即興詩置き場。

2005年06月28日(火) ランドサットの日曜日



都議選の宣伝車が姦しく徘徊している。「お
願い」であるのなら人に迷惑をかけてもいい
らしい。名前の連呼。連呼。夜に働く人たち
の票は必要とされていない。連呼される名は
誰に名付けられたものなのか。あなたの名は
そこにはなく、隠されているというのに。

空梅雨で蒸し暑い日が続くと田中康夫がやっ
てくる。「田中康夫です! 田中康夫です!
○○を応援している田中康夫です!」立候補
したのあなたではない。ましてや○○なんて
知らない。知る気すらなくなる。夏の手前の
くせにすでに空気は夏のふりをしていて、何
もかもが何かになりたがっている、そんな。

アスファルトの照り返しで蟻たちが燃える。
彼らの黒装束はそのうち穏やかな鈍い銀色に
変わっていくのかもしれない。環境がすべて
を決定付ける。進化とはそういうものだ。そ
こには意志よりもまず先に状況があり、私以
外のものが私を私足らしめる。物言わぬ葬列
こそが出会った者に嗚咽をもたらすように。
その黒い群れが嗚咽により熱を持ち燃え盛る
ように。そこに眼はあるのか。何が何を見て
いるのか。

ランドサットは日本列島を32枚のパネルに収
めるというが、ではこの燃える蟻たちを収め
るにはいったい何枚のパネルが要るというの
か。かつて漆黒と呼ばれた膨大な闇はその黒
装束を鈍く光る照明に変えた。これは進化な
のか。これを進化と呼ぶのならば、いったい
何が進化したというのか。闇か? それとも
物言わぬ漆黒の闇に出会った者か。闇の名は
闇の中にない。名付けるのはいつも、それを
見る者だ。嗚咽する者だ。闇は燃える。闇は
鈍く燃え上がる。それが進化だ。

田中康夫が駅前で演説をする。雑踏に注視さ
れる田中康夫はいつかその熱で燃え上がるだ
ろう。ランドサットのパネルの中にそれは収
められない。収めるのは、収めるのはいつも、
それを見る者だ。



2005年06月24日(金) 塔の上でワルツを踊る



雲はかすかに薄い。満月はわずかに遠い。星
たちは月の輝く姿に目を細め身を寄せ合いな
がらその眩しさを囁く。塔の下ではいくつか
の波が押し寄せる。浸食は彼方の記憶。崩壊
は遥かな追憶。廻る者と廻られる者は対とな
って塔の上でワルツを踊る。

完全な輪廻。不確かな手触り。塔の中では忘
れられた者たちの忘れられた祝宴が繰り広げ
られ、忘れられた約束が生まれている。海峡
は水平線の彼方。水平線は闇の彼方。月の恩
恵も懲戒もそこにはない。届かない。新たな
契約は陰暦の隙間で交わされている。

もうすぐ凪が来る。終焉はわずかに遠い。塔
の機能は停止に向かい直進するが、塔の成長
はそれよりも速く直進する。塔の上でワルツ
を踊る。塔の上でワルツを踊る。対となる者
はそれぞれの境界を越え、嗚咽もなく絶滅へ
向かう。不確かな手触りを元にお互いを確認
し合う行為の危うさ。凪が来る。凪が来た。
塔は満月に突き刺さる。塔は先端から崩れ落
ちる。塔の崩壊は根元からではなく先端から
始まり、魅惑的な直進は塔の崩壊によって停
止する。そして、完全な輪廻。星たちは囁き
ながら、ワルツの痕跡を見下ろす。




2005年06月13日(月) 夜になると、魚は



夜になると
魚は目を閉じて
消えていく泡の行く末を思う
消えていく
自らの姿に思いを馳せ
静かに
目を閉じている

夜になると
魚は目を閉じて
自らの見ることのなかった風景を見る
魚は野の花を知らない
魚は四つ足を知らない
木漏れ日も
雪の冷たさも
風に煽られる木のしなやかさも知らない

夜になると、魚は
えら呼吸の刹那に溢れる深海の夢を一粒
そっと放り出し
立ち昇るその姿を見つめる
尾びれも背びれも
動かすことなく
消えていくその姿に
思いを馳せて
目を閉じたまま
闇の中でもう
朝を迎えることなく



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