|
読み終わりました。 ちなみに今回の動機は、物凄く納得できましたよ。
***
本日読了の本
・高村薫「照柿」講談社
マークスの時も思ってはいたのだが、 この照柿を読んで改めて、 高村薫という人はなんと緻密でリアルな描写をするんだ…と、 つくづくと。
ただ、その緻密さは時に堅く重苦しく感じるので、 高村薫はしんどい…と言う人が居るのも納得する。 というか、著者近影から感じる印象のまんまの文章だよ。
そしてこの人の描くリアルさは、これまた緻密で膨大な取材から出ている、 という噂も漏れ聞く。 もしかするとそのリアルさ故に、ホンの些細な違和感を感じると、 それが非常に目立つのかもしれないとも思った。 並みのミステリーなら、もっとテキトーな事を書かれていても、 あまり気にならないのだろうと。
とりあえず、この人の作品は入り込むと出られない。 ザーッと読み飛ばしができない。 読了後、どっと疲れが来るのだけれど、充足感も大きい。 すっかり気に入ってしまったらしい。
LJが楽しみである。
というわけで、以下ネタばれ犯人ばれ感想。
今回もマークスと同じくらいの細かくリアルな内面描写。 達夫の疲れと合田の疲れが唸りを上げて加速して行くのが怖い。
そして達夫より合田の方が遥かに危うかった。 なぜか冒頭から疲れていた合田が、徐々に狂って行くにつれ、 半分を越えたあたりから合田が殺人を侵すのでは… という予感がして仕方が無かった。 シリーズとして既にLJがあるのだから、 殺人犯な前科付きの刑事なんて居ないだろうから、 絶対それは有り得ないよ…と思いつつも、 次の瞬間、合田が誰かを殺すんじゃないかとドキドキしていた。
達夫も合田も、クソ真面目すぎるのだ。 だから追い詰められて行く。 悪事を企んですら、合田もどこまでも真面目で、 自らの首を自らの手で絞めている、そんな感じがする。 だから、達夫でも合田でも、どちらでも爆発する可能性はあったと思う。
ただひとつ、後で考えると湧いて来る違和感は、 物語の実時間がそれほどの日数ではない…ということ。 達夫も、六十何時間寝ていなかったとしても、 言ってもそれはたった3日足らずでしかない。 それがもっと異様に長く感じるのは、 その3日間の描写の圧倒的な分量からだろう。
たぶん、達夫のそして合田の3日間は 実時間以上にその分量だけの鬱屈と重圧と憤怒で出来上がっていたに違いない。 おそらく、最後の引き金は何でも良かったのだと思う。 誰でも良かったんだと思う。 膨らみに膨らんだ風船に吹き込まれた最後の限界のひと吹きが、 たまたまあの画商だった…というだけのこと。 そして合田にもそのひと吹きがあった可能性だってあった訳だ。
照柿を読んで、マークスの何が引っ掛かったのか判った気がする。 問題はあれだけの緻密で圧倒的なリアルの描写にあるのだ。 水沢の内面描写があまりにリアルであった故に、 細かいズレも気になったのだ。
達夫の風船が膨らんで臨界を迎える過程と瞬間は 自ら体感しているんじゃないかと思う程理解できた。 けれど、マークス発現の原動力だけはやはり判らなかった。 あの圧倒的な描写の中にマークスを生み出すだけの力は感じなかったから。
青様が、ハードカバーではもっとおとなしかった… とおっしゃっていたのを見て、 もしかするとそちらの方が違和感が少なかったんじゃないかと、 ちょっと思った。 文庫版のマークスは激しすぎたのだろう。
|