ライフ・ストーリー

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2004年09月15日(水) この場所

この場所をほったらかしにしてあった間に「日々雑感」のページは自然消滅してしまった。

何事も準備の悪いわたしのことだから、バックアップもとっていなくて、「ちょっと惜しかったなあ」と思ってみたところで今更どうしようもない。思い入れの強いサイトだったけれど、消えてしまうとかえって潔い気さえしてくるから不思議。また新たな日々を綴っていけばいいということだろう。

涼やかに晴れたきょうは、頼まれていた油絵の6号キャンバスを買いに隣町まで出かけてみた。あいにく目的の画材屋さんは定休日。こんなところも準備が悪い。トホホ。

仕方がないので、週末にある小さな出版社のパーティに着ていくための服をさがす。一昨日、友人のI女史からお誘いがあったのだ。しばらくこういうことから遠ざかっていたので、そんな場所へ着ていく服がない。毎日なにげなく過ぎていくようで、実はそれなりにいそがしくもあった。もちろん仕事をしていた頃にくらべれば、はるかに限りなく時間はあるのだが。

ショウウインドウに並んだディティールにまで凝ったデザインの美しいシャツに惹かれて初めての店に入ると、店員さんがそれはそれは丁寧に応対してくれる。彼女は今しっかりと自分の仕事をしているのだ。すすめられて、わたしにしてはフェミニンなカシュクールのブラウスとパールを花のようにあしらったブローチを選ぶ。そしてきれいに包装された服を受け取り、笑顔で会釈して店を出る。

わたしは仕事をしている人が好きだ。だから仕事をしている人たちとずっと触れ合っていきたい。そんなとき、仕事をしていないわたしは独りだけどこか別な場所にとり遺されているような気持ちになる。そんな自分がどうしようもなく恥ずかしくもなる。そして、この恥ずかしさを忘れないようにしよう、と思う。

いつかこの場所にもどれるまで、忘れないようにしよう。
  
  

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2004年09月13日(月) 旅の色

 緑の樹々ばかりを眺めてすごした旅だった。

旅には色がある。碧い海や蒼い空を見てすごしたなら青い旅。紅葉や朱い夕陽が印象に残ったら、それは赤い旅だと言えるだろう。そういう意味では、今回の旅の色はみどりだった。

車窓から流れるような緑を眺め、ときに立ちはだかるような樹木を見あげ、翠の草につつまれて、大きく深呼吸をしてきた。

深呼吸をすることがわたしの旅の目的だ。
深呼吸をすれば、わたしのこころとからだは水をもらった植物のように活性化する。

今でも少し残してあるけれど、この日記にはよく旅のことを綴ってきた。それぞれの旅にはその時々で自分なりに感じた色があった。

そして文章を綴るのも小さな旅だ。これからどんなことを書こうか、何についてどんな風に書こうか、と模索しながらたどる旅。だから文章にも色がある。この日記にはどんな色が着いていくのだろう。そう想いながら今この日記を書いている。


一部の方にはご心配いただいたようだけれど、基本的にわたしは平和に暮らせていると思う。先日書いたようにひとりですごす時間は多い。それにはこのマンションは広過ぎだとは感じるが、ひとりですごす時間は好きだし、大切にもしたい。何より、好きな本がたくさん読める。

夫の食事を作らなくていい日は、大好きなアイスクリームを主食にすることができるし、何時間もバスタブのお湯に浸かっていられる。わたしにとってこのふたつのことは、このうえないしあわせだ。

しかしおそらくひとなみに、暮らす上で大変なこともいろいろある。
深夜の青山ブックセンターに駆けこみたくなるときだって、たまにはある(深夜のブックセンターにはそういう人たちがたくさん居る。――ああ、今はそれもできないのかな? )。

だって、生きるって、そういうことでしょう?



- * -

旅の疲れのせいで、とりとめもないことをつづってしまった。
くちなおしに
昔のように一篇の詩をどうぞ。

- * -


 「火と藍 XXXV」

 誰とも口をききたくないけど
 私のこと聞いて欲しい
 誰とも口をききたくないけど
 誰かの傍に居たい
 誰とも口をききたくないけど
 知らない人から手紙が何通も欲しい
 誰とも口をききたくないけど
 物言わぬ唇と一緒になって
 旅する空想をする


   /中江俊夫『昭和文学全集第35巻』(小学館)より



 ☆中江俊夫さんは1933(昭和8)年福岡県久留米市生まれ。
  高校時代に詩人の永瀬清子と出逢い、詩を書きはじめます。
  昭和27年関西大学文学部在学中に第1詩集『魚のなかの時間』
  を自費出版。第3次「荒地」(年刊アンソロジー)同人。
  昭和29年に荒地詩人賞、39年に中部詩人賞を受賞。
  『語彙集』(思潮社)で第3回高見順賞受賞。
  主な作品は『暗星のうた』(的場書房)、『沈黙の星のうえで』
  (宇宙時代社)、『不作法者』(思潮社)、『就航者たち』
  (詩学社)など。




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2004年09月09日(木) ライフ・ストーリー

  
旅行カバンをひろげて着替えを詰め込みながら、ふと思うところあって日記を書いてみることにした。

書く仕事からずいぶん長く遠ざかっているので、文章というものが書けるかどうか、かなり怪しい。その間ほったらかしにしてあった日記。読んでいるひともいないだろう(と思う)。

その間、何をやっていたかというと、学者の妻をやっていた。というか、今もやっているのでこれは現在進行形。学者さん(自分の夫に「さん」をつけるのはどうかと思うが、この呼び方がいちばんしっくりくるので勘弁)は、一月の半分は研究室に泊まるか海外(または国内)に出張していていない。ゆえにひとりで過ごす時間も多い。

だからわたしには仕事をつづけるという選択肢もあったはずだが、以前のように締切が厳しい仕事では、忙しい時期が重なると悲惨なすれ違い生活になってしまう。これは避けたかった(学者さんはわたしが仕事をつづけることを応援してくれていたけれど、不器用で体力のないわたしにはそれができなかったという理由もある)。

というわけで妻をやっている。しかし妻というのもなかなか大変。このことについてはおいおい書いていくことにして、まずは明日からの旅の準備にもどらなければ。その前に、ご無沙汰した方々が読んでくださっているかもしれないので。


わたしは元気でやっています。
期間限定(寒くなる前まで)で日記を復活することにしました。
ついでに日記名も変えました。
日記名は大岡 信さんの詩から引きました。


- * -


 「ライフ・ストーリー」

 一羽でも宇宙を満たす鳥の声
 
 二羽でも宇宙に充満する鳥の静寂
 
 
    /大岡 信(1931-)『草府にて』(思潮社)より
  
  


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夏音 |MAILMy追加