北斗の日記
北斗



 東西ネタ『名前を呼んで、10』その1

1.その声が呼ぶ名前


俺は、好きだけど。
そう言って彼は照れたようなはにかんだ笑顔で俺を見た。
自分の名前はそんなに好きじゃない。ゆう、だなんて男なのか女なのかよくわからない響きの名前。背が低いことを気にしてはいないけれど、それでもやっぱり少しぐらいはコンプレックスだってある。せめて名前ぐらいもっと強くて格好いい響きのものが良かったのに。
そう拗ねたように言ったら、一つ上の先輩は小さく笑った。
「でも、俺は好きだけど、西谷の名前」
にしのや、と彼の唇が動く。
それに少しだけどきりとして、次にどうしてそう思ったのか分からなくなった。
「好きって…どっちの名前が、ですか」
「え、どっちって…?」
「上の名前か、下のかってことっす」
そんなことまで聞かれると思っていなかったのか、彼は目をぱちくりと驚きに見開いて、それからいつもの困ったような顔で答えた。
「どっちも、だけど」
「え?」
「どっちも西谷の名前だろ。西谷も夕も」
まただ。『にしのや』と『ゆう』という言葉が彼の唇に乗ると、くすぐったくなる。
「……い」
「うん?」
「…もう一回、呼んでください」
そうしたら好きになれるかもしれない。だから確かめたい。自分の名前を好きだと言ってくれる彼が、名前を呼んでくれたなら。
「西谷、夕?」
「何でそこで疑問形なんすか」
だって、と彼が狼狽える。年上なのにいつもそうだ。気が弱くて優しい俺たちのエース。
「何か、恥ずかしくないか」
「何がですか」
「今更、名前、こんな風に呼ぶのって」
「そうですか?」
「西谷は言われる方だから」
言う方が恥ずかしいよ。
そう言うから、その先を言われる前に言い返した。
「じゃあ、俺も呼びます」
「へ?」
「旭さん。東峰、旭さん」
真っ直ぐに彼の目を見て言ってやると、面白いぐらい狼狽えて、それからみるみる顔を朱に染めた。
「…どっちも恥ずかしいな」
「俺は嬉しかったっすけど」
「ええ?」
「旭さんの名前、俺も好きです」
好き。旭さんの名前も、旭さん自身も、大好きです。
そう続けることは出来なかったけれど、それでも俺は嬉しい。俺の言葉でそうやって狼狽して、それからちょっと困ったように笑うあなたのことが、本当に好きだから。


お題拝借。
無限ノート様
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2013年08月14日(水)
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