a Day in Our Life


1999年01月01日(金) 001:嫉妬


しっ‐と【×嫉×妬】

1.自分よりすぐれている人をうらやみねたむこと。
2.自分の愛する者の愛情が、他の人に向けられるのを恨み憎むこと。やきもち。悋気(りんき)。


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 とかく恋とはむつかしい。
 愛してやまない大好きなものが、どうしようもなく憎らしく思えたりもする。それでなくとも年々、愛情表現が下手になって行くのに、好きなものを好きとすら、言えなくなってくる。

 昔はもう少し、素直にそう、思うように言えたのに、と川島は思う。
 それより一時期の自分は、世の中の全てを憎んでいたところもあって、好きより嫌いの割合のほうが多かったかも知れないけれど。人を憎むばかりだった自分にも、けれど好きな人が出来た。初恋は叶わないものだってよく言うけれど、それは確かにそうなのかも知れないと思う。叶わないからこそ美しくて、今も大事に取ってある。時々思い出してもまだときめきを覚える、とても大事な、宝物にも似た。
 その、大切な恋が終わった頃に、新たな恋をした。
 当時はまだ、恋と呼べるものではなかったかも知れないけれど、今思えば自分は確実に意識していたのだろうし、胸にぽっかり空いた穴にすっぽりと収まったその人は、ひどく軽かった。
 存在の耐えられない軽さ、と言う。するりと川島の体内に入り込んできたその人は、その軽さのせいで、意識もさせずに、気が付けば完全に住み着いていた。時どき気まぐれに内側から暴れてみせる。いたずらに胸のあたりを押されると、川島の心臓がどきりと高鳴る。それが恋だと気が付くのは少しだけむつかしい作業で、だってその人はとても、自分のものになるなんて思わなかったから。
 だってその人には、誰よりも大切な人がいたのだ、たぶん。

 「♪恋も二〜度目なら〜少しは〜上手に〜愛のメッセージ〜伝えたい〜♪」

 思わず、ここが楽屋だったことも忘れて、自慢の低音をきかせて、鼻歌交じりに歌ってしまう川島だった。
 そんな川島のただならぬ様子に、相方である田村がパンを食す手を止めて、心配そうにこちらを窺っている事にも気付かない。気が付かない様子なので、さらにじろじろと川島を見つめてみても、依然ぼんやりと空を見つめた川島は、盛大なため息を吐いた。
 「あかん、幸せが逃げてまう」
 慌てて川島の口元に両手を差し出せば、そんな田村に気が付いて、怪訝そうな顔を寄越す川島と目が合った。
 「何しとんねん」
 「何って、川島の幸せを受け止めたってるんやんけ」
 お前今、おっきなため息吐いたやろ!やからや!と意味もなく威張る田村に、自覚のない川島はそうだったかな、と小首を傾げる。怒りもしない、そんな反応だって川島らしくなくて、あぁこれは重症や、と田村は内心で泣きそうになった。
 「…悩んどるん?」
 「別に、何も」
 「悩んどるなら俺に相談せえよ」
 「もしホンマに悩んどったとしても、お前にだけはせぇへん」
 素でひどい川島の回答に、傷付いた様子もない田村は、本格的に心配を始めていた。川島のそれは、恋の悩みに違いない。俺が何とかしたらなあかん。

 そして、川島の想い人も、田村にはもう、分かっていた。



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kaleidoscope【1】
2007/08/22 Toshimi Matsushita

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