| 逃亡 |
薄暗い天井を見上げていると、あの女の顔が浮かんでくる。
悔しかった。 幼いころから忍びになるべく修行を積んできたのだ。 父も母も厳しかったが、 かげでは出来のいい息子だと褒めているのも知っていた。 だからこそその言葉を裏切らぬよう、両親を幻滅させぬよう、 一層努力してきたのだ。 そうしてようやくひとり立ちしていくつかの仕事をこなして、 もう一人前だと自負していた。自信があった。
それなのに。
あんな女一匹で。
ズキリと傷がうずいた。
動揺して、遁走を誤って、がむしゃらに逃げ出した。 普段なら絶対に受けない傷を受けた。 とんだ失態である。 そのうえその失態をあろうことか自ら進んで土井半助にさらしている。
(仕方なかったんだ。消去法でいくとここしか残らなかったから。)
人を殺し、恐くなって仕事を放り、逃げ出した。 そのうえ動揺して無駄な傷を負った。 そんな姿を両親には見せたくなかった。
さすが我が子だと、仕事を終えるたびに微笑んでくれる母には会えない。 「やはりまだ半人前だ」と父に言われるのが酷くおそろしかった。
痛みと寒さで朦朧とした頭に浮かんだのは、 幼い自分に、 「一度、遊びにおいで」 そう微笑んだ父の同僚の顔だった。
父上に告げ口せぬよう釘を刺しておかなければ。
閉じていたまぶたを開いた瞬間、視界一杯に半助の顔があった。
「……!」
「やあ。傷はどうだ?痛むか?」 言いながら額に濡れた手ぬぐいが乗せられた。 冷たい布でまたもや視界がふさがれ、言葉をなくす。
「あんまり考え込むなよ。熱が上がるぞ」
「…土井先生。どうか父にはこの事は内密に」
「そういうわけにもいかんだろう。 君は山田先生の息子さんなんだし、私は山田先生の同僚なんだから」
「お願いします。このことだけは」 半助の浴衣のすそを震える指先で握り締め、 手ぬぐいをはずして半助を仰ぎ見る。
「…どっちにしてもこんな病人を置いて外に出るわけにはいかんだろう。 とにかく今は休みなさい。体を治すのが先だ」
言い置いて、半助は外れた手ぬぐいを元の位置に直した。
利吉は泣きたかった。 幼い頃からこの男にだけは負けたくなかった。 父の隣に立つのは自分だけだと、 こんなやつ、すぐに追い越してやると。 やっと追いついたと思ったのに。 背中に指が届いたと思ったのに。 背が伸びて、半助と同じ高さでものが見えるようになって。
そうして本当の距離がわかってしまった。
自分は、酷く幼い。
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こんばんは。 台風とか地震とか日本えらいこっちゃ。 ちびりながらも乗り越えましたが、皆様ご無事でしょうか… 被害にあわれた方、心からお見舞い申し上げます。
文。つづいてんのかつづいてねえのか、逃避してます。 心が不安定なのでちょみっと変な展開になってきてて一体。 当初自分は何を書きたかったのやら。あらあら。
どうしよう。原稿間に合わなかったらどうしよう。 そんな心の奥深くにある不安と戦いつづけていると、 なんかちょびっと自分のことが心配になるんですよ。なりませんか。 そんなこといってる間になんか書けばいいんだけどね!
さー、描くかー。
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2004年09月09日(木)
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