今日の日経を題材に法律問題をコメント

2002年10月31日(木) 和解に対する裁判官の捉え方と、弁護士の捉え方

 日経(H14.10.31付)・社会面に、最高裁長官の退任記者会見の記事が載っていた。

 その中で、最高裁長官が「すべてを満足させるのは難しく、和解・調停を王道とする手法を考えてもらいたい。」と述べていた。


 和解を王道と考えることは正しい。その通りであると思う。

 しかし、和解に対する認識は、裁判官と、弁護士とでは少しニュアンスが違うように感じている。



 裁判官は、手放しで和解を賞賛している傾向がある。

 しかし、弁護士からみれば、和解に対し、裁判官ほど手放しで賞賛できないこともある。



 紛争が生じた場合、どちらか一方が100%正しいということはない。

 それぞれに何らかの言い分があるものである。

 したがって、和解によって互いに譲歩するということは、紛争の実態に即した解決である。

 それゆえ、最高裁長官も、和解を王道とする解決を述べたのである。

 それは正しいと思う。



 しかし、和解した場合に、当事者は納得しているだろうか。

 訴訟までするのだから、自分が絶対正しいと思っていることは多い。

 それなのに、和解によって相手方に譲歩するわけである。

 内心は納得していないことが多いのである。


 それだけに、弁護士として、和解が成立しながら、苦い思いをすることはある(いつもというわけではないが)。


 他方、裁判官は、和解が成立すれば、その時点で一丁上がりとなり、お終いである。


 このような立場の相違から、和解について、弁護士と裁判官では微妙に捉え方が違うように思うのである。
 



2002年10月30日(水) 和泉元彌が退会処分を不服として提訴

 日経(H14.10.30付)社会面に、和泉元彌が、能楽協会から退会命令処分を受けたことを不服として、総会決議の無効確認と、協会と理事らに1億円の損害賠償を求める訴訟を起こしたと報じていた。

 母の節子さんは、「何が正しくて何が正しくないか証明したい」と述べたそうである。


 このような団体内部の争いによって退会処分とされ、裁判で無効確認を求めることはよくある。

 
 その場合、その処分の内容が正しいかどうかは、裁判所は判断したがらない。

 もっぱら、退会処分の手続が、その団体の規則に則って適正に行われたかどうかのみを判断しがちである。

 つまり、手続が違法でなければ、その処分を無効とすることはほとんどない。

 「何が正しくて、何が正しくない」とは裁判所は判断しないのである。


 その理由として、処分内容の適正については、団体自治の自律性に委ねるべきであり、裁判所が過度に関与すべきでないという言い方がされる。


 この件では、能楽協会の弁護人は「処分決定は適正、適法に行った」と話しているそうであるから、処分に際して、弁護士に相談しながら行ったようである。

 したがって、手続に問題があるようなことをするとは思えない。

 和泉元彌の言い分が通ることはないだろう。



 また、慰謝料についても「資格をはく奪されることで、財産や精神的に損害が生じる」として1億円を請求しているが、無茶な請求だなあという感じである。


 これぐらい請求しないと迫力はないのだろうが、所詮パフォーマンスでしかない。


 裁判なんかせずに、芸の道に励んだほうが、よっぽど人気が出て、いいと思うのだが。



2002年10月29日(火) 武富士の純利益、破産事件増加により20%減

 日経(H14.10.29付)19面で、「武富士 純利益20%減」という記事が載っていた。


 自己破産の増加によって、貸し倒れ費用が膨らんだことが原因のようである。


 そういえば、少し前に、「陰りが見えた消費者金融産業」という見出しがどこかの週刊誌に載っていた。


 それにしても、破産事件は多い。

 東京地裁では、1日のうち、10時、10時30分、11時、1時30分と4回に分けて免責の審尋をしているが、たとえば10時の回だけで50人くらいいる。

 1人の債務額の平均は正確には知らないが、仮に400万円とすると、10時の回だけで2億円である。

 これだけの債権が一瞬にしてパーになるのである。


 このように自己破産は多く、それゆえ貸し倒れ費用も増加しているはずである。


 しかし、武富士の9月中間期の純利益は532億円。

 ものすごい利益である。



2002年10月28日(月) 企業倒産はこれから増えると思う

 日経(H14.10.28付)9面で、竹中大臣の金融・産業再生策についての解説記事が載っていた。

 土日のテレビでもこの問題が盛んに放映されていた。


 私は、銀行の言い分には理がないと思う。

 これまで不良債権処理に抜本策を採らず、問題を先送りしてきて、いまさら何を、という印象である。

 銀行国有化によって、銀行首脳が責任をとることになるのが怖いだけじゃないかという気がする。


 しかし、それにしても銀行の貸し剥がしは、ものすごい。

 私が顧問している企業や相談に乗っている企業でも、いくつもの企業が、銀行の貸し剥がしで、倒産寸前に追い込まれている。


おそらく、竹中案を実行すると、銀行は、自己資本率を上げるために、さらなる貸し剥がしをするだろう。

 これから、企業倒産はますます増えるというのが仕事をしていての実感である。



2002年10月25日(金) 東京都と銀行との税金訴訟で、東京都が勝つかも知れない

 日経(H14.10.25付)7面に、金融再生に関する竹中案に対し、大手銀行が反対し、銀行首脳は「行政訴訟も辞さない」として対決姿勢を強めていると報じていた。


 竹中案が妥当かどうかは私にはよく分からない。

 しかし、「行政訴訟も辞さない」というのは、銀行は少しいい気になりすぎているのではないか。


 おそらく、その発言をした銀行首脳は、東京都に対する税金訴訟の一審で勝ったことが念頭にあったのだろう。

 しかし、控訴審では、一審のような銀行側の完全勝訴にはならないという話しも伝え聞いている。

 意外と東京都が勝訴するかもしれないのである。


 したがって、銀行も、安易に「行政訴訟も辞さない」ということは言わない方がいいと思う。



2002年10月24日(木) リクルート事件で高石被告の有罪が確定。

 日経(H14.10.24付)社会面で、リクルート事件で、高石元事務次官で、最高裁は上告棄却の決定を出し、これで高石被告の有罪が確定したと報じていた。


 リクルート事件があったのはいつだっただろう。

 記事の中で、江副被告の初公判が1989年と書いていたから、それからでも、もう13年。

 長いなあ。

 高石被告も72歳である。


 刑事裁判は、もう少し早くならないものだろうか。



2002年10月23日(水) マンションを退去するとき、クリーニング費用までも持つ必要があるか

 日経(H14.10.23付)・社会面に、44人が、敷金返還を求めて大阪簡裁などに一斉提訴したとの記事が載っていた。


 アパート・マンションなどから借主が退去するとき、原状回復費用として、畳の張り替え費用、クリーニング費用などが敷金から差し引かれることはよくある。

 訴えを起こした側の主張は、通常の日常生活を送っていたことによる汚損まで、原状回復費用として差し引くのは許されないので、その分は返せということである。


 この種の相談はよく受ける。

 だいたいは賃借人側からの相談であり、敷金全額が返ってこず、納得できないという言い分である。

 その場合、敷金としては20万円から30万円程度が多い。


 この種の事案を弁護士を頼んで裁判すると費用倒れになる。

 少額訴訟という手段もあるが、やはり手間暇かかるし、被告が通常訴訟を希望すれば、一回では裁判は終了しない。


 だから、敷金の問題というのは、相談を受ける方も悩ましい事案なのである。


 ところで、冒頭の訴訟をとりまとめているのは、大阪の弁護士たちである。

 本当に、大阪の弁護士はいろいろとやるなあと思った。



2002年10月22日(火) 犯罪の多様化に対応し、刑事法も頻繁に法律改正されている

日経(H14.10.22付)社会面に、ジー・オー・グループの巨額詐欺事件で、幹部らが組織的詐欺罪で追送検されたと報じていた。


 通常の詐欺罪だと最高刑は10年であるが、組織的詐欺罪となると1年以上の有期懲役(有期懲役の最高は15年)であるから非常に重い。


 組織的詐欺罪は、組織犯罪処罰法に規定されている。


 この法律は、組織犯罪に対し、処罰を強化し、かつ、組織犯罪によって得た収益を没収することを目的として、平成12年2月から施行されている。

 さらに、この法律は、金融機関等に対し、疑わしい取引を報告する義務を課している。

 つまり、マネーロンダリング対策を兼ねている重要な法律である。



 近時、犯罪の多様化に対応するため、刑事法分野で法律改正が相当行われている。


 つい最近も、支払用カード電磁的記録不正作出準備罪という犯罪に当たった。

 裁判所の書記官も、「あんまり聞いたことのない罪名ですね。」なんて言っていたが、この条文は刑法に規定されている(施行は平成13年)。



 民事・商事では、法律の改正が頻繁であるが、刑事でも、近時、法律改正がかなり行われている。

 弁護士としては、勉強が欠かせない。



2002年10月21日(月) ドライになっていく、顧問会社と、顧問弁護士とのつき合い

 日経(H14.10.21付)・文化面の「交遊抄」で、日本興亜損保社長が、顧問弁護士とのつき合いを書いていた。

 「たまにあっては人生の目的について意見を交わし合っている」のだそうである。

 こうなると、会社社長と顧問弁護士とのつき合いというよりも、友人同士のつき合いという色合いである。


 これを読んで、今後は、企業と顧問弁護士とのつき合いにおいて、このようなウェットな関係はだんだん少なくなっていくのだろうと思った。


 コラムで書いているような人生を語り合うまでのつき合いはめずらしいと思うが、私のような小さな事務所の場合は、顧問会社の人と一緒に飲んだり、温泉での忘年会に誘われたりする。

 私としては、「飲ミュニケーション」の効用はあると思うし、それによって、顧問会社が弁護士にざっくばらんに相談できる関係を創ることは重要であると思っている。


 しかし、そのようなウェットな関係はだんだん少なくなり、大企業と大手法律事務所とでは、まったくの仕事だけの関係になってきているようである。

 先日、日本最大規模の法律事務所の弁護士と話したが、クライアントと一緒に酒を飲むことはめったにないと言っていた。


 最近、グローバリゼーションの名の下に、何でもアメリカナイズされてきている。

 企業と法律事務所との関係も、相当ドライになり、アメリカ並みに変化してきているようである。



2002年10月18日(金) 宝飾店の三貴が特別清算手続を開始

 日経(H14.10.18付)15面で、宝飾専門店の三貴が、特別清算の開始決定を受けたと報じていた。


 特別清算は清算型倒産手続であるが、その手続を利用することは比較的珍しい。

 通常は破産手続が利用されるからである。


 ただ、特別清算において、特別清算人は会社側の弁護士がなることが多い。
 つまり、破産と違って、会社の旧経営陣が全面的に退陣することがないという利点がある。


 他方、債権者集会で、出席者数の過半数で、かつ、総債権額の4分の3以上の債権を有する者の同意が必要である。
 そのため、債権者が多いときはこの手続は向かいないといわれている。


 以前、私はこの手続を利用して、特別清算をしたことがあるが、債権者が比較的少なかったため、うまく処理することができた。


 もっとも、現在、破産手続は、東京地裁では、会社破産でもほとんどの場合、管財人費用が20万円で済む。

 また、手続も非常に早く進むようになってきている。

 その意味で、特別清算のメリットは少なくなってきているが、それでも検討に値する手続ではある。



2002年10月17日(木) 「裁判官はおかしい」 か?

 日経(H14.10.17付)広告の中の、週刊新潮の広告で、「裁判官がおかしい」という見出し記事があった。

 興味を持って買ってみると、非常識な判決が続いており、最近の裁判官はおかしいという内容であった。

 その具体例として、八尾惠子さんの名誉毀損事件を取り上げていた(他の事件も取り上げていたが)。


 八尾惠子さんの名誉毀損事件とは、以前、マスコミが八尾惠子さんが北朝鮮の工作員であると書き立て、それに対し、八尾さんとその支援グループが、「スパイであるかのような虚報で、名誉を傷つけられた」とマスコミ相手に裁判を起こした事件である。

 裁判所は、マスコミの報道が名誉毀損にあたることを認め、マスコミは敗訴となった。


 ところが、その後、八尾さんは北朝鮮の工作活動に関わっていたことを自ら認めるに至り、マスコミ報道が正しかったことが明らかになったのである。


 しかし、だからといって、誤判といえのだろうか。


 マスコミは、取材源の秘匿を理由に、適切な証拠を出せなかった。

 それ自体は仕方のないことであるが、その結果、裁判所は、法廷に出てきた証拠を元に判断を下し、マスコミに敗訴判決を出したのであって、やむを得なかったのではないだろうか。


 確かに、裁判官は、八尾さんの嘘を見破れなかった。

 しかし、八尾さんには大勢の支援グループがいた。
 弁護士もいた。

 その人たちも八尾さんの嘘を見破れなかったのである。


 後に、八尾さんが北朝鮮の工作員であることを認めたとたん、支援グループは、潮が引くように離れていっている。



 週刊誌の記事では、「裁判官は人間としての感性と常識を徹底的に排除していく」と書いていた。

 そんなバカなことはない。

 人間としての感性と常識を排除したら機械であり、裁判ではないし、最高裁もそのような教育はしていない。



 私は、裁判所に対する批判は必要だと思う。

 裁判所は、選挙による洗礼もなく、民意から最も遠い存在である。

 それだからこそ、マスコミ等による批判によって適正な裁判を確保することは重要であると思う(しかも、裁判官はマスコミを非常に気にする体質がある。)


 しかし、適切な批判があればいいが、マスコミ(特に週刊誌)の裁判批判はどうも情緒的というか、適切な批判になっていないように思う。



2002年10月16日(水) NCG、株価の半額でTOBの対象に-適正な株価とは−

 日経(H14.10.16付)・15面に、「NCG、株価の半額でTOBの対象に」というコラムが掲載されていた。

日本コンピューターグラフィック(NCG)を、昭文社が公開買付(TOB)で買収することになったが、その取得価格は、一株4万5000円で、発表直前の株価の45%にすぎなかった。

 そのため、これに引きずられる形で株価は3割下落し、既存株主から批判が相次いでいるそうである。


 既存株主にとっては、腹立たしいことだと思う。


 しかし、株価を下回る公開買付をしても、それに既存株主が売却に応じなければいいだけである。
 その意味で、株価を下回る公開買い付けをしたとしても、法律上は問題がない。


 そうはいっても、この会社の株価は、今年の1月には30万円を超えていたのだから、ひどい話である。


 昭文社は、一株4万5000円という買付価格は、第三者の経営指導会社に算出してもらったといっているようである。

 しかし、それは一定の計算方法に基づいて算出したというだけで、それゆえ恣意的な数字ではないというだけである。

 それが適正な株価かといえば、そうではない。

 8か月前に30万円を超えていたが、それが不適正であったとはいえないであろう。


 要するに、「適正な株価」というのはなく、「株価は人気投票」ということなのである。



2002年10月15日(火) 個人情報が丸裸

 今日(H14.10.15付)は新聞の休刊日なので、昨日の朝日新聞から。

 朝日新聞・社会面の「個人情報のゆくえ」というコラムで、個人情報が丸裸にされていることが書かれていた。

 そこの例では、口座の預金残高は、調査料4万9000円で調べらてくれるそうである。


 弁護士にも、弁護士会照会制度というのがあり、その制度を使って、金融機関に問い合わせれば、かつては口座の預金残高まで教えてくれていた。

 そこで、その制度を使って、離婚とか、遺産相続で、相手に隠し預金があるのではないかと疑うときに、相手の預金残高を調べていた。


 しかし、いまでは個人のプライバシーを理由に、回答を拒否される。


 それが、4万9000円で調べられるのだから、弁護士なんか何の役にも立たないといわれても仕方ない。


 私自身、そのような調査業者を使いたくなるときがあるほどである(もっとも、調査依頼したことはない。念のため)。
 



2002年10月11日(金) 診療報酬の不正請求について

 日経(H14.10.11付)社会面に、東京女子医大カルテ改ざん事件で、遺族が、東京女子医大が診療報酬を不正請求したとして、厚生労働省に調査するよう要望したと報じていた。


 その記事の最後に、不正請求が確定した場合、保険医療機関の資格を取り消され、保険診療できなくなることもあると書いていた。


 しかし、診療報酬不正請求は、診療していないことを診療したことにして診療報酬を得るのだから、詐欺以外の何ものでもない。

 りっぱな刑法犯である。


 私が扱った医療過誤事件で、裁判所を通じてカルテを強制的にコピーして調査したところ(証拠保全手続きという)、数箇所にわたり、診療していないことをしたことにして保険請求していたことが分かったことがあった。


 もっとも、それで大喜びして、「病院に対し、損害賠償請求をする。請求を認めなければ、警察に詐欺罪で訴えるぞ。」なんていうと、逆に、こちらが恐喝罪になってしまう。

 そのため、ちょっとしたテクニックが必要なのだが、結局は、恐喝に該当することなく、こちらに言い分を認めさせたことがある。


 その例を見ても分かるように、診療報酬の不正請求は、高い頻度で行われている。

 そして、それは詐欺罪であるのに、ほとんど不問に付されているのは不思議というしかない。


 この記事の下に、イトーヨーカ堂がバーバリーの偽マフラーを売ったことで、自主回収して返金を応じることにしたところ、その騒ぎに便乗して、偽マフラーを買ったと嘘を言って払戻金を騙し取ろうとして、詐欺罪で逮捕された事件を報じていた。

 しかし、騙し取ろうとした金額は17万5000円である。


 診療報酬の不正請求は、かなり頻繁に行われており、とてもそんな額ではすまない。

 わずか17万5000円で逮捕されたことに比べて、なんだか不合理を感じてしまった。



2002年10月10日(木) 痴漢容疑の校長先生が釈放。 大阪の弁護士、痴漢で罰金刑。

 日経ではなく、H14.10.10付の朝日新聞ネットニュースで、電車内で痴漢をしたとして迷惑防止条例違反で逮捕された区立小学校校長が、処分保留で釈放されていたと報じていた。

 処分保留ということは、証拠不十分ということである。

 つまり、痴漢をしていなかった可能性が高いわけである。


 それなのに、この校長先生は依願退職せざるを得ないのかなあと思って同情してしまった。


 私も満員電車に乗るので、校長先生のようにならないよう、本当に気をつかうのである。



 そう思いながら、そのニュースを読んでいくと、その下に、関連ニュースという欄があり、そこで、大阪の弁護士が、電車内で女子高校生の体に触る痴漢行為をして、罰金50万円の略式命令を受けていたと報じていた。

 ネットというのは便利であるが、報道される方は迷惑だろうなあ。

 東京の新聞では報道されなかったニュースまで、こうして知る羽目になるのだから。


 それにしても、同じ職業の者として、情けない。
 



2002年10月09日(水) アニータさんの自宅競売で、弁護士費用5000万円?

 日経(H14.10.9付)社会面に、青森県住宅供給公社の横領事件で、千田被告に賠償命令と報じていた。


 その記事の中で、妻アニータさんの自宅を競売することで、7360万円を回収したが、弁護士費用などのために、実質的な回収額は2400万円と書いていた。

 そうすると、「弁護士費用は、約5000万円かあ。弁護士は儲かるなあ。」と思ったかも知れない。


 競売をすべて日本で行ったのであれば、私もそう思う。

 しかし、チリでの競売事件で回収を図るには、それなりの費用が必要であろう。


 だいたい、チリで競売を申し立て、回収するにはどのようにしていいか、私にはさっぱり分からない。

 チリの法律なんて知らないし、弁護士会の図書館にも置いてない。


 青森県住宅供給公社だって、さっぱり分からなかっただろう。


 そこで、供給公社は、地元青森の弁護士を通じて、東京の大手渉外法律事務所を紹介してもらったと思う。

 渉外事務所というのは、外国の企業相手の事件を多く扱い、外国の法律事務所とも連絡を取り合っている法律事務所である。


 そして、大手渉外法律事務所は、アメリカの法律事務所に依頼したと思われる。

 日本の法律事務所が、チリの法律事務所とコネクションがあるとは思われないから。


 さらに、アメリカの法律事務所が、チリの法律事務所に依頼し、チリの法律事務所がすべての競売手続をやったのではないだろうか。


 このようにいろんな事務所が絡むと、それなりに必費用はかかる。

 とくに、アメリカの法律事務所は高いからなあ。


 ということで、5000万円の費用になってもやむを得ないかも知れない。
(なお、5000万円には、競売申立費用も入っているだろうから、全額弁護士費用ではない。)



2002年10月08日(火) オウムの債権者に配当

 日経(H14.10.8付)社会面に、オウムの破産管財人が、オウムの債権者に第2回配当を行なうと報じていた。

 配当率は、これまでの配当と併せると30.67%(オウムの被害者の場合)だそうである。


 破産手続では、破産管財人が、破産者の資産をすべて処分してお金に代えて、それを債権者に配当する。


 破産管財人は、資産を散逸させず、高く処分して、債権者になるべく多く配当することが仕事の中心である。

 しかし、大抵の破産会社は、それまでにほとんど資産を処分していたり、不動産があっても抵当権が設定されており、実質的な資産はないことが多い。

 その場合は、破産手続は異時廃止で終了する。

 (破産宣告と同時に、破産手続を終了させることを「同時廃止」といい、個人破産のほとんどは同時廃止である。
 これに対し、破産管財人をつけて、破産手続を進めてみたが、結局、資産がなく債権者に配当する配当金がない場合は、「異時廃止」という。)


 実際、債権者に配当することができず、異時廃止で終わることは多い。

 また、配当できる場合であっても、配当率が10%程度のことも多い。


 したがって、オウムの破産手続で配当率が30%を超えているのは、他の破産事件に比べると、配当率が高い方である。
(だから、満足しろという意味では決してない。)

 その意味で、オウムの破産管財人はよくやっていると思う。



2002年10月07日(月) カンボジアに弁護士養成学校を設立

 日経(H14.10.7付)社会面に、日弁連がカンボジアに弁護士養成学校を設立するという記事が載っていた。

 日弁連では、一年に延べ10人前後の弁護士を派遣するとのことである。


 カンボジアは、ポルポト派の大虐殺により、多くの法律家が殺害され、その後も、人材が育っていないそうである。


 それにしても、派遣される弁護士は大変である。

 どのくらいの期間、派遣されるのかは知らないが、長期間になると、自分の事務所の経営ができなくなる。

 「うちの先生はいつもいない。」と言われ、依頼者に逃げられてしまいかねない。


 それでも、自分で希望して、派遣される弁護士がいるのである。


 弁護士はいろいろ批判もされるが、このようなボランティア活動も活発にやっているということも知っておいて欲しい。

(自分が行かずに、偉そうなことをいうなと言われそうですが、私の場合は、当番弁護士や弁護士会の法律相談などを積極的に引き受けるなどして、弁護士としての公的義務を果たしてはいます。)



2002年10月04日(金) EB販売に関し、証券会社が損失補償

 日経(H14.10.4付)ネット版に、コスモ証券が、他社株転換債(EB)の販売によって生じた顧客の損失を負担することになったと報じていた。


 従来、証券会社は、裁判で負けない限り、顧客の損害賠償請求には応じないとされてきた。

 へたに話し合いで損失を負担すると、損失補てんとみなされる恐れがあるからである。


 それゆえ、裁判になってもいないのに、顧客の損失を負担するというのは、極めて異例である。

 よっぽど、販売における違法性が強度であったのかなあと邪推してしまうのである。



2002年10月03日(木) 特許の対価として15億9000万円の請求

 日経(H14.10.3付)社会面に、元社員が、会社に対し、特許の対価として15億9000万円を請求する訴訟を提起したと報じていた。


 記事によると、その社員の特許によって会社が得た利益は19億8000万円で、そのうち80%もの15億9000万円を請求しているそうである。

 しかも、特許は1984年に最初の特許出願したというから、それから18年も経過している。

 この方は60歳だから、おそらく会社を退職して、すぐに会社に訴訟をしたのだろう。


 訴状を見たわけでないから、よく分からない。

 しかし、新聞記事を読んだ印象を率直にいうと、少し無理ではないかという気がする。


 ちなみに、15億9000万円の請求の場合、裁判所に納める印紙代は429万7600円である。

 これとは別に弁護士費用がかかる。


 そこまで費用をかけて訴訟するのだから、本気である。

 今後は同様な訴訟が増える気がする。



2002年10月02日(水) 弁護士に研修義務づけ

 日経(H14.10.2付)社会面に、「弁護士に研修義務づけ」という見出しで、第2東京弁護士会では、弁護士に3年間で36時間の研修を義務づけ、知的財産や医療分野などの専門講座も開設するという記事が載っていた。


 弁護士会では研修会をしょっちゅうやっている。

 したがって、その気になれば、勉強する機会は多い。

 しかし、他の仕事が入ると、研修会への出席を予定していてもキャンセルすることがある。

 やはり、研修よりも、目の前の仕事を優先してしまうのである。

 その意味で、研修の義務づけは賛成である。



 もっとも、なかには、勉強しようという意欲がまったくない弁護士もいる。(そんな弁護士に依頼してしまったら悲劇である。)


 これまで、弁護士は、金銭貸借、不動産、離婚など、定型的な仕事が多かったし、それで十分収入を得ることができた。

 しかし、世の中はどんどん進み、弁護士の仕事も、専門家・高度化してきている。
 法律だって、どんどん変わっている。

 したがって、これまでのいわば惰性的な仕事のやり方では、競争に取り残されてしまうだろう。


 その意味からも、研修を義務づけることはいいことだと思う。



2002年10月01日(火) 証券取引法違反に関する内部告発が増加

 日経(H14.10.1付)・4面に、証券取引監視委の報告で、証券取引法違反に関する情報提供が前年より6割増となったと報じていた。

 また、インターネットによる情報提供が全体の6割に上っていることから、内部告発が増えているとも述べている(インターネットによる情報提供の増加しているから、内部告発が増えているという分析はよく分からないが。)。

 ただ、実際に証券取引監視委が証券取引法違反で告発したのはわずか7件である。

 だからといって、いい加減な情報提供が多いと判断するのは早計であろう。

 むしろ、内部告発は信頼に足りることが多いと思う。


 たとえば、「2ちゃんねる」は内部告発な側面があるが、自分の業界についていえば、正確な情報であることが多い(いつも読んでいるわけではありません。念のため。)。

 そのことから類推して、証券取引監視委への内部告発も、かなりの部分は正確な情報なのではないだろうか。

 とすると、告発数が7件と少ないのは、証券取引監視委員会に情報提供があっても、調査できる十分な態勢が整っていないということなのだろう。

 証券取引監視委員会の人員と権限の強化が望まれるところである。


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