Monologue

2005年08月16日(火) エピローグから始めよう

「バス来ねェなぁ・・・」

イライラした口調でレオリオが吐き出した言葉と正反対の台詞・・・・・   

“このままバスが来なけりゃいいのに・・・”

・・・・・・を、
ずっと胸の中で何度も何度も何度も繰り返しているなんて、
隣りに立っているレオリオより頭一つ分背が低い少年、クラピカは全く気付いていないだろう。

もしも・・・・・・
このままバスが来なければ?

幾ら何でもクラピカが元居た都会の学校へ帰るのを止めたりはしないだろうが、
もしかしたら今日帰るのは諦めるかもしれない。

(そうだ!何も今日慌てて帰らなくたって良いじゃねェか!

明日だって、明後日だって構わねェだろうが?

だって夏休みはまだ10日以上も有るんだし・・・・・・)

だが、

「仕方が無い、駅まで走ろう」
ボソッと小声でクラピカが呟いた。

「え?マ、マジかよ?!」

“ああ”と肯いた弾みで“サラ・・・”と細い絹糸の様な髪が揺れた。

「今から走れば何とか17時発の電車に間に合うだろう」

凛とした声に迷いの翳は無い。

やはり・・・・・・
彼は帰って行ってしまうのだ。

「走ればって、おい!ここから駅まで何キロあると思ってんだ?」

「お前だって走っていたではないか?別に大した距離では無い」

「だけどお前ェ、
 アップもしねェでいきなり走って、また来た時みてェに足つっちまったらどうすんだよ?」

「大丈夫だ、ちゃんと調整しながら走れば問題は無いだろう?」


「ったく・・・無茶すんじゃねェぞ」

「ああ」


“ジーワ ジーワ ジーワ ジーワ ジーワ ジーワ・・・・”

周囲の空気を焦げ付かせる様な響声で無数の蝉達が鳴いている。

「オレも駅まで一緒に行ってやろうか?」

「いや大丈夫だ、一人で行ける」

躊躇いがちに尋ねたレオリオの言葉に対してクラピカは首を横に振った。

まるで、
此処から先の道は一人で行かなければならないと云う決意を固めているかの様に・・・・・・


「そっか、じゃ気ィ付けて行けよ」

「ああ」

コク・・・ンと小さな頭が肯いた。


“ジーワ ジーワ ジーワ ジーワ ジーワ・・・・・・・”

「楽しかったな・・・・・・」

うっとりと瞳を細めながらクラピカが呟く。

「久し振りの『夏休み』がこんなに楽しかったのはお前のお陰だ、レオリオ」



クラピカが、
彼の同世代の普通の少年達と同じ様に過ごした10年振りの『夏休み』


大量の宿題を片付けて、沢山の本を読んで、
芯まで冷えた西瓜を喰べて、花火をして、山道を駆け回って、河で泳いで、そして・・・・・


二人だけで過ごした

二人だけの『夏休み』



「また来年も『夏休み』取れるんだろ?」

レオリオの問いに一瞬、
キョトンと瞳を円くして首を傾げたクラピカの髪に“クシャッ”と指を絡めると、

「もう無理しねェで、来年からは、ちゃんと毎年『夏休み』取るんだぜ!判ったか?」

「あ、ああ、そうする」

「絶対だぞ!」

小さな子供を叱る様な口調のレオリオに向かって、
“ふわ・・・り”と微笑いながら肯くと、クラピカはくるっと踵を返した。

「絶対ェ来いよ〜!待ってるからな〜!!」

手に持ったハード・カバーの本ごと上に上げた右掌をクラピカに向かって振りながら、叫ぶ。

一度だけ振り返って小さな白い掌を振り返した後、

駅へ向かう遠い坂道を、軽快な足取りでクラピカは駈けて行く。

やがて走り去って行く彼の背中が次第に遠く小さくなって行き・・・・・


(ああ、行っちまった)

夏休みはまだ10日以上も有るのに、
まるでクラピカと一緒に夏までが駈け去って行ってしまった様な寂寥感を覚えて、
フゥと重い息を吐く。

ふと、クラピカに向かって振った右手で掴んだままの一冊のハードカバーの緑色の表紙に
レオリオは視線を落とした。


(そうだ、この本もそろそろ返さなきゃな、帰りに学校に寄って行くか・・・・・・)



だが、もうあの『図書室』に行ってもクラピカはいないのだ・・・・・・


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