Experiences in UK
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2004年08月30日(月) 第54-55週 2004.8.16-30 英国人の愛国心2、英国の携帯電話事情

(英国人の愛国心2)
前回、PROMSラストナイトに象徴される英国人の愛国心の強さについて、やや興奮気味に書きました。この件について周囲の人に取材してみたところ興味深い話を聞くことができました。
まず、Promsラストナイトにおける国家主義的な熱狂について、あるパキスタン系の英国人(40歳前後、女性)に話したところ、「私はああいうノリは嫌いだ。また、あれが英国人の一般的傾向を示すものとも思わない。」との反応が返ってきました。さらに彼女は「あれは純粋な英国人のなかの一部が盛り上がっているもの。我々(パキスタン系英国人)は、彼らと歴史を共有しているわけでもないから、ああいう盛り上がりにはついて行けない」とも言いました。
また、英国に十年以上滞在している日本人は、英国におけるナショナリズムはここ五年から十年ほどでかなり強くなっていると感じると言っていました。スポーツ・イベントやPROMSなどで今ほどたくさんの旗が打ち振られる傾向が強くなったのは最近のことで、近年ことあるごとにUniteという言葉が使われるようになっているとのことでした。

以下はこれらの話を聞いたうえでの私の推測ですが、表面的な現象としてみられる英国ナショナリズムの高まりには、英国をめぐる三つの環境変化が関係しているように思われます。
第一に、非英国系住民の急増にともなう純粋な英国人の間でのナショナリズムの高まりです。何度かご紹介しているとおり、英国(とくにイングランド)では旧大英帝国植民地をはじめとした各国からの移民が増殖しています。実感としてロンドンの街を歩いている純粋な英国人の割合は半分程度です。
第二に、大陸欧州との関係において英国としての独自性・優位性を強調する動きです。ご承知の通り、英国はEU(欧州連合)には遅ればせながら加盟したものの、欧州単一通貨ユーロの使用は拒否しており、世論調査によると現在も国民の七割程度が反対しています。また、今年六月の選挙においては、EU脱退など強烈なナショナリズム(反欧州の考え)を打ち出した政党UKIP(UK Independent Party, 英国独立党)が大躍進しました。
第三に、97年に発足したブレア政権以降の英国政治におけるトレンドであるデボリューション(地方分権)の反動としてのナショナリズムの高まりです。ブレア政権はドラスティックな地方分権改革を実行し、中央政府の権限を大幅に地方政府へ委譲しています。たとえばスコットランドやウェールズにおいて独立した議会の設置を認めるなどの措置を実現しました。その反作用として英国としての統一性を強調するベクトルが強く働いているような気がします。

といったように「英国人の愛国心」というキーワードの背景には複雑な事情が存在するわけで、単純に「英国人は愛国心が強い」と言ってしまうのはミスリーディングということなのでしょう。それでも、「愛国心を表現する形を持つ」という点が日本と大きく異なるのは事実でしょう。日本にはnationalism/ナショナリズムというややネガティブな意味合いを帯びて使用されることの多い言葉はあっても、patriotismという言葉は実態として存在しないような気がします(善し悪しは別問題として)。

(英国の携帯電話事情)
先日、日本から英国を訪れている大学生と会う機会がありました。夏休みを利用して一ヶ月余り滞在するとのことでした。英国に来るのは初めてというその学生が、それまで二週間あまりの滞在で感じたこととして二つの点を強調していました。一つが物価の高さで、もう一つが英国の携帯電話事情です。
英国の高い物価は、ほとんどの日本からの来訪者が口にします。多くの問題がある各種の「物価の国際比較調査」では、いぜんとして東京が第一位で、英国はランク上昇中ながらも二〜五位程度になっていますが、実感としてロンドンの物価は東京よりも確実に高いと言えます。なにしろ、ちょうど一年前にも書いたとおり、地下鉄の初乗り料金が2ポンド=400円という国なのですから。

携帯電話事情について学生が口にしていたのは、「着信音がださい」という点でした。日本では、各個人の趣味に合わせた着メロなるものが普及していますが、英国ではそんなものはほとんどありません。多くの人は、欧州で携帯電話のシェアがもっとも高いノキアの電話に標準装備されている数種類の着信音(ノキア・サウンド)を使用しています。したがって、英国の地下鉄などで携帯電話が鳴ると、何人かの人が自分の電話かと思って鞄を探るという光景にしばしば遭遇します。
英国でもようやくカメラ付き携帯電話を持っている人を見かけるようになりましたが、携帯電話の先進性という点では、英国は日本に大きく遅れをとっているといえましょう。携帯電話に限らず、ハイテク系機器のバラエティとその普及度合いは、英国は日本に大きく水をあけられているように思われます。裏返して言うと、こういったハイテク分野での日本の凄さ(供給する側と需要する側の双方における)が実感されます。

ところで、携帯電話といえば、観点は違うのですが、私も日英の違いを感じるところがあります。英国人は公共交通機関の中などで、どんな人でも辺りを憚ることなく携帯電話で会話しています。日本では、公共ペースにおける携帯電話使用に関するマナーがメディアなどでよく議論の俎上にのぼっていましたが、この国ではそういう議論自体がそもそも全くないように思われます。電車などでその手のアナウンスが流れることもありません。
技術が日進月歩で進化している携帯電話は、ハードとソフト(使用の流儀)の両面で国ごとの差異が大きいのでしょう。もっとも、日本で携帯電話を持ったこともなく、今も仕事用に支給されているノキア・サウンドの携帯を時々使うだけの私が、携帯電話についてとやかく語る資格はないのですが。


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