今日の日経を題材に法律問題をコメント

2010年04月30日(金) 裁判所が証拠の一部を誤って消去

 日経でなく、朝日ネットニュース(H22.4.30)で、福島地裁郡山支部が、ビデオカメラで撮影した証拠の一部を誤って消去していたと報じていた。


 原告は、何回か、記録の一部が閲覧できないと問い合わせをしたが、裁判所は原告の再生機器の問題とみて応じていなかったそうである。


 郡山支部が相手にしてくれないので、原告は同支部を所管する福島地裁に苦情を訴え、それによって始めて記録の消去に気付き、原告に謝罪したそうである。


 この事件は原告本人が直接裁判所に問い合わせしているので、弁護士がついていないのだろう。


 そのような場合、往々にして裁判所の対応は冷たい気がする。



2010年04月28日(水) 「被告を無実とすると、合理的な説明が付かない事情が必要」

 日経(H22.4.28)社会面で、大阪市で主婦と1歳の長男が殺害された事件について、最高裁は、「事実誤認の疑いがある」として、一審の無期懲役と二審の死刑判決を破棄し、審理を大阪地裁に差し戻したと報じていた。


 注目すべきなのは、最高裁が、間接事実を積み上げて有罪立証する場合には、「被告を無実とすると、合理的な説明が付かない事情が必要」として一定の判断基準を示したことである。


 一審・大阪地裁判決では、間接事実について「全体として考察すれば、各事実は相互に関連し合い、信用性を補強しあっている」としている。


 しかし、「各事実は相互に関連し、補強し合っている」いうことは、見方を変えれば、一つ一つの間接事実は極めて弱い証拠でしかないともいえる。


 このように間接事実の積み重ねによる場合には逆の見方ができる場合があるなど、立証に困難が付きまとう。


 それゆえ、最高裁が、間接事実による有罪立証の場合には、「『被告を無実とすると、合理的な説明が付かない事情』が必要」として判断基準を示したのは極めて重要である。


 当然、裁判員裁判においても上記の基準が適用されることになる(補足意見ではその旨が明言されている。)。



2010年04月27日(火) 検察審査会が「政治資金規正法の規定に不備」と指摘

 日経(H22.4.27)社会面で、検察審査会が「首相の不起訴は相当」としたものの、「政治資金規正法の規定に不備がある」と指摘したと報じていた。


 政治資金規正法では、「政治団体の代表者が当該政治団体の会計責任者の選任及び監督について相当の注意を怠つたとき」は罰則が科されると規定している。


 しかし、責任を問うために、選任責任と監督責任の両方が必要という規定はあまり知らない。


 「政治資金規正法の規定に不備がある」という検察審査会の指摘は常識的であり、もっともだと思う。


 それにしても、検察審査会は一般の市民から選任されるのであるが、その存在感が増してきているように思われる。



2010年04月26日(月) 独立役員探しに四苦八苦

 日経(H22.4.26)16面で、東京証券取引所は、上場企業に1人以上の独立役員を確保することを義務付けたが、各企業は独立役員探しに四苦八苦しているという記事が載っていた。


 「独立」の要件が厳密であるため、独立役員はそう簡単には見つからないだろう。


 狙い目は退官した裁判官であろうと思うのだが。



2010年04月23日(金) 検察庁が、雑誌記者やフリーライターも対象に定例記者会見

 日経(H22.4.23)社会面で、検察庁が、記者クラブに所属していない雑誌記者やフリーライターも対象に定例記者会見を開くことを発表したと報じていた。


 大新聞からすれば、フリーライターまで記者会見に参加されると迷惑なのだろう、記事の扱いは小さかった。


 ただ、情報公開という点では、雑誌記者やフリーライターまで記者会見に参加できるという意味は大きいのではないだろうか。


 検察庁も、「マスコミにリークして情報操作している」と批判されたことを気にしているのかもしれない。



2010年04月22日(木) 「破産申し立ては一取締役と一部従業員によるもの」

 日経(H22.4.22)夕刊で、破産手続を申し立てた英会話学校ジオスの楠恒男社長が、「破産申し立ては一取締役と一部従業員によるものであり、同社や取締役会の総意ではない。」とコメントしたと報じていた。


 しかし、代表取締役でなくても破産申し立てはできる。


 ただ、破産申立てに取締役全員の同意がない場合は、破産手続きの開始原因があることを疎明しなければならないとされているという点に違いがあるだけである。


 それゆえ、「破産申し立ては一取締役と一部従業員によるもの」という社長のコメントは法律的にはあまり意味がない。



2010年04月21日(水) 元明石署副署長を業務上過失致死傷罪で強制起訴

 昨日の日経(H22.4.20)夕刊で、明石市の歩道橋事件について、検察審査会の判断を受けて、指定弁護士が、元明石署副署長を業務上過失致死傷罪で強制起訴したと報じていた。


 今後裁判が始まるが、争点の一つは時効の完成の有無である。


 すでに明石署の部下(地域官)が起訴され裁判中であり、この地域官と共犯とされれば時効は中断する。


 しかし、この事件では過失の有無が問われており、「特定の犯罪を起こすという認識のない過失犯に共犯が成立するのか」ということが論点となる。

 
 記事では、過失の共犯が成立するのは理論的にも難しいかのような論調であったが、それは間違っている。


 最高裁は過失の共同正犯を認めており、一般論としては過失の共犯は肯定されているからである。(もちろん、本件において過失の共同正犯が成立するかは事実認定の問題であり、別である。)


 いずれにせよ、検察審査会の判断は尊重するが、刑事事件である以上、裁判所は過失の有無についての従前の基準を緩和することなく、厳密に判断して欲しいと思う。



2010年04月20日(火)

 日経(H22.4.120)社会面で、大麻の陽性反応が出て日本相撲協会を解雇された元露鵬と元白露山が、力士としての地位確認と給与の支払いを求めた訴訟で、東京地裁は原告の請求を棄却したと報じていた。


 大麻使用したことで解雇もできないのであれば、その方が問題である。


 請求棄却の判決は当然であろう。



2010年04月19日(月) 約束と違う部署への配属

 日経(H22.4.19)17面のリーガル3分間ゼミというコラムで、面接で社長から「希望通り、広告宣伝部で頑張ってもらう」と言われたので入社を決めたのに、配属先は工場だったという問題を扱っていた。


 記事での回答は「社員は原則受け入れなければならない」というものだった。


 そうなのだろうか。


 「広告宣伝部で頑張ってもらう」と言われたから入社を決めたのであれば、違う部署への配属は約束違反になるのではないか。


 もっとも、実務上は、本当に社長から「希望通り、広告宣伝部で頑張ってもらう」と言われたのかという事実認定がまず問題になるが。



2010年04月16日(金) 「言っていないことを供述調書に書かれた]

 昨日の日経(H22.4.15)夕刊で、郵便料金割引制度悪用事件の裁判で、元厚労省局長の村木被告の被告人質問が行われたと報じていた。


 その被告人質問の中で、検察側の取り調べについて「言っていないことを供述調書に書かれたり、訂正に応じてもらえなかったりした」と述べたそうである。


 言っていないことを供述調書に書くことはこの事件だけということでなく、よくあることである。


 もちろん、取り調べる側は、その部分も含めて被告人の前で調書を読んだ上で被告人から署名捺印をしてもらう。


 だから問題ないというのが検察官の言い分である。


 被告人としては、大よそは供述したことが書かれており、「少し違うな」と思っても言いにくいし、「まあいいか」と思って署名捺印してしまいがちである。


 しかし、被告人が言っていないことをわざわざ供述調書に書くということは、法律上、そこが重要だからである。


 そのため、その供述調書の中の「勝手に書かれた供述」が、裁判になると被告人にとって命取りになるのである。


 それを防ぐためには、取り調べの全面可視化がなされていない現状では、村木被告のように敢然と署名捺印を拒否するしかないのだが、それはなかなか難しい。



2010年04月15日(木) 野副富士通元社長の辞任問題

 日経(H22.4.15)9面で、野副富士通元社長の辞任問題について、富士通側が記者会見を行い、「社長の適正を欠くと判断したので辞任を求めた。対処は正当である」と主張したと報じていた。


 この問題で、野副元社長は「取締役の地位保全」を求める仮処分を横浜地裁に申し立てていたが、結審後に取り下げている。


 通常の裁判では、訴えた側が一方的に取り下げることはできず、相手方の同意が必要である。


 しかし、仮処分の申し立てでは、相手方の同意を要せず、一方的に取り下げることができる。


 では、仮処分でどのような場合に申し立てを取り下げるかというと、申し立てた側の主張が認められないと予想される場合である。


 野副社長についていえば、「取締役辞任が無効」という判断を裁判官がしないと考えたのであろう。


 ただ、この問題では富士通側の対応も中途半端であり、真相がよく分からない。



2010年04月14日(水) 日本航空の更生計画づくりが難航

 日経(H22.4.14)11面で、日本航空の更生計画づくりが難航しているという記事が載っていた。


 銀行、国交省、地方自体、労組、社員などの利害関係が錯綜しているためとのことである。


 しかし、会社更生手続きであるから、倒産しているわけであり、更生できなければ破産するしかない。


 そのような瀬戸際であるから、通常の会社更生手続きであれば、とにかくリストラをして支出を減らし、それにより債権者の理解を得て、債権カットしてもらうしかない。


 あれこれ利害調整している余裕はないのが普通である。


 それだけに、「利害調整で迷走している」という日本航空が、いかに特殊な会社かが分かるというものである。



2010年04月13日(火) タクシーで防犯カメラの設置が広がる

 日経(H22.4.13)社会面で、タクシーの車内で防犯カメラの設置が広がっており、会話も録音できるという記事が載っていた。


 タクシー会社の言い分は「暴力行為や不当なクレームに対処するため」ということである。


 確かに、街角やコンビニでは多くの防犯カメラが設置されているが、街角やコンビニは公開された場といえるから、プライバシー上の問題は少ない。


 しかし、タクシーの中はプライバシー性が高く、街角やコンビニの防犯カメラとは同視できないであろう。


 また, 「防犯カメラ作動中」という表示はあるが、会話まで録音されていることは明示されていないようである。


 しかも、録画・録音されたものがどのように管理されているのかも不明で、悪用される懸念がつきまとう。


 もちろん、「防犯カメラがいやなら乗車しなければいい」といえるから、録画が違法とは言えない。(録音は、その旨を明示していなければ違法になる可能性がある。)


 ただ、監督官庁あるいはタクシー協会は、録画、録音したものが悪用されないように、第三者が監督できるようにするなど、何らかの指針を示すべきではないだろうか。



2010年04月09日(金) 民事再生のうち4社に1社が破産

 日経(H22.4.9)5面で、民事再生法が施行から10年になるが、4社に1社が民事再生手続きが破たんし、破産に移行したという記事が載っていた。


 民亊再生手続きがうまくいくかどうかの一つのポイントは、その後の資金繰りが可能かどうかである。


 ところが、経営者はぎりぎりまで法的整理を避けようとする傾向があり、民事再生を決意した時点では余裕資金がなく、すでに遅しということも多い。


 この段階では本来は破産するしかないのであるが、民事再生は経営者が退陣しなくてよいこともあり、多大な期待をして民事再生を申し立てる。


 その結果、破産への移行が多くなるのだろう。


 法的整理は、もっと早期に検討した方がよいし、かりに破産になるとしても、早い段階の方が従業員や取引先に迷惑をかけることも少ないと思う。(もっとも「弁護士はすぐに破産を勧める」という批判もあるが)



2010年04月08日(木) 司法書士事務所で、無資格の職員が過払金返還交渉の法律事務

 日経でなく朝日(H22.4.8)社会面トップで、大阪の司法書士事務所で、無資格の職員が消費者金融会社との過払い金返還交渉などの法律事務をしていた疑いがあると報じていた。


 この法務事務所は職員が70人以上もいるそうだからすごい。


 弁護士会主催の多重債務者の法律相談者は激減しているが、このような大手事務所に流れているのだろう。


 ところで、この件は大阪弁護士会の調査で判明し、弁護士法違反(非弁活動)容疑で大阪府警に告発しているが、弁護士は大丈夫かというと、そうでもない。


 それゆえ、世間の目は、司法書士だけでなく弁護士にも厳しい。


 冒頭の記事が社会面トップ扱いだったのも、弁護士や司法書士が過払い金返還報酬で依頼者を食い物にしているという非難の声が上がっているからであろう。


 そのことを弁護士として自覚しなければならないと思う。



2010年04月07日(水) 名張毒ぶどう酒事件

 日経(H22.4.7)社会面で、名張毒ぶどう酒事件の第7次再審請求に対し、最高裁は名古屋高裁への差し戻しを決定したと報じていた。


 この事件では、事件後の鑑定では、被告人がぶどう酒の中に入れたとされる農薬(ニッカリンT)の特定成分が検出されていない。


 ところが、弁護側の再現鑑定ではその特定成分が検出されたことから、入れられた農薬がニッカリンTでなかった可能性がある。


 とすると、ニッカリンTを入れたと供述した被告人の自白の信用性が問題になってくる。


 再審開始を取り消した名古屋高裁は「鑑定方法によっては、検出できなかったと考えることも十分に可能」とした。


 これに対し、最高裁は、「科学的な知見に基づく検討をしたとはいえず、事実は解明されていない」として差し戻したのである。



 「科学的な知見に基づく検討をしていない」名古屋高裁も問題であるが、評価されるべきは、ニッカリンTを入手し様々な分析の実験を行うなど、数十年に渡り粘り強い調査をした弁護団であろう。
(但し、すべては鑑定に委ねられており、再審が開始されるかどうかはまだ分からない)



2010年04月06日(火) 中国で、日本人死刑囚の死刑執行

 日経(H22.4.6)社会面で、中国で、麻薬密輸罪による死刑判決が確定している日本人の死刑が「きょう執行」と報じていた。


 日本では麻薬犯罪で死刑になることはないとして、死刑執行を非難する見解もある。


 しかし、中国にはアヘンに苦しんだ歴史があるから、麻薬に対して厳罰に処することを批判できない。


 また、中国で麻薬密輸罪を犯せば死刑というのは広く知られており、それでも密輸しようとしたのであるから、日本人であっても死刑はやむを得ないだろう。


 しかも、日本にも死刑制度があるし、日本では、昨年中国人の死刑囚に対して死刑を執行している。


 そのように考えると、日本人だからといって、中国での死刑執行を非難することは難しいと思う。


 ただ、この日本人死刑囚は「通訳がひどかった」と訴えているようであり、適正な刑事手続きが保障されていたかは気になる。



2010年04月05日(月) ツイッターも解禁に?

 日経(H22.4.5)1面で、民主党が「ネット選挙」の一部解禁に向けた具体案づくりに着手すると報じていた。

 選挙運動期間中にホームページの更新を可能にするほか、ブログやツイッターも活用できるようにするそうである。


 ツイッターは双方向性(多方向性というべきか)が強いから、選挙で解禁されると影響は大きいかもしれない。


 ただ、法改正の記事は何度も流れたが、いまだにネット選挙は解禁されていない。


 今度もどうなることか。



2010年04月02日(金) 政治資金監査制度の監査人に税理士が殺到

 日経(H22.4.2)社会面で、「政治資金監査制度」の監査人のなり手に税理士が殺到しているという記事が載っていた。


 監査人は、国会議員の政治資金収支報告書が適切かどうかをチェックするのが役割である。


 ただ、収支報告書と領収書を照らし合わせるだけで収入までチェックしないから、監査の実効性はあまり期待できないのではないかと言われている。


 ところで、この監査人に税理士が多数登録しているのをみて、弁護士も新たな職域を確保するという趣旨で、弁護士会が登録を呼びかけた。

 
 それに応えて、私も登録料を支払い研修を受けて登録した。しかし、これだけ殺到すると、登録するだけに終わりそうである。



2010年04月01日(木) 「裁判員裁判で出された量刑を尊重すべき」

 日経(H22.4.1)夕刊で、東京高裁は、「一審判決は重過ぎる」という弁護側の主張に対し、「控訴審は、明らかに不合理なところがない限り、裁判員裁判で出された量刑を維持すべき」と述べたという記事が載っていた。


 裁判員裁判での判決に対し、高裁が「これまでの量刑相場と違う」として判決を破棄すれば、何のための裁判員裁判か、ということになる。


 それゆえ、東京高裁の述べたことは正しいと思う。


 ただ、そうすると裁判員裁判では、これまで以上に1審の審理が大事になる。


 自分自身、近々裁判員裁判の弁護が始まるので、身の引き締められる思いである。


 < 過去  INDEX  未来 >


ご意見等はこちらに
土居総合法律事務所のホームページ


My追加
-->