即興詩置き場。

2005年08月31日(水) 傘と白い手



長雨の続く夕刻の水溜まりに影が映ることは
ない。泥水のように濁るわけでもなく、清水
のように色も無くすべてを透過するわけでも
なく、それは雨水と呼ばれるものと酷似して
いる。事実、それは雨水と呼ばれても遜色が
ないのかもしれないし、誰もがそれを雨水と
呼ぶのだろう。

雨は遥かな高みから傘に激突してくるが、そ
の軽さゆえに重力の力を借りても傘を突き破
ることはない。ただ、音だけを残して雨は傘
に敗れ去っていく。雨の望むと望まざるにか
かわらずそれは決定づけられていて、運命と
呼んでもさしつかえないものだけが残る。

いくつかの水溜まりのひとつには必ず、細く
白い手が無数に伸びている。アルビノのミミ
ズのようなその白い手は何か、目の代わりの
ような器官を使って周囲を感知しているらし
く、通り過ぎる人々の膝をめがけて突進を繰
り返す。その試みのほとんどは失敗に終わる
が、時折、遠ざかっていく人の速度に合わせ
てするすると伸びていく手も見える。

雨は水溜まりを浸食していく。雨水は雨水と
呼ばれるものと出会い、同化し、水溜まりは
他のいくつかの水溜まりとつながり、境界と
境界はその意味を放棄する。白い手の群れは
密集できる場所を失い拡散していく。飽和こ
そが存在価値であるかのように、その群れは
失われる。

傘はない。
群れのための傘は、どこにもない。
存在しない。




2005年08月15日(月) すみません。宣伝です。

poeniqueという詩のサイトをやっているのですが、
このたび、poeniqueレーベル第一弾として、
たけだ たもつさんの詩集を発行することにあいなりました。

現在、予約受付中です。
http://poenique.jp/kotodama/poe/poe01/poe01.htm

タイトルは、「こっそりとショルダー・クロー」。
ショルダー・クローは、プロレス技のひとつで、
たもつさんいわく、
「試合中、レスラーが休憩するときに使う技」だそうです(笑)。

自分で言うのもなんですが、
けっこう良い感じに仕上がっていると思います。
ぜひぜひ、よろしくです。
買ってやってください(笑)。損はさせない内容だと思ってます。

んで、「たもつさんってどんな詩書くの?」って人は、
↓をどうぞ。
http://blog.drecom.jp/kossori/



2005年08月07日(日) 愛ではない(未完の)



たとえば地震が起きたときに
真っ先に
何かを考える前に
眠っているあなたに
身を挺して覆い被さるように

それを何と呼べばいいのですか
恋人よ
恋人たちよ

言葉にされたものは貧弱だ
それを愛と呼んではいけない
愛ではない
愛などない
愛と呼ばれた瞬間
それは愛になってしまう




2005年08月03日(水) エントロピーの黄昏



体温と体温が混じりあい
肌と肌の境界を失うように
わたしとあなたも、また
いつしか混じりあうのだろうか
それとも、また
いつまでも失い続けるのだろうか

熱的終焉の果て
触れあうことに気づけないのなら
そこには、もう
わたしたちを知るものはいない
よすがなく雪崩れこむ
あなたのその膨大な熱量は
わたしに受け取られ続けるだけで
何も語ってはいない

消失する落差
名のない世界
それすらもない
終わりすらない
あやまちもない



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