出向コージ苑

2004年10月24日(日) 赤いジゼル

ボリス・エイフマン。
クラシック主流のロシアで、
モダン・バレエのカンパニーを主宰する名振付師である。
クラシックを素材にした創作バレエが特に有名で、
今回その一つである「赤いジゼル」が来スロした。

この作品でエイフマンは、
オリガ・スペシーフツェワというダンサーの生涯をモデルにしている。
19世紀末に生まれた彼女は、
共産主義の嵐が吹き荒れるロシアを去り、
パリに亡命した後に「ジゼル」を西側に広めた。
バレエの中で描かれる一ダンサーの半生は、
観ているこちらに生々しく伝わってくるものだった。

※※※※※

第一幕は、主人公のロシア時代。
バレエ学校で抜きん出た技量を持つ彼女を、
「教師」は慈しみ育てる。
公演も成功し、ダンサーとしての道を歩み始める彼女の前に、
チェキストが姿を現す。
抗いながらも、彼に翻弄されてゆく主人公。
「教師」は彼女を取り戻そうとするが、
時代はそれを許さなかった。

共産主義下で踊る彼女であるが、
そこに踊る喜びはなく、苦悩が深まる。
そしてついに、彼女は亡命を決意する。
彼女を愛するチェキストを振り切って、
亡命する人々の列に加わる彼女の様子は、
後ろ髪をひかれつつ、という感じに演出されていた。

第二幕。パリ。
主人公は、ここで所属したバレエ団でのパートナーに心惹かれるが、
彼は同性愛者であり、
それに応えることができなかった。
満たされない想いを抱え、
次第に虚無感にとらわれる彼女は、
しばしばソビエトの幻想を見るようになる。
例えば社交クラブで踊っている時、
チェキストの姿が目の前に現れる。
彼女は段々と、赤い影に悩まされるようになる。

最終幕は、「ジゼル」と重ねて演出される。
精神を病み、病院に連れて行かれた彼女を見て、
パートナーは心を痛め、彼女の元へ行く。
愛する彼と二人で踊り、
主人公は一瞬、現実の世界に戻ったかに見えたが、
赤い幻想が彼女を解放することはなかった。

最終シーンでは、舞台上に鏡が据えられ、
その一つの中に、彼女は入ってゆく。
裏側から観客の方を見ながら消えていった彼女は、
自分だけの閉じられた世界に入っていったのかもしれない。

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はい、正直コージ苑ぞっとしました。
ダンサーの「狂気」に、というよりも、
一人の人間をそこまでがんじ絡めにしてしまった「時代」に。

技術的なことを言えば、
照明がえらく印象的で、
ダンサーの表情、音楽などと相まって、
しばらくは頭の中に残りそうである。


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