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当たり前であるかのように■2006年12月06日(水)




その時は23時近くで、僕は職場でコンピューターの画面に向かっていた。





携帯に生徒からかかってきたのだ。





「先生からの電話は私に届かないようにしてある」

そう言った彼女から。





電話に出ることが出来ない僕は、携帯の画面に表示される彼女の名前を見たまま動けなかった。

しばらくコールしたあと、電話が留守録に切り変わった。

彼女の文字は画面からふっと消えた。





「先生からの電話は私に届かないようにしてある」

ここにそう書いた彼女から電話がかかってきた。
彼女から電話がかかってきたんだ!!
もう二度と関われないかもしれない彼女からの電話だというのに、なんで邪魔されなきゃいけないんだ!!
僕は作業から抜け出せないことに苛立った。





仕事を終えてすぐに生徒に電話をかけたが、やはり拒否された。
二日前から彼女に僕からの電話が着信しないようになっている。

僕は溜め息をついてから、車の停めてある駐車場へと向かった。





再び携帯が鳴った。

生徒からの電話であることを知らせる指定されている着信音だった。

僕は急いで通話ボタンを押した。
ああこんばんは。ごめん、さっきは仕事中で出られなかった。

僕はこれが当たり前の会話であるかのように懸命に平静を装った。

「いいよ、べつに」

そう言って、僕に彼女が最近気に入っている曲の話をした。

「Oceanlane凄いでしょ!この子たち、天才じゃない?」






それからはお互いに最近よく聞いている曲やアーティストの話をした。
数日前、生徒は「先生とは今まで悲しいこととか辛いことかしか話してない」と言った。
これからは楽しい話をしよう、とも。
音楽はちょうど良い楽しい話題だった。





「ねえ先生、私のこの部屋覚えてる?」

ああ、覚えているよ。
一つ一つのものに思い出があるから頭に強く残っている。

「へー、じゃあ言ってみてよ、私の部屋の配置」

黄色いこたつや天井まで届くクローゼットなど、僕が持っている記憶を述べると、彼女は意外そうだった。

「え?何?監視カメラでもつけてんの?変態」

一つ間違えたのは、スチール・ラックの三段目に置かれたコンポのメーカー名だった。
あのスピーカーは重い。
あれが彼女の足に向かって落ちそうになり、どれだけ慌てただろう。





生徒は更に自分の部屋の話を続けた。
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