今日の日経を題材に法律問題をコメント

2007年12月28日(金) 一年で一番忙しい時期

 日経(H19.12.28)社会面で、東京地検は、自動車運転過失傷害罪で書類送検されていた沢田研二と安部なつみを起訴猶予としたと報じていた。


 担当検察官は、年末までに事件を処理してしまおうとするため、この時期、起訴猶予処分が多くなる。


 民事裁判でも、年末に近づくと、年内に解決しようという機運が高まり、和解が成立することが多くなる。


 そのため、法曹界では、いまが一年の中で一番忙しい時期である。



2007年12月27日(木) 最高裁が取調べメモの証拠開示を命令

 日経(H19.12.27)社会面で、最高裁は、警察官の取調べメモを証拠として開示するよう命じたという記事が載っていた。


 真実を発見するためには、できるだけ証拠は開示されることが望ましい。


 また、裁判員制度の発足により、争点を早期に整理して迅速な裁判をすることがより求められるようになった。


 そのような趣旨から、最高裁が証拠開示すべき対象を広げたことは当然といえると思う。



2007年12月26日(水) 『はっきり覚えていません』というのは否認か

 日経(H19.12.26)社会面で、時効まで残り1年だった強盗殺人事件で、容疑者を逮捕したという記事が載っていた。


 その記事で、「容疑者は『はっきり覚えていません』と容疑を否認している」と書いていた。


 「はっきり覚えていない」というのは認めたのも同然というのが一般的な印象ではないだろうか。


 しかし、警察や検察は、被疑者がほぼ大筋で認めている場合でも、一部でも認めてないと、「否認しています」と言う。


 被疑者が白旗を揚げて全面的に認めないと、「認めている」とは評価しないのである。


 したがって、『はっきり覚えていません』というのは、警察からすれば全面否認しているということになるのである。



2007年12月25日(火) 証拠として、メールの価値は大きい

 日経(H19.12.25)11面広告欄の雑誌『フォーブス』で、「裁判の証拠となるEメールを探す専門の会社」という見出しがあった。


 企業同士のやり取りはメールで行うことが多いが、それはトラブルになったときに重要な証拠になり得る。


 例えば、契約書作成の際に、日本語としてどういう意味なのか分からない条項をよく見かける。


 その契約書原案を相手方が作成していた場合には、「趣旨が不明な条項なので修正して欲しい」と言っても、相手企業が応じないこともある。


 そのような場合、だいたいは相手方企業の担当者のプライドに過ぎないことも多いのだが、それだけに頑として修正に応じない。


 そのときは、メールのやり取りの中で、相手方担当者から、その条項の趣旨を説明してもらうようにアドバイスしている。


 そうすると、契約書の条項が趣旨不明であっても、そのメールが、解釈のための重要な証拠となるからである。


 ただ、メールのやり取りは膨大な量に上る。


 そのため、今後はメールをどのような形で保存し、整理しておくかが重要な課題となってくるだろう。



2007年12月21日(金) 薬害肝炎の和解協議

 日経(H19.12.21)社会面で、大阪高裁での薬害肝炎の和解協議について報じていた。


 和解で、原告は被害者一律の救済を求めているが、国は、「大阪高裁の和解案は投与時期などで区別することが前提となっており、司法判断と矛盾するわけにはいかない」と主張している。


 しかし、訴訟上の和解とは、「訴訟において、当事者が主張を譲り合って訴訟を終わらせること」である。


 それゆえ、司法判断と違う内容の和解をしても何ら問題はない。


 国が一律救済に応じない理由は補償額が巨額になることを恐れているからであり、その本音を隠して、「司法判断と矛盾する」と言うのは、非常にずるい感じがする。



2007年12月20日(木) 会福祉士が約350万円の遺産を受け取る

 日経(H19.12.20)社会面で、社会福祉士が財産管理を任された86歳の女性から約350万円の遺産を受け取ったことが判明し、日本社会福祉士会が戒告処分を出す方針と報じていた。


 この社会福祉士は、預貯金の2割とそのほかの全財産を受け取るとする遺言書の作成に関わり、遺言執行者にもなっていたようである。


 社会福祉士とは、社会福祉業務に携わる人の国家資格であり、成年後見人に社会福祉士が選任されるケースも増えている。


 それだけに社会福祉士の責任は大きい。


 そのような職責の重大性を考慮すると、遺言書作成に深く関わり、350万円もの遺産を受け取りながら戒告程度では、処分として軽すぎるのではないかと思う。



2007年12月19日(水) 博多湾車両転落事故で裁判所が訴因変更を命令

 日経(H19.12.19)社会面で、幼児3人が死亡した博多湾車両転落事故で危険運転致死傷罪などに問われた事件で、福岡地裁は、検察側に対し、予備的に脇見運転による業務上過失致死傷と道交法違反を追加するよう命令したと報じていた。


 危険運転致死傷以外の訴因に変更するよう命令したということは、裁判所は危険運転致死傷罪は成立しないと考えていることを意味する。


 この裁判はすでに結審しており、判決は来月8日の予定だった。


 そのスケジュールから見て、結審の段階では、裁判所は危険運転致死傷罪が成立すると考えていたはずである。


 ところがいざ判決を書き始めると、危険運転致死傷罪では証拠が不十分で判決が書けなかったのだろう。


 判決を書き始めると、証拠を厳密に検討することになるから、思っていた判決が書けないことはあり得ないわけではない。


 そうはいっても、証拠の見方が甘かったと言われても仕方ないだろう。



2007年12月18日(火) 東京高裁が、一審判決を破棄して懲役12年に減刑

 日経(H19.12.18)社会面で、当時15歳だった少年が、両親を殺害したうえ部屋を爆破した事件で、東京高裁は、懲役14年とした一審判決を破棄して、懲役12年に減刑したと報じていた。


 一審判決後にとくに刑を軽くする事情もないのに減刑することはあまりない。


 いかなる刑が適切かをピンポイントで決められるはずがなく、刑には一定の幅が生じざるを得ない。


 そして、一審の判決がその幅の中にあれば、高裁はその判断を尊重するのが一般である。


 記事にあった事件でいえば、懲役12年と懲役14年とでは、通常は許される幅の範囲内であろう。


 それゆえ、高裁で懲役12年に減刑したことは珍しいといえる。


 おそらく、少年であることが特に考慮されたのだろう。



2007年12月17日(月) ロシアの商事系の訴訟は四審制

 日経(H19.12.17)16面のロシアの最高商事裁判所長官のインタビュー記事で、ロシアでは商事系の訴訟は四審制であると書いていた。


 「四審制」という制度があることは寡聞にして知らなかった。


 日本では原則は三審制であるが、内乱罪は二審制となっているなど、日本でも若干の例外がある。(上告が制限されているため、二審制が原則になっているという批判もあるが)


 すなわち、三審制に必然的な理由があるわけではなく、一審制も、二審制も、四審制もあり得るわけである。


 ただ、一審の判断が二審でひっくり返ったとき、ひっくり返した判断が適切かどうかをさらに判断する制度のほうが望ましいのではないだろうか。


 その意味で「三」という数は落ち着きがいいように思う。



2007年12月14日(金) 高齢者の犯罪が急増

 日経(H19.12.14)社会面で、刑法犯のうち高齢者が急増しているという記事が載っていた。


 高齢者の検挙人員は、10年間で3.6倍にもなっているそうである。


 高齢者の人口は10年間で1.3倍しか増えていないので、高齢者の増加だけでは説明がつかない。


 犯罪別では、万引きが半数を占めているから、高齢者の生活苦が原因となっているのかもしれない。


 私の印象としても高齢者の犯罪が増えた気がする。



2007年12月13日(木) 保護司と少年との面会を公共施設で行うことを検討

 日経(H19.12.13)社会面で、法務省は、保護司を増やすために少年との面会を公共施設で行うことを検討しているという記事が載っていた。


 記事では、面会場所に、自宅ではなく公共施設を使う理由として、プライバシーの確保、家族の負担の軽減、保護司の確保ということを挙げていた。


 しかし、本音の理由を書いていないため、何のために公共施設で面会を行うのかがはっきりしない。


 理由として一番大きいのは、保護司が、少年や被告人との何らかのトラブルを恐れて、自宅を教えたくないということではないだろうか。


 成年後見人に選任される場合も、成年後見人の自宅の住所が記載されることになっており、弁護士や司法書士が選任される場合にも、自宅住所が記載されている。


 そのため、自宅を記載しなくてもよいように協議が続けられている。


 地域コミュニティが濃密な社会では、自宅は教えなくてもみんな知っていた。


 しかし、今日のようにコミュニティが希薄化しただけでなく、都市の安全性が問題になってきている社会では、できるだけ自宅は教えたくないというのは誰しもの本音であろう。


 保護司が自宅で面会するというのは、もはや時代にそぐわないのだと思う。



2007年12月12日(水) 政党ビラのマンション配布事件で、東京高裁が有罪判決

 日経(H19.12.12)社会面で、政党ビラをマンションには配布した事件で、東京高裁は、一審の無罪判決を破棄し、罰金5万円の有罪判決を言い渡したと報じていた。


 東京高裁は、住民がチラシの投函を禁止する張り紙を玄関ホールに掲示していたことを重視したようである。


 しかし、実態はどうであったのだろうか。


 チラシ投函を禁止する張り紙はあっても、実際には営業ビラも投函されており、それを住民がとがめることはなかったのではないだろうか。


 そうであれば、「チラシ投函の禁止が住民の意思であった」とは言い切れないように思う。


 問題は、「実際には営業ビラが投函されており、それを住民がとがめることはなかった」という証拠を提出するためには、住民からの事情聴取が必要であるが、住民がそのような協力をすることはなかなか期待できないということである。


 結局、捜査機関と被告人側との証拠収集能力の違いが結論を分けたということになるのかもしれない。



2007年12月11日(火) 山田洋行が水増し請求

 日経(H19.12.11)社会面で、山田洋行の装備品納入契約で、新たに水増し請求したことが明らかになったと報じていた。


 山田洋行は、メーカーの見積書を偽造することで水増し請求をしていたということだから、明らかに詐欺罪が成立する。


 しかも、その手口は単純かつ悪質である。


 このような犯罪行為が見過ごされていたことが不思議である。



2007年12月07日(金) 東京地裁がモリテックスの取締役・監査役選任の決議を取消しを認める

 日経(H19.12.5)11面で、東京地裁は、画像処理機器メーカー、モリテックスの株主総会での委任状争奪戦を巡る手続きが違法だったとして、取締役・監査役選任決議の取り消しを認めたと報じていた。


 この事件で、会社側は、会社提案への賛同に言及したうえで、議決権を行使した株主に500円分の商品券を配布した。


 また、会社提案に反対する筆頭株主のIDECが集めた委任状について、要件を充たさないとして無効としていた。


 会社側は自己に有利となる決議をするために強引な手段を使ったという印象を受ける。


 上場企業での委任状争奪戦ゆえ、法律事務所もアドバイスしていただろうに、見通しが甘かったように思われる。



2007年12月06日(木) 裁判員制度対象事件のうち、否認事件が30%

 日経(H19.12.6)社会面で、日弁連の試算では、裁判員制度の対象事件のうち、否認事件が30%になるという記事が載っていた。


 否認事件の中には、証拠から見て「否認は無理だろう」という事件も多くある。


 しかし、たとえそのような事件でも証人尋問など証拠調べて続きはきちんと行うから、公判には時間がかかる。


 そのため、裁判員の負担はかなりのものになると思われる。


 そうなると、裁判員を辞退するケースが続出するかもしれない。



2007年12月05日(水) 顧客情報を流した店員の罪を問えず

 日経(H19.12.5)社会面で、ドコモ代理店の店員が顧客情報を流した事件を報じていた。


 情報を流した店員は告訴されたが、物の持ち出しがなかったため窃盗罪には問えず、不正競争防止法違反も要件を充たさなかったため、起訴猶予処分になったようである。


 情報窃盗によって生じる被害は甚大になる可能性がある。


 それにもかかわらず、窃盗罪に問えないため、不正競争防止法などで対応していたが、今回の事件で、それにも限界があることが露呈した。


 情報窃盗については、成立範囲が広範になりすぎるなどの問題も指摘されているが、正面から規制する方向で検討すべきではないかと思う。



2007年12月04日(火) クレジットの決済手数料はタクシー乗務員が負担

 日経(H19.12.4)12面に、東京のタクシー各社は、タクシー料金のクレジット決済手数料、洗車代を会社負担に切り替えて、乗務員の待遇改善に取り組み始めたと報じていた。


 この記事を読んで、「クレジットの決済手数料はタクシー乗務員が負担していたのか!」とびっくりした。


 タクシー会社と乗務員が業務委託であれば、クレジットの決済手数料を乗務員が負担することはあり得るかもしれない。


 しかし、タクシー乗務員の実態は雇用であろう。


 しかも、クレジットが使えることは、会社が謳っていることであり、タクシー乗務員が勝手にクレジットの仕様を認めているわけではない。


 にもかかわらず、クレジットの手数料を乗務員に負担させることは、問題があるように思う。



2007年12月03日(月) 中小企業の事業承継を支援するための新しいスキーム

 日経(H19.12.3)1面で、中小企業の事業承継を支援するために、政府は、自社株をすべて相続できるようにすると報じていた。


 現行制度は、遺言で自社株を後継者にすべて相続させたとしても、他の相続人が遺留分を主張すれば、自社株が分散されることがあり、問題になっていた。


 報道では、新しい制度では2つのスキームがあるようである。


 1つは遺留分の算定を相続開始時点ではなく、オーナーから後継者に自社株を生前贈与した場合、その時点を基準にするというものである。


 これにより、自社株の生前贈与を受けた後継者が、自分の才覚で会社の業績を上げ、株価が上がってからオーナーが死去したとしても、後継者の貢献がそのまま評価されることになる。


 ただ、後継者に生前贈与を行い、その後継者が会社の業績を上げて株価が高くなるケースはあまり多くないように思う。


 もう1つは、 オーナーの生前に相続人間で自社株の相続に関する合意がなされ、家庭裁判所が合意を許可した場合は、相続人が個別に遺留分放棄の許可を家裁から受けなくても遺留分の請求を放棄できる仕組みである。


 しかし、個別の遺留分放棄は現在でも可能なので、あまり大きな変更ではないようである。


 結局、他の相続人の遺留分は確保されなければならないため、大きな制度変更はできないということになるのだろう。


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