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2002年08月19日(月) アメリカン・ヒストリーX

昨日配信の「映画よろず屋週報」で、
本日8月19日の「バイクの日」ネタを使ってしまったので、
代替として、8月18日生まれの役者さんの映画を。

1969年8月18日、エドワード・ノートンが生まれました。
癖のない優しげなルックスを補って余りある演技で、
デビュー以来、実力派の名をほしいままにしている人ですが、
特にこの映画では「1人3役」のノリがあり、すさまじいものでした。

アメリカン・ヒストリーX American History X
1998年アメリカ トニー・ケイ監督


デレク(E.ノートン)は、消防士だった父を黒人に殺されて以来、
人種差別主義になったネオナチのリーダーでしたが、
黒人の車泥棒を殺し、刑務所に入れられます。

弟ダニー(エドワード・ファーロング)には、そんな兄が自慢で、
兄と同じようにスキンヘッドに剃り上げ、マイノリティーを蔑視し、
自分に親身になって接する校長スウィーニー(エイプリー・ブルックス)にも、
彼が黒人だということもあり、反抗的な態度をとります。
そのスウィーニーがダニーに課した宿題レポートのタイトルが、
「アメリカン・ヒストリーX」でした。あるアメリカの歴史、というわけです。

デレクは3年で出所してきますが、
ダニーが大好きだった尖った感じがなくなり、
しかも、黒人を擁護する発言すらします。
昔のお仲間の訪問にも、いい顔をしません。
お務めのおかげで、デレクはすっかり変わってしまったのでした。

不安な刑務所暮らしで、自分に親しく話しかけ、
どう考えても黒人受刑者の攻撃のターゲットになりそうだった自分を
守ってくれたのが、黒人受刑者のラモント(ガイ・トリー)だったこと、
また、自分よりも罪状が軽そうなラモントの刑期が、
自分よりはるかに長かったことなどなど、
もともと聡明だったデレクに物を考えさせるに十分な材料がありました。
(頭いいんだから、さっさと気づけよって話ですが)
さらに、亡き父は尊敬に値する人物ではあったものの、
そもそもが根拠の薄い黒人差別主義者だったことにも思い当たります。
(いわゆる“逆差別批判者”)

最初は、兄貴は腑抜けになったと失望するダニーでしたが、
徐々に彼の説得に耳を傾けるようになって、
それらの経験を踏まえ、スウィーニーの課した宿題にも
まじめに取り組むのですが……。


昔、ドイツのジョーク集で、こんなのを読んだことがあります。
 「ドイツ人は知的で誠実でナチ的だが、
  この3つが鼎立することはなく、
  知的で誠実だとナチ的でなく、
  知的でナチ的だと誠実でなく、
  誠実でナチ的だと、知的ではない」

デレクは、刑務所という海で、
ナチズムを取られた代わりに誠実さを与えられた
人魚だったのかもしれませんね。道理で上半身裸だったわけです。
(鍛え上げられたノートンの胸板や腹筋は、かなりせくすぃーです)


もともとは黒人文学の歴史を目を輝かせて話す少年だったのに、
ナチズムに傾倒し、触ればケガをしそうな風情の男になって、
刑務所で、また「当たり前に物が考えられる」好青年になって
戻ってきたデレク……この三態の演じ分けはお見事!です。

また、これは何か含みがあったのか偶然なのかわかりませんが、
兄デレク、弟ダニーはもちろんのこと、
母ドリス、姉(妹?)ダヴィーナ、そして亡き父がデニスと、
軸になるヴィンヤード一家は、全員が「頭文字D」でした。
Dが一体何の略なのか、ちょっと深読みしたい気もします。


ユリノキマリ |MAILHomePage