観能雑感
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| 2006年05月28日(日) |
宝生会 春の別会能 第2日 |
宝生会 春の別会能 第2日 宝生能楽堂 PM12:00〜
正に別会という大曲揃いの番組。しかし、何もそこまでという気がしないでもない。見所は思ったよりも空席が目立った。拘束時間の長さを考えると、躊躇したくなるのも無理はないという気がする。中正面後列正面席寄りに着席。 気力減退中であること、観賞する環境が良かったとは決して言えなかったこと等のため、ごく簡単な記述に止める。
能 『朝長』 シテ 小林 与志郎 従者 辰巳 満次郎 侍女 水上 優 ワキ 森 常好 ワキツレ 舘田 善博、則久 英志 アイ 大藏 千太郎 笛 中谷 明(森) 小鼓 亀井 俊一(幸) 大鼓 安福 光雄(高) 太鼓 助川 治(観) 地頭 近藤 乾之助
前シテの面は曲見だと思われる。前シテの長者とワキの僧はともに朝長に縁の者たちであるが、両者の心底に共有する想いというようなものが感じられなかった。地謡もバラつき気味で、謡の占める割合が高い曲ゆえ、訴求力ないまま終ってしまった感あり。後シテの面は十六。若い命を散らす悲劇の武者としては、なんとなく緊張感のない面に見えた。
狂言 『仁王』 シテ 大藏 吉次郎 アド 善竹 十郎、大藏 義教、宮本 昇、榎本 元、吉田 信海、善竹 大二郎、大藏 彌太郎
負けが込んで文無し状態の博打打ち二人が一計を案じ、一人が仁王に化け、もう一人が参拝者を呼び寄せ、その供物を騙し取ろうとするが、足の悪い男が備えた巨大な草鞋を契機に嘘が露見する。今回初見。 善竹十郎師が博打打ちの片割れで、参拝者を連れてくる。最初は「阿」の格好をしていたシテだが、いったん人々が去り、再び仁王に化ける時は『吽』の形を取っていた。まとまった時間同じ姿勢を崩せないので大変そう。上半身の周りに纏わせている白い布もきちんと用意してあって、これがあるのとないのとでは仁王らしさが全然違ってくるのではなかろうか。貧しく足の不自由な男が、供えた草鞋を返せと言ってシテを追いかけて終曲するのは、生活感に溢れており、狂言らしい。
仕舞 『俊成忠度』キリ 佐野 昇 『梅枝』クセ 大坪 喜美雄 『善知鳥』 金井 雄資
能 『大原御幸』 シテ 今井 泰男 法皇 今井 泰行 局 野月 聡 内侍 山内 崇生 ワキ 宝生 閑 大臣 工藤 和哉 輿舁 高井 松男、大日方 寛 アイ 善竹 富太郎 笛 藤田 大五郎(噌) 小鼓 鵜澤 速雄(大) 大鼓 安福 健雄(高) 地頭 三川 泉
後白河法皇が大原の建礼門院を尋ね、平家滅亡の様子を語らせる。今回初見。 法皇一行の道行はワキが謡うが、これが独特の節回しと閑師の力量で実によい風情。シテとシテツレの水衣と花帽子はそれぞれ色が異なる。作り物の中から現れたシテは、一瞬ではあるが建礼門院その人のように、若く、儚げに見えた。実際のところ、平家滅亡の有様を語るのは終盤で、そこに至るまでにかなり時間が費やされる。法皇はほとんと声を発しない役だが、鬘桶に腰掛けている姿そのものが一曲を構成する重要な要素になっている。シテと同格の役者が勤めるのが常だが、今回は役者不足の感が否めず。 地謡は、質という点では多くの美点を備えていつつも、量という点では物足りなく、囃子が入るとますます聞き取りづらくなる。謡中心の曲なので、十分に聞き取れないと残念ながらその良さをじっくり味わうには至らない。 シテ謡の後に入る大五郎師のアシライが、その場の空気とシテの心情を映すがごとく、ただただ見事だった。
仕舞 『杜若』キリ 亀井 保雄 『籠太鼓』 佐野 萌 『鵜之段』 近藤 乾之助
能 『邯鄲』 シテ 朝倉 俊樹 子方 前田 尚孝 ワキ 野口 敦弘 輿舁 井藤 鉄男、梅村 昌功 大臣 野口 能弘、吉田 祐一、野口 琢弘 アイ 大藏 基誠 笛 一噌 庸二(噌) 小鼓 大倉 源次郎(大) 大鼓 亀井 広忠(葛) 太鼓 金春 國和(春) 地頭 三川 淳雄
いかにも鬱屈しているといった様子のシテ。あれよあれよと言う間に皇帝に即位し、あっという間に在位50年。一畳台の上の楽で、背中を向けて座る型が、架空の宮殿を玉座からぼんやり眺めているようで、なかなか味わい深い。枕に飛び込む型は流儀としてはかなり大胆に行ったのではなかろうか。起された直後、ボーっとしつつも虚栄の空しさを実感し、仏道へ入ることを誓い故郷へ帰って行く姿は、自らに言い聞かせて迷いを断ち切ったように見えた。 いつものことながら、演技者として見ると、子方の様子は残念ながら嘆息をつきたくなる。地謡は三番中もっとも言葉が聴きとり易かった。宝生流の現行に置ける美点と音量としての太さ、言語の明晰さとの接点を、妥協することなく模索していってもらいたいと、観客としてはそう思う。
隣の席の高齢男性はすぐ隣の同門、同年輩の男性に演能中に話しかける。どうも思ったことを口に出さずにはいられないらしい。突発的なので苦情を言うタイミングがまったくつかめず。お調べの最中と、曲が終了はしたが、これから役者達が退場するというところは躊躇なくしゃべりまくり。膝の上の紙袋を抱えあげるたび、ガサガサと耳障りな音が響く。退屈したのか手足で拍子を取ることもあり。拘束時間6時間30分の間、この状態にさらされるのはかなりのストレス。相変らず携帯電話を鳴らす輩もいて、退席後、ドアを音高く鳴らして再び入場。あああ。 能楽堂では静かに観るというあたりまえの環境を手にいられる事の方が稀少であるようだ。
こぎつね丸
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