Monologue

2010年01月01日(金) WIND COLOR(仮面ライダーWネタです・新年早々すみません)

初めて研究所で出遭った時、フィリップは白い服を着ていた。

「ただいま。」

『鳴海探偵事務所』のドアを開けると、
お気に入りらしいハード・カバーの本(俺が見る限り、本のぺージは白紙ばかりで何も書かれていない。)を読み耽っていたフィリップが顔を上げる。
じっ・・・と、俺の顔を見つめて、
「・・・こういう時は「おかえり、翔太郎。」って言うんだっけ?」
フィリップの問いに俺は“ああ”と肯く。

「ほらよ!」と、俺は両手に抱えていた袋をフィリップの足元に置く。
『WIND SCALE』と白地に黒のロゴが入った大きな袋をしげしげと眺めるフィリップに、

「お前の服を買って来た。」

「僕の服・・・?」

フィリップが研究所で着ていた白い服は、コイツを救け出したあの時・・・
探偵事務所に逃げ帰った時には煤と埃で真っ黒、しかも、かなりボロボロになっちまっていたので、容赦なく捨てた。

「いつまでも俺のシャツを着てる訳にはいかねェだろ?」

「別に・・・僕は服は何でも構わないけど・・・。」

「俺が困んだよッ!!」

しれっとした顔で答えるフィリップに向かって、俺は思わず声を荒げる。

「お前『検索』にハマっちまうと、俺が用意したパジャマに着替えねェで、その辺の床で寝ちまうから、ほら見ろ!俺のお気に入りの『WIND SCALE』のシャツがシワシワになっちまったじゃねェかよ!」

「そんなに大切な『お気に入り』とやらのシャツを、無闇矢鱈と他人に貸し与える君の行動に
落ち度が有るんじゃ無いのかい?」

“カッツーーーンッッ!!”と俺の頭蓋骨内に鋭い音が鳴り響いた。

ああ〜ちっきしょォォ〜〜ッ!!かっっわいくねェェェッ!!

反射的に硬く握り締めた拳を、繰り出すまいと必死に押さえ込んでいる俺の心情に気付いた様子も無く、フィリップは大して興味も無さそうな顔付きで、袋を開ける。

開封部を軽く留めてあっただけのビニール・テープが弾みで伸びて千切れる。
(袋を破らない様にとか、丁寧に剥がそうとか、そういう気遣いは全く無いらしい。)
パンパンに詰められた袋を傾けると、中からこぼれる様に沢山の服が床の上にドッ!と溢れ出た。

「うわっ!」

“赤、ピンク、黄(山吹色とレモンイエローの二種類)、オレンジ、黄緑、青緑、スカイブルー、紺・・・”
幾つものカラフルな色達がフィリップの瞳の前に鮮やかに拡がる。

俺のご贔屓ブランド『WIND SCALE』がティーンズ向けにデザインしたロングパーカーと、
それに合わせ易そうなTシャツ。

色違いだが『型』は、取りあえずこの二種類のみに絞った。

柔らかい綿素材で肌触りが良く、シワになり難そうなので、
『検索』に夢中になっている内に、うっかり寝ちまったりする事が多いコイツには、
パジャマも兼ねて丁度良いだろうと思った。


「随分沢山・・・あるんだねぇ・・・。」

「ああ、お前、何色が好きか判んなかったから、とりあえず売ってた色全部買って来た。」

「僕の、好きな・・・色?」

「別に全部着なくたっていいんだぜ、その中からお前の好きな色を選んで着りゃイイ。」

「どの色を着るか・・・僕が自分で決めて良いの?」

黒い瞳をまんまるに見開きながらフィリップは俺に尋ねる。

「当ったり前じゃねェか!!そこまで俺が面倒見れっかよ!」

「そうなんだ・・・。」

フィリップは瞳の前に並べられた色とりどりのパーカーとTシャツを眺めている。
俺が想ってた以上に『興味深い』らしいので、まぁ良いかと思いつつ、俺は立ち上がってコーヒーメーカーのスイッチをカチッと入れた。

「ねぇ翔太郎・・・。」

不意にフィリップが尋ねた。

「ん?」

「こう云う時は・・・「ありがとう」って言うんだっけ?」



それからフィリップは毎日、毎日、毎日、その日に着る服の色を自分で決めている。

その様子が何だかとても嬉しそうなので、
たまに、そのTシャツとパーカーの色の組み合わせは俺的にはイマイチ・・・と思う事も有るが、あえて口は出さない。

「キミが買った服は、全て着終えてしまった・・・もう興味も沸かない。」と言う前に、きっと
『WIND SCALE』が次の新色を発売してくれるだろう。



フィリップが組織にいた頃、
「自分で決断して何かをする事」を絶対に許さなかった『恐怖』という名の男について
俺が知るのは、まだ、もう少し先の話になる・・・。


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