『つきこいのうた』 - 2007年12月05日(水) 目の前に差し出された手に、イオンは己の目を疑った。 月光の下、まぶしいほどに白いその手。 常に手袋に覆われていたそれが、今自分に向けて伸べられている。 初めてだった。 それが、すべてを揺らがせた。 『つきこいのうた』 王宮に忍び込む為に中級女官の真珠色のローブを選んだのは、 それが一番早く都合がつきそうだったからだ。 勿論本物ではなく良く似たまがい物である。 普段の下町娘の衣装は動きやすいが、 万が一見咎められた時に言い訳が立たない。 新王が立って揺れる王城に紛れ込むのに いちばん良さそう役柄は何かと考えれば、 権力に擦り寄ろうとする親の手で送り込まれた 下級貴族出身の新米女官という線が無難だ。 新米兵士というのも考えたが、 夜に王の居室付近でウロウロしているのはいかにも怪しいので止めた。 その面女官ならば、夜伽に差し出されたと言い訳が出来る。 潔癖なあの人は夜伽の女官など受け付けないだろうけれど、 貴族たちがどう動くかは全く別の話だ。 見つからずに行ければそれに越したことは無いが、 用心しすぎて困ることは無い。 この半年で、黒装束で隠密するよりも、場に馴染む格好で紛れ込んだ方が ずっと目立たないこともあるのだとイオンは学んでいた。 そのためには立ち居振る舞いが目立たないようにしなければならないが、 王宮での振る舞いならばイオンにはお手の物だ。 良く似た型の同色のドレスを手直しして、お仕着せもどきを作るのに1日。 普段の装束でまず城壁を越えてから、 人気の無い場所で衣装に着替えた。 久し振りの上質の絹の服は、 軽くて肌に吸い付いてくるような感覚が懐かしかった。 潜入は決して易しいものではなかったが、 それでも予想していたほどに難しくは無かった。 昔に王女のもとに伺候していた頃の記憶や 兄がもしもの時の為に話してくれた秘密の抜け道、 人目を忍ぶ恋人たちが内緒で逢瀬を重ねる為の小道、 そして女官の衣装と半年の情報班での経験が役に立ってくれたが、 何よりも一番の理由は、相当厳重だろうと思っていた 王の居室付近に一切の警備が敷かれて居なかったからだ。 何かの罠かと一瞬疑ったが、彼の人の性格を先んじて考えれば頷けた。 「護衛など不要だ」その一言を、無愛想な顔で言ってのけ かつ通してしまうだけのものを持っている人だから。 (To Be Next) ****** 中途半端ですいません。 どーしても書かなきゃって感じだったので書いてしまいました。 そして続きます。 本当に続きますからー! イオン、勢力移動です。 やるとは思ってなかったです。 ええ、イオンでは本当に絶対に無いと思ってました。 ……手袋外して勧誘されました。 ジョーカー切られたと思いました……。 「来るとは思ってなかった」と仰られていた通り、 私もイオンの抱いているものからして 絶対に勢力移動は出来ないと思っていたんですよねぇ。 「手袋を外して」の一文を見たときに、頭真っ白になりました。 普段から手袋付けっぱなしで外さない人なんですよ。 それは落ちろと言われているのと同義ではないかと思うわけですー。 それを突っぱねられるほど、イオン強くないです。 自分の気持ちを少しずつ自覚しつつある15歳の女の子です。 お兄ちゃんに色々と磨かれた思考回路してて、 怒りや憎しみといった感情に侵されることは無い子ですが、 ちょっと甘えっ子なところのある、ごく普通の少女です。 哀しみや淋しさといった感情にはめったくたに弱いです。 (ということにこの頃気付きました) あたままっしろに為ってる私と違って、 イオンはイオンなりに考えた上で、その手を取りました。 流されたわけではなくて、 自分の想いの方を優先したわけでもなくて、 確かなひとつの願いを抱えて。 「命を大切にしない人間に守れるものなんて無い。 けれど、命を賭けなければならない瞬間が来ることもある」 それが今回の道標であるエアルの言葉です。 イオン、兄と同じような道に、足を踏み入れた気がします。 ...
|
|