物心つく前から、獣を調教するように 親の一存で撫でられ、殴られ“教育”されてきた。 体が病弱で、いつも母を困らせ、外で出会う子供たちは みんな私を傷だらけになるまで痛めつけ、無視し、否定の言葉を投げた。
「人の思い通りに動かねば酷い目にあう」 「私は皆に嫌われて当然の人間」 2つの擦り込みは、自分を殺すのに十分な理由だった。 毎日、毎日、何度自分を殺し続けてきたのだろう。 どんなに殺されても、消したと思っても 自分は死ななかった。暗闇の片隅、抑え込まれながら 健気に光を放っていた。本当に頭が下がるほどしぶとかった。
擦り込みが作った「世界」で生きていけるように 無数の心の傷口から、沢山の住人が私の中で生まれた。 指令を黙々とこなす、愚直な傭兵。 虚ろな快楽しか放てない幽霊。 堅牢な城に入り浸る孤独な女王。 否定をエサに絶望を育む堕天使。 群れることしか能がないネズミ。 独りよがりな分析で満足する、非情な魔女。 自分からは何をする気も無い、冷酷な庭師。 支配、搾取し悦楽に浸る将軍。
しかし住人は、「世界」で生きる私を守るために生まれた者。 私を守ることは、私が作った「世界」を守ることでもあった。 傷の痛みを、恨みを糧に叫び声をあげる住人たちは いつしか自分を生んだ傷を増幅させるようになる。 傷があるから、我々がいる。そして我々が新たな傷を作る。 だから循環させなくちゃ、でないと我々は消えてしまうから。
それを少しはなれたところで見つめる者がいた。 彼は、暗闇に押しつぶされた光が恋しくて仕方なかった。 会いたくて、触れたくて手を伸ばす。あの光に還りたい。 でも、住人たちが必死になって引き止める。 彼を守るために生まれてきたのに 彼の言うことを聞かなくなってしまった人形たち。 人形には、いつからか呪いがかかっていた。 彼は、人形たちの呪いを解くために日々奔走した。 毎日彼らの言い分に耳を傾けて、問い続けた。 「で、結局、本当は、どうして欲しいの?」
どのぐらい繰り返したろう。 長かったかもしれないし、短かったかもしれない。 彼は人形の本音に触れた。 「まだだ、まだ足りない。あの「世界」への復讐が足りない。 やってもやっても、まだ足りない。果てしない戦いなんだ」 本音に触れた途端、「世界」からも声がした。 「まだだ、まだ足りない。あの「世界」への復讐が足りない。 やってもやっても、まだ足りない。果てしない戦いなんだ」 その瞬間、彼の目は「世界」を見抜いた。
「もういいよ。十分だよ。もう復讐しなくていいんだよ」 そう言うと彼は、人形たちの目の前に立ちふさがっていた あるものをどけた。それは鏡だった。彼を中心にぐるりと囲む鏡だった。 人形たちは、居なくなった。 静かになった闇の中で、彼は一言お別れを告げた。 「今までずっと、ありがとう。大変な思いをさせてごめんね」
小さく押さえつけられた光が、一気にすべてを包み込んだ。 人形たちの魂も、彼らが必死に戦っていた「世界」も。 光は私を含むすべての存在を、やさしくなでて、愛でて、見守っている。
そう、それだけでいいんだ。 今のこの一瞬が存在している。それだけでいい。
私を28年間縛り続けていた呪いが、今日、やっと解けた。 生まれて今まで出会ったすべてのものに感謝します。
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