Monologue

2002年09月11日(水) 灰色の空

去年のあの日、あの時、
私は自分が何処で何をしていたのか全く覚えていない。

懸命に記憶を辿ってみても、
初めてニュースで事件を知ったのが、
深夜遅く帰宅した後だった事をかろうじて思い出せる位だ。

TVを点けた時間も零時を過ぎていたので、
「新作映画の1シーンじゃないの?」と最初は思ったのだが、
どのチャンネルを廻しても廻しても廻しても……ほとんど同じ映像が流れているのを観て、
ようやく『現実』である事を肌で感じて戦慄した。

我ながら情けない話だが、
それはあの事件が『日常生活の中』で、あまりにも突然起こったからだ。

だが、その後の事は、割とはっきり覚えている。

連日流れるニュースの翳りとシンクロしているかの様に、
あの頃の空は灰色に曇っていて、
毎朝、通勤の度に見上げて憂鬱な気持ちになったりした事とか……

あるサイトの管理人さんが、事件の数日前に現場を旅行なさっていて、
「あのビルが、あの場所が、もう何処にも無いなんて!」と、
ご自身の日記に書いていらっしゃった事とか……

だが、やはり一番印象的に思い出せるのは、
事件の前後、
カナダに公演に行っていらしたダンスのI先生達の安否を皆で心配していた事だ。

無事、帰国なさったI先生は「事件当日も、俺達は舞台で踊っていた」とおっしゃった。

先生方の公演のチケットは事前にソールド・アウトしていたが、
事件当日はたった6人しか観客がいなかったそうだ。

当初は中止しようとも考えたそうだが、結局、先生方は舞台の幕を上げた。

「長いダンス人生の中で、たった6人の前で踊ったのなんて初めてだったよ。
今までの舞台の中で一番緊張した」と、
力強く語って下さったI先生は、ちょうど今頃ニューヨーク公演の筈だ。


I先生のエピソードには感動したが、
だからと言ってあの事件の爪痕は決して拭われはしない。


来年の今日も、自分はこうやって思い出すのだろう。


あの曇った灰色の空の覆われたこの『現実』が、

どんな『映画』や『小説』よりも無慈悲で残酷だと云う事実。


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