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『美しい夏キリシマ』は黒木和雄監督の“戦争レクイエム3部作”の2本目にあたります。1本目は原爆投下前日の長崎を舞台にした『TOMORROW/明日』で、来夏公開の3本目『父と暮せば』は原爆投下後の広島が舞台だそうです。今作は終戦直前、連合軍の九州上陸目標になっていたと思われる宮崎・霧島近辺を舞台に、例によって戦争の波に揉まれる庶民の日常を描いています。いつもながらの真摯な目線で物事を捉えようとする黒木の演出は登場人物(子供から老人まで)の全てに細やかな配慮がなされ、その丁寧な仕事ぶりは賞賛に値します。何よりも驚かされるのは参加した役者の誰もがすんなりとこの物語に溶けこんでいるコトです。言い方を変えれば全ての登場人物が存在感に溢れています。原田芳雄や左時枝、宮下順子、石田えり、香川照之等の芸達者陣は言うまでも無く、ともすればクドくなりがちな寺島進も軽やかですし、中島ひろ子や小田エリカもしっかりと魅せてくれます。決して上手いとは言えない牧瀬里穂まで魅力的な印象を残します。これは明らかに黒木和雄の演出力によるもので、以前次郎長親分も書いていた「役者を演出出来る監督がいない」と言われる邦画界にあって数少ない力量のある監督の一人だと言えます。この作品でデビューした柄本祐も父親同様の妙な雰囲気を醸し出しており十分合格点でした。田村正毅が捉えた映像も素晴らしく、美しい日本の田舎の原風景を感じることが出来ます。観て損は無い作品ですが、さりとて、お薦め作品か!と言われると・・・・・やはり、観て損は無い作品です。としか言いようがありません(地味ですし、岩波ですし・・・ボソ)。しかし!橋を封鎖するような映画だけでなく、プロフェショナルが精魂込めてしっかりと作り上げた日本映画もたまにはいいもんです。因みに宮崎・霧島は黒木本人の故郷であり、自身の戦争体験が反映されているそうです。
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