白木蓮の咲く庭で...久純ゆきの

 

 

『賢者のプロペラ(仮)』 1 - 2009年09月23日(水)

何か思ったより長くなりそうなので、細切れアップ中。
推敲っておいしい? な文章です。
わかりにくい、表現被ってる、ばんばんあります。
……全部上げた後に時間が出来たら手直すと思います。
もしくはぶんしょかき中にどうにも目に付いて気になったら直します。

本文追記したら、タイトルの数字のカウント上げますので、
更新されたかなーというのはそこで確認してください。

2009.09.23 カウント『1』

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携帯電話が震えたのは、人気の無くなった教室で帰り支度をしていた時のことだった。
夏至を目前にした一年で一番日の長いこの時期、
下校のピークは疾うに過ぎているが、まだ充分に室内も明るかった。
羽純は、肩に掛けたばかりだった鞄を机の上に戻した。
実用性を重視した黒いナイロンキャンバス地のメッセンジャーバッグは、
教科書が詰め込まれていて見かけよりも随分と重い。
マナーモードをそろそろ切っても大丈夫だろう。
そう思いながら制服のズボンのポケットに仕舞っていた携帯電話を取り出す。
最新モデルからは大分遠ざかった機種は、艶の消された黒が気に入って使い続けている。
短く終わってしまったバイブレーションからメールだろうとの予想は、
果たして合っていた。
マナーモードを外し、メールボックスを開いた。

「……ハルくん?」

思わず、つぶやきが零れた。
新野千陽、差出人の名前は確かにそう綴られている。
それは3年前に大学進学で上京した幼馴染みの名前だった。
ちはる、という名前から取ったハルくんという愛称でずっと呼び続けている彼は、
母親の再婚でこの地区に引っ越してきた羽純を、
家族以外で誰よりも真っ先に受け容れてくれた3つ年上の兄貴分だ。
当時は義理の兄の修に次いで、今では多分誰より、仲が良い。
母親が亡くなった折に入院で1年間学校を休学をした羽純は、
同じ教室で学ぶ生徒たちから見れば一つ年上だ。
加えて入院で休学という経歴がデリケートな風情を感じさせるのか、
復学した当時のお客様扱いが後を引きずって
今も同級生たちと打ち解けきれずにいた。
そんな自身にため息をついた羽純を、
大学来れば変わるよ、と笑い飛ばしてくれたのが千陽だった。
今も頻繁に連絡を取り合っているが、携帯にメールを送ってくるのは千陽にしてはめずらしい。
しかも、夕刻となれば滅多に無い。
何か取り急ぎの要件でも出来たのだろうかと文面を開いてみれば、短い一文が飛び込んできた。

『はーちゃん、まだガッコ?』

一目で把握できるその文面を瞬きして再度読み返す。
差出人の意図は不明だが、質問は簡潔だった。
おもむろに返信画面を開いて短く打ち込むと、即座に送信した。

『うん。今帰るところだよ。』

少し迷って、何か用かと尋ねるメッセージは打ち込むのをやめた。
用が無ければ、この時間に送っては来ないだろう。
学生と、とある劇団の研究生という二束草鞋を履いている千陽は
この時間帯は猛烈に忙しいらしい。
忙しい時間にわざわざメールを寄越したということは、
羽純に何か用事の可能性が高いだろう。
時折、夕焼けの写メが送られてくることもあるが、
そんな場合は「夕焼けが綺麗やったよ」と画像で終わりだ。
少し待とうかと教室の時計を見上げた途端、短いメロディが流れた。
人気RPGゲームのレベルアップのファンファーレは、千陽専用の着信音だ。
「これでメールが届くたびに俺とはーちゃんの仲はレベルアップやな」と
けらけら笑いながら、千陽本人が設定をねだったものだ。

『校舎の中やったら、近くの窓開けて校門見てや。外やったら校門の見えるとこ出て。』

懐かしい思い出に自然と浮かんでいた羽純の微笑が再度引っ込んだ。
代わりにいぶかしげに眉根が寄る。
東京に在住の相手から寄越されるにはあまりにも不明な文面に首を傾げるも、
羽純は素直に教室の窓を見遣った。
羽純の教室から校門は直接見える位置にある。
廊下側にある自分の席に鞄は置き放し、携帯電話だけを持って窓に近づくと、
指示に従って素直に窓を開けた。
見るともなく見下ろした視界の先、遠目にも人の姿もすっかり絶えた校門の脇に立つ人影がある。
上半身は赤、だろうか。鮮やかな色合いは、生徒の制服では勿論無く、
控えめな色合いを選ぶことが多い教師の服にもあまり見かけない色合いだ。
ユニフォームで、赤を使用している部活でもあっただろうかと羽純が首を傾げた途端、
今度は携帯が着信を知らせ始めた。
その着メロに羽純の思考が止まる。
甘い恋を歌った洋楽は、やっぱりそれも本人が設定をねだったもので
――色々なものが腑に落ちて、画面を確認することもなく、羽純は通話ボタンを押した。

「……もしもし?」
『ハイ、もしもーし。はーちゃん、久し振りやね』
「ハルくん……」

何となく事態を把握はしつつあっても、
やはり驚きの混じった声が零れれば、耳元にからりとした笑い声が返ってくる。

『はいはい、はーちゃんのハルくんでーす』
「……何で?」
『何でって、まあ。……新野千陽、愛ゆえに参上――ってとこ?』

その部分だけ、長いこと演劇に漬かって磨いてきた迫真の演技力でささやくように告げられる。
衝撃もさることながら、一瞬の後に羽純は思い切り吹き出していた。
電話の向こうでは、そんな笑うこと無いやん、と呑気な関西弁が聞こえてくる。
やわらかなそのイントネーションは、間違いなく聞き慣れた兄貴分のものだった。

『とーもーかーく。笑い収めて聞いてや! 今2階の窓開けたん、はーちゃんやろ? 見える?』
「赤い?」
『そうそう、赤いシャツで校門のとこに立ってるの俺やんね。……ってことで、出て来てくれる?』
「あ、うん。解った」
『ぽやっとして、転ばんように気ィつけてや』
「そ、そんな転んだりしないよ。小学生じゃないし」
『じゃ後でちゃーんと膝小僧チェックせなあかんな。んじゃ、ひとまず切るで?』

噛みつつもやっと反論すれば、再度楽しげな笑い声が返ってくる。
うんと頷きを返して、羽純は通話を切った。
きちんと窓を閉め、鍵を掛け、ゆっくりと窓際を離れて自分の席に戻る。
――相手から絶対に姿見えなくなっただろうその位置に立つと。
ポケットに携帯を突っ込み、同時に鞄を勢いよく肩に引っ掛けて、教室を飛び出した。
小学生の子供のように脇目も振らずに一直線に廊下を駆け抜ける。
誰にもすれ違わず、そんな自分の姿を見られなかったのは幸いだったと、
後日冷静になった羽純は思い返した。



...



 

 

 

 

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