今日の日経を題材に法律問題をコメント

2006年10月31日(火) 弁護士なしでもできる過払い金返還訴訟

 日経(H18.10.31)7面に、アコムが過払い金負担で赤字2821億円と報じていた。

 過払い金返還訴訟が急増しており、それが原因であろう。


 いまや過払い金返還訴訟は弁護士がいなくともできると思う。


 ほとんどの争点について最高裁の判断がなされ、借入れ側に有利な形でほぼ決着がついているからである。


 もっとも、弁護士に依頼しない場合、消費者金融会社から取引履歴を出させるのがやっかいである。

 債務者本人が請求しても取引履歴をなかなか開示しないためである。


 その場合でも、銀行の振込用紙がある程度残っていると、それに記憶をつなぎ合わせて取引履歴を復元することが可能である。


 それを基に訴訟提起をすればよい。

 振込用紙がない場合には、全くの記憶だけで取引を再現してもよい。


 実際の履歴と違っていた場合には、消費者金融会社が取引履歴を出してくるので、とくに差し支えはない。



2006年10月30日(月) 注意書きが読めないソフトバンクの広告

 日経(H18.10.30)1面に、携帯電話の他者への乗り換えで、ソフトバンクが受け付け業務を停止したと報じていた。

 ソフトバンクの新料金設定に人気が集まり、システムの処理能力を超えたのが原因のようである。


 ところで、新料金設定について、ソフトバンクは、テレビでも、女性が電話しながら歩いている横に「0円」と表示した広告を出している。

 そして、CMの最後の方に、画面の下に注意書きが出るのであるが、それがうちのブラウン型テレビではまったく読めない。


 注意書きが読めないのでは、「一般消費者が携帯電話料金が0円であると誤解する」といわれても仕方ないのではないか。


 景品表示法は、取引条件が著しく有利であると一般消費者に誤認させるような表示を禁じている。


 テレビのソフトバンクの広告は、これに該当する余地があると思う。




2006年10月27日(金) 防衛医大の手術 医師は説明義務を尽くしたとはいえない

 日経(H18.10.27)ネットニュースで、防衛医大の手術巡り最高裁は、「医師は説明義務を尽くしたとは言えない」として、二審判決を破棄し、審理を東京高裁に差し戻したと報じていた。


 この事件では、患者が脳動脈瘤と診断され、破裂を防ぐためにコイルでふさぐ手術を受けたが、コイルが動脈に流れ出し死亡したというものである。


 最高裁は「開頭手術とコイルでふさぐ手術のどちらを選択するか、いずれも受けずに経過観察するかは、患者自身の生き方や生活の質にかかわる。医師は分かりやすく説明し、患者が熟慮する機会を与える必要があった」と指摘した。


 厳密な検証をしているわけではなく、単なる印象であるが、最高裁は、医師の説明義務を厳しく見るようになってきているように思う。


 患者にとっては当然であるが、医師にとっては大変な時代なのかも知れない。



2006年10月26日(木) おとり捜査

 日経(H18.10.26)夕刊で、「ネット販売に“おとり”捜査」との見出しで、警察庁が、身分を隠して違法商品を購入し、摘発を進めると報じていた。


「おとり捜査」は、通常2つのタイプに分類される。

 第1のタイプは、犯人が当初から犯意を抱いており、おとりはその犯行のための機会を提供したものに過ぎないという機会提供型である。

 第2のタイプは、おとりにより犯人に犯意を生じ犯罪を実行した犯意誘発型である。


 そして、犯意を誘発する第2の型のおとり捜査は国家が犯罪を作り出すようなものであるから、そのような捜査は違法であるとされている。


 記事の内容は、違法商品を身分かくして購入するというのであるから、すでに犯罪が行われているケースである。


 このような捜査手法は「おとり捜査」ではない。

 記事で“おとり捜査”とかっこでくくられているのは、そのためであろう。



2006年10月25日(水) 通信教育が終了していないとうその電話をして再勧誘

 日経(H18.10.25)社会面で、通信教育が終わっていないとうその電話をして再勧誘する手口による被害が後を絶たないという記事が載っていた。


 私も何度か相談され、その都度、私の名前で、勧誘しないように内容証明郵便を送ったことがある。


 そうすると、その業者からは一切連絡がなくなるが、しばらくすると他の業者がまた勧誘をしてくる。


 通信教育を受けたことのある人の名簿が出回っているためである。


 そこで、再度勧誘しないよう内容証明郵便を送るということを繰り返すと、そのうち名簿から抹消されるのか、勧誘してこなくなる。


 被害に遭いそうになった場合には、法テラスにでも相談してはどうだろうか。



2006年10月24日(火) 少年院を出所した少年の再犯率は25%

 日経(H18.10.24)社会面で、東京都が少年院出所者の就労支援などの支援策を進めると報じていた。

 その記事の中で、少年院を出て5年以内に少年院か刑務所に再び入所した人の割合は25パーセントということを書いていた。


 再犯率25パーセントというのは高い数字のようにも思える。


 しかし、少年院に行く少年は非行が相当進んでおり、そのような少年の家庭は、親の保護機能を失っていることが非常に多い。


 そのような少年の生育においてよくない環境が多い中で、再犯率25パーセントというのは、私は低い数字であると思う。


 すなわち、少年犯罪に対する処遇は比較的うまくいっていると評価してよいのではないか。



2006年10月23日(月) 取引履歴の改ざんは犯罪行為ではないか

 日経でなく、昨日の朝日(H18.10.22)で、消費者金融大手CFJで、100人を超す社員が顧客に開示する取引記録を改ざんしていたと報じていた。


 債務整理を依頼された場合、受任した弁護士は、貸金業者から取引履歴を出してもらい、それに基づき利息制限法に基づき(通常は18%)で再計算する。

 そうして過払いがあることが判明すれば、過払い金返還請求をすることになる。


 貸金業者は、正直に取引履歴を開示すると過払いとなっていると思われる場合には、なんとかそれを隠そうとする。


 よく使われる理由が、「取引履歴は破棄した」というものである。


 しかし、取引履歴は会社にとって重要な情報であり、破棄することは通常あり得ない。


 実際、「破棄した」と言いながら、後から出てきたことがいくつも報告されている。


 もっとひどいのは、取引履歴そのものを改ざんすることである。


 しかも、それを裁判所の証拠として提出することさえもある。


 しかし、取引履歴の改ざんは、犯罪行為であろう。

 取引履歴を改ざんして相手をだまし、債務の返還を免れるのであるから、詐欺罪が成立すると思われるからである。


 これまでも、消費者金融大手のアコム、三洋信販で取引履歴の改ざんが明らかになっており、改ざんは一社だけの問題ではないようである。



2006年10月20日(金) 知り合いの裁判官の場合、かえって意識する

 日経(H18.10.20)8面に、中国の裁判官らが収賄の疑いで取調べを受けているという記事が載っていた。

 この裁判官らは、賄賂を受け取り、贈賄側に有利な判決をしていたようである。


 外国ではこんな話を時々聞くが、日本ではあり得ない(昔、弁護士からゴルフセットを贈られて問題になった裁判官がいたが)。


 たまに、依頼者から「担当裁判官の知り合いか」と尋ねられることがある。

 知り合いであれば、少しは有利になるのではないかと思うのだろう。


 しかし、たとえ知り合いでも有利になるはずがなく、その裁判官を知っている場合であっても、「知らない」と言うようにしている。


 むしろ、知り合いの裁判官のときの方が、こちらが変に意識してしまって、やりにくいのが実情である。



2006年10月19日(木) 比較広告における科学的検証の程度について

 日経(H18.10.19)社会面に、「知財高裁は、グリコの『ガム虫歯予防の効果5倍』という比較広告の差し止めを命令した」という記事が載っていた。


 この訴訟は、グリコが、自社のガムを「一般的なキシリトールガムに比べ約5倍の再石灰化効果を実現」と広告したのに対し、ロッテが、広告の根拠となった実験の正確性等を問題にして、広告差し止めなどを求めていたものである。


 高裁では、実験の正確性が改めて問題になり、グリコが自社の推薦する研究者による実験に固執したため、裁判所は「必要な立証を放棄した」と判断したようである。


 この判決について、ロッテ側は、「比較広告について厳密な科学的検証が必要とすることを判示した」と評価しているようである。


 しかし、記事の判示内容からは、そこまでは読み取れない。


 確かに、科学の世界では、実験結果について、第三者による実験再現によって検証されない限り、成果として認められない。

 しかし、本件訴訟では、比較広告が虚偽かどうかが問題なっているのだから、実験に一応の合理性があればよく、厳密な科学的検証までは必要ないと思う。


 もっとも、敗訴したグリコは、「実験は一流の研究者でなければ再現できず、判決は遺憾」というコメントを発表していたが、これはこれであまりにむちゃな論理である。


 「一流でなければ再現できない」と言う研究者というのは、本当に「一流」なのだろうか。



2006年10月18日(水) 最高裁が発明の貢献度として20%を認める

 日経(H18.10.18)1面で、日立の発明対価訴訟において、最高裁が、外国の特許分についても対価請求を認める判断をしたと報じていた。


 この点は大きなニュースなのだが、同時に、貢献度を20パーセントとした高裁の判断を最高裁が支持したことも重要である。


 下級審レベルでは、発明者の貢献が大きいと思われる場合であっても、貢献度を5パーセント前後とする傾向にある。


 しかし、貢献度は事案によって異なるはずである。


 それにもかかわらず、貢献が大きくても5パーセントしか認めないとなると、結果的に発明の対価が低く抑えされることになる。


 その意味で、最高裁が発明者の貢献度を20パーセントも認めた高裁判断を支持したことは、今後の同種訴訟に影響を及ぼす重要な判断であると思う。



2006年10月16日(月) 飲酒運転を理由に懲戒解雇ができるか

 日経(H18.10.16)21面で、「飲酒運転で懲戒解雇できるか」という記事が載っていた。


 福岡での公務員による死亡事故を契機に、飲酒運転による事故が連日報道されており、飲酒運転に対し、会社としてどのように対処すべきかが問題になっている。


 会社としては、従業員の飲酒運転に対して厳しい姿勢で臨むべきであることは当然である。


 しかし、業務外で飲酒運転したことで懲戒解雇処分までできるかは別問題である(もちろん、交通事故を起した場合は別である)。


 私は、就業規則の懲戒解雇理由に「飲酒運転をした場合」などと明記するとともに、常日頃から、飲酒運転すれば懲戒解雇であることを従業員に周知徹底しているなどの事情がなければ、懲戒解雇までは難しいのではないかと思う。


 要するに、就業規則で規定したからそれで飲酒運転への対策はOKというわけにはいかないということである。



2006年10月13日(金) 最高裁が、1、2審の判決を破棄

 日経(H18.10.13)社会面で、娘の再婚に反対し、孫娘を連れ戻したとして、未成年者誘拐罪に問われた娘の両親について、最高裁は「実刑は重すぎ、破棄しなければ著しく正義に反する」として、1、2審判決を破棄し、懲役10月、執行猶予3年を言い渡したと報じていた。


 刑事事件では、ほとんどの場合1審の判断が尊重され、2審で判決が変更されることは少ない

 ましてや、1審も2審も同じ判断のときに、最高裁で変更される可能性はゼロに近い。


 そのため、被告人から控訴や上告したいという相談を受けても、「時間の無駄になることが多い」という説明をするのが普通である。


 その意味では、最高裁が1、2審の判決を破棄したということは非常にめずらしいケースといえる。



2006年10月12日(木) 内容証明郵便のやり取りを何度しても裁判官にはアピールしない

 日経(H18.10.12)7面で、「ジェイコム株誤発注問題で、みずほ証券と、東京証券取引所が水面下で応酬」という記事が載っていた。


 みずほ証券が、東証に損害賠償を求める催告書を送ったのに対し、東証が支払いを拒絶する回答をしたが、みずほ証券が追加で質問状を送った。


 これについて、記事では、「『こちらは人事を尽くしたのに、東証の回答は不十分』と裁判関係者に示す点にあるとみられる」という見方をしていた。


 しかし、私は違うと思う。


 そんな内容証明郵便のやり取りを何度しても裁判官にはアピールしないからである(そんな程度で裁判官にアピールするのなら、何度でも内容証明郵便を出す。)。


 本当の理由は、みずほ証券の請求が認められるのは難しく、そんな訴訟に裁判費用をかけたことが株主代表訴訟の対象となることを恐れ、『人事を尽くした』ことを株主にアピールしたいということにあるのではないかと思う。



2006年10月11日(水) 海外の特許の対価も認められる見込み

 日経(H18.10.11)社会面で、光ディスク読取り技術の特許について、日立製作所の元社員が発明対価の支払いを求めた訴訟で、最高裁が17日に判決を言い渡すことを決めたという記事が載っていた。


 記事によれば、「1審は、外国の特許の対価の請求を認めなかったが、2審の東京高裁は、海外の特許の対価も請求できるとした。上告審で弁論を開かなかったことから、東京高裁判決が維持される見通し」とのことである。


 職務発明対価訴訟は、裁判所が高額な対価を認めない傾向が強まり、訴え自体が沈静化していた。


 しかし、海外の特許の対価も認められるとなると、再び職務発明対価訴訟が増えるかもしれない。



2006年10月10日(火) 酒気帯び運転で弁護士を現行犯逮捕

 日経ではなく、朝日ネットニュース(H18.10.10)で、「酒気帯び運転で弁護士を現行犯逮捕」と報じていた。


 呼気1リットル中0.6ミリグラムのアルコールが検出されたというから、相当なアルコール量である。


 愚かとしか言いようがない。
 



2006年10月06日(金) NHK 受信料不払いに法的措置

 日経(H18.10.6)3面で、NHKは、受信料不払いの48件(東京都内)について、簡易裁判所を通じて督促をする方針と報じていた。


 督促手続きは相手方の住所地を管轄する簡易裁判所に申し立てなければならず、相手方が異議を申し立てれば、その簡易裁判所で審理がなされ、裁判所に出頭しなくてはならない。


 そのため、相手方が遠方の場合は、大変な手間と費用がかかることが予想される。


 このような事情から、NHKは、受信料未払い者でも、遠方の人は避け、都内在住に限定して督促手続きを行うものと思われる。


 しかし、これでは都内の人にとっては不平等という指摘がされそうである。



2006年10月05日(木) 参院選定数不均衡訴訟 なぜ出身で合憲・違憲が分かれるのか

 日経(H18.10.5)1面で、参院選定数不均衡訴訟で、最高裁は合憲との判断をしたと報じていたが、社会面では、最高裁の15人の裁判官の意見が掲載されていた。


 裁判官出身者6人中5人が合憲、検察官出身者2人はいずれも合憲、弁護士出身者4人中3人が違憲ということである。


 どうして出身で意見が異なってしまうのか。


 不思議なようであり、不思議でないようでもある。



2006年10月04日(水) みずほ証券が、東京証券取引所に再質問書を送る

 日経(H18.10.4)7面に、ジェイコム株誤発注問題で、みずほ証券が、東京証券取引所に再質問書を送ったという記事が載っていた。


 この事件では、みずほ証券が、東京証券取引所に404億円の損害賠償を求めており、それに対し東証は支払いを拒絶していた。


 ところが、みずほ証券は、「支払いを拒絶する理由が不明確である」として再度質問書を送ったものである。


 みずほ証券としては訴訟提起するしかないと思うのだが、再質問書を送るのでは、請求に自信がないと思われても仕方ないだろう。


 ただ、請求に自信のない訴訟提起をして敗訴すると、訴状に貼る印紙代だけで4642万円もかかるから、株主代表訴訟の対象となる可能性がある。


 そこで、再質問書を送り、「質問書で支払い拒絶の理由を求めたが、明らかにしないので、『やむを得ず』訴訟提起をした」という言い訳が欲しかったのかもしれない。



2006年10月03日(火) 参議院選挙の定数不均衡訴訟 明日最高裁の判決

 日経(H18.10.3)社会面に、定数不均衡を理由に2004年7月の参院選選挙の無効を求めた訴訟について、最高裁は、4日、判決を言い渡すと報じていた。


 このときの格差は5.13倍であった。
 

 そろそろ、最高裁は、選挙無効の判決を出したらどうかと思う。



2006年10月02日(月) 弁護士の比較サイト

 日経(H18.10.2)19面で、「若手弁護士 新市場ひらけ」という見出しで、ネットに比較サイトを開設しているという記事が載っていた。


 このサイトでは、依頼案件に対し、弁護士が見積価格を提示し、価格を見比べることができる。


 これに対し、古参弁護士は、「サイト情報だけで依頼を受けるのはリスクが大きいのではないか」と否定的なコメントをしていた。


 このようなサイトが今後盛んになるかどうかは分からないが、弁護士にとって、大変な競争の時代になったことは間違いない。


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