


 しかも、インターネットではデマ情報を修正する情報も流されていた。


 したがって、警察が情報を規制する必要性があったのかは疑問である。


 情報は規制するのではなく、自由な流通を保障するのが筋であろう。



2011年04月22日(金) 未公開株が上場 詐欺での立件を断念

 日経(H23.4.22)社会面で、投資顧問会社「サンラ・ワールド」が無登録で海外のIT企業の未公開株売買を仲介したとして、警視庁は、同社と会社経営者らを金融商品取引法違反(無登録営業)容疑で書類送検したという記事が載っていた。


 警視庁は詐欺容疑での立件を検討したが、家宅捜索後に未公開株の企業が上場したことなどから詐欺容疑での立件は見送った。


 この事件では約1500人から約47億円を集金したそうで、販売価格は1株50円であるが、株価は6〜19円で推移しているから、出資した人たちは大損をしている。


 ただ、未公開株の会社が上場した以上、詐欺での立件は無理であろう。



2011年04月21日(木)

 日経(H23.4.20)夕刊で、被疑者国選弁護人の報酬を水増し請求したとして詐欺罪に問われた弁護士に対し、岡山地裁は懲役1年6月、執行猶予5年の判決を言い渡したと報じていた。


 弁護側は「不注意や勘違いで、誤った回数を報告してしまった」と無罪を主張していたそうである。


 しかし、計17回だった被疑者との接見回数を「39回」と報告していたそうであるから、「不注意や勘違い」との言い訳は通らないだろう。


 水増し請求額は約64万円であり、それで弁護士資格を失うのだから(5年間)、情けない。



2011年04月19日(火) 中国漁船衝突事件 検察審査会「起訴相当」

 日経(H23.4.19)社会面で、尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件の中国人船長について、那覇検察審査会は「起訴相当」と議決したと報じていた。


 那覇地検は再捜査した上で再び不起訴とするだろうが、検察審が再度「起訴相当」の議決をすれば、強制起訴となる。


 しかし、中国人船長は中国にいるのだから裁判に出頭するはずがない。


 したがって、起訴はしたが、裁判は開けないという異常な事態になる可能性がある。


 記事は落ち着いた扱いであったが、強制起訴になった場合、中国漁船衝突事件の再度の政治問題化や、検察審査会の強制起訴制度の相当性など、様々な議論が巻き起こる可能性がある。



2011年04月18日(月) 罹災都市借地借家臨時処理法

日経(H23.4.18)14面で、東日本大震災で多くの建物が倒壊したことに関し、「罹災都市借地借家臨時処理法」のことを書いていた。


民法では、借りている建物が被災してなくなった場合、その時点で賃貸借契約は終了するが、「罹災都市借地借家臨時処理法」が適用されれば、借主は、新たに建てられた建物を優先的に借りることができるなど、優先借地権、優先借家権を認められ、賃借人保護が図られている。


 ただ、この法律はもともと戦後の処理のためのものである。


 そのため、第2条では、罹災建物の借主(借家人)は、その土地の所有者に対し、他の者に優先して、その土地を賃借することができるという規定がある。
(法律施行後2年間としていたが、25条の2で準用規定をつくることにより生き残った)


 この規定はバラックなどを想定していたそうであるが、借家権が借地権になるのであるから、相当変わった規定である。


 阪神大震災ではこの規定をめぐり相当数の訴訟が起きている。


 震災からの復興に当たり、臨時処理法を活用すべき場面はあるだろうが、現代に合わない規定は早急に改正する必要があるのではないだろうか。



2011年04月15日(金) 八百長をした確実な証拠はあるのだろうか

 日経(H23.4.15)社会面で、大相撲の八百長問題で日本相撲協会から解雇処分を受けた力士が、解雇処分の無効確認を求める訴訟を起こす意向と報じていた。


 一連の八百長問題で最後に解雇された星風と蒼国来は、八百長を否定している。

 
 3年前に大麻で解雇された露鵬と白露山については、本人は使用を否定していたが、簡易鑑定という客観的証拠があった。


 そのため、後に裁判になったが解雇無効の請求は棄却されている。


 しかし、八百長について、大麻における簡易家庭に匹敵する客観的証拠があるのだろうか。


 八百長が発覚したきっかけは力士同士のメールであるが、最後に解雇された星風と蒼国来のことまでメールに書いていたとは思えない。(メールに書かれていれば、もっと早く解雇されていただろう)


 メールに書かれていないとすると、証拠は、他の力士の供述であろうが、八百長をした相撲の特定、それぞれの供述の突き合わせなどはきちんとされているのだろうか。


 八百長をしたことの立証は相撲協会が行う必要があるが、ひょっとしたら、裁判で解雇無効が認められるかもしれない。



2011年04月14日(木) なぜ株主代表訴訟を恐れないといけないのか

 日経(H23.4.14)3面で、東京電力の清水社長が、記者会見で、福島第1原発事故による被災者への損害賠償の仮払金を「一日も早く実現したい」と述べたと報じていた。


 この記者会見について、朝日新聞は、1面で、経済産業相は1世帯100万円を早急に払う意向を示めしているのに、東電社長は、株主代表訴訟を恐れて、仮払金の具体的金額さえも言わず、誠意が感じられないと批判していた。


 「株主代表訴訟を恐れて」と言っても、マスコミの書くことだからあまり当てにはならない。


 ただ、本当に株主代表訴訟を恐れて具体的金額を言わなかったのであれは、それは理解に苦しむ。


 社長の考えとして「1世帯100万円を考えている。」と述べたとして、なぜそれが違法(善管注意義務違反)となるのだろうか。


 私には理解できない。



2011年04月13日(水) 最高裁 就労実態を検討して『労働者』と認定

 日経(H23.4.13)社会面で、個人事業主として働く歌手や技術者が、労働組合法上の「労働者」に当たるかが争われた訴訟で、最高裁は、いずれも「労働者に当たり、団体交渉権がある」と認める判決を言い渡したと報じていた。


 最高裁は、契約の文言だけでなく、就労実態を詳細に検討して、「労組法上の労働者に当たる」と判断している。


 契約書に『業務委託契約』と書いていれば、『労働者』ではないと考えるかもしれない。


 しかし、労働実態が重要であり、契約書に『業務委託契約』の中でどう書いていてもそれですべて通るわけではない。


 就労実態を検討した最高裁の判断方法は当然であり、この判決の影響は大きいかもしれない。



2011年04月12日(火) 未成年後見人の養成

 日経(H23.4.12)社会面に、東日本大震災で親を亡くした「震災遺児」を支援するため、あしなが育英会が、2年以内に遺児の心のケア拠点「東北レインボーハウス(仮称)」を建設する計画、という記事が載っていた。


 あしなが育英会は、病気遺児、自殺遺児などを支援する民間団体である。


 今回の大震災で多くの震災遺児が生じたと思われ、その心のケアが必要であり、その拠点を建設するというものである。


 このような心のケアと同時に、両親がいなくなった遺児に未成年後見人の選任が必要な場合も生じてくると思われる。


 ところが、成年後見人の経験がある弁護士は比較的多いが、未成年後見人を経験している弁護士は少ない。


 われわれも、今後未成年後見人の研修をし、そのニーズに応えていく必要がある。



2011年04月07日(木) 「事案の内容が複雑」

 日経(H23.4.7)社会面に、昨年1年間に裁判員を務めた人を対象としたアンケート調査の記事が載っていた。


 法廷での説明を「分かりやすい」と感じた割合は、弁護士の説明が40.4%、検察官の説明が71.7%となっており、弁護士としては反省すべきである。


 また、審理内容が理解しにくかった人に、その理由を聞くと、「法廷で話す内容が分かりにくかった」「事件の内容が複雑」といった声が目立ったそうである。


 「法廷で話す内容が分かりにくかった」という意味が、専門用語を使いすぎるということであれば、これも反省すべきであろう。


 ただ、「事件の内容が複雑」というのはどうなのだろうと思う。


 複雑な事件では、法律家でも記録を何度も読んで初めて理解できる場合もある。複雑な事件を平易に説明せよと言っても、やはり限界がある。


 裁判員の方も、「事案の内容が複雑」であっても、理解に努めるよう努力していただく必要があるのではないだろうか。



2011年04月06日(水) 震災で住宅ローンはどうなるのか

 日経(H23.4.6)は、相変わらず震災の記事が多いが、そろそろ、災害救助からどのように復興するかに軸足が移っているようである。


 復興の過程で様々な法律問題も生じるが、気になるのは住宅ローンを抱えていて家が全壊した人たちである。


 しゃくし定規な解釈をすれば、「家が全壊しても住宅ローンは残ります。」「金融機関に返済の繰り延べを要請するしかないでしょう。」「それでも支払えない場合には自己破産を検討してはどうでしょうか。」というアドバイスになる。


 「しかし、被災者にそのような法律の建前を宣告して、それで解決になるのだろうか。」ということを被災地で法律相談をしてきた弁護士が述べていた。


 そのとおりであり、これまでの法律の枠組みの中だけでなく、相当大胆な法律解釈をして対処する必要があるのではないだろうか。
 



2011年04月05日(火) 最高裁裁判官が義援金を寄付

 日経(H23.4.5)社会面で、最高裁裁判官の有志が東日本大震災の被災地に計4200万円の義援金を寄付するという記事が載っていた。


 記事では、自然災害に対し、裁判官がまとまって義援金を出すのは初めてとのことであるが、まとまって何か行動すること自体が初めてではないだろうか。



2011年04月04日(月) 震災に対する企業の対応

 日経(H23.2.1)法務面で、震災に対する企業の対応について法律家のアドバイスを書いていた。


 その中で、「取引先に部品などを納入できなくなる契約不履行の問題が生じる恐れがあるので、経営者は、不可抗力であることを証明する証拠を確保しておくべきだ。」としていた。


 その通りであろう。


 「地震なのだから、誰が見ても不可抗力だ」「お互い被害者なのだから、損害賠償までしないだろう」と思うのは、企業経営者としては甘いと言わざるを得ない。


 万が一のためにも、契約を履行できなかったのは不可抗力であったことの証拠は残しておくべきであろう。



2011年04月01日(金) 和解成立を優先して、条項を曖昧にするのは避けるべき

 日経でなく朝日ネットニュース(H23.4.1)で、彦根市の「ひこにゃん」の原作者が考案した「ひこねのよいにゃんこ」のグッズ販売について、大阪高裁は、著作権を侵害されたとの彦根市の主張を認め、販売の差し止めを命じる決定を出したと報じていた。

 
 この紛争では、彦根市と原作者は民事調停を通じて一度は決着していたはずである。


 それなのに再び争いになったのは、民事調停で決めた内容が曖昧だったからだろうか。


 詳しい事情が分からないが、一般的に言って、和解や調停成立を優先して、条項の内容を曖昧にしてしまうことは避けた方がよい。


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