-殻-

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2004年11月07日(日) 邂逅

今日は、同期の子と一緒にイーグルスのライブに行った。

何にでも興味を持てて、何にでも感動できるあのこは、
こういう時のパートナーに打って付けだ。
「Hotel California」しか知らなくても問題ない。
一曲でも知ってれば取っ付きやすいもんだ。
僕は2枚組のベストアルバムを貸して、
「これを聞いておけば大丈夫だよ!」と言っておいた。

さて当日、駅で待ち合わせたあのこは開口一番、
「ごめん、結局Hotel Californiaしか聞いてないの。
 ずーっとリピートでかけてたから。」

・・・忘れてた。
このこは気に入った曲を、一日中でもリピートして聞き続けるんだった。

ま、まあ、それはともかく。
早めに待ち合わせた僕等は、高島屋をふらふらと歩いた。
彼女はボーナス払いの決断に悩みながらも、Zuccaの可愛いスカートを買った。

そのあとFauchonで遅いランチ。
小エビのサンドウィッチとローストビーフサンドを頼んで、半分ずつ食べた。
彼女はアプリコットティー、僕はダージリンを飲んだ。

さて、そろそろ会場に向かう時間だ。
込み合う休日の地下鉄は、僕等の物理的距離を近くする。
そのくすぐったさは、決して悪いものじゃない。

僕等の席はアリーナで、ステージからはちょっと遠いけどほぼ真ん中の左寄り。
音は悪くはないだろう、こういうドームとしては。
開演までの時間は落ち着かないながらも彼女と話す。
イーグルスのサウンドがどんなにバラエティに富んでいるか。
ドン・ヘンリーの声、ジョー・ウォルシュのギターがいかに素晴らしいか。
60年代の終焉を告げたHotel Californiaの歌詞の意味。
来るべき瞬間を前に、僕は勝手に興奮していた。
彼女はそんな僕の話を、頷きながら聞いてくれる。

ふと、照明が落ちる。

どよめく会場。異様な高揚。
彼等はゆっくりと位置に着いた。

「The Long Run」「New Kid in Town」「Wasted Time」「One of These Night」
「Tequira Sunrise」「Love will Keep Us Alive」「Take it to the Limit」
「Life in the First Lane」「Heartache Tonight」そして「Hole in the World」。
挙げれば切りがない、珠玉の名曲だらけ。

そしてアンコールの一曲目、トランペットのソロが鳴る。
それがBマイナーだと気付いた観衆はざわめく。
一瞬の間をおいて、グレン・フライのギターがアルペジオを奏でる。
鳥肌が立つのが分かる。

「Hotel California」。

一体何度聞いたか、自分でも何度奏でて何度歌ったか分からない歌。
それでも決して色褪せることはない。

バスドラムを2度踏んで、ドン・ヘンリーが歌い出す。

So I called up the captain, 'Please bring me my wine'
He said, 'We haven't had that spirit here since 1969'

Last thing I remember I was running for the door
I had to find the passage back to the place I was before
'Relax', said the night man, 'We are programmed to receive
You can check out anytime you like but you can never leave'

この嘆きにも似た諦観は、僕の心に突き刺さる。
僕等は、時代や国や組織や共同体や、様々な枠の囚人なのだ。
そして心を閉じたくなる僕等に、彼等は最後にこの曲をくれた。

「Desperado」

Now it seems to me some fine things have been upon your table
But you only want the ones that you can't get

Come down from your fences, open the gate
It may be rainin', but there's a rainbow above you
You better let somebody love you
You better let somebody love you before it's too late

ドン、それができればこんなに厄介な性格にはなってないよ。
どうやら僕はまだ、ビバリーヒルズホテルに囚われてるみたいだよ。


「よかったー、感動したー。ありがとう、ありがとう」
そんな真っ直ぐ過ぎる彼女の言葉で、ふと現実に戻る。
このこは今、僕の隣にいる。
それはそれでいいじゃないか。

小腹が空いた僕等は、大混雑の地下鉄をやり過ごすために、
会場近くでたこ焼きを買って、向かいの公園でしばらく過ごした。
大きなたこ焼きを一口で頬張って、僕は上あごの裏を火傷した。

「ありがとうね、連れてきてくれて。」

何度も何度も繰り返す彼女。
なんだか申し訳ない気にすらなってくる。
褒められたり、礼を言われることに僕は慣れていない。
つまるところそれは、他人の言葉を信じ切れないのだろう。
寂しいことだ。よく分かっている。

遅過ぎはしないだろうか?
今から出口を探しても、間に合うだろうか。
彼女の屈託ない、澄んだ笑顔を見ているとそんな気になってくる。

足りないものばかりを欲しがるのは、ずるいことだ。

彼女と別れたあとも僕は妙にご機嫌だった。
なんだか、とても解放されたような気分になった。

そのテンションにやられたのか、治りかけていた風邪がぶり返した。
痛む頭を抱えながら、それでも僕は幸せだった。
今日の彼等との邂逅を、あのこの笑顔との邂逅を、思い出していた。





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