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2001年05月21日(月) 女人、四十 。(にょにん、よんじゅう)

金曜深夜、当地のローカル局で放映された香港映画が
ちょっと興味深かったので、
今日はそれを取り上げることにしました。

女人、四十。(にょにん、よんじゅう)
Xiatian De Xue

1994年香港 アン・ホイ監督


タイトルだけは、以前から聞いたことがあり、
アルツハイマー病の老人を介護する話だということも、
情報として持ってはいたのですが、
実際に見てみたら、
泥臭さ、世知辛さ、人間臭さ、そしてユーモア、
どれをとっても予想以上でした。

トイレットペーパーを輸入する会社の営業部長をし、
家庭もしっかり管理しているメイは、
横柄で横暴な舅とソリが合いません。
(痴呆のための奇行というのもあったのですが)
が、明るく気丈だった姑が突然亡くなり、
舅の面倒を夫のきょうだいたちから押しつけられて
しまいます。
気弱な夫は全く頼りにならず、
息子は家の手伝いが忙しいために彼女に振られてしまい、
(結局、戻ってきますけど)
舅はデイサービスなどの老人施設でもトラブルメーカーで、
そこへ持ってきて、会社にもOA化の波がやってきて、と、
内憂外患の状態に陥り、
メイは心身ともに疲れていました。

これだけ読んで、この映画を見たくなる人がいるとは、
自分でも思っていません。
私が惹かれたのは、メイの「活力」みたいなものです。
彼女は、こんな状態の中でも、
いらだたしげに愚痴をこぼしたり、
息子に「避妊はちゃんとするのよ」と冗談を飛ばしたりして、
とにかく、「無駄なエネルギーをいっぱい使っている」のです。
もちろん、人並みに体力は消耗するのですが、
いつも生きた人間の顔をしている、すてきな女性だと思いました。

そんなメイの息子アレンは、今風の若者というにはちょっとダサめで、
いかにも彼女にいいように振り回されていそうですが、
弱音ばかり吐く父親を元気づけたり、
ヨロヨロになってしまったおじいちゃんの若い頃の軍功を聞き、
純粋に憧れの目を向けてしまうなど、
本当に好いたらしい奴なのです。

また、痴呆のために奇行の目立つこのおじいちゃんが、
軍人上がりだけあり、やたら逞しいというのも、
不謹慎ながら笑える設定でした。
貧弱な息子(つまり、メイの夫)を泥棒と間違えて
ふんじばろうとするシーンなど、
思わず笑いを誘います。

姑の葬儀のシーンでも、興味深い描写がありました。
中国の習慣で、棺桶の中に故人が生前好きだったものの
紙細工を入れる……というようなことを、
以前聞いた記憶があるのですが、
そのセールスに、まさに葬儀の場にまで来る人がいるのには
さすがに驚きました。
ベンツの最新モデルに携帯電話、
「地獄の沙汰も金次第」ということで、カードまで!
そんなふうに今様にアレンジされながらも、
そういう習慣というのは連綿と続くという意味か、
はたまた、割と最近できた習慣なのか、
その辺はわかりませんが。

悲惨な状況を描いても、
何だか輝いている映画というのがありますが、
(最近のイギリス映画に多いですね、何となく)
そういう作品というのは、あれこれ想像したときに、
登場人物の笑顔が簡単に浮かんでくるものなのだと、
改めて思いました。
自己憐憫という意味ではなくて、
辛いときに自分の辛さと堂々と向き合い、
※「どうして自分ばっかりこんな目に遭うんだ〜」と
口に出して言う勇気のある人間は、
同時に、どんな状況でも笑うことができるんじゃないでしょうか。
私は、かなりの自己弁護の意味も込め、
喜怒哀楽を明確にすることを尊びたいと思います。
そして、そんな人物が出てくる映画が好きです。


ユリノキマリ |MAILHomePage