海を進む
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すごく小さい頃からあまり泣かない子だった。
2歳になる前に妹が生まれて、5歳で弟が生まれた。 保育園に入ってからも赤ちゃんみたいによく泣く妹は、 祖母や父に抱き上げられてなだめられていた。 弟はいつも母のひざの上や背中にいた。 妹と弟が泣いたりわめいたりするかたわらで、私はじっと黙っていた。 想像では、たぶん無表情で。 泣いてはいけないなんて誰にも言われなかった。 甘えて抱きついてはいけないなんて誰にも言われなかった。 だけど、小学校にも上がっていない私は、おとなしくしていなければいけない、 親を困らせてはいけないと、誰にも言われなくても感じ取って、実行していた。
2歳になる前から私はお姉さんでいなくてはいけなかったのに、 妹は小学校を卒業してもまだ妹のまま。 いつまでたっても常に私は年上で、いつまでたっても妹は年下のまま。 大きくなるにつれ、そういう風に心の中で理屈っぽく不公平さを感じるようになった。 それでもいい子でいなくちゃいけなくて、誰かにそれを言ったことはないけれど。 中学校ぐらいまで、その不満はどんどん膨らみ続けていた。 一人っ子に生まれたかったと毎日毎日思っていた。 お姉さんなんだからお前がちゃんと一緒に行ってあげなさい、とか、 お姉さんなんだからお前がちゃんと先頭に立ってお母さんを手伝いなさい、とか、 父のその類の言葉には、どうしたって返事をすることができなかった。 言い返すこともできなかったけど、はい、と素直に返事をするなんて 物理的に不可能だったと言えるほど、抵抗のあることだった。 今でも父のそういう小言を思い出すと胸がムカムカしてしまう。
妹なんて他所の家にもらわれちゃえばいいと真剣に思っていたけれど、 そんな思いも高校生くらいになると、いつの間にか消えていた。 両親や祖父母と話すよりも、妹や弟と話すほうが断然分かり合え、盛り上がるようになった。 今では、帰省する楽しみの8割ぐらいは妹と弟に会えることだ。 妹と弟がいて良かったと思っている。 一人っ子じゃなくて良かった。
それでも。 それでも心の中の穴は埋まらずにそのままヒリヒリとしながら存在している。 最初に妹に、次に弟に両親の関心を奪われてしまった小さな私が、 抱っこしてほしいって泣いている。 もっと甘えたいもっと甘えたいって泣いている。
周りを困らせない大人でいなければならなかった小さな私のことを考えると、 朝まで涙が止まらないこともある。
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