白木蓮の咲く庭で...久純ゆきの

 

 

『約束の封緘 2』 - 2005年02月28日(月)

丘の上空、舞う娘の描く淡い燐光を見下ろすように、一羽の鳥が羽ばたいている。
普通の鳥にはありえない、空の一点に留まり続ける不自然な羽ばたき。

それのみならば闇夜に溶け込むだろう漆黒の翼には、
流星を思わせる真白い色が一筋走っていた。
そしてその背に立った、一人の青年。
肩口で不揃いに切られた薄い金髪が、
月光を余さず捉えて夜目にも鮮やかになびいていた。

上空から俯瞰する丘の周囲は、計り知れないほどの木気で満ちていた。
果てしなく穏やかな、全てを包み込む静謐。
見る者が見れば、青みを帯びた仄白い光で大地が覆われているように見えただろう。
瞬きするのも惜しむかのように、青年は真剣な眼差しで大地を見下ろしていた。
集中の深さを物語る眉間に浮かんだ微かな皺。
胸の前で組んだ大きな両手が、複雑な導引を結び続けている。

「……我、時空の理を知り、木気に依りて五行を留めん」

開くか開かないかの微かな口の動き。
よく通る低い声が、夜気を震わせた。
青年の声に応えるように、地上に満ちる気配がふうっと動き始める。
何者かが見えない筆を操ってでもいるかのように、
青白い燐光が丘を取り囲んで尚遥かな範囲に綺麗な正円を描いた。
北から始まってまた元に戻ると、筆は円の中央へ真っ直ぐに下り、
中点から行く筋にも分かれて八方に円を割る。
7つになった光の筆はまた外周で纏まり、
八分割された円の内側に一回り小さな円を描いた。
そこから先は、また幾つもの小筆に分かれて複雑な文字の乱舞。
次々に現れる文字や記号は時に分割された分を超え、
けれど全体として見ればこれ以上なく整然と配置されていった。
青年は、その筆の行方を見守る一方で、
覚えるのも並大抵ではないだろう複雑な導引を、滞ることなく紡ぎ続けている。
やがてその手の動きが止まると、大地に大きな大きな陣図が完成した。

「五行より土行を空位と為す、解けよ……」

号令と同時に、両手がまたゆっくりと動き、今度はひとつの形で留められる。
円の中央部を描いていた光が瞬き、空気に溶け込むように消えていった。

「……木気に命じ金気を動かす、西より土気を導く道を開け……」

ひとつ、ふたつ、みっつ、ゆっくりと導引が転じていくに従って、
青年の端正な面立ちに浮かんだ眉間の皺が、深いものへと変わっていく。
地上の陣図は、西の区画に整然と並んだ文字と線が溶けて混じり合い、
円の外へ外へと淡く延びていった。

「我、空の理を知りて陣を描く。汝招かれし土気、封じ滅するべし」

導引を結ぶ指先が白くなるほど強く力が篭る。
耳鳴りの音すら聞こえる錯覚を起こして、一瞬だけ気が張り詰めた。
地上の陣図も真青に強く発光して、後にはそのまま青い光を留めた。

地上に再び、静寂が戻る。
丘の上に舞う娘の姿も、消えていた。
その代わりのように、いつの間にか桜の大樹が一本、
時の理を忘れたように満開の花を咲かせている。
それを確認して、青年は息を緩めた。
彼が束の間浮かべた諦めを帯びた苦笑は、
人知れることなく吐息と共に闇にまぎれていった。


**************

お待たせしました……待ってなかったですか?(汗)
『約束の封緘 2』です。

えー、ちなみに口訣(で漢字合ってましたか?)は
世間様を恐れぬでっちあげに満ち満ちています。
先に断っておきます。
内容自体、風水・卜占というより、五行な感じだもんなー。

弁解をさせてただくと、木気を使って陣を描いてる感じなんです。
海華嬢の協力あっての陣です。

えー、ともあれ、前回と今回、舞いの振りと仙術、
思うままに考えられて面白かったです。
(いや、出来はともかくとしてね)

3で、2人の会話になります。
なんで舞ったり仙術掛けたりしてたのか、
そのあたりを少し、語っていただきましょう。


...



 

 

 

 

INDEX
past  will

Mail Home