ライフ・ストーリー
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帰国してからも旅行つづきの日々です。 3連休は信州へ行っていました。
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奥信濃にある飯山市を初めて訪ねてみた。
目の前に広がる風景のなかの緑の多さと、透きとおった空気を運ぶ涼やかな風。千曲川が曲線を描きながらゆったりと緑の地平を流れている。新潟に入れば、この日本一長い川は「信濃川」と名前を変える。
飯山は信仰深い寺町。映画『阿弥陀堂だより』(2002年小泉堯史監督作品)の舞台にもなった。
『阿弥陀堂だより』は、東京から信州に戻ってきた売れない小説家の夫(寺尾聰)と、医師でこころの病をかかえる妻(樋口可南子)の一組の夫婦と、飯山に住む人々とのこころの交流を描いた静かな物語。好きな映画のひとつ。原作は芥川賞作家である南木佳士(なぎけいし)氏の同名小説。南木氏は現在も長野県で医師をしながら、新しい作品を生みつづけている。
ロケ地を訪ねてみる。バス停・富田入り口から途中まで車でのぼり、美しい棚田を左に見ながら三十三所観世音の石仏が両脇をまもる小径を阿弥陀堂まで歩く。急な勾配に息が切れる。阿弥陀堂は映画のままの姿。茅葺きの屋根、古びた壁板。趣のあるお堂だ。
障子が開け放たれた縁側には、映画の中で阿弥陀堂をおまもりする役の「おうめさん」そっくりの老婆が腰を曲げて座っていた。思わず本物かと、胸が熱くなるが、観光客の方だった。それにしても映画の「おうめさん」そっくりの服を身に着けられている。もんぺ姿。映画の衣裳はおうめ役の北林谷栄さんの自前のもので、地方のお年寄りからわけてもらった衣服だそうだ。
阿弥陀堂の縁側に座る。「おうめさん」の「山、きれーに晴れてきた」という台詞とともに銀幕に映るロケーションとおなじ景色が目の前に広がっている。遠くに連なる山々、その手前、視界の真ん中をきらきらと蛇行しながら流れていく美しい千曲川、青く澄みわたった空。夢のような景色。
映画は、この美しい奥信濃の四季を効果的に映していた。 菜の花の咲く川原、蛍が飛び交う奥志賀高原、秋の夕日に照らされる棚田、雪の綿帽子をかぶった阿弥陀堂。
「春、夏、秋、冬。 はっきりしてきた山と里との境が少しずつ消えてゆき、 一年がめぐります。 人の一生とおなじなのだと、 この歳にしてしみじみ気がつきました。」
/「阿弥陀堂だより」(おうめさんの言葉を書きとめたコラム)より
主人公夫婦は、この景色や人々と出逢うために、都会のすべてと別れてきた。
おなじ場所でおなじ景色を見ながら様々なことを想う。
ほんとうに、 季節が移るように、ひとの季節も移っていく。 出逢いと別れをくり返しながら…。 これから先、どんなひとや景色とどれだけ出逢えるか、 それが新しい旅立ちの意味だと知ったら、別れの辛さも薄らいでいく。 貴女の旅立ちに祝福を。
| 2003年06月28日(土) |
オペラ座とゲーテハウス |
昨日は一日ミュンヘンへ行っていた。ドイツでも南の端にあたる街。陽射しが強くそれはそれは暑かった。
きょうはフランクフルトへ移動。ホテルも移る。
エルランゲンのホテルの朝食は充実していて捨てがたい。パンだけでも何種類もあったし、ハム、チーズは食べきれないほど種類が豊富だった。毎日グリルのメニューが変わり、フランケン地方の料理が楽しめた。飲み物もイングリッシュティーからトルココーヒーまでなんでも揃い、デザートはフルーツからケーキまである。いままで宿泊したドイツのホテルのなかでも1、2を争う充実した朝食を出すホテルだった。
昨日ミュンヘンから戻ったら、部屋のベッドがウォーターベッドに変わっていて、コンシェルジュが「あなたはこのベッドの初めてのゲスト」だと楽しそうに言った。確かにウォーターベッドの寝心地は涼しくて快適。そのベッドにきょうは彼が寝るそうだ。いい夜を。
エルランゲンは、初めて駅に降りたときに田舎なのだろうと勝手に思い込んでいたが、エルランゲン市街は隣の駅に当たるらしい。バンベルクへ行くときに通った。けっこう大きな街だった。
そのエルランゲンを離れてフランクフルトへ。 きょうのフランクフルトは日本の気候のように蒸し暑い。市街のホテルにチェックインする。部屋は5階にあり、エルランゲンのホテルほどではないが、けっこう広くてバスタブもある。ただし、ここにはビデはなく、洗面台はひとつだ。部屋の目の前がホテルの中庭になっていて木立に囲まれているため、ここでもまた美しい鳥の声が聞こえる。なんという鳥だろうか。よく徹る声だ。
歩いて街中へ出て、30日の夜の歌劇『椿姫』のチケットをとるためにフランクフルト・オペラ座へ向かう。運のいいことにまだいい席が残っていた。2階の前方だ。ここは新しいオペラ座。パリのオペラ座を手本に造られた華麗なルネサンス様式の旧オペラ座とは、少し離れた所に建てられた現代的な造りのオペラ座だ。旧オペラ座では現在オペラは開演されていない。
きょうはこの街のカーニバルらしい。トラム(路面電車)は一部の区間しか運行しておらず、歩行者のために空けられた道は人であふれている。賑やかな街を散策する。土曜日は店や博物館が早く閉まってしまうので、Domや黄色いゲーテハウスは外から眺めるだけになった。ここはゲーテが『詩と真実』に書いた家。今は入れない屋根裏や地下室は、彼が子供のころにいろいろな儀式を行った場所だ。ちょっと覗いて、当時のゲーテの姿をそこに重ねてみたかった。
歩きまわってお腹が空いたので、いまやドイツ名物になったケバブを買って食べる。肉と野菜のボリュームがすごくて、すぐにお腹がいっぱいになった。
| 2003年06月26日(木) |
バンベルクの騎士と天使の足 |
ヨーロッパの6月は1年のなかでいちばんいい季節。
梅雨はなく、いろんな花々が咲き、赤や青のベリーが実をつけ、各地でカーニバルが行われるさわやかな季節。
本来ならそうなのだろうけれど、今年のドイツは違っているらしい。到着した日に連絡を入れて、きょう会うことになったバンベルクに住む友人のシュトラウス夫人はそう言っていた。
今年は異常気象で5月から気温が上がり、もう6週間も雨が降らないカラカラ天気がつづいているのだそう。おかげで夫人宅のさくらんぼの樹は、夫妻がクロアチアにバカンスに出かけている間に、果実は赤をとおり越してまっ黒になってしまった。「去年はパーフェクトだったのに…」と残念そうだ。
広くて手入れの行きとどいたシュトラウス家のガーデンのさくらんぼの樹の下に長椅子をおいて、わたしは昼寝をさせてもらった。そのあと緑茶と夕食をご馳走になる。お礼にお土産に持ってきていた簡易ゆかたと巾着、それに扇子を渡した。
朝、エルランゲンからバンベルク中央駅まで汽車で移動して、シュトラウス夫妻宅を訪問する前に、懐かしいバンベルクの街を歩いてみた。2年前にも歩いた街。広場に立つ市、土産物のお店、ガラスの工芸店、宝石店、それにレーグニッツ川に架かる橋の上に建てられ、壁面に美しいフレスコ画が描かれている旧市庁舎の中を通り抜ける。ここはわたしのお気に入りの場所。何が楽しいかと言えば、フレスコ画から彫刻として立体的に川に飛び出している「天使の足」がなんとも愛嬌があって最高にかわいらしい。18世紀ロココ調の芸術。
大聖堂(Dom)で、13世紀初めに作られた中世の理想の騎士像である「バンベルガー・ライター(バンベルクの騎士)」の像を見上げていたら、日本人の団体と遇った。モノトーン好きのヨーロッパ人に比べて、日本の人々はカラフルな服装を身に着けているので、それなりに目立つ。2年前にわたしも見学した古い宮殿とミュージアムを見学してDomまで巡って来たのだろう。今回の旅では日本人にほとんど遇っていない。それだけ海外に出ている人が少ないようだ。
バンベルクはほんとうに美しい街だ。ニュルンベルクとならんで古城街道に位置する街には、レーグニッツ川と大きな運河マイン・ドナウ・カナルが流れていて、川遊覧が楽しめる。レーグニッツ川沿いにはオレンジの高屋根、白い壁に窓木枠が美しいたくさんの採光窓を持つ独特の家屋、それぞれの窓には花、バルコニーにも色とりどりの花が揺れるロマンチックな往時の漁師たちの家が並んでいる。ここは「小さなヴェニス」と呼ばれるドイツの世界遺産。
懐かしい場所を巡りながら、Dom広場の下のガラス工芸店で馬の絵のステンドグラスを買う。前回寄ったときは鳥のステンドグラスを買ったのだった。今度はみどりの草原に立つ鹿毛の精悍な馬。75ユーロ(1万円くらい)。
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