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2002年08月29日(木) ピカレスク -人間失格-

河村隆一のファンだからというわけではなくて、太宰治がどんな風に描かれているのか興味があったので見に行きました。太宰が東京に出てきて井伏鱒二を知る昭和五年あたりから、昭和二十三年に山崎富栄と入水自殺するまでの約二十年間のドラマ。
とはいえ、肝心の太宰の印象がちょっと薄かったなあ。どちらかというと太宰と関係があった女性達の方が主体となってる感じです。彼女達がどんな風に太宰に惹かれているかはよく伝わってくるのだけど、太宰自身の描写が淡白でもうひとつ物足りなかった。まあ、そもそも映画の構成自体が女性遍歴を時系列に追う形になってるので、これはある程度意図されたことかもしれません。河村隆一が悪いと言いたいわけではないです。
ただし納得いかないのは井伏鱒二の扱い。なんだか中途半端。「井伏さんは悪人です」という遺書の言葉を強調してたけど、それなら彼と太宰との関係をもう少し掘り下げてほしかった。逆に女性達中心に話を進めると決めたなら、こっちは潔く切り捨てても良かったんじゃないかと。

河村隆一は映画初主演とのことで、確かに演技は固いけど、なかなか健闘してたと思います。学ラン着てる時代(←御歳32歳の学ラン姿よ!ファンの方必見じゃない?)はそれなりに初々しく、ヤク中で病気も出る後半は頬もこけて憔悴していく。晩年の撮影時にはほとんど絶食して体重を落としたそうです。わあ大変だ。もともと細そうな人なのに。
あ、原作者の猪瀬直樹も特別出演してたけど、こっちは完全にご愛敬。

…うーん、でも、やっぱり河村隆一は太宰にしては小綺麗すぎるかなー。私のイメージする太宰はもっと汚れていて、…何というか、汚い色気の持ち主なんだよね。だってこの人は、人生何もかもが道化。道化と嘘。猪瀬氏が「太宰は性格的に弱いところもあるが作家としては非常に強い。作品はもちろん、それを生み出す状況まで創り出すクリエイターだ」というようなことをパンフレットで言っているのだけど、これは一部同感です。つまり太宰は、自殺も道化、女も道化。真剣に悩み熟慮の結果死を選ぶのではなくて、自殺もひとつのポーズにすぎないし、その時その時は自分の心に正直なつもりでいて、実は女性を芯から愛してるわけでもない。普通の人なら死ぬのは最後の手段だけど彼の場合そういう重要度のレベルをまるで無視して、全部が一緒。全部が道化。こうした道化に生きる太宰の色気に魅せられてしまった女の人は、彼と一緒に死んでみたくなるんじゃないかな。ただ単に放っておけない人だから、ということではなくて。映画の中でも、突然メソメソ泣き出したり、「ぼくと、死ぬ気で恋愛してみないか」なんて歯の浮くようなキザな台詞を吐いたりしてたけど、こういうの彼はきっと実際にやってたと私は思います。

何だか文句つけてた割に語っちゃったよ。いや、ほんと、すごい作家だと思います太宰は。久々に読んでみるか。



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ピカレスク -人間失格-

2002年 日本
原作:猪瀬直樹『ピカレスク 太宰治伝』
監督:伊藤秀裕
出演:河村隆一、さとう珠緒、緒川たまき
朱門みず穂、裕木奈江、佐野史郎
(劇場鑑賞)


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