観能雑感
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2006年04月08日(土) NHK交響楽団定期演奏会

NHK交響楽団定期演奏会 N響創立80周年記念 NHKホール PM6:00〜

 以前から聴いてみたかった演奏機会の少ない大曲。指揮はデュトワ。行くしかない。
 眼は相変らず。花粉症から副鼻腔炎を起したりでいろいろ不調。まあ、だいだいいつもこんな感じではあるが。毎度の事ながら、渋谷の雑踏を抜けてNHKホールへ到達するまでが面倒。
 開演前の室内楽はモーツァルトのホルン五重奏曲。なかなか思い切った選曲であるが、やはりホルンは難しい。
 C席の3階中央に着席。

ベルリオーズ/劇的物語「ファウストの劫罰」 作品24

指揮 シャルル・デュトワ
マルガレーテ ルクサンドラ・ドノーゼ(メゾ・ソプラノ)
ファウスト ジャン・ピエール・フルラン(テノール)
メフィスト サー・フィラード・ホワイト(バス・バリトン)
ブランダー 佐藤 泰弘(バス)
ソプラノ 天羽 明恵
合唱 二期会合唱団、東京少年少女合唱隊
合唱指揮 佐藤 宏、長谷川 冴子
コンサートマスター 篠崎 史紀

 ゲーテの「ファウスト」を題材にしつつ、ベルリーズ自身の創作も加えて作曲された、オペラとも交響詩とも異なる、いわば音楽劇のような作品。全26曲4部構成。演奏時間2時間。合唱団、オーケストラを背後に各役の歌手がソロを勤める。オケの配置は第一ヴァイオリンにチェロが対向する形。
 作品の存在は知りつつも、今回漸く聴く機会を得た。事前に聴いておくのが常だが、3月末まで落ち着かなかったので、単独で演奏される「ハンガリー行進曲」を除いては、文字通り初めて耳にする。そういう楽しみ方もまたよしである。
 デュトワの指揮で、輪郭のくっきりした、深みのある音を奏でたN響。最後まで充実した緻密な演奏だったと思う。その重要性にもかかわらず、あまり目立たないヴィオラだが、この作品ではマルグレーテの歌う「トゥーレの王」でヴァイオリンが全く演奏されず、珍しくヴィオラのソロが入る。昨年読売日本交響楽団から移籍してきた主席奏者の演奏が素晴らしく、全曲終了後、通常ならば指揮者は、コンサートマスターやソリストとまず握手をするが、今回デュトワは真先に彼と握手をした(握手はその後もう一度行われた)。
 各役のソリストも充実していて、特にマルガレーテ役の深くて光沢のある声と力強い歌唱が印象的。否応なく愛の渦に巻き込まれつつも、凛然とした様子を保ち続ける魅力的な女性像だった。合唱は特に男性合唱が効果的に使われていて、酒場の猥雑さや、夜の街に繰り出す兵士達のやや下卑た開放感が重厚に迫ってきた。
 第4部はほとんどベルリーズ独自の展開を見せ、母親殺しの罪で処刑されようとしているマルガレーテを救おうと、メフィストの駆る馬に乗り急ぐファウストだが、結局間に合わず、魂を与える契約をしてしまった彼はそのまま地獄行き。メフィストの手腕を讃える悪魔達の歓声に迎えられる。一方、マルグレーテは天上からの声に従い、昇天する。自ら望んでメフィストファレスの策略に飛び込んだファウストと、あくまで犠牲者であるマルグレーテの差が、ここに出たのであろうか。
 情景の描写といいうよりは、各場面の空気を描き出すという態であり、地獄行きの疾走感と、とうとうメフィストファレスの罠に落ちたことが明らかになった瞬間の急直下感は、ベルリオーズならではのもの。彼の音楽には、常に奥底に不安の影が潜んでいる。そんなところが、魅力のひとつである。
 期待以上の良い演奏だった。いつもこうだと嬉しいが、なかなかそうも行かないのだろう。体調の関係から、否応なく眠気に襲われてしまったのが残念だった。


こぎつね丸