Experiences in UK
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2005年05月23日(月) 第91-93週 2005.5.2-23 総選挙・雑感、数独ブーム

ロンドンはまだまだひんやりとした日が続いています。最高気温がなかなか20度に到達しない・・・。

(総選挙・雑感)
もう旧聞に属する話になりましたが、英国の総選挙に関する感想を少し。
五月五日に四年ぶりの総選挙があり、大方の予想どおり、ブレア労働党が党始まって以来の三期連続勝利をおさめるという結果になりました。
ただし、事前予想と少し違ったのは、獲得議席数が事前予想の下限程度にとどまった点です(47議席減の356)。それでも、過去二回の選挙で地滑り的大勝利を成し遂げた遺産は大きく、今回の獲得議席も全体の過半数を上回り、また野党第一党である保守党との大差を維持したのですが、労働党としては「あまり喜べない勝利」という結果に終わりました。

一方、保守党は意外に票を伸ばしたのですが、それでも労働党との差がいぜん約160議席という大差である事実に変わりなく、「よくがんばったけど・・・」という感じの結果でした(33議席増の197)。
また、一部で注目された野党第二党の自由民主党は、こちらも票は伸ばしたものの期待されたほどの伸びとはなりませんでした(11議席増の62)。期待が大きかっただけに、落胆の度合いも大きかったのではないでしょうか。

以上のように、今回の選挙は、選挙戦の途中の段階からまったく盛り上がりに欠けていたのですが、結果に関しても「明確な勝者のいない三すくみ」というすっきりしない結果に終わりました。
選挙戦が盛り上がらずに「三すくみ」の結果となった理由の一つは、労働・保守両党の政策があまりにも似通っていたことです。形としては、保守党が現実的な国内政策を打ち出したことで労働党に歩み寄ったことになります。外交政策では両党の間に比較的大きな違いがあったのですが、今回の選挙戦における論点にはなりませんでした。
また、「三すくみ」をもたらしたもう一つの理由は、対イラク政策をめぐるねじれ現象です。保守党がブレア政権による対イラク開戦決定を支持した一方、労働党内にはブレアの対イラク政策への批判が多かったというねじれ現象がありました。ブレア政権に対する国民の不信感の最大の要因である対イラク政策を攻撃材料にできなかったことは、保守党にとって歯がゆいものだったでしょう。

米国では、クリントン民主党が二期・八年でブッシュ共和党に政権の座を譲りました。同様に、ブレア労働党も二期・八年を終えて政権発足時の輝きをかなり失っており、保守党にとっては政権交替のチャンスだったと思うのですが、(米国の共和党と違って)現在の英国・保守党にはそのようなパワーはまったくありませんでした。議会政治の健全性という観点からは、あまり喜ばしいことではないでしょう。
政策を議論する前に、ブレア・ブラウンの黄金コンビに対抗できるだけの魅力ある人材が保守党には必要な気がします。

(外交政策が重要課題に)
さて、今回の選挙で争点にならなかった外交政策ですが、今年夏から来年にかけの英国においては、政策論争の場などで対外政策が焦点となる機会が増えることは間違いないでしょう。
大きなイベントとしては、今年七月に英国がホスト国として開催されるG8サミットがあります(於スコットランド)。英国が独自に問題提起している課題(アフリカの貧困問題と地球温暖化の問題)が中心テーマとなる予定であり、今後も英国がこれらの分野における議論を世界的にリードしていこうという強い意欲がうかがえます。

また、英国内で対欧州(EU)の政策論議が活発化し、EUと英国の対立が煽られる場面が増えることも必至です。
すでに手始めとして、2007年以降のEU中期財政計画の策定に絡めて、EU予算の拠出・配分関係の見直し論議のなかで、英国がEUから受け取っている巨額のリベートの廃止問題が盛んに取り沙汰されはじめています。また、EUが加盟各国に施行を徹底させようとしている、労働者保護を目的とした労働時間規制に対しても英国は強く反発しており、これもホット・イシューとなりつつあります。

さらに、今年から来年前半にかけての欧州における最大のテーマである欧州憲法条約の批准問題というのもあります。英国は来年春頃に本件を国民投票にかけるとみられていますが、各種世論調査では七割の国民が批准に反対しています。さし当たり、今月終わり(29日)のフランスでの国民投票の結果が、大いに注目されるところです。

折しも、今年七月に英国はEU議長国に就任します(任期は半年)。今年から来年にかけて、欧州との距離の取り方・付き合い方を改めて見直すことが、英国政治において重要なテーマの一つになると考えられます。

(数独ブーム)
「数独」が英国で一大ブームを巻き起こしています。とくに今月に入ってから、メディアでの紹介が激増しました。
5月15日付のオブザーバー紙(ガーディアン紙の日曜版)の数独特集記事の出だしは、次のようになっていました。「今年五月の第一週は総選挙の週として記憶に残されるだろうが、第二週は数独(Sudoku)の週として語り伝えられるだろう」

数独とは、日本から輸入されたパズルの一種で、数字を用いるクロスワード・パズルのようなものです。
9×9のマス目の中がさらに9つの小さなマス目に分割されています。ルールは、全ての縦9マスと横9マス、それから9つある小さなマス目内のそれぞれに、1から9までの数字が一回ずつ現れるように81マス全てを埋めるというものです。初期条件として与えられている数個の数字を手がかりにして、81マスを埋めきれば完成です。

私もいくつかトライしましたが、論理的思考だけを頼りに正解にたどり着いた時の達成感は、知識や数学的能力などが一切不要という意味で手軽に得られるものだけに、中毒性を持つことに頷ける気がしました。初期条件の設定の仕方によって、難易度は大きく違ってきます(最新のエコノミスト誌にも例題とともに数独ブームが紹介されていますが、あの例題は易しかったですね)。
英国の各種メディアによると、数独は「21世紀のルービック・キューブ」と呼ばれているそうです。

数独の起源に遡る記事も、上記のオブザーバー紙はじめいくつかのメディアで出ていました。
いずれのメディア記事でも、スイスの著名な数学者が似たような着想のパズルを考案したことを数独の起源として紹介していました(1783年)。その後、1970年代にニューヨークのパズル会社が同様のパズル(Number Place)をニューヨークで普及させたとのことです。
そして80年代、日本のパズル系出版社ニコリが、Number Placeにいくつかの改良を加えたものを数独として発表し、英語のクロスワード・パズルには言語的に不向きな日本人の間で爆発的に人気が出たそうです(私は存在すら知らなかった)。
やがて数独はニューヨークに逆輸入され、昨秋にはロンドンにも輸入されたそうです。最近の英国の主要紙は、どれもクロスワード・パズルとともにSudokuを掲載しています。

(パワフルな英国タブロイド紙)
ガーディアン紙(5月10日付)によると、数独が英国で一般大衆レベルでの爆発的ブームとなったきっかけは、英国最大の発行部数を誇るタブロイド紙サンが10日付の記事で本格的に取り上げたことのようです。
ガーディアン記事は、「サンは独自バージョンの数独を発表したが、みんなが想像した通り、それはSun dokuと名づけられていた」としています。ガーディアンはサンのベタなダジャレを揶揄しているのですが、徹底的にベタな冗句や芸能ゴシップを平気で撒き散らすことが、英国タブロイド紙の王道を行くサン紙のスタイルであり、存在理由となっているとも言えます。

英国のタブロイド紙は、日本の夕刊紙と比較されることが多いのですが、私の印象では、良くも悪くもメディアとしてのパワーという点では雲泥の違いがあると思います。
タブロイド紙の通常の紙面は、芸能ゴシップやスポーツ、広告で埋め尽くされているのですが、本質を突いた硬派の社会ネタや政治ネタの記事を載せることもしばしばあります。ブレア政権のイラク開戦に対して、もっとも先鋭かつ徹底的に反対意見を表明したのは、タブロイド紙の一つであるデイリー・ミラーでした(逆にライバル紙サンは、もっとも熱心かつ徹底的に開戦を支持し、英国の軍隊を熱く応援していました)。

これらタブロイド紙の社会的影響力はまったく侮れません。なにしろ発行部数が一般紙(ブロード紙)と桁違いなのです(タブロイド紙のサンが320万部、デイリー・メールが230万部であるのに対し、ブロード紙のデイリー・テリグラフが87万部、タイムズが62万部、ガーディアンが34万部)。
例えば、今回の総選挙において、選挙戦終盤になってサンが労働党支持を表明したことが、専門家の事前予想における労働党の勝利予想を決定的なものとしました。サンが英国でもっとも読まれている新聞であることもさることながら、つねに機を見るに敏で勝ち馬に乗るサンが支持を表明したということから、労働党の勝利は間違いないだろうという読みが真剣に語られていました。
ちなみに、あまりのバカバカしさから日本でも報道されたかもしれませんが、上記の通りに注目を集めたサンの支持は、次期ローマ法王を決めるコンクラーベよろしく、煙突から労働党支持を意味する赤い煙を出すという方法で発表されました。現在は、米軍の監視下にあるフセイン元イラク大統領の半裸写真をどこからか入手して一面に掲載し、国際的な物議をかもしています。

タブロイド紙については、これまで私自身あまり馴染みがなかったのですが、数ヶ月前に「仁義なき英国タブロイド伝説」(山本浩著・新潮新書)を読んでから、ぐっと関心が増しました。あまり整理された情報を知ることのできない英国タブロイド紙に関する格好の入門書であり、かつガイドブックにもなっている貴重な本でした。
タブロイド紙とブロード紙の棲み分けは徹底していて、タブロイド紙のライバルは、ブロード紙ではなくて、完全に他のタブロイド紙です(階級社会としての英国の歴史が背景にあるのでしょうか)。この結果、これまでにそれぞれのタブロイド紙間で「仁義なき」抗争の歴史が展開されており、同書ではそれをかいつまんで紹介してくれてもいます。


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