今日の日経を題材に法律問題をコメント

2009年06月30日(火) 残業を命じられてもデートをする?

 日経(H21.6.30)社会面の「窓」という小さな欄で、今年の新入社員の82.8%が「残業を命じられたらデートを止め、仕事をする」と答えたそうで、これは1972年以降、最も高い割合であると書いていた。


 他方、「残業は断り、デートする」が16.6%だったそうである。


 しかし、残業の必要性がないなどの例外的な場合を除き、あまり安易に残業を断らないほうがいいと思う。


 残業してもよい旨の労働協約(36協定)を締結して、労働基準監督署に届け出ており、かつ、就業規則に「時間外労働させることが出来る」と定めているときは、労働者は原則として残業する義務を負うとされているからである。


 このような要件を備えている場合に残業を拒否すると、懲戒処分の対象になるので注意が必要である。



2009年06月29日(月) 国立で初の厚生保護施設が開所

 日経(H216.29)夕刊で、刑務所の仮出所を受け入れる国立では初の厚生保護施設が開所したと報じていた。


 仮出所者の厚生保護施設は、これまで宗教団体など民間施設に委ねていたが、本来は国が主体となって行うべきことであり、国立の更生保護施設の設置は遅すぎたといえる。


 ただ、こういった施設は近隣からすれば迷惑施設であるから、開所はなかなか難しい。


 一層のこと都会のど真ん中に設置したらどうかと思うのだが。



2009年06月26日(金) 8000人が放送法違反でNHKを提訴

 日経(H21.6.26)社会面で、台湾に対する日本の植民地支配を報じたNHKの番組について、「事実をねつ造しており、放送法違反にあたる」として、8000人が損害賠償を求めて東京地裁に提訴したと報じていた。


 しかし、「事実のねつ造」の立証はなかなか難しい。放送は裁量の範囲内であると判断され、訴えは認められないのではないかと思う。


 ただ、この訴訟は、そもそも放送法違反を理由に視聴者が損害賠償請求できるのかという論点がある。


 訴えた側は、受信料を支払っているのだから、受信契約は双務契約であり、NHKは適法な番組を提供する義務があり、これに反しているとしているのだと思う。


 これに対しNHKは受信契約を双務契約とは捉えていないようであり、法律論としては興味深いものがある。



2009年06月25日(木) リコール署名に関し、最高裁が大法廷で審理

 日経(H21.6.25)社会面で、地方議員のリコールにおいて、署名の代表者に公務員が就くことを禁じた地方自治法施行令が違法かどうかが争われた事件で、最高裁は、審理を大法廷に回付したと報じていた。


 この事件は、高知県東洋町のリコールで、署名の代表者に農業委員が名を連ねていたため、選挙管理委員会が、「公務員は代表者になれない」という規定に反するとして、全署名を無効としたことについて争われていたものである。


 地方自治法は、正規(法律では「成規」)の手続きでない場合には署名は無効になるとしている。


 しかし、手続きに少しでも瑕疵があれば署名全体が無効になるというのは解釈として行き過ぎであろう。


 もっとも、昭和29年に今回とほぼ同じ事案について、最高裁は署名全体を無効としているから、この判例を見直す必要がある。


 最高裁が、施行令自体を違法・違憲とするか、地方自治法の「署名は無効」の趣旨を限定して解釈するかは分からないが、最高裁の判例見直しは当然と言える。



2009年06月24日(水) NHKが、受信契約の締結を求めて訴訟提起

 日経(H21.6.24)社会面で、NHKが、ホテル会社に対し、受信契約の締結などを求める訴えを起こしたと報じていた。


 NHKの受信料を支払わなくても罰せられないということはよく言われる。


 しかし、そのことと契約締結義務や受信料支払い義務の有無は別である。


 放送法は、受信契約を締結する義務を定めている。


 そして、いったん契約すれば、受信規約に基づき受信料支払い義務が生じる。


 もっとも、受信契約締結の義務を課すのは「契約自由の原則」に反するという議論もあるが、義務を課すことに一応の合理的理由がある限り、法律で定めることも許されるだろう。


 したがって、受信契約の締結等を求めて訴訟したことは誤りではない。


 問題は、契約を結んでいない世帯が約1000万世帯、100万事業所もあるといわれているなかで、果たして公平な取り扱いができるのかということだろう。



2009年06月23日(火) 経験を積むと大胆な発言ができなくなってしまう

 日経(H21.6.23)社会面で、京都教育大学の学生6人が集団準強姦容疑で逮捕された事件で、被害女性との示談が成立し、告訴を取り下げたため、京都地検は6人を処分保留で釈放したと報じていた。


 強姦罪は親告罪だから、告訴がなければ罪にならない。


 しかし、現場で2人以上で犯罪を行った場合には、告訴は不要とされているので、告訴を取り下げても起訴することは可能である。


 ただ、強姦事件で告訴を取り下げれば、それ以上、捜査はしない。


 被害者が望んでいない場合まで捜査を行い、公判廷を開くということは、被害者のプライバシーの見地から望まくないし、また、被害者の証言も期待できないので、立証が難しくなるからである。


 もっとも、示談できればどのような場合にも起訴されないのかというと、そうとは限らない。


 以前、人の胸を突いたという暴行事件で、被害者と示談が成立したが、被疑者は起訴されてしまった。


 前科何犯だったし、あまり反省した様子がなかったからだと思う。


 このようなことがあるから、被疑者に対し、「示談すれば絶対に釈放されるから、示談金を用意しなさい。」ということは怖くて言えず、「たぶん釈放される」という言い方しかできない。


 こんなあいまいな言い方だと被疑者側も心配になると思うが、こちらとしては釈放を保障できないのだから仕方ない。


 いろいろな経験を積むと、大胆な発言がだんだんできなくなってしまう。



2009年06月22日(月) 「弁護士にも容疑を否認している」とは?

 日経(H21.6.22)社会面で、郵便不正事件で逮捕された厚生労働省元局長の続報を載せていた。


 見出しは「元局長、全面否認続ける」、記事では「弁護士にも容疑を否認している」とあった。


 「弁護士にも容疑を否認している」というのは、「弁護士にさえも本当のことを言っていない」というニュアンスに受け取れるのだが・・。


 相変わらず検察の描く構図に載っただけの記事だが、もう少し無罪推定を意識した書き方にならないものかと思う。



2009年06月19日(金) LEC大学が学部生募集を停止

 日経(H21.6.19)社会面で、初の株式会社立の大学であるLEC大学が、学部生の募集を停止すると報じていた。


 ここは司法試験受験生時代にお世話になったし、アルバイトをしたこともあるので、会社の体質は何となくわかる。


 授業の大半はビデオで、教員も不足しているようであるから、おそらく受験予備校の延長で大学を考えたのだろう。


 しかし、「教育とは心に灯をともす」ことなのだから、ビデオで大学教育するというのはどうかと思う。



2009年06月17日(水) 東京JCが、都議選の立候補予定者の政見をインターネットで配信

 日経(H21.6.17)社会面で、東京JCが、都議選の立候補予定者の政見をインターネットで配信するそうである。


 もっとも投票を依頼するような発言は事前選挙運動として公職選挙法に抵触するため、東京JCがチャックするそうである。


 インターネットにより、少しでも政治が身近になることはよいことだと思う。


 ただ、一部の政党が参加していないのが残念である。



2009年06月16日(火) アイフルと武富士の格付けを引き下げ

 日経(H21.6.16)4面に、小さく、「格付け会社が、アイフルと武富士の格付けを引き下げた」という記事が載っていた。


 2つの会社は消費者金融大手であり、これまで過払い金請求すると、きちんと支払いに応じてきた。


 ところがここのところ、過払い金請求でも、裁判しないと全額の支払いに応じないなど、ずいぶん対応が変わってきた。


 資金繰りがきつくなってきているのだろうと思う。



2009年06月15日(月) 第三者が不利な供述をすると、否定することは難しい

 日経(H21.6.15)夕刊で、郵便不正事件で厚労省局長が虚偽有印公文書作成、同行使の疑いで逮捕されたと報じていた。


 郵便割引制度に必要な団体の証明書を発行する際に、必要な書類の提出がないまま証明書を発行したことが問題なったようだ。


 しかし、キャリアが、必要な書類の提出がなされたかどうかまで知っているのだろうか。


 逮捕された厚労省局長は「団体のことも証明書のことも知らない」と言っているが、覚えていないことは事実なのだろう。


 ただ、第三者(部下)が不利な供述をすると、それを否定することは難しい。


 それが怖いところである。



2009年06月12日(金) DIP型会社更生手続き

 日経(H21.6.12)10面で、不動産開発のシー・キャピタルが東京地裁に会社更生を申し立てたと報じていた。


 記事によれば、現経営陣から管財人を選ぶDIP型の手続きにより再建を目指すそうである。


 会社更生手続きでは担保権についても権利が制限されるので、会社の再建のためには有利である。


 ところが、これまでは経営陣は総退陣していたので、会社更生手続きの申し立てが敬遠され、申し立て件数は減少していた。


 しかし、経営陣に違法がない場合まで退陣させる必要はない。


 そこで、経営陣に違法がない場合には、その経営陣の中から管財人を選び、再建を図る会社更生手続きがなされるようになった。


 これがDIP型といわれるものである。


 これにより、これまで民事再生手続きを申し立てていたケースでも、会社更生手続きを申し立てることが多くなるのではないかと思われる。



2009年06月11日(木) 東京地裁で、最初の裁判員裁判が8月に開かれる見込み

 日経(H21.6.11)社会面で、8月3日に東京地裁が開かれる足立区の殺人事件が、全国初の裁判員裁判となる見込みという記事が載っていた。


 最初の裁判員裁判ということになると、弁護士は刑事弁護のベテランを付けているはずで、しかも通常1人のところを2人選任している。


 会見で担当弁護士は「特別なことばかりやらなくては成り立たない制度とは思っていない」と話したとのことであるが、「公判では写真やCGを積極的に使う」らしい。


 しかし、弁護士側は、証拠収集能力に限界があるため、写真を証拠で出すことはあまりない。


 ましてや、CGとなると「特別なこと」のように思うのだが。(批判しているわけではない)



2009年06月10日(水) 広島少年院の法務教官を逮捕

 日経(H21.6.9)社会面で、広島少年院の法務教官4人が在院中の少年らに暴行を加えたとして特別公務員暴行陵虐容疑で逮捕されたと報じていた。


 少年事件を担当していると、少年たちは少年院を刑務所みたいに思っているようで、少年送致を非常に嫌がる。


 拘束されるわけだから嫌がるのは当然である、それにしても極端に悪いイメージを持っている。


 しかし、理念としては、閉鎖された学校というべきであり、少年の更生のために一生懸命指導している職員がほとんどである。


 ただ、このような広島少年院のような事件があると、少年たちの悪いイメージは増幅されるだろう。


 そのような悪いイメージを払拭させるためにも、管理責任者も含めて厳しい処分がなされるべきであると思う。



2009年06月09日(火) ホテル代の一部を「お布施」として処理

 日経(H21.6.8)夕刊に、宗教法人がラブホテルを経営し、ホテル代の一部を「お布施」として処理し、課税を免れていたという記事が載っていた。


 これはひどい事例であるが、宗教法人に対する優遇税制についてはもともと批判がある。


 宗教法人への優遇税制は、信教の自由の保障が理由とされている。


 しかし、会社だって営業の自由が憲法上保障されているのに課税されるのだから、あまり説得的とは思えない。

 
 逆に、優遇することが、憲法が禁止する「国からの特権」に当たるのではないかという意見さえもある。


 要するに、宗教法人に対する優遇税制は、歴史的経緯による理由も大きく、信教の自由から論理必然的に導かれるものではなく、法改正により優遇税制を廃止しても憲法違反にはならないと思う。



2009年06月08日(月) 秋葉原の無差別殺傷事件から1年

 日経(H21.6.8)社会面で、秋葉原の無差別殺傷事件から8日で1年になるという記事が載っていた。


 この事件はまだ裁判が開かれておらず、第1回公判前整理手続きが6月22日に行われるそうである。


 このときに裁判の日程が正式に決まり、すでに争点も絞り込まれているはずであるから、あとは短期間が終わると思う。


 ただ、裁判が開かれるまでに1年以上かかるというのはいささか長いのではないだろうか。



2009年06月05日(金) 当時の鑑定技術でも一致していなかったのではないか

 日経(H21.6.5)1面で、足利事件で無期懲役の判決を受け、再審請求中の菅野さんが再審開始前に釈放されたと報じていた。


 この事件ではDNA鑑定が有罪の決め手になったにもかかわらず、そのDNA鑑定に問題があった。


 ただ、報道で気になるのは、「当時は1000人に1.2人程度で一致し、精度が悪かった」という言い方である。


 その場合は、当時のDNA鑑定技術では一致していたが、今の鑑定技術では一致しないという意味に受け取れる。


 しかし、そもそも当時の技術をしても「一致している」とは言えない事案ではなかったかという疑問がある。


 仮にそうであれば、より問題は大きいのであり、この点の区別が報道ではきちんとなされていないように思える。



2009年06月04日(木) 心臓移植改正 4つの法案が国会に提出

 日経(H21.6.4)社会面に、臓器移植法改正の記事が載っていた。


 現在、4つの改正案が国会に提出され議論されており、なかなか結論が出ないようである。


 「脳死」とは何か、という人の価値観にかかわる問題なので、このままでは「議論百出、未だ帰するところあらず」ということにもなりかねない。


 私は、多くの人がある程度納得できる範囲で、法律で「えいやっ」と線引きせざるを得ないのではないかと思う。


 その場合、子どもの心臓に疾患があり、臓器移植しなければ助からないときは、何千万円という募金を集めて海外で心臓移植をしているのが現状であり、臓器移植法の改正では、そういった現実を変えるということを出発点とすべきであろう。


 そうすると自ずと結論は出るように思うのだが。



2009年06月03日(水) 被疑者国選弁護事件の対象が拡大

 日経(H21.6.3)社会面に、被疑者国選弁護事件の対象が拡大し、件数が10倍になって、弁護士が奔走しているという記事が載っていた。


 被疑者国選弁護とは、起訴前の捜査段階で国選弁護人を選任するものである。


 従来、被疑者国選の対象は殺人、強盗傷害など重大犯罪に限られていたが、5月21日から窃盗、傷害などにも拡大された。


 弁護人がより必要なのは、起訴されてからよりも捜査段階であるから、被疑者国選弁護の対象事件が拡大されたことは喜ばしい。


 ただ、被疑者国選弁護が増えると、夜、被疑者が留置されている警察署に面会に行くと、他の弁護士とぶつまり、面会室が1つしかない警察署では1時間以上待たされる可能性が高くなると思われる。


 これはつらい。


 面会室が1つの警察署は、早急に改善して欲しいと思う。



2009年06月02日(火) 「あのねのね」の原田が銃刀法違反?

 日経でなく、朝日ネットニュース(H21.6.2)で、「あのねのね」の原田伸郎が、テレビ番組で猟銃を許可なく手に取ったとして、滋賀県警が銃刀法違反容疑でびわ湖放送本社を家宅捜索していたと報じていた。


 記事によれば、原田伸郎は生放送の番組中、猟友会の男性から猟銃を手渡されたが、県公安委員会から猟銃所持の許可を受けていないとのことである。


 この行為が銃刀法でいう「所持」に当たるとされたのであろう。


 「所持」とは一般には「物を自己の事実上の支配下に置くことをいう」とされている。


 事実上の支配下にあると言えるためには、ある程度継続的に持っている必要があるだろう。


 したがって、猟友会の男性から猟銃を手渡された程度では「事実上の支配下にある」とはいえず、「所持」には該当しないと思う。


 もちろん、犯罪の疑いがあるときに、捜査機関が、テレビ局から任意で事情を聴くことは問題ない。


 しかし、「家宅捜査」というのは行き過ぎではないだろうか。



2009年06月01日(月) 阿久根市市長選挙で前市長を再選−ブログの更新と公職選挙法−

 日経(H21.6.1)2面に、阿久根市市長選挙で前市長を再選という記事が載っていた。


 当選した市長は、職員の給与をブログに掲載するなど話題の多い人であり、前回の市長選挙では、選挙期間中、ブログの更新を続けたことがある(今回は控えたようであるが)。


 そのため、市議らから、公職選挙法(文書図画の頒布)違反容疑で県警阿久根署に告発されている。

 
 告発を受理すれば、インターネットによる選挙運動の適法性が正面から争点になるだろう。


 ただ、警察は、「受理するかどうかを含めてコメントできない」としており、完全な逃げ腰のようである。


 警察が逃げ腰なのは、インターネットによる選挙運動は容認するのが世論の大勢と思われるし、また総務省の研究でも解禁の報告をしているにもかかわらず、国会が法改正を放置しているからである。


 警察は告発を受理せず、うやむやになっていることを狙っていると思うが、そのような対応を取らざるを得ない責任は国会にあるといえる。


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