恋愛日記



 犠牲。





―レストリクション―




「あたし、あんたがいないと死んじゃう」
 良くそんな台詞が言えたもんだと、あからさまに厭な顔をして地面の石を蹴った。
 雪が降るんじゃあないかと勘繰る程、気色が悪い。一度そう思うと本当に背筋に寒気が走ったから、さっき蹴り付けたばかりのコンクリの地面に煙草を捨てると、眉間に皺を寄せながら、火と一緒に気分の悪さも消えてしまえとばかりに力を入れて踏み躙った。
 別に地面には何一つ汚点等無いのだが、彼の虫の居所が悪いだけという大層理不尽な理由の所為で何度も踵で叩かれる。
「莫迦な事言ってんじゃねェ」
「本気なんだけどな」
 予想だにしなかった女の即答さに一瞬気を取られて、煙草の箱を落とした。
「今日、中学校の男友達に会った」
「は?今日ってお前、精神病院行ったつってたじゃねえかよ」
「だから、行ったんやて」
 ああ、そういう事か。
「其処で会った」
 女が言う『トモダチ』は、第一印象からして繊細そうな奴だった。体の線も細いのに、テニスをやっているらしい。不向きな体格だと思ったから、きっと彼の性格からして並々ならぬ努力ではなく、常人離れした才能があったのだろう。
 テニスはとてもメンタル部分に左右されるスポーツであるから、勝手に精神力があるというイメージを抱いていた。
 そんなトモダチが精神科通いとは。
 鳩に豆鉄砲を喰らった気分だった。
「そんで面白い話聞いたの」
 隣で自販機に寄り掛かりながら笑うコイツも、精神を病んでいる等とは一見誰にも判らない。否、悟られないようにしているのだ。そうやって変な所にばかり気を使うから一向に治らないのだと言われているのに。
「その子んとこの部活ね、毎週水曜日が定休なんだって。だからその日はカウンセリングに行くっちゅう名目で家出てるのに、訪れる先はあらビックリ。」
 目の前の道路を横切る車の走行音が煩くて、言葉を切った。
「キャバ嬢の家に通ってる」
 お前の口から発せられる言葉は、大体予想が付いてた。けど其の視線だけで人をも殺せそうな強い眼差しは予想出来なかったから、無性にその瞳の色に腹が立って、早くこの話を終らせてしまいたかった。
 俺の独占欲が、疼く。
「いっそ奪っちまえば?」
「阿呆〜。」

 彼はあたしの気持ちを知っていながら残酷な言葉を吐く。あたしも彼を焦らすように男友達の話題を執拗な迄にする。恋の駆け引きと言うオトナな物じゃなくて、もっとコドモな片意地の張り合いだと知っていながら、それを続けるあたし達は愚かだ。
 それに傷付いたら負け。
 それに逆上したら負け。
 けど過去に、ギリギリに保っていた精神力はぷつりと途切れて、あたしは壊れた。彼はそれを自分の所為だと負い目を持ち、自分といてくれるのか。
 あたしの左手に、消えぬ傷痕が残っているから。
 そんな不戯けた理由だとしたら、迷わずコイツをめちゃめちゃにしてやるんだと。そう、腹の底で決めている。
「そこらのカウンセラー相手よりもよっぽどいいんじゃない。・・・そんなん判ってるんだけど、」
 毒々しい迄の繁華街のネオンがあたしを照らす。


「人が壊れんの間近で見んのは、楽しいよねェ」



 自嘲的な迄の加虐心を剥き出しにした笑みを浮かべて語る其れは、壮絶な凄みを感じられた。
 その言葉は俺に向けられているようにしか聞こえない。
「一生言ってろ」
「そうするわ」
「しゃらくせェ」
 もう何も失いたくは無い。もう俺の手の内から消えて逝く所なぞ見たくは無い。
 あんな思いは二度と御免だ。
 行き成り、坂の中腹で放り出される様な、何処からとも無く溢れる孤独と、忙しなく駆り立てる焦燥感が、今でも身震いを起こす程鮮明に思い出される。
 自分でもうざったく感じる高慢さは、寂しさの裏返し。
 傍若無人に振舞って、周りのモノと壁一枚隔てて。誰も近寄れないようにこのプライドでカバーする。
 コイツ以外は、誰も。 
「ねェ」
 鼻先を下卑た香水の匂いが掠める。如何にも誘っている感が否めない、魅惑なおネェ様方の群れが通り過ぎると、俺の視界は彼女で埋め尽くされた。
「あたしが死んだらどうする?」
「お前な・・・」
 ひゅっと喉を鳴らして息を吸い込むと、ありったけの感情を向けて睨んだ。
「俺がいないと死ぬんだろ?だったら死なねぇよ」
「あぁ・・・!そうだったね」
 コーヒーを飲み干し、最早塵以外の何物でも無い缶を弄っていた手を止めると、虚空に向かって嘲笑った。
 先刻言っていたばかりの自分の発言に驚いているらしい。いや、俺の視線を感じた後に発せられるとは決して考えられまい、普段より幾分か柔らかい含みを持たせた俺の言葉に、だろうか。
「・・・今のって、もしかしなくても告白?」
「いっぺん死んどけ」
 瞼を閉じて、再び煙草の主流煙を吸い込もうとすると女の右手で其れは奪われ、我武者羅に口付けられた。
 コイツのキスは、いつも突然で、獣染みている。


手に負えない?手に余る?
んなこと言う奴いたら殴ってやる。
何一つ逃しはしない。
お前の全てを受け止める。

だからホラ、
今は只。


「・・・俺より先に、死ぬなよ。」
 口唇が離れる瞬間に、声を出さずに呟いた。




【END】


***独り言***
本日晴れて留年決定!イェイ!!(死)イェイじゃ無いよ…ダメじゃん…。
って事で(?)明日は色々と更新すると思います。
ホントに私、ネット無かったら自我保てないヨ…。

ってかMY設定多くてスミマセン。誰でも病気にさせればイイってもんじゃないです。
病み味になってどうしようって感じなんですが、こんな感じでだらだら書いてくと思います。
連載じゃなくて、短編でぽつりぽつりと。

では、ハピィバレンタイン。


2002年02月14日(木)



 疵。

―疵―


口という名の蛇口から出る言葉の水は、カルキ臭くて飲めた物じゃあない。長い間使用せずに放っておいたものだから、とうに錆びてしまっていたのだ。
 見た目で判断出来る程に、濁り切った言葉を私の正面に只ずっと座って黙っている父はどう消化しているのだろうか。
 どうせ私に似て、その言葉も胃の中で暴れまくっているに違いないと、ひとつひとつ畳の目を数えて俯いていた顔を上げ、ふと考えた。
 昔から、言葉で何かを表現するというのは苦手だったから。
 だからこの言葉は、きっと父とは周波数が合わなくて、雑音交じりにしか受信されていないのだと思った。
 なのに、
「もう、話す事は有りませんので」
 と、他人行儀に言われた事が悲しくて。悔しくもひとつ、真新しい碧い畳の上にじんわりと歪な染みを作った。
 噛み締めた唇が、痛かった。



2002年02月17日(日)



 一人。


外に出てません。

凄く、気怠い。
寝台と背中がくっつきそうです。
MDプレーヤーの音量を最大にして、ヘッドフォンから漏れる音に注意もされず、日に日に枕元に本が積み重なっていきます。
余り喰べてないから痩せんのは嬉しいんだけど、体力無くなってくのが判るのが辛い。

級友から掛かってくる電話が嬉しい反面悲しくて。
情けないなぁ。
あたし学校行けんのかなぁ。




いろんな意味で、凄く寂しい。


2002年02月21日(木)



 限界。







「GAME OVER 薬切れ。」







2002年02月24日(日)



 会話。


「箱庭療法ってあるデショ?」
「あぁ、精神病患者に箱庭創らせて精神の安定を計るとかどうとか・・・ってヤツだっけ?」
「そう。」
「それが?」
「俺にとって此れやってる理由って其れに近いかも。ニアリィイクウォール。」
「完成したらどうすんの。」
「絶対的な完成って無いっしょ。」
「けど、」
「けど?」
「一段落付いたら・・・辞めるかも」
「何に」
「病気に。」
「付かないよ、お前の病気に一段落なんて。」
「何でそう言い切るワケ?」
「さぁ」
「嗚呼、寝ている間に死ねたら愉いのに」
「絶対お前の葬式なんか行かねぇ」
「・・・言うと思った」


2002年02月25日(月)



 熱。

脳が融ける程熱を帯びた愛情を
心に抱える僕を、
貴方は受け止めてくれるのか。

僕はただ、
ただ愛しい。



昨年単位をモロに落として留年決定。よって8日に学校へ行き、9日は入学式でオヤスミ。今日(っつっても今AM5:40なんですが)から新しいクラスメイツとの生活が始まるわけです。
初顔合わせです。
ロッカーの場所も机の場所も(一番後ろ)解かっているので不自由はないですし。
上の学年の友人は充分いるし。

気楽に行きます。
もう学年1位とろうなんてこたぁ考えません(笑)
遅刻も前みたくガンガンします。だって私がHR前に教室いるのなんて考えられない。
ようは進級さえ出来ればいーんです。


2002年04月10日(水)



 求。

こう、
しとしとと靜かに雨が降れば。
左手首の、
疵が疼く。




2日連続で学校をサボってるあたし。
もう最悪ですな。
何で留年してるってだけで引くかな?!(あたしが悪いんですが)
「オスカー気分満喫〜♪」なんて言ってる状況じゃ無い。
しかもそれに便乗して風邪菌とモノモライ菌があたしを侵食し、今死に際に立ってます。この土・日で何処まで回復するか。
授業入っちゃったら彼女等と関わらなくて良い。
このまま放って置いてくれるなら結構。


2002年04月13日(土)
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