徒然帳
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2003年05月21日(水) |
.....小さな嵐/お試し版(イニシャルD) |
それはある晴れた日の午後。 ぽかぽか陽気に涼しい風。こんな日は何時にもまして洗濯日和だと奥様方が喜びそうな天気の良い日。しかも休日とあっては家族旅行なんてするのに最適な日かもしれない。 日帰り旅行もいい感じで堪能できそうな、そんな日曜日である。
車を走らせる事が3度の飯より好きと豪語する高橋啓介は、珍しくリビングにいた。 起きたばかりを代弁する寝癖をそのままに、啓介はテーブルを占領している沢山の写真の束を何やら一心不乱に整理していた。 「これは……あれだろうし……」 うむむむと唸りながら散らばった写真を幾つかの山に別けていき、それを再度調整したりしている。ネガ番号を書き込んで、どうやら焼き増しの確認をしているのだろう。 「あれ?これはどこのだ?」 「妙義に行った時のだ」 「ああ、そっか」 向いからかけられた言葉に頷くと、啓介は手に取った写真を再び選り分け始めた。 こうして啓介が迷い悩むと、涼介の助言が時折入るので作業は一応は止まらない。早いとは言えないが、確実に進んでいるのは確かだった。 これがもし、啓介一人であったなら………啓介は何日経っても写真の整理は出来なかったであろう。片付かない写真の束に悪戦苦闘して仕舞いには投げ出してしまうのが、普段の啓介の性格から予想し易い。そうなれば自然としわ寄せがくるのは兄である涼介となる。 これは昔から『兄』という立場故か……。 だから……という訳ではないが、助言するだけして啓介に片付けさせてしまった方が、後で自分だけに押し付けられるよりは良いと判断して、啓介の向いに座ってノートパソコンをにらめっこしながら涼介は時折助言して手伝っているのだ。 「これは………」 「秋名の五連続ヘアピンか。そんなものまで写したのか?」 「ああ、史浩が資料にって」 「アイツはマメだからな」 「そうそう。で、これが藤原拓海だな。うへーーー良く撮れたなぁ」 「隠し撮りって訳じゃなさそうだ」 啓介がひらりと手にした一枚の写真を覗けば、ぼーとした表情の少年が写っている。 穏やかな……というかどこか眠そうな表情をしていた。 しかも高校の制服を着た、涼介と啓介にはちょっと珍しいと思う姿だった。 写真の少年は藤原拓海一一一一一秋名のハチロクと言えば記憶に深い、今現在もっとも二人が注目している人物だ。 そのドライビングテクニックから個人的にまで興味をそそられると、言っても過言ではない気になる男の子。いつも予想外の反応をするのが面白いと、涼介も啓介も二人とも年下のこの不思議な少年に夢中になっていたりする。 どこにもいない受け答えが気に入ったのだろうとは史浩の言い分だ。 涼介も啓介も彼の持つ意外性という武器にやれれてしまったのだろうと……。 その史浩が撮った渾身の一枚がこれだ。 どうやって拓海から撮ったのかは疑問だが、深くは考えまい。写真を撮られるのが嫌いなあの少年から例え一枚でも撮れただけでも貴重なのだ。 (前に啓介が写真を撮ろうとしてぶっ飛ばされたんだよな……) とにかく。 藤原拓海の貴重な制服の写真は、その後、焼き増しに次ぐ焼き増しを大量にされる事になるのはまた別の話だ。
「兄貴もいる?」 「いや、俺は違うの持ってる」 「……………。」 流石は涼介。 やる事に抜かりはない。 「うっわっーーーーーーすっげえ、ずりぃよ。兄貴〜〜〜!」 「努力の賜物だな」 「その言葉……兄貴には一番、似合わねぇ」 「そうか?」 きっと……涼介が手に入れた写真は一枚や二枚ではないだろう。 知りたい事があったらハッキングも犯罪も構わないという、頭のネジが10本ほどは抜け落ちている事間違いなしの人間である事を、弟を20年以上もやっていると解ってしまう。 (しかし………。兄貴、いったいどんな手を………) 恐れながらチラチラ視線を寄越す啓介の瞳には『どうやって?』という疑問がありありと見える。しかしそれを無視して、涼介はパソコンの方に再度取りかかっていた。
まさか言えまい。 衛星をハッキングして盗撮したなどとは………。 流石は涼介。既に犯罪者顔負けだ。 しかも痕跡を完璧に消してしまっているというオプション付き。 現在大学に在籍しているが、既に色々な機関からのオファーがある事を車関係での兄の面しか知らない啓介には知るよしもない。そんな事は知る必要はないのだと、涼介は完璧な笑顔で啓介に微笑むのだった。 みんなが騙される涼介スマイルに啓介もころっと騙され、写真整理を再び始める。 そんな折、啓介の座るソファーの後ろから兄弟の良く知る声が飛び込んできた。
「あ!拓ちゃんだ〜〜〜〜!」 「おわっ……!!て、…… 緒美ィ??!」
何だか聞き慣れた単語を聞いた二人は、思わず顔を見合わせた。 パソコンから顔をあげた涼介の流れるような指先が、完全に止まっている。先程から啓介と会話しながらもキーを打ち続けていた涼介なのに、珍しく微動だにまったく動かない彫像と化した姿がそこにはあった。 写真整理していた啓介の手からは件の写真と一緒に、未整理の写真の束がバサバサ落ちた。 折角、苦労して整理したモノと混じってしまって、再び整理のし直しをしなければならない事態が、見事にテーブルに広がっていた。 ポカーンと口を間抜けに開いたままの啓介の背後から、問題発言をした少女がニコニコと件の写真を覗き込んで、ひらりと取り上げた。
「ねぇ、啓兄ィ。これ緒美にちょうだいv」 ひらひら振るのは唯一、盗撮に成功した垂涎の一枚だ。 無論、そんなお願いは従姉妹と言えども却下である。 ‥‥が、動揺している啓介にはそんなもんはどうでも良かったらしい。こくこくと無意識に頷いていて、了承してしまっていた。数秒後、慌てて気づくが後の祭り。啓介曰く、藤原拓海ベストショットの一枚は緒美の胸ポケットにしまわれる事となった。 過ぎたものはしょうがない。潔く諦めた写真であったが、こちらは諦めきれないと、啓介は緒美の肩をガシッと掴んで問いただした。 「つ、緒美………お前、今なんて………」 拓ちゃんとか言わなかったか……?と問えば、従姉妹の少女が面白そうに笑っている。その表情は涼介と似通っていて、近親者だと思わせるような笑顔だった。一見、クセがなさそうでおっとりとしている彼女こそ、高橋兄弟の二人が適わない存在のひとりである。その性格たるやマジで甘く見れば痛い目に合う事を予感させるものであった。 「ん?なに、啓兄ィ〜〜?」 「いや………お前……藤原拓海知ってるのか?」 ズバリ直球聞いてみました啓介君。 やっぱり自分には駆け引きは出来ないと、凄く自分の事をわかっている展開である。涼介だったらここで睨み合い、腹の探り合いがもたらされる。けれど単純思考の啓介にはそれは無理である。 この手の場合は聞いたもの勝ちだ。 優位に立とうとしなければ、素直に聞いた方が実に早いのである。 「知ってるよ」 「な、な、な、な〜〜〜〜〜〜!!」 「意外なところから関係者が出てきたな………」 驚くリアクションが大きい啓介とは対照的に涼介の驚きは目を見張っただけであった。 「知ってて当たり前だよ?だって、叔母様も伯父様も知ってるよ?」 爆弾投下。 啓介の混乱した絶叫がリビングに木霊した。
「それってどーゆーことか説明しやがれーーーーっ!!!」
もっともな言葉である。 だが、説明を聞いて更に叫ぶ事になろうとは、この時啓介にも涼介にも予想は出来なかったに違いない。
「だって拓ちゃんは、緒美の従兄弟だもん」
ひゅるり〜〜〜 リビングに季節外れの突風が吹き込んだ。 思わず無言の兄弟である。 説明を簡単に省略してくれた緒美は、のほほんと自分だけに注いだコーヒー(ミルクと砂糖半々以上の代物)を飲んで、空いているソファーに陣取っていた。
---メモ--- と、ここまで書いてみた。 続きは‥‥‥考えてません(苦笑)
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