今日の日経を題材に法律問題をコメント

2007年10月31日(水) 松本智津夫の弁護人に、弁護士会は「懲戒相当」を議決

 日経(H19.10.30)社会面で、松本智津夫(麻原彰晃)の控訴審の弁護人に対し、仙台弁護士会の綱紀委員会は「懲戒相当」と議決したと報じていた。


 理由は、「控訴趣意書の提出を違法に拒んで死刑を確定させ、被告の利益を著しく損なった」というものである。


 今後、懲戒委員会が審査し処分を決定するから、これは最終結論ではないが、結論として妥当であると思う。


 控訴審で被告人が審理を受ける機会を奪い、死刑を確定させたという結果は大きいからである。


 ただ、懲戒請求していたのが東京高裁であるという点は気になる。


 裁判所は、控訴趣意書を出さなければ控訴棄却すればよく、それによって間接的に弁護士の非行を抑止することができる。


 裁判所という司法機関が弁護士に対し懲戒請求までする必要性はないように思う。



2007年10月30日(火) 防衛省の守屋前事務次官の証人喚問

 日経(H19.10.30)1面に、防衛省の守屋前事務次官の証人喚問の記事が載っていた。


 証人喚問では、脇に弁護士(補佐人)が座り、職務権限に関わる問題などの証言の際に、守屋前事務次官は弁護士に相談していた。


 こういう場合、アドバイスする弁護士としては嫌だと思う。


 アドバイスが偽証教唆とされる恐れがあるからである。


 そのため、「知らなければ、『知らない』といいなさい。」「記憶になければ『記憶にない』といいなさい。」「うそはいけません」などと、一般的なことしかアドバイスできないのが普通である。


 しかし、その程度のアドバイスであれば、守屋前事務次官としては何のために依頼したか分からないだろう。


 その期待に応えようとして、もう少しだけ踏み込んだアドバイスをするのか、それとも一歩間違うと偽証教唆とされかねないという危ない橋は渡らないのかは、個々の弁護士の考え方によるのだろう。



2007年10月29日(月) 光市母子殺害事件の弁護団を解任された弁護士が事情を語る

 日経(H19.10.29)13面の広告欄で、光市母子殺害事件の弁護団を解任された弁護士が、解任までの事情を語ったという週刊ポストの記事が広告されていた。


 解任までの事情を話すことは弁護士としては問題ではないかと思い、週刊誌を買って読んでみた。


 読んでみると、解任された弁護士は、極めて真摯に少年事件を担当していたことや、世間に批判されてとても苦労していたことが理解できた。


 しかし、殺人罪を争うのか、それとも別の方針で行くのかについて弁護団に争いがあったことについて、少年が週刊誌を通じて知ったとするならば、少年はどう思うのだろうか。


 「弁護人だけの都合や考えで方針を決め、自分は置き去りにされている」と思うのではないだろうか。


 やはり、弁護団の方針が食い違ったことなどをマスコミに語ることは、少年の保護という見地から問題であると思う。
(その犯罪が極めて悪質であるとしても、それゆえ死刑判決が間違いないとしても、『少年の保護』と観点は排除すべきではないだろう)



2007年10月26日(金) 「赤福」の不正 取締役会で報告

 日経(H19.10.26)社会面で、老舗和菓子の「赤福」画。製造日を改ざんした商品の売上率や返品率を取締役会で報告していたと報じていた。


 つまり、不正について取締役全員が認識していたということである。


 あまりにひどい話である。


 赤福は公開会社ではないようであるが、場合によっては株主代表訴訟を起こされるのではないか。



2007年10月25日(木) 裁判所は楽して大儲けすることに対して厳しい

 日経(H19.10.25)29面の「経済教室」という欄で、郷原大学教授が、ライブドアや村上ファンドの事件を例に挙げて、経済犯罪に対する裁判所の判断は、制裁システムの適正な機能を果たしていないという趣旨のことを書いていた。


 論旨は、経済犯罪に対する判断は、当該事件についての適切さだけでなく、経済活動に対して広く適用されるルールとして普遍性を備えたものでなければならない。
 しかるに、裁判所の判断はそれが不十分であるというのである。


 確かに、村上ファンドの事件では、ライブドアのニッポン放送株の取得可能性について、裁判所は「実現可能性があれば足り、その高低は問題とならない」という極端な判断をしており、問題があると思う。


 ただ、裁判所は、楽して大儲けすることに対して厳しいという傾向があり、ライブドア事件や村上ファンド事件ではそれが端的に出たのではないかと思うのだが。



2007年10月24日(水) 支払い能力を超える契約を禁止

 日経(H19.10.24)5面で、経済省が、割賦販売において支払い能力を超える契約を結ばないように義務付ける方針と報じていた。


 これまで、わずかな年金暮らしの人にクレジットを利用させて高額の商品を売りつけるケースが後を絶たなかった。


 そのような場合、相談を受けた弁護士としては、支払い能力を超えるような契約は公序良俗に反し無効であると主張するのであるが、当然に契約が無効もいえるわけでもなく、苦労をしていた。


 それゆえ、支払い能力を超える契約を禁止する規定ができることの意義は大きいと思う。




2007年10月23日(火) 東京地裁が電話加入権の賠償請求を棄却

 日経(H19.10.23)社会面で、「電話加入権の賠償請求を棄却」という記事を載せていた。


 「固定電話の加入料の引き下げで電話加入権の資産価値が下がった」として、171の法人や個人が、NTTなどに損害賠償請求を求めていたが、東京地裁はその請求を棄却したものである。


 請求を棄却した理由づけが気になるが、冒頭の記事では、「東京地裁は『電話加入権は、社会的価値があると評価されても金銭債権と同じではない』と結論付けた。」とまとめていた。


 しかし、争点は「電話加入権が金銭的債権かどうか」ではない。


 記事のまとめ方が不適切なため、東京地裁の判旨がよく分からないのが残念である。



2007年10月22日(月) 『ウィキブックス』でコンメンタールまで執筆されている

 日経(H19.10.22)1面下の広告欄で、青林書院から破産法のコンメンタール(条文別の解説書)が発刊されるとあった。


 法律がどんどん改正されるため、われわれにとって条文に添って解説しているコンメンタールの必要性は高い。


 ところが、出版がなかなか追いつかないため、コンメンタールの出版の知らせを聞くとありがたいと思う。


 ただ、現在「フリー教科書ウィキブックス」において、コンメンタールも徐々に執筆されているようである。


 いずれは『ウィキブックス』で調べることになるのかも知れない。



2007年10月18日(木) 国税徴収官が国税還付金が発生したように装い逮捕

 日経でなく朝日ネットニュース(H19.10.18)であるが、国税徴収官が、国税還付金が発生したように装い約1270万円をだまし取った容疑で逮捕されたと報じていた。


 手口は単純であり、実在する会社を使って、源泉所得税を納めすぎたことにして、還付を受けたというものである。


 私が以前扱った詐欺事件で、事業に行き詰った経営者が、人から教えられて、申告書で源泉税を多く納めたことにして3000万円もの還付請求をした事件があった。


 その被告人は書類を作成するときは半信半疑であったが、確定申告書を提出すると、すぐに税務署から3000万円の還付金が入金されたのでびっくりしたと言っていた。


 税務署は、取り合えず書類の内容が適正かどうかは判断せずに、機械的に処理するためである。


 しかし、不審な事実があればその後調査するわけであり、そのケースでも還付金を受けた数ヵ月後には逮捕され、実刑判決になっている。


 今回の事件で逮捕されたのは国税徴収官であるが、そんな単純な手口で、すぐに犯行が分かると思わなかったのだろうか。



2007年10月17日(水) 過払い金請求は「延滞」ではない

 日経(H19.10.17)7面で、金融庁が信用情報機関に対し、過払い金の返還請求をした場合には延滞情報に分類しないよう要請をし始めたと報じていた。


 これまで、過払い金返還請求した場合に、信用情報機関は「延滞」あるいは「事故」扱いをしていた。


 そのため、私が相談を受けたケースでも、大企業に勤めている人で、「延滞」「事故」情報に登録されるのを懸念して、過払い金請求できるのに、それを控えた人もいた。


 しかし、過払い金返還請求をした場合には、自己の有している債権を請求しているだけであり、「延滞」でも「事故」でもない。


 それゆえ、今回の金融庁による「過払い金の返還請求をした場合には延滞情報に分類しないように」という要請は、当然の措置であると思う。



2007年10月16日(火) 奈良県の医師宅放火殺人事件で、奈良地検が精神医を逮捕

 日経(H19.10.16)社説で、奈良県の医師宅放火殺人事件に関し、奈良地検が、長男の供述証書をフリージャーナリストの漏らしたとして、長男を鑑定した精神医を逮捕したことについて、「逮捕は行き過ぎである」と論じていた。


 私も逮捕は行き過ぎと思う。


 調書を渡した精神科医は強く非難されるべきであり、刑事責任は否定できない。


 逮捕することも違法とはいえない。


 しかし、適法であればなんでも許されるというわけではないだろう。


 検察庁のように権力を行使できる機関は、権力の行使には謙抑的であるべきと思う。


 この件についていえば、取材活動への萎縮効果は大きいことを考慮すると、逮捕までして取り調べる必要性があったのかは疑問である。



2007年10月15日(月) 被害者の承諾があっても誘拐罪は成立する

 日経ではなく、朝日ネットニュース(H19.10.15)で、長崎県の小学6年の女児がブログで知り合った男に誘拐された事件で、女児が「長崎に帰りたくない。お兄ちゃんは悪くない」と言っていると報じていた。


 この事件で、男は未成年者誘拐罪で逮捕されているが、被害者が承諾しているのに犯罪が成立するのかという疑問が生じるかもしれない。


 しかし、誘拐罪では、たとえ被害者の承諾があっても、その行為自体が公序良俗に反する行為であるので、犯罪は成立するとされている。


 したがって、女児が「お兄ちゃんは悪くない」と言っていても、それだけで釈放されることはないだろう。



2007年10月12日(金) 楳図かずお氏の自宅の建築差止め事件で、東京地裁は住民側の請求を却下

 日経ネットニュース(H19.10.12)で、漫画家の楳図かずお氏が建築中の自宅建物に対し、周辺住民が「外壁を赤白のストライプに塗装したりするのは景観を破壊する」として建築差し止めを求めた仮処分申請で、東京地裁は、住民側の請求を却下する決定をしたと報じていた。


 住民側は「計画中の住居は、景観を破壊し、住民の景観利益を侵害する」などと主張していた。


 景観利益については、最高裁が国立のマンション高層マンション訴訟において、「法律上保護に値する」としている。


 しかし、その要件は厳格であり、「景観利益に対する違法な侵害といえるためには、刑罰法規や行政法規の規制に違反するものであるなど、その態様や程度の面において社会的に容認された行為としての相当性を欠く場合」に限定している。


 「刑罰法規や行政法規の規制に違反するような場合」というのであるから、景観利益の侵害が認められるケースは実際にはほとんどないのではないだろうか。



2007年10月11日(木) 被告人の自白した映像をDVDで証拠として提出

 日経(H19.10.11)社会面で、検察官が、被告人が自白した録画をDVDにして証拠として提出した事件で、東京地裁は、「証拠として過大視できない」と指摘したと報じていた。


 そのDVDは、自白した1か月後に、自白した理由や心境などを10分間程度述べた様子を撮影したものである。


 そのため、取調べ状況を撮影したというリアル観はないのだろう。


 裁判所が「証拠として過大視できない」と指摘したのも当然である。


 もっとも、この事件では、被告人を有罪とする他の証拠もあったようであり、DVDを証拠として重要視する必要性もなかった事案と思われる。


 仮に、有罪か無罪か判断が分かれる微妙な事案であればどうだったであろう。


 映像で、被告人が自らの犯罪を認めているのだから、裁判所は、そのDVDを有罪の重要な証拠とするのではないだろうか。


 映像の威力というのは大きいと思う。



2007年10月10日(水) 神奈川県が県知事の多選禁止条例を制定へ

 日経夕刊(H19.10.10)で、神奈川県が、県知事の任期を連続3期12年までとする多選禁止条例を制定する見通しであると報じていた。


 多選の自粛を条例化している自治体はあるが、禁止を定めるのは全国初である。


 知事の多選禁止は、立候補の自由を制限することになるのではないか、法の下の平等に反するのではないか、職業選択の自由に反するのではないかということが議論されている。


 この点について、総務省の研究会は「必ずしも憲法に反するものとは言えない」との見解をまとめている。


 もっとも、現在は多選禁止の法律は制定されていない。そのため、今回の神奈川県が条例を制定すると、法律の根拠なしに多選禁止の条例を定めることができるかという別の論点が生じる。


 これはなかなか難しい問題であるが、私は法律の根拠がなくても条例を制定することは認められるのではないかと思う。


 そもそも、地方自治体の首長の多選を禁止するかどうかはその地方自治体の住民が自ら決めるべき問題であろう。

 そして、その住民が条例で多選を禁止をするならば、その意思は尊重されるべきである。

 それは憲法で定める「地方自治の本旨」にもかなうのではないかと思う。



2007年10月09日(火) フィリピン残留日系女性に日本国籍の取得を認める決定

 日経(H19.10.9)社会面に、フィリピン残留日系女性に対し、東京家裁は、父親の戸籍が見つからなくても日本国籍の取得を認める決定をしたと報じていた。


 詳しい事情は分からないが、そのフィリピン残留日系女性は、日本人であると思われる父親と、フィリピン人の母親との子であることははっきりしており、ただその父親が日本人であることが戸籍からは証明できなかったのであろう。


 その場合に、裁判所は自ら資料を収集することはしない。


 また、いくら証言を重ねても、それだけでは裁判所はその父親が日本人であるとは認めないだろう。


 そのため、戸籍がないのであれば、父親が日本人であることを示す他の資料を探して裁判所に提出するしかない。


 この事件では、NPOなどの支援により他の資料から父親が日本人であることが立証できたのだろう。


 私も中国残留孤児の国籍取得の裁判をしたことがあるが、資料はすべてこちらで揃えなくてはならないから、弁護士側はなかなか大変である。



2007年10月05日(金) 時津風部屋の力士死亡事件

 日経(H19.10.5)社会面に、時津風部屋の力士が死亡した事件で、時津風親方が、刑事処分がなされていない時点で相撲協会が「解雇処分」とした場合には、権利保全などを求めて法的手段に訴える可能性を示唆したと報じていた。


 しかし、刑事処分と解雇処分の当否は別である。


 時津風部屋では弟子たちが暴行を行っていたばかりか、親方自身も暴力を振るっていたのであり、これらは少なくとも傷害罪に該当する。


 そうであれば、刑事処分を待たなくとも懲戒処分は可能であろう。


 もっとも、この日に解雇処分が下され、時津風親方はその処分を受け入れたようである。



2007年10月04日(木) オウム真理教の破産手続きが来年3月に終結

 日経(H19.10.4)社会面に、オウム真理教の破産手続きが来年3月に終結する予定という記事が載っていた。


 被害者・遺族への配当率は約35%とのことである。


 仮に100%配当しても被害が回復するわけではない。


 ただ、破産事件としてみると、35%の配当率というのは他の破産事件と比べてかなり高い。


 破産管財人は非常にがんばったと思う。



2007年10月03日(水) 「エル・アンド・ジー」に強制捜査

 日経(H19.10.3)社会面トップで、警視庁は、健康関連商品販売会社「エル・アンド・ジー」の本社などを出資法違反の疑いで一斉に捜索すると報じていた。


 しかし、民事訴訟はすでに次々と起こされており、警察が強制捜査に乗り出すときは、もはや最終段階である。


 「エル・アンド・ジー」の代表者は、「裁判をしない人には返済する。」と言って、法的手続きを取ることを牽制していたそうであるが、結局は、裁判をしない人にも返済はしていないようである。


 騙されたと思うならば、躊躇せずにすぐに法的手続きを行ったほうがいいと思う。



2007年10月02日(火) 力士急死事件で立件が遅れている理由

 日経(H19.10.2)社会面で、力士急死事件で、「相撲協会が時津風親方を厳重処分へ」と報じていた。


 この事件では、親方や兄弟子たちが暴力を振るったことを認めているから、問題は、暴力と死亡との因果関係である。


 この点、新聞報道では、新潟大で行政解剖をしており、「多発外傷によるショック死が考えられる」として判断しているそうである。


 そうであれば、早々に傷害致死罪の立件が行われるはずである。


 立件が遅れているのは、親方と兄弟子たちとの共謀関係の捜査を慎重に進めているからかもしれない。



2007年10月01日(月) いきなり解雇したり、差別的な処遇をすることは避けるべき

 日経(H19.10.1)16面の「リーガル3分間ゼミ」というコラムで、深夜シフトのある職場で、育児のために深夜勤務の軽減を申し出たところ、「昼間の仕事は人手が足りているので来なくてよい」と言われたというケースを取り上げていた。


 深夜勤務を前提に採用しているような場合には、会社としては、「深夜勤務できないのであれば辞めてくれ」ということになりがちであろう。


 しかし、いきなり解雇したり、他の人と差別的な処遇をすることは避けるべきである。


 そのような対応は、紛争を拡大させ、後に膨大なエネルギーを消費することになるし、社員の信頼関係も失うからである。


 問題のケースでいうと、深夜勤務を減らすなどして様子を見ることが穏当な対応であろう。


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