今日の日経を題材に法律問題をコメント

2010年12月30日(木) 12月30日から1月3日まで休みます

12月30日から1月3日まで休みます。



2010年12月29日(水) 暴言警部補 簡裁は略式起訴を認めず、正式裁判に

 日経でなく朝日(H22.12.29)社会面で、大阪府警の警部補が取り調べで男性に暴言を浴びせた事件で、大阪区検が、罰金刑とする略式起訴をしたところ、大阪簡裁は、正式裁判を開くことを決めたという記事が載っていた。


 取り調べで警部補は、男性に「家にもガサかけるぞ」「人生むちゃくちゃにしたる」「手出さへんと思ったら大間違いやぞ」と発言したことが脅迫罪に問われたものである。


 それにしても、検察官が略式命令を求めたのに対し、裁判所がそれを認めず正式の裁判としたというのはあまり聞かない。


 ただ、取り調べで被疑者を脅迫するという重大かつ悪質な事件であり、当然の判断であろう。


 簡裁の裁判官は、逮捕状を安易に発令するなど、捜査に対するチェックが不十分と言われることもあるが、この簡裁裁判官の判断に敬意を表したい。



2010年12月28日(火) 録画補償金の問題で東芝が勝訴

 日経(H22.12.28)9面で、デジタル放送専用のDVDレコーダーなどの録画機器を巡り、私的録画補償金管理協会が東芝を相手取り、録画機の売り上げに応じて著作権料(私的録画補償金)約1億4千万円を支払うよう求めた訴訟で、東京地裁は、協会の請求を棄却したと報じていた。


 著作権法は、メーカーは、私的録音録画補償金の支払の請求と受領に協力しなければならないと定めている。


 これについて、東京地裁は、「メーカーが著作権料を集めて協会に支払うことは、法的強制力を伴わない抽象的義務にとどまる」と判断した。


 しかし、文言だけ捉えれば、「協力しなければならない」としているのだから、利用者からの徴収を拒否すれば、それは協力義務違反になるとも言える。


 結局、文言だけで結論を出すことは困難であり(東京地裁も、文言解釈だけに終始したわけではないだろう)、この制度を肯定的に捉えるのか否かという価値判断にかかわる問題であるといえる。


 この点について個人的な見解を言えば、この制度を維持し、かつ、対象外の携帯プレーヤーなどにも網かぶせて、利用者全体の負担で著作権者の権利を保護するとともに、その保護期間を短くしたほうがよいのではないかと思う。


 ただ、世界の趨勢は、それとは逆の方向に動いているようである。



2010年12月24日(金) 現金化業者の商法は合法なのか

 日経(H22.12.24)社会面で、クレジットカードのショッピング枠を現金化するという「現金化業者」を巡るトラブルが急増しているという記事が載っていた。


 現金化業者のシステムは次のようなものである。


 まず、利用者は、現金化業者からカードのショッピング枠内で商品を買う。例えば、50万円のショッピング枠があれば、その限度で商品を買う。しかし、その商品の実際の価値はほとんどない。


 カード決済が確認できれば、現金化業者は、利用者に購入代金の90%から94%程度をキャッシュバックをする。50万円の枠があれば、45万円程度を利用者に振り込む。これにより、「ショッピング枠が現金化」できたわけである。


 後日、利用者に商品が届くが、この商品にはほとんど価値はない。 


 利用者は、商品の購入代金(先の例では50万円)をカード会社に支払う。


 ネットには現金化業者の比較サイトまであるほど、多数の業者が存在しているおり、いずれも違法でないことを謳っている。


 しかし、「違法でない」のだろうか。


 購入する商品はほとんど価値がなく、業者のサイトでも商品の内容はどこにも書いていない。書いているのはキャッシュバックの率ばかりである。


 客としても、商品が欲しくて買うのではなく、キャッシュバックを目当てに、ショッピング枠を使って実際には価値のない商品を買うのである。


 これでは商品売買に仮装した消費者金融というべきであるし、しかもその手数料率は法定金利を超えている。


 このように実態に着目するならば、現金化業者の行っていることは違法であろうと思う。



2010年12月22日(水) 国の戦没者名簿提供は政教分離原則に反する

 日経(H22.12.22)社会面で、靖国神社に合祀された旧日本軍の遺族が合祀取り消しなどを求めた訴訟で、大阪高裁は、国による靖国神社への戦没者名簿提出などの情報提供は、憲法の政教分離原則に違反するとの判断を示したという記事が載っていた。


 最高裁は、当該行為の目的が宗教的意義を持ち、その効果が、宗教を援助、助長するような場合には、政教分離原則に反するとしている。


 この最高裁の判例を前提として、大阪高裁は、国が靖国神社に戦没者名簿を提出したことは、上記基準に該当し、政教分離原則に反するとしたのであるが、これは素直な判断であろうと思う。


 ただ、最高裁が、合祀に関する過去の裁判で「合祀を拒否した遺族の宗教的人格権は直ちに法的利益とはならない」と判断しており、大阪高裁も、それを踏まえて、遺族の請求を棄却している。


 そのため、あまり話題になっていないが、もう少し注目されていい判決だと思う。



2010年12月21日(火) 家系図の作成に、最高裁が無罪を言い渡す

 日経(H22.12.21)社会面で、家系図を作成し、行政書士法違反を問われた事件で、最高裁は、作成者に無罪を言い渡したという記事が載っていた。


 「事実証明に関する書類」の作成には行政書士の資格がなければならない(弁護士なども作成は可能であるが)。


 そのため、行政書士の資格のない人が、商売で家系図を作成したところ、家系図は事実証明に関する書類であるとして、行政書士法違反に問われたものである。


 相続の前提として家系図(相続人関係図)を作成することはよくあり、それは事実証明に関する書類と言えるかもしれない。


 しかし、通常つくられる家系図はそのような法律上の何らかの目的があるわけではなく、作成を行政書士に限定する理由はない。


 ところが、一審、二審は、家系図作成者に懲役8か月、執行猶予2年の有罪判決を言い渡した。


 これに対し、最高裁は、「観賞や記念品とする目的で使われる場合は、事実証明書類には当たらない」との判断を示し、無罪を言い渡したものである。


 常識的な判断であろうと思う。


 むしろ、家系図を作成したことで行政書士違反に問い、作成者を逮捕までした警察、起訴した検察官、有罪にした一審、二審の裁判官の感覚がおかしいのではないか。



2010年12月20日(月) 鹿児島強盗殺人事件で、検察庁は控訴の方向

 日経(H22.12.20)社会面で、鹿児島強盗殺人事件で、被告人を無罪とした鹿児島地裁の裁判員裁判の判決に対し、鹿児島地検は控訴する方向で協議を始めたという記事が載っていた。


 この事件で、被告人は「犯行現場には一度も行ったことがない」と供述している。


 ところが、一審判決では、現場に残されたDNAや指紋から、「被告は過去に犯行現場に行ったことがあり、被告人はウソを言っている」と判断した。


 そうすると、被告人の他の供述の信用性は揺らぎ、従来であれば一挙に有罪の方向に心証が傾いていたであろう。


 控訴となった場合、高裁では、従来の判断手法によるのか、それとも裁判員裁判の判断を尊重するのか、興味深いところである。



2010年12月17日(金) 検事総長が辞任

 日経(H22.12.17)1面で、検察トップの大林宏検事総長が年内に辞任すると報じていた。


 大阪地検特捜部の捜査資料改ざん・隠蔽事件などの責任を取るそうである。


 「検察庁に激震」と表現していたが、証拠改ざん事件の重大性を考えると、トップの辞任はやむを得ないと思う。


 ただ、トップの辞任で問題が解決するわけではない。


 重要なことは、証拠を改ざんするに至った原因を明らかにし、その対策を図ることは言うまでもない。


 私は、その原因は、事件のストーリーをいったん作るとそれに強引に当てはめて被疑者や参考人を尋問していく検察の体質にあると思う。


 ではそれを止めるとどうなるのか。


 いくつかの事件では、政治家、高級官僚、会社トップなどに迫ることができず、起訴できないことも起きるだろう。


 問題は、それを世間が納得するかどうかである。


 事件が表面化すると、マスコミは「トップに迫れ」と言わんばかりの報道をし、世間もそれを期待し、それに検察が応えようとする。


 その構図を変えない限り、一つのストーリーに強引に当てはめていく検察の手法は改まらないのではないだろうか。



2010年12月16日(木) 署名の有効性の審査基準

 日経(H22.12.16)1面で、名古屋市議会の解散の是非を問う住民投票に必要な法定数を3213人分上回ったと発表したという記事が載っていた。 


 このリコール運動では、支援団体は46万5602人分の署名を提出した。


 ところが、市選管は約11万人分を無効としたため、有効数が、法定数を1万2004人分下回った。


 これに対し、支援団体が約3万4000分の異議を申し立て、再審査の結果、約1万5000人分が有効とされたため、法定数を上回ったようである。


 しかし、再審査によって1万5000人分もが無効から有効に変わるのであろうか。


 審査基準があいまいというよりも、恣意的になっているのではないかという懸念さえある。


 そのような懸念を払拭するためにも、署名の方法、審査基準をより明確にすべきではないだろうか。



2010年12月15日(水) スリは割が合わない

 日経(H22.12.15)夕刊で、浅草寺で参拝客から金品を盗もうとしたとして、スリ未遂容疑で77歳の男性を現行犯逮捕したという記事が載っていた。


 この日の朝刊にも、16年間スリを繰り返していた男性が逮捕されたという記事があった。


 年末になると警備が強化されるため、スリ犯が逮捕されることが多くなるのだろうか。


 スリは他の窃盗よりも刑が重い。


 特殊な技術を使い、職業性が認められるからであろう。


 しかも、職業的なだけに何度も繰り返すため、常習累犯窃盗となって罪が著しく重くなることが多い。


 その意味では、スリは割の合わない犯罪といえる。



2010年12月14日(火) 受刑者の選挙権の制限は違憲か

 日経でなく朝日ネットニュース(H22.12.14)で、服役中の受刑者の選挙権を認めない公職選挙法11条の規定は憲法に反するとして、元受刑者が、国を相手に訴訟を起こすと報じていた。


 受刑者の選挙制限の違憲性を問う訴訟は初めてらしい。


 ただ、この問題は司法試験の答案練習でも出題されており、割とポピュラーな問題である。


 もっとも、海外にいる日本人の選挙権については、最高裁判決は「国民の選挙権を制限するのは原則として許されない」との判断を示している。

 
 ただ、選挙は、公務という側面と、個人の権利という側面がある。


 公務という側面を強調すると、犯罪を起こして受刑している者には、公務に参加する資格はないという方向になる。


 この点が在外日本人の選挙権とは違う問題である。


 結局は、公務に参加するという側面と、権利としての側面といずれを重視するのかという問題であろうが、最高裁まで争われることは間違いない。



2010年12月13日(月) ツイッターで選挙運動

 日経(H22.12.13)夕刊で、金沢市長選で、支援者が「ツイッター」で投票を呼び掛け、市選挙管理委員会が、公選法に違反するとして削除するよう指導していたという記事が載っていた。


 しかし、県警は、公職選挙法が改正され、ネットでの選挙運動が解禁になる可能性が高いことから、公選法違反の警告をしなかったそうである。


 当然の対応であろう。


 ただ、この支援者は、投票日にも支援を要請したそうであり、それは別問題である。


 選挙運動期間は投票日の前日までと定められており、その規制が不合理とはいえないからである。


 選挙期間中に「ツイッター」で選挙運動したことは非難に当たらないと思うが、少しやり過ぎたようである。



2010年12月10日(金) 仏像の頭部をすげ替え 原状回復までは認めず

 日経(H22.12.10)社会面で、観音像の頭部を無断ですげ替えたのは著作権侵害に当たるかが問題になった事件で、最高裁は、仏像の原状回復までは認めず、経緯を説明する新聞広告の掲載を命じた高裁判決を支持したという記事が載っていた。


 この事件では、お寺が空襲で焼けた観音像の再建を仏師に依頼したが、にらみ付けるような表情で檀家の評判が悪かったので、頭部を仏師に無断で取り換えたことが問題になった。


 仏像の再建はお寺が発注したのであろうから、仏像の所有権はお寺側にある。


 つまり自分のものなのだから、それをどうしようと勝手ではないかと思いがちである。


 しかし、たとえ仏像は自分のものであったとしても、著作権は別であり、勝手なことはできない。


 それゆえ、仏像の頭部をすげ替えたことが問題になったのである。


 このあたりが著作権のわかりにくいところである。



2010年12月09日(木) 司法書士事務所の弁護士法違反 不起訴に

 日経(H22.12.9)夕刊で、大阪の司法書士事務所の事務員が無資格で法律事務をしたとして、大阪弁護士会が弁護士法違反(非弁行為)容疑で告発していた事件で、大阪府警は起訴を求めないという意見書を付けて大阪地検に送ったという記事が載っていた。


 認定司法書士が関与せず、事務員が単独で法律業務をしたことを立証するのは困難と判断したようである。


 弁護士でも同じ問題がある。


 提携弁護士ではないかと言われている弁護士は少なからずいる。


 しかし、それを立証することは難しいため、弁護士会でもなかなか処分できないようである。


 依頼者としては、弁護士や司法書士が会わなかったり、名刺だけ渡してすぐに引っ込むような場合には、その事務所は敬遠するなど、自ら注意するしかないのが実情である。



2010年12月08日(水) 海老蔵氏が記者会見

 日経(H22.12.8)社会面で、顔などを殴られ重傷を負った市川海老蔵氏が記者会見したことを報じていた。


 その会見の中で、「暴力を振るったことは一切ない」と答えているが、果たして大丈夫なのだろうか。


 相手方は、海老蔵氏から暴行を受けたという診断書をマスコミに見せているようであり、また、相手方の一人を診断した医師まで取材に応じている(医師が患者の話をしていいのかとは思うが)。


 海老蔵氏の記者会見には弁護士も同席していたように見えたが、「事件についてはお話しできない」ということで逃げるように弁護士が指導した方がよかったのではないか。



2010年12月07日(火) 諫早湾 一審に続き、二審でも開門を命ずる

 日経(H22.12.7)1面で、漁業者が国に対し、諫早湾の潮受け堤防の排水門の開放などを求めた訴訟で、福岡高裁は、堤防閉め切りと不漁との因果関係を認め、5年間の常時開門を命じた一審判決を支持、国側の控訴を棄却したと報じていた。


 堤防閉め切りと不漁との因果関係の有無については裁判所も判断は可能であろう。


 しかし、一旦閉め切った門を開門することによる影響というのはよく分からないのではないか。


 そのような場合、裁判官は、損害賠償は認めるが、新たな措置(この場合は開門)は認めない傾向にある。


 それゆえ、一審だけでなく二審でも、裁判官がよく開門を命じたなあと思う。



2010年12月06日(月) 東京地裁の塀にペンキをかける

 日経(H22.12.6)夕刊で、東京地裁の正門付近の塀に、女性が赤いペンキをかけたという記事が載っていた。


 この女性は、5月にも土地の所有権を巡る民事訴訟に敗訴したことを抗議して、母親と一緒に裁判所の塀にペンキをかけているそうだ。


 そのときは不起訴処分となっているが、今度はどうだろうか。


 ただ、塀にペンキをかけたのであれば、通常は器物損壊罪となるのだが、軽犯罪法違反容疑で事情を聴いている。


 大した被害ではなかったのであろう。



2010年12月03日(金) 海老蔵氏が出演するCMの放映を当面中止

 日経(H22.12.3)ネットニュースで、歌舞伎俳優の海老蔵氏が殴られて重傷を負った事件で、ヤマキは、海老蔵氏が出演する「めんつゆ」のCMの放映を当面中止すると発表したと報じていた。


 この事件では、海老蔵氏を殴ったグループからの情報の方がいろいろと漏れてきて、何が真実かよく分からないのであるが、その中で、海老蔵氏も相手側の一人にケガをさせて診断書まであると報じられている。


 仮にそれが事実なら、海老蔵氏も傷害罪で罰金刑となることは免れないと思う。


 したがってCMの中止も仕方ないだろう。



2010年12月02日(木) 検事の身分証を偽造

 日経(H22.12.2)夕刊で、自称アルバイトの男性が、「福岡高等検察庁」と書かれた偽造身分証を警察官に示したとして、偽造有印公文書行使の疑いで逮捕されたという記事が載っていた。


 偽造の動機は、「検事なら中洲の飲食店でもてると思った」からだそうである。


 ばかばかしい事件だが、この男性は勘違いしている。


 検事という身分は店ではもてないと思う。


 ちなみに、弁護士という身分ももてない。


 弁護士はたいてい依頼者に連れられて来ているだけで、リピーターにならないことを知っているからである。


 やはりもてるのは、会社の経費を潤沢に使える役員(最近は少ないが)、以前であれば不動産業者、IT企業の役員などであろう。



2010年12月01日(水) 記事は真実であると認定

 日経(H22.12.1)夕刊で、横峯良郎参院議員が、女性問題や賭けゴルフに関する週刊誌記事で名誉を傷つけられたとして、新潮社などに損害賠償と謝罪広告の掲載を求めた訴訟で、東京地裁は、横峯議員の請求を棄却したと報じていた


 裁判所は、記事内容はいずれも真実であり、名誉毀損には当たらないと判断したそうである。


 真実と誤信してもやむを得ない事情があるとして、損害賠償請求が認められないことはある。


 しかし、有名人の名誉棄損事件で、記事が真実であるとまで認定されることはめずらしいのではないか。


 横峯議員はみっともないこと甚だしい。


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