コトバアソビ。
無断引用お断り。

2006年07月27日(木) たからもの。

あるところに、キリンとゾウがいました。

キリンはゾウを見て思います。

【同じ「長い」だけど、

 ゾウくんの長い鼻はかっこ悪いなぁ。
 
 僕の長い首の方が断然かっこいいや。】

そうして、キリンはご自慢の首に

綺麗なそらいろのスカーフを巻くのでした。

ゾウはキリンを見て思います。

【同じ「長い」だけど、

 キリンくんの長い首はかっこ悪いなぁ。

 僕の長い鼻の方が断然かっこいいや。】

そうして、ゾウはご自慢の鼻で

頭にちょこんと山高帽を乗せるのでした。

と、そのとき。

びゅうぅ、と一吹き大風が吹きました。

『うわあぁぁ!』

ゾウもキリンも、思わず目を瞑ります。

大風が過ぎた後、そぅっ、と目を開けたら。

『大変だぁ!』

キリンが慌てふためきます。

『僕の大事なスカーフがないぞ!

 きっと風で飛んじゃったんだ!』

そしたらゾウも言いました。

『大変だぁ!

 僕の大事な帽子がないぞ!

 きっと風で飛んじゃったんだ!』

ゾウもキリンもしょんぼりしました。

なくなっちゃったたからもの。

一体どこに飛んでった??

しょんぼりしながら、

キリンがふっと前を向いたら。

『あった、あったぞ!

 僕のスカーフ!』

川の向こうにありました。

キリンの自慢のそらいろスカーフ。

そしたらゾウも言いました。

『あった、あったぞ!

 僕の帽子!』

高い木の上にありました。

ゾウの自慢の山高帽。

『だけど弱った。

 僕じゃ川の向こうのスカーフは取れない。』

キリンがそう呟くと、ゾウがいいました。

『あれは、キリンくんの大事なスカーフかい?

 よしきた、まかせて!』

ゾウは長い鼻をよいしょと伸ばして、

川の向こうのスカーフを取りました。

『ありがとう、ゾウくん!!』

『いいえ、どういたしまして。

 それより僕も弱ったぞ。

 僕じゃ高い木の上の帽子は取れない。』

ゾウがそう呟くと、キリンがいいました。

『あれは、ゾウくんの大事な帽子かい?

 よしきた、まかせて!』

キリンは長い首をよいしょと持ち上げて、

木の上の帽子を取りました。

『ありがとう、キリンくん!』

『いいえ、どういたしまして。』

戻ってきたたからもの。

大事な大事な帽子とスカーフ。

『ねぇ、キリンくん?

 僕、思うことがあるんだけど。』

『君もかい、ゾウくん。

 実は僕もさ。』

『なんだい、キリンくん?』

『君からどうぞ、ゾウくん。』

『・・・あのね、キリンくん。

 実は君の長い首を

 僕はずっとかっこわるいと思っていたんだ。

 けれどね。

 長い首もかっこいいかもしれないね。

 あんなに高いところに届くなんてさ。』

ゾウが照れながらそういうと、キリンも照れながらいいました。

『僕もさ、

 実は君の長い鼻を

 ずっとかっこわるいと思っていたんだ。

 けれどね。

 長い鼻もかっこいいかもしれないね。

 あんなに遠いところに届くなんてさ。

 それでね、ゾウくん。

 僕はいいことを思いついたのだけれど。』

『なんだい、キリンくん。』

『このそらいろのスカーフだけれど、

 君にあげようと思うんだ。

 きっと僕よりよぉく似合うよ。』

そいういうと、キリンはゾウの首にスカーフを巻きました。

思ったとおり、長い鼻のゾウに

そらいろスカーフはよく似合いました。

『ありがとう、キリンくん。

 お礼といってはなんだけど、山高帽を君にあげるよ。

 きっと僕よりよぉく似合うよ。』

そういうと、ゾウはキリンの頭にそっと帽子をおきました。

思ったとおり、長い首のキリンに

山高帽はよく似合いました。

『ありがとう、ゾウくん。

 大事にするね。』

『こちらこそありがとう、キリンくん。

 大事にするね。』



こうして自慢の帽子とスカーフは、

お互いのたからものになったのでした。



2006年07月14日(金) bleach your soul.


例えばそれは、一滴の勇気の物語。

あるところに、少女がいた。

村一番の貧しい家の生まれだった。

母はなく、父は飲んだくれで、

少女はいつも日陰にうずくまっていた。

村の子供たちは、少女を言葉の限り蔑んだ。

ほら見ろ、乞食がいる、いいや、あれは悪魔だ、

服の裾にこびり付いてる、

あれは何、あれは血だよ、

見てはいけない、連れ去られるよ、

いつも下を向いているのは、魔方陣を書く為さ。

学校に行く鞄の中で、

筆箱をかちゃかちゃと鳴らしながら、

子供たちは蔑んだ。

実は、少女が、日陰に咲く花を愛でているとも知らずに。

少女に友はなかった。

父は少女を毎日殴った。

少女には、それが何故だかわからなかったが、

受け入れなければだめなことだけは知っていた。

今日もまた、朝が来る。

少女にとって、死んだような一日が始まる。

それでも少女は幸せだった。

昨日のこと。

少女にとって唯一の友、

日陰の花が咲いたから。

それは抜けるような白だった。

日陰に咲いた花だけど、

どんな花より真白だわ。

今日も花が咲くかも知れない。

少女はそそくさと日陰にしゃがむ。

今日は花がふたつになった。

透き通るような白だった。

あぁ、日陰の花。

あなたは、今日も、強く生きてる。

少女はにっこりと花に微笑んだ。

その時。

少女に言葉の雨が降る。

やい、悪魔、お前は日陰で毒を育ててるんだろ、

それで誰かを殺すんだろう、

悪魔、この悪魔、

やっちまえ、

こいつ、やっちまえ。

子供たちは、少女を突き飛ばし、

日陰の花を踏みにじる。

くたくたに萎れてゆく日陰の花。

少女は、思わず、叫んだ。

『ぅぅ・・・ぅぁ〜!!んあぁ!!』

ヤメテヨ、の気持ちが宙を舞う。

少女は言葉を知らなかった。

幼い頃から、少女に語りかける人など、いなかったから。

返事をする必要がない。

しゃべりかける相手もいない。

少女は言葉を知らずに育った。

だから、子供たちの蔑みもわからなかった。

ある意味で、少女はとても幸せだった。

無抵抗で、無意識で、自我のない、極めて無垢な、少女。

その少女が、初めて、人を突き飛ばした。

日陰の花を守る為に。

子供たちは囃し立てた。

うわ、こいつ、毒草を守るつもりだ、

やっぱり人を殺すつもりだ、

絶対悪魔だ、

いいや、悪魔なもんか、こいつは死神だ!

わぁわぁと囃し立てたまま、子供たちはどこかへと。

少女は慌てて駆け寄った。

日陰の花は無事かしら。

鼻血も拭かずに駆け寄った。

花は萎れて泥まみれ。

少女は友を失った。

心の支えを失った。

最後の旗がぽきんと折れた。

あたし何をしてるんだろう。

少女は死を知らず、

生きる意味を失った。

ぽとりと涙が一粒こぼれた。

その一粒を皮切りに、

次から次へと涙がこぼれた。

生まれて初めて泣いた日だった。

『泣くんじゃないよ、お嬢ちゃん。』

ナクンジャナイヨ、オジョウチャン・・・。

弾かれたように少女は顔を上げた。

いま、いま、あたしに向かって、誰か、誰か。

『あたしさ、お嬢ちゃん、日陰の花さ。』

少女は驚いて凝視した。

『最後の最後に、あんたの涙で、

ちょっとだけ時間をもらったのさ。

いいかい、お嬢ちゃん。

あたしはもう長くはないが、

世界はどこまでも広いんだ。

ここを出ておいき。

その目でしかと、世界を見るんだ。』

言うが早いか、花は枯れた。

少女はもう、泣いてはいなかった。

そうか、セカイはヒロイのか。

そして少女は旅立った。

頭にちょこんと帽子をのせて。

母の形見の帽子をのせて。

日陰の花によぉく似た、

抜けるような白色の。

いってらっしゃい、おねえちゃん!

日陰で若葉が見送った。

いってらっしゃい、おねえちゃん!

少女は一歩を踏み出した。

世界をしかと、見るために。

例えばそれは、一滴の勇気の物語。

再生へと続く物語。


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本田りんご

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