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2008年12月12日(金)
サウスウエスト航空の「ベルトを締めるのがどうしても嫌だというお客さまのための特別席」

『客室乗務員の内緒話』(伊集院憲弘著・新潮文庫)より。

(「健全経営」「社員を大事にする経営理念」「ユーモアを尊重する企業風土」で知られる、アメリカのサウスウエスト航空の「面白い機内アナウンス」あれこれ。

【以前、取材で本社を訪れるために搭乗した機内においても、いくつか面白いアナウンスを耳にした。

1.ラップのリズムでアナウンス
 離陸前に実施されるシートベルトや酸素マスク、救命胴衣の着用方法を紹介するアナウンスを、ラップのリズムに乗せて行った客室乗務員がいた。
 航空機に乗り慣れている人の多くが案内ビデオや乗務員が実施するアナウンス、デモンストレーションに関心を示さないのが実情である。しかし、サウスウエスト航空のような遊び心を加えれば、ほとんどの乗客が聞き耳を立てること間違いなしである。通路でのデモンストレーションに必然的に視線がいくことにもなるので、目的は立派に果たされる。


2.ビールのお釣りとアナウンス
 テキサス州ヒューストンからダラスへ向かう、35分のフライト中に体験した出来事である。離陸後、女性乗務員がビールを男性客にものに持参し、代金の2ドルを受け取ろうとした。あいにく、彼は20ドル札しか持ち合わせていないようだ。近くの座席からその一部始終を見ていた私は、次に客室乗務員がとった行動に驚いた。
 客室乗務員は男性に一声かけたかと思うと、後部ドアの位置まで引き返す。彼女はマイクを取り上げるや、次のようなアナウンスをやってのけた。
「すみませーん、お客さまのなかでどなたか20ドル札をくずしてくださる方はいらっしゃいませんかぁー。ビールを注文されたお客様にお渡しする釣り銭が不足しています。ご協力をお願いいたしまーす!」
 すると、キャビン中央に座っている中年男性客が、すかさず右手を高くかざしながら大声で叫んだ。
「はいよー、まかしといて。私が細かくしてあげるよ!」
 爆笑が起きた。客室乗務員は彼のもとへ駆けつけ、礼を述べると、ビールの注文主のもとへと戻った。
「この次は、細かい札をご用意頂けると私たちも助かりますので、よろしくお願いしますね」
 女性乗務員はいたずらっぽい顔をして言うと、ビールのおつり18ドルを数えながら手渡した。
「わかった、わかった。これからは少なくとも1ドル札を20枚は用意してから乗ることにするよ。そうすれば、この次は僕が20ドル札をくずしてあげられるからね」
 二人のやりとりを耳にした周囲の乗客たちは大喜びであった。


3.スパイスの効いたアナウンス
 ある空港に到着後、客室責任者が行ったフェアウェルのアナウンスに客室内はどよめいたという。
「本日はサウスウエスト航空をご利用いただき、ありがとうございました。本日、サービスをさせていただいた私ども客室乗務員の名前は、キャロン、スーザン、フローレンスの3名でございました。私たちのサービスにご満足いただけたことを願っています。しかし、残念ながら私たちのサービスに十分満足されなかったというお客様には、私たちの名前を、カレン、メリー、ダイアナというように覚えていただけたら助かります」

 このようなアナウンスもあった。
「皆様、只今から座席ベルト着用方法についてご説明いたします。皆様の安全のため、離着陸時には必ず座席ベルトをお締めください。どうしても、ベルトを締めるのは嫌だというお客さまはご遠慮なく客室乗務員にお申し出ください。そのようなお客さまのためには、特別なお席が用意されております。翼の上でございます。また、そのお席では、特別な映画がご覧いただけます。映画のタイトルは“風とともに去りぬ”でございます」】

参考リンク:サウスウエスト航空(Wikipedia)

〜〜〜〜〜〜〜

 僕はこれを読んで、「本当なのかこれは?」と、思わずネットで「サウスウエスト航空」を検索してしまいました。
 参考リンクもぜひ見ていただきたいのですが、こういうユニークな航空会社がアメリカにはあるんですね。ちなみに、サウスウエスト航空は、アメリカの国内線のみの航空会社だそうなのですが、けっして「一路線しかない零細航空会社」ではありません。
Wikipediaには、
【同社のポリシーとして「顧客第二主義」「従業員の満足(Employee Satisfaction)第一主義」を掲げる。これは、不確定要素の存在する顧客よりも、発展の原動力であり信頼できる人間関係を築き上げることが可能な社員を上位に位置づけているものである。この「従業員を満足させることで、却って従業員自らが顧客に最高の満足を提供する」という経営哲学を追求することにより、実際に高い顧客満足度を得ている。
「乗客に空の旅を楽しんでもらう」ことを従業員に推奨しており、出発前に客室乗務員によるパフォーマンスがあったりするなど、特異な経営方針を持つ。日本の航空会社では考えられないことであり、賛否両論あるようだが、おおむねジョークとして受け入れられている。そもそもアメリカの航空会社においては、乗務員の態度はおおむねフランクである土壌があるが、その中でも同社従業員は目立つ存在である。また、従業員の採用に際して、ユーモアのセンスがあることを重要視するという】
という、同社のユニークな「経営方針」が紹介されています。

 この「アナウンス」の話だけでも、僕が慣れ親しんでいる(っていうほど頻回に利用しているわけでもないんですけどね)日本の航空会社では「考えられない」ことですし、以前乗ったことがあるアメリカの国内線(たしか、「アメリカン航空」だったと記憶しています)でも、「アメリカのCAは愛想悪いなあ……」と思ったくらいで、さすがにこんな体験はしたことがありません。
 もし、これと同じことをANAやJALが日本でやれば、間違いなく抗議が殺到するはずです。「安全のために気を抜くことが許されない飛行機の運行中にふざけるなんてとんでもない話だ!」って。
 第2のアナウンスでは、「釣り銭も用意していないのか!」と客は激怒し、第3のアナウンスがもし流れたら、「自分の名前をごまかすなんて、お前らそれでもサービスのプロか!」「客に翼に乗れだなんて、失礼な!」と「企業のモラル」を追及されるかもしれません。

 こうして読んでいると「面白そうでいいんじゃない?」とおおらかな気分になれますが、飛行中に目の前でこんなパフォーマンスをやられたら、ナーバスになってしまう人がいるというのもわかります。僕も飛行機がちょっと苦手なので、飛行中は、「堕ちないように、なるべくおとなしく、そーっと飛んでくれ……」って思うもの。
 アメリカ人だって、飛行機のなかで、こんな「下町情緒」を味わいたい人ばかりではないでしょう。
 でも、そんな顧客に対して、サウスウエスト航空は、「それならウチの飛行機には、もう乗らないほうがいいですよ」と「忠告」するのだとか。

 サウスウエスト航空の大きな魅力は、やはり「安さ」だそうなのですが、この航空会社、安全性もかなり高く、「ふざけているから危ない」というものでもないみたいです。
 まあ、人間というのは、あまりに緊張し続けていると、かえってフッと気が抜けたり、疲れて大きなミスをしたりしがちなものですし。

 それでも、僕個人としては、やはり日本の航空会社のホスピタリティにいちばん「安心できる」のです。
 ただ、日本の航空会社のCAさんたちの立ち振る舞いに関して、外国人からは「あれじゃ召使いみたいだ」という反応もあるようなのですけど。