a Day in Our Life


2006年08月12日(土) アントーニオin雛��(昴雛)


 「おはよう、スバル」
 「おはよう、アントーニオ…最近、アントーニオ率高いねんな」

 例の騒動から数日。朝一番に掛けられた声色だけで、今の人格がどちらなのかくらいはもう、分かるようになっていた。考えれば当たり前だとは思うのだけれど、村上の呼ぶ自分の名前とアントーニオの呼ぶ名前には歴然とした違いがあって、今、アントーニオが呼んだ「スバル」は村上より少し、毅然とした佇まいを持って、渋谷の耳に届いた。
 「ヒナのヤツ、ここぞとばかりに楽しょーと引っ込んで寝とるんちゃうか」
 なんとなく。自分の言った言葉がアントーニオに対して失礼というか、悪い気がして(まるでアントーニオが出てきては行けないような言い方が)村上を茶化して冗談に絡めてみた。しかしどちらをも生真面目に受け取ったアントーニオは、きりっと口を結んで、
 「そうではない。シンゴはおそらく、私の為を思ってそうしてくれているのだ。出来るだけ外に出ていた方が、何かきっかけがあるかも知れない、と」
 言って胸のあたりを押さえる。まるで今押さえた辺り、心臓のどこかにいる村上を思い遣るように見えるその仕草を、渋谷はじっと見た。
 アントーニオの言うように、ここ最近、村上に対する頻度が減っていた。ちょうど、と言うかたまたま、と言うか現在は夏恒例の舞台の真っ最中で、それ以外の仕事量が減っていたから、都合がよかったのだ。それでなくとも今年、村上が演じる役は二重人格の青年だったから、今の彼(ら)の状態に嵌ったとも言えた。それもやはり村上の気遣いだったのか、彼の時代にも「演劇」はあったから、最初は戸惑いもあったものの一度演じてしまえば興味が沸いたらしい、今はアントーニオが「トクマ」を演じる事も多く、それは自分達に対してなかなか本音を言い切れないアントーニオの、感情の吐き出し場所を村上が提供しているのかも知れなかった。
 自分と、自分ではない誰かが同居している自分。その気色悪さを彼らのどちらもが体感でもって、実感しているに違いない。唐突に時空を越えて「現代」に転生、しかも姿は似ていても確実に自分ではない何かの中に入り込んでしまったアントーニオはもちろん。外見も中身も自分には違いないのに、そうではない何かを孕んでしまった村上は、特に。
 「…あんな。悪いんやけど、ヒナ呼んで貰えへんかな?」
 渋谷の視線を受け止めたアントーニオは、その顔を数秒、じっと見つめた後、僅か微笑みを浮かべた。
 「クローディオ様の顔をしたあなたに頼まれて、断れる筈もない」
 言ったアントーニオが、口元に微笑みを残したまま、静かに目を閉じる。やや首を擡げて、しばらくの沈黙の後にゆっくりと目を開け、顔を上げて、「村上」が戻って来た。
 「ヒナに会うんは久し振りやなぁ」
 「そんなん、毎日顔は合わせとるやろ?」
 「やから”ヒナ”に会うんは久し振りや、言うとる」
 村上が言葉を発する前に、その目つき目線だけで「村上」だと分かる気がするのは不思議だった。それは感覚でしかないのだけれど、何となく自信があって。だから性急にも見えるタイミングでかけた言葉を、普段以上にリラックスした村上はかわそうとするから、思いのほか強い口調になってしまった。言われた村上は渋谷の言わんとしていることを察したらしい。一瞬、口篭もる。
 「…」
 「おまえに言うとこ思って。」
 何を、と聞かれるまでもなく、渋谷は村上に言いたかった。腹黒に見えても実際今、村上がしようとしている事はアントーニオに対する優しさに他ならない。自分を犠牲にしてでもアントーニオが生き易いように。もうひとつの人格ばかりを表に出すリスクや、その副作用を全く考えない訳でもないだろうに。
 「今更言うことやないんかも知れんけど、俺はおまえが好きやし、それはおまえがおまえやから好きなんやけど、やからおまえがおまえやなくなっても、変わらへん思うよ」
 まるでこの夏彼が演じている「リンタロウ」のように、同じ言葉を重ねた渋谷は、やや口下手になっていたけれど。
 変わらないのは、渋谷の気持ち。村上を想う。
 分かり易く今の状態を言っている渋谷は、だから今の「二人の村上」がこの先どうなろうと、村上に変わりない限り大丈夫だ、と言っているのだ。
 「…俺が俺やなくなっても?」
 「ヒナがヒナやなくなっても。」
 「それってもはや俺と違うものなん違うん」
 「それでもヒナの片鱗が残ってる限り、俺はヒナと認める」
 大体、おまえは図太いんやから、かけらでも残っとったら隙を見て侵食してくくらい出来るやろ、と渋谷が言えばやっと、その言葉に村上が笑う。
 「すばるまで俺をゴキブリ扱いやなー」
 「そぅや。信じとるねん」
 無意味に胸を張った渋谷はその時、何だか神々しく見えて。今ここにはいないアントーニオの気持ちが分かったような気がした。まるで王を崇める感覚で、村上は、渋谷の言葉を胸に抱いた。



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どうせなら�G麓�コンプリ(笑)

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