今日の日経を題材に法律問題をコメント

2008年12月29日(月) 知的障害児へのわいせつ裁判で、民事と刑事で判断が分かれる

 日経でなく朝日(H20.12.29)21面で、知的障害児に担任がわいせつ行為をしたとされた事件に関する記事が載っていた。


 この事件では、わいせつ行為をされたという被害者の供述の信用性が問題になり、刑事事件では無罪となったが、民事事件ではわいせつ行為を肯定した。


 知的障害児や子供は証言が揺れることが多く、信用性が認められない傾向がある。


 先の記事の事件でも、刑事事件で、証言台に立った少女がパニックになり、発言が揺れたそうである。


 この場合、被害者の了解を得たうえで、取り調べをビデオ録画するなどの工夫が必要だったのかもしれない。



(今年はこれで終わり、1月5日から再開します。)



2008年12月26日(金) 公判前整理手続きは裁判官にとってつらいと思う

 日経でなく、朝日(H20.12.26)社説で、3年前の広島市女児殺害事件で、広島高裁が、一審判決を破棄して、審理が不十分としてやり直しを命じたが、それについて、一審の裁判官が、公判前整理手続きの段階で争点や証拠を絞り込みすぎたのではないかと批判していた。


 批判はやむを得ないのかもしれないが、裁判官に同情の余地はある。


 公判前整理手続きでは、短期間で集中的に審理できるようにするために、事前に争点や証拠を整理する。


 その際に、争点や証拠を十分絞り込まないと、これから始まる裁判員裁判では、裁判員に負担を強いることになる。


 かといって、争点や証拠を絞り込みすぎると、今回のように批判を受ける。

 
 そのバランスが難しいのであるが、その時点では裁判官は証拠を見ることができないのである。


 そのため、証拠の価値がよく分からないまま、裁判官は争点整理と証拠整理をしないといけないのである。


 これは裁判官にとってなかなかつらいものがあるだろうなあと思う。



2008年12月24日(水) 京都家裁書記官に、4000万円詐取の余罪の疑い

 日経(H20.12.24)社会面で、京都家裁書記官が、差押文書を偽造して4000万円を詐取した疑いという記事が載っていた。


 この書記官は、振り込め詐欺の口座から送金させて数百万円を詐取したとして逮捕されていたが、これほど悪質な余罪があるとは思わなかった。


 裁判所の文書を偽造すれば、その文書の信用性は極めて高いから、詐取することは容易であろう。


 しかし、これまでは内部の人間が裁判所の文書を偽造するとは思いもしないから、チェック体制はなかったはずである。


 だが、今後はそういうわけにはいかない。


 この事件が今後の裁判所の事務に与える影響は大きいと思う。



2008年12月23日(火) 野球選手の代理人として弁護士が一番適切か

 日経(H20.12.23)スポーツ面のコラムで、元阪神内野手の鎌田氏が「契約更改に代理人制度は必要だと思う。ただ、野球知識の乏しい弁護士では頼りない。」と書いていた。


 私としても、結論としては選手の代理人として弁護士が一番適切とは思わない。


 ただ、「野球知識が乏しければ交渉できない」ということはないだろう。


 交渉のためのデータが揃っていれば、それを材料に交渉することは普段の弁護士業務とあまり変わらないからである。


 問題は、そのデータの収集能力について、弁護士が特に優れているわけではないということである。


 また、他の球団や選手の情報にもとりたてて詳しいとは思えない。


 交渉する以上、代理する選手のデータだけでなく、普段から、他の選手のデータや動向などの情報の収集が欠かせない。


 そのためには選手代理人としての業務が弁護士業務の中心になるほどでなければならないだろう。


 しかし、アメリカのような高額な報酬が約束されない限り、弁護士としてはそれは難しいのではないだろうか。



2008年12月22日(月) 変額年金保険のリスク

 日経(H20.12.22)31面で、変額年金保険に関する記事が載っていた。


 変額保険といえば、平成元年頃のバブル期に、相続税対策と称して、変額生命保険の保険料を銀行借り入れによって一括で支払うという手法がはやった。


 しかし、バブルの崩壊により運用実績は下がる一方、借入れ利息は確実に増えることになり、大変な損害を被った人が多数生じ、いくつもの裁判が起こされた。


 現在の変額年金保険は、銀行融資によって保険料を支払うわけではないし、しかも元本が保証されているため、リスクは少ない。


 そうはいっても、変額保険は、契約者が支払った保険料を株式や債券で運用するので、実態は投資信託に近い。


 また、最低保証といっても、保証に細かい条件を付けている商品もある。


 そのことを販売窓口でどの程度説明し、また、契約者はどの程度理解して契約しているのだろうか。


 かつての変額生命保険のような大きなトラブルにはならないだろうが、株価の急激な下落によって、今後、いくつかのトラブルは生じるような気がする。



2008年12月19日(金) 法科大学院を共同運営することは「改革」なのか

 日経(H20.12.19)1面で、岡山、島根、香川大学は、法科大学院を共同運営することを検討という記事が載っていた。


 合格者数の少ない大学院は生き残りに必死のようである。


 しかし、共同運営したからといって学生が集まるのだろうか。


 香川(高松)と島根(松江)では電車で4時間もかかる距離であり、学生が魅力を感じて集まるとは思えない。


 実績のない法科大学院が寄り集まっただけでは、「改革」というよりも、「延命策」にしかならないと思う。



2008年12月18日(木) 何でも「個人情報の保護」を理由として持ち出す傾向がある

 日経(H20.12.18)社会面で、株券を他人名義のまま保管し焼失した大和ハウス工業の株主が、自分が株主であると確認するために必要として、同社所有の株主台帳の閲覧などを求めて大阪地裁に提訴する、という記事が載っていた。


 この女性は大和ハウスの株式を16万株購入したが、誤って株券を焼いてしまった。

 ただ、証券会社の書類などから16万株の購入を証明でき、記号・番号部分が焼け残った10万株は再発行されたが、6万株は番号が残っておらず、再発行されていないとのことである。


 そのため、この女性は株主名簿の閲覧請求をしたものである。(但し、閲覧を求めているのは、株主名簿すべてではなく、「所在不明株主台帳」などのようである)


 株主名簿の閲覧権は株主の権利である(この女性は10万株を有する株主である)。


 16万株の購入は証明できており、そのうち10万株は再発行されているのだから、残り6万株の株主でもある蓋然性は高く、不当な目的は見当たらない。


 ところが、会社側は「個人情報の提供になる」として閲覧を拒否しているようである。


 しかし、閲覧請求は不当な目的など一定の場合には拒否できることになっているものの、「個人情報の保護」は現行法上は拒否事由になっていない。


 最近は、何でも「個人情報の保護」を理由として持ち出す傾向があるが、いかがなものかと思う。



2008年12月17日(水) 年齢引き下げの結論先送り

 日経(H20.12.18)社会面で、法制審議会は、成年年齢を18歳に引き下げるかどうかの結論を先送りしたと報じていた。


 先送りした理由は、消費者被害の拡大を懸念する声が強かったためである。


 確かに、成年年齢を18歳以上に引き下げると、18歳、19歳は契約を取り消すことができなくなる。


 しかし、それにより集中的に悪徳商法に狙われるとは思われないし、それに対しては中学高校などでの消費者被害の教育を充実をすることによって対応すればよいのではないだうか。


 18歳以上は十分に大人であり、その責任を自覚してもらい、成年として扱うことの方が筋は通っていると思うのだが。



2008年12月16日(火) 判決で認められた金額を基準にするのか、回収した金額を基準にするのか

 日経でなく朝日(H20.12.16)夕刊で、ダスキンの旧経営陣に対する株主代表訴訟をめぐり、原告の株主側が、約4億円の弁護士費用の支払いをダスキンに求める訴訟を大阪地裁に起こすと報じていた。


 代表訴訟では、原告が勝訴した場合、会社が原告側の費用を支払うことになる。


 ダスキンの場合は、旧経営陣からの回収可能額を基準に弁護士費用5500万円の支払いを提示したが、原告側は「賠償額を基礎にしなければ、確定判決の意味がない。」と主張している。


 これは、判決で認められた金額を基に算定するのか、それとも実際に回収した金額を基に算定するのかの問題である。


 依頼する側としては回収した金額こそが問題であり、回収もできないのに報酬を取られるのは納得できないと思う。


 しかし、弁護士会がつくっていた報酬基準では、判決で認められた金額を基に算定することになっていた。


 弁護士が依頼された内容は裁判で勝つことであり、回収までは保証できかねるということなのだろう。


 裁判所がいずれの考えに近い判断するのか興味深いものがある。



2008年12月15日(月) 日本振興銀行が商工ローンの債権を買っている

 休刊日なので昨日の日経(H20.12.15)であるが、雑誌ダイヤモンドの広告で「日本振興銀行が商工ローンの債権を買っている」という見出しが載っていた。


 「商工ローンの債権を買う」となると、まるでやっていることがサービサーのようである。


 しかも、過払い金になっている「債権」まで買い取って、請求している。


 「銀行」というよりも「商工ローン」に近いという印象がある。



2008年12月12日(金) 認定司法書士が脱税

 日経でなく朝日(H20.12.12)社会面で、認定司法書士が過払い金訴訟などで得た報酬2億4000万円を隠していた疑いで、東京国税局が刑事告発したという記事が載っていた。


 2年間で2億4000万円の利益というのはすごい。弁護士でもそんなに稼いでいる人はあまりいないだろう。


 ただ、この司法書士は債務整理が業務の中心だったようであるが、ヤミ金などに対しても交渉をしたのであろうか。


 あるいは、「この依頼者は報酬をきちんと支払わないのではないか」と思いながらも、切羽詰まっている様子を見て、やむを得ず受任したことはあるのだろうか。


 儲けることは悪いことではないが、儲ける仕事しかしなかったというのであれば、問題ではないか。



2008年12月11日(木) 税理士を証拠偽造の疑いで逮捕

 日経夕刊(H20.12.11)で、刑事事件の公判前整理手続きで、他の税理士名をかたった偽の意見書を証拠として検察側に提出したとして、東京地検は、税理士を証拠偽造などの疑いで逮捕したと報じていた。

 
 証拠を提出したのは弁護人である。


 ただ、弁護人としては、まさか税理士が証拠を偽造するとは思わないから、信用して提出したのだろう。


 そうはいってもカッコ悪いことである。


 この意見書によって算定すれば、所得隠し額が検察側認定の半分程度になるという内容であった。


 そうであれば、弁護人としては、その内容を自分で理解するためにも、直接作成者に会って確認すべきであろう。


 そうすれば事前に偽造であることが判明し、その弁護人も恥をかかずに済んだと思う。



2008年12月10日(水) 報道機関の取材に応じるべきか

 日経(H20.12.10)社会面で、千葉・東金の女児殺害事件で、被疑者と接見した弁護士が取材に応じて被疑者の様子を語ったという記事が載っていた。


 このような世間が注目する事件において、弁護士が報道機関の取材に応じるかどうかは悩ましい。


 捜査機関側からは一方的な情報が報道機関に大量に流されている。


 それに対し、被疑者側からの情報を報道機関に提供することが必要な場合はあると思う。


 ただ、捜査機関は十分な証拠を持っており、それを前提に被疑者を取り調べ、その内容を報道機関に流している。


 それに比べて、捜査の時点では弁護人にほとんど証拠がない。


 そのような状況の中で、取材に応じて被疑者の言い分をそのまま述べても、かえって世間の反発を買ったりして逆効果になる恐れがあるのではないだろうか。


 その意味で、捜査段階で弁護士が取材に応じるのは原則として止めた方がいいのではないかと思っている。(但し、裁判が始まっている場合は別であり、被告人の主張をアピールすべき場合はある。)



2008年12月09日(火) 家裁書記官が逮捕された事件の続報

 日経(H20.12.9)社会面で、京都家庭裁判所の書記官が逮捕された事件の続報が載っていた。


 昨日、「グループでの犯行が疑われ、驚いた」と書いたが、その後の報道ではどうも単独犯のようである。


 しかし、その手口は、戸籍を新設する「就籍許可」手続きを申請し、虚偽の戸籍をつくって架空の人物に成りすましており、極めて悪質である。


 これまでも裁判所職員が、裁判所が作成する書類を偽造したことはあったが、それは自分のミスを隠すためであったと思う。


 それに比べて今回の事件は、裁判所書記官という職務権限や知識を悪用した計画的犯行である。


 裁判所職員によるこのような悪質な犯罪は初めてではないだろうか。



2008年12月08日(月) 裁判所書記官を逮捕

 日経(H20.12.8)社会面トップで、振り込め詐欺に使われた預金口座の凍結解除のための文書を偽造したとして、京都家庭裁判所の書記官を逮捕したと報じていた。


 この報道にはびっくりである。


 裁判所書記官は、裁判官をサポートするだけでなく、支払督促を発する権限まである重要な職務であり、それだけに優秀である。


 もちろん、これまでも書記官の不祥事はあった。(裁判官の不祥事もあったが)


 しかし、ほとんど単独犯であったと思う。


 今回の犯罪は振り込め詐欺グループとの関係が取り沙汰されている。


 この点がこれまでと大きく違っており、びっくりした理由である。



2008年12月05日(金) 不可解な動機は、犯人にとっては「不可解」ではないのだろう

 日経(H20.12.5)社会面に、元更生次官らを殺害した事件で、小泉容疑者を殺人と殺人未遂容疑で再逮捕したという記事が載っていた。


 犯人は「34年前に愛犬を保健所で処分された恨みを晴らすため」という、まったく理解できない動機を供述している。


 しかし、「不可解な動機」と思うのは世間一般の価値基準に照らしているからである。


 犯人にとっては「不可解」でも何でもないのだろう。


 私が現在担当している国選弁護事件でも、それは世間を一瞬驚かせた事件であるが、その被疑者に動機を聞いても、不可解でありよく分からない。


 そのような不可解な動機による犯罪はしばしば起きる。


 評論家は、それを現在の社会状況と結びつけて発言するが、もともと人間が持っている不可解なものが発露したのかもしれないという気がする。



2008年12月04日(木) 金融商品のトラブル解決のために、紛争処理機関の設置を義務化

 日経(H20.12.4)4面で金融審議会は、金融商品のトラブル解決のために、裁判以外の紛争解決機関の設置を義務付ける報告案を了承したと報じていた。


 すでに証券トラブルや先物取引トラブルにおいては自主的な紛争解決機関があるが、その設置を法律で義務付けようとするものである。


 業者団体が設置する機関なので業者寄りの判断をするのではないかと思われがちであるが、外部の弁護士を入れるなどして意外と公平な判断をしている。


 裁判に比べても解決は早く、使い勝手はいいと思う。


 ただ、業界団体ごとに設置されているので不便であり、消費者にとって認知度が十分でない。


 金融審議会は、窓口の一本化を求めるそうであるが、適切なことであると思う。



2008年12月03日(水) 内定の取り消しは合理的な理由なくできない

 日経(H20.12.3)夕刊で、経済情勢悪化で内定取り消しが急増しており、弁護士らが、労働トラブルホットラインを実施して電話相談に応じるという記事が載っていた。


 最近、悪質な内定取り消しが問題になっている。


 そもそも、『内定』とは法的にいえばどういう意味であろうか。


 『内定』の実態は会社によっていろいろのため、一般化することはできない


 ただ、多くの場合、会社が採用内定通知を出し、内定者が入社誓約書を提出した時点で労働契約が成立していると考えてよいであろう。


 つまり、『内定』とは、4月からという始期付き、及び解約権留保付きという特殊性はあるものの、労働契約の成立ということになる。


 そうすると、その後の内定取り消しは『解雇』となるから、内定取り消しにはやむを得ない事情が必要である。


 当然、「経済情勢の悪化」という一般的・抽象的な理由だけでは足りない。


 もっとも、内定を取り消された学生は次の就職先を見つけるので精一杯で、会社と争っている余裕はないだろうから、泣き寝入りしているのが実態であろう。


 ちなみに、内定を取り消され場合の訴訟での和解金額は、学生の内定取り消しの事案で300万円から400万円という報告がある。



2008年12月02日(火) 万引きとピック病

 日経(H20.12.1)社会面に、「NHKプロデューサーが万引き容疑で検挙」という記事が載っていた。


 このプロデューサーは、警視庁の調べに対しては万引き容疑を認めているようである。


 ところが、取材に対しては「売り場が混雑していたので、タバコを吸おうと思って、品物を持って店外に出ただけ」と述べている。


 こういうのを「不合理な言い訳」という。


 普通の人はタバコを吸うときに、品物を持ったまま外には出ないからである。


 ただ、社会的地位のある人が万引きをする場合には、「ピック病」と呼ばれる認知症の可能性がある。



2008年12月01日(月) 被害者参加制度が始まる

 日経(H20.12.1)社会面に、今日から刑事裁判の『被害者参加制度』が始まるという記事が載っていた。


 『被害者参加制度』とは、被害者が、直接被告人に質問できたり、求刑意見を述べたりすることができる制度である。


 この制度に対しては弁護士の中にも賛否両論がある。


 私としては、求刑意見まで被害者が述べるのは行き過ぎではないかと思う。


 というのは、すでに被害者には意見陳述制度があり、被害に関する心情などを述べる機会は確保されているからである。


 求刑意見のためには、犯罪事実についての証拠の評価や、法律のあてはめを意見として述べる必要があるが、それは検察官の役割ではないだろうか。


 < 過去  INDEX  未来 >


ご意見等はこちらに
土居総合法律事務所のホームページ


My追加
-->