DEAD OR BASEBALL!

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Vol.171 2004年プロ野球戦力診断 オリックス編
2004年01月31日(土)

<投手分析>
先発……具台晟、金田、ムーア、本柳、ユウキ、小倉、マック鈴木、フィリップス、松村
右中継ぎ……萩原、谷中、小林、戸叶、加藤
左中継ぎ……山本、歌藤、野村、岩下
クローザー……大久保、山口

 一昨年はリーグ2位の防御率を擁した投手陣だったが、昨年はあらゆるワースト記録を更新して木っ端微塵になった。チーム防御率5.95、完投数はリーグ最少の5、チーム総失点記録も過去最悪で、よくもここまで崩壊してしまったものだと、違った意味で感心してしまう凄まじさだった。

 規定投球回数に達した投手が1人もおらず、チーム最多の125回1/3を投げた小倉が4勝13敗7セーブ。チーム最多勝が具台晟の僅か6勝と、先発陣に軸は不在と言い切れてしまう状況。マック鈴木、吉井の逆輸入組が軒並み調整の遅れと故障で力を発揮できず、金田、小林、川越といった実績組も低迷状況を脱せず終い。一昨年に救世主的存在になったユウキが故障で登板なしとくれば、救いは戦力補強に求めないと仕方ないという状況。

 松村を始めとした新興勢力にとってはチャンスの時期だが、阪神から自由契約になったムーアにかかる期待は大きい。2年連続で夏場に失速して印象を悪くしたが、それでも2年連続2ケタ勝利を挙げた地力は現在のオリックス投手陣では上位。阪神時代に猛威を奮った打棒でオプション契約を結んだようだが、ここは本職の投手としてエースの座を奪うだけの力を見せてほしいところ。

 実績組に故障持ちが多く、それが主力投手の続けて活躍できない要因になっているようだが、具台晟、小倉は大きな故障がないだけに、体調さえ万全に調整できればいい数字を残せる力は残っている筈。ただしスタートは横一線。実績組×新興勢力の図式がはっきり出てくれば、名前は揃っているだけに昨年ほどひどいことにはならないだけの力はあるだろう。

 大久保と山口を故障で欠いたリリーフ陣も死屍累々の惨状。阪神からトレードでタフネス右腕の谷中を獲得したのは大きいが、この2枚看板を欠いたままだとすれば計算が全く立たない。昨年は加藤が1年目から9セーブを挙げたが、防御率5.17ではクローザーとしては心許ない。せめてどちらかに目処が立てばリリーフの設計図はできるが、数不足のサウスポーではルーキーを計算に入れないといけない現状も含めて、かなり危ないブルペンになる危険性が大。

診断……散々だった投手陣の中でも、先発陣は名前の額面通りに働けばという条件付きで格好は何とかつけられそう。リリーフ陣は大久保と山口が帰ってくるかに全てがかかっていると言ってもいい状況。この2人がブルペンに入れるかどうかで、先発陣まで含めた顔触れはガラリと変わってくる筈。



<野手分析>
1(右)村松
2(三)大島
3(中)谷
4(左)ブラウン
5(二)オーティズ
6(一)塩谷
7(指)山崎
8(遊)後藤
9(捕)日高

控え
捕手……三輪、前田
内野手……斉藤、塩崎、平野、嶋村
外野手……相川、早川、竜太郎、由田

 リーグ2位のチーム打率.276を記録したように、昨年は打線の復調ぶりが目に付いた。ただ、それでもチーム打点はリーグ最下位の622。リーグ最多の55盗塁死、逆にリーグ最少の424四球も含めて、それぞれの選手はよく打つが打線として機能しないという場面が多々あった。これは石毛監督や後任を務めたレオン監督が打順をコロコロ動かし、それぞれの選手に役割を固定化できなかった面が大きいと思われる。

 裏を返せば、選手の力があるのだからそれをうまく機能させれば得点力は一気にアップする伸び代もある、ということである。それを考えれば、ダイエーからFAで獲得した村松は、オリックスの得点力を上げる起爆剤として期待充分。リードオフマンとして申し分ない選手を1番で固定できれば、主軸にある程度の破壊力は計算できるだけに得点パターンが組み上がる算段が立つ。伊原監督が打順をどう組んでくるか、これも注目ポイントになるだろう。

 その主軸だが、右打者で昨期12球団最高の打率.350を記録した谷はともかく、ブラウンとオーティズの両外国人が今年も機能するかどうかにかかっている面が大きいのが懸念材料。昨期初の規定打席到達で.307を打った塩谷に遅咲きの感はあるが、それでも両外国人のどちらか、或いは両方がコケたときの手当ては万全ではないというのが正直なところ。2人とも選球眼は悪くないだけにさらに上積みする可能性もあるが、守備に難があるタイプだけに指名打者候補の山崎との兼ね合いもある。

 打棒にムラがある村松がリードオフマンとして充分に機能しなかった場合、守備力を犠牲にしてでも中軸を厚くする必要が出てくる。そのときにどのようなオーダーを組むか、という手当ては混沌としている状況。内野に守備力のある控えは揃っているが、リードオフマン候補は見当たらない状況でもある。ある意味で、村松の活躍が最大の分水嶺なのかもしれない。

診断……あらゆる部分で「額面通りに」という言葉が付き纏う、その重さがオリックス打線の場合は特にある。その言葉を気にせずに済むのは谷ぐらいだが、コケたときの手当てがはっきりと見えないという事実が暗い影を残しているのも事実。予測の上限と下限の幅が大きいのは難で、それは安定化の乏しさを表してもいるが、上限にいった時の楽しみが最も大きい打線という感があるのは確か。



<総合分析>
 投手は横一線からの建て直し、野手は役割の固定化というのが当面の課題。一昨年は打者のあまりの貧弱さに投手が泣かされ、昨年は投手の完全崩壊に打者が割を食わされた感がある。つまり、投手も野手もいい数字を残せるだけの地力はあるということ。一昨年の投手成績と昨年の打者成績を同時に残せれば上位への進出は可能だ。

 それが両立しない面やリーグ2位のチーム打率でリーグ最下位の打点を記録するなど、チーム全体に漂う効率の悪さと言うか、うまく歯車が機能しない部分は気になる。その歯車をうまく機能させることができるか否かは、長期的に見れば伊原監督の手腕よりも中村GMに依るところが大きいかも。


Vol.170 2004年プロ野球戦力診断 日本ハム編
2004年01月30日(金)

<投手分析>
先発……ミラバル、入来、金村、正田、吉崎、関根、押本、隼人、江尻
右中継ぎ……伊達、芝草、武田、櫻井、立石、横山
左中継ぎ……高橋憲、加藤、清水、佐々木
クローザー……建山、ループ

 リーグ2位タイの16勝(11敗)を稼いだミラバルがエース格だが、規定投球回数に到達した13人中最下位の防御率4.65、193回2/3を投げて232被安打でも分かるようにエースの信頼は置きにくいタイプ。チーム防御率はリーグブービーの4.88で、チーム完投数もブービーの6と、先発陣に絶対的な軸は不在という状況。

 色々と悶着はあったが、巨人からトレードで獲得した入来の存在は、そんなチーム状況下では実に大きい。巨人時代は故障と層の厚い先発陣の中で割を食っていた感が強いが、13勝を挙げた01年は2完封を含む5完投を数えているように、1人で試合を牛耳れる能力は現在の日ハム投手陣で群を抜いた存在。うまく1年ローテーションを守れれば、1年でエースにのし上がってくる可能性は充分。

 金村、関根、吉崎と、ある程度の数字を計算できそうな先発候補は揃っている日ハム。昨年はその部分が「もう一つ」という感から出れなかったが、入来が額面通りに稼げれば、3〜4番手辺りとして途端に層の厚さに化けてくる陣容。関根や隼人といった実績組、押本や江尻の新興勢力からもう何枚か上積みは欲しいが、入来が機能すれば途端に底上げされる可能性は現実的に期待可能。

 クローザーを固定できなかったリリーフ陣だが、絶望的に悪い陣容ではなく、伊達と建山が充分な安定感で支えるブルペンは計算が立て易い。今年は恐らく建山が昨期終盤同様にクローザーで開幕するだろうが、ここが違った人材で確立できれば「困ったときの伊達・建山頼み」という切り札が分厚くなる。横浜から移籍の横山は、ハマの大魔神こと佐々木主浩の後継として期待されながらも結局伸び切らなかったクローザー候補。パ・リーグ移籍を期に一皮剥ければ、ヒルマン監督の遣り繰りをこの上なく楽にする筈。

診断……キーマンは先発なら入来、リリーフなら横山の新戦力組。ルーキー押本も含めて爆発すれば、一段も二段も投手力を底上げさせる筈。ある程度の数字を計算しやすい投手は揃っているので、あとは軸を据えることができるかどうか。既存戦力の底上げなら一昨年の新人王左腕・正田に期待。



<野手分析>
1(右)坪井
2(二)金子
3(三)小笠原
4(左)エチェバリア
5(一)木元
6(中)新庄
7(指)島田
8(遊)稲田
9(捕)高橋信

控え
捕手……實松、中嶋
内野手……奈良原、田中幸、田中賢、阿久根、古城
外野手……石本、上田、西浦、森本

 小笠原の一枚看板だった打線が、昨年1年で随分と厚みが出た感がある。移籍1年目から首位打者争いに参戦した坪井、31本塁打のエチェバリア、規定打席には若干足りなかったが.300を打って大化けした木元と、打線の根幹を任せられる選手が固まってきたことで、打線の組み方にだいぶ融通が効くようになってきた。

 日本球界復帰の新庄に注目が集中し過ぎているきらいはあるが、プレーヤーとしての新庄の加入は少なくない恵みをもたらす筈。井出をトレード要員にしたのは新庄の加入を計算してのものだった筈だが、楽な打順で自由に打たせれば、課題とされている打力の方でも数字を残せる地力はある。阪神最終年では28本塁打85打点という立派な数字を残したが、同じ水準の打棒を発揮できれば、下位打線の貴重なポイントゲッターとして打線の厚みをさらに強力にする筈だ。

 ただ、内外野ともにそろそろ若さの注入がないと、近い将来の危機感が現実的なものになってくることも事実。期待されている實松、田中賢、森本らが頭打ちの現状を脱せず、奈良原や島田といったベテラン勢の奮闘が目に付いた昨年は、新興勢力台頭の機運が止まりかけた感もあった。ルーキーの稲田を開幕オーダーから考えてみたが、これはそろそろ若さ注入の爆弾を投下したいというのが狙い。力量的に考えても内野の層を考えても、稲田は1年目からポジションを取れる能力はあるが、そろそろ若手の旗印をチラつかせて刺激を与えてもいい頃合。

 昨年は高橋信が打力で正捕手の座を勝ち取ったが、盗塁阻止率.250を見ても守備力の信頼度はもう一歩という感。横浜から強肩では定評のある中嶋をトレードで獲得したが、パ・リーグでの経験は豊富だけに強力な底上げになりそう。伸び切らないドラ1捕手・實松の大きな刺激という副次効果も生み出しそうだ。

診断……中心打者は強力なだけに、その周辺をどう固めるかというのが課題。新興勢力で固めていければチームの新陳代謝として申し分ないが、ここ数年の伸び率を考えるとそろそろ過剰な期待は寄せ辛い。稲田の抜擢がうまくはまれば歯車が動き出す可能性もあるだけに、この切り替えをどう推し進めていくか、ヒルマン監督2年目の采配に注目したい。



<総合分析>
 投打共に戦えるだけの戦力はある。若手と新加入選手に対する依存度と期待値が大きく、現状ではまだ「そこそこ」という域を抜け切れない感があるが、裏を返せば、シーズンに入ってから戦力層を底上げする伸び代は充分にあるということ。スタートで勢いがつくと、チーム力を徐々に上げながらの快進撃が見られるかもしれない。

 札幌移籍元年になり、色々な意味でチームが変わりつつある日ハム。積極的な戦力補強は、その意欲の裏返しだろう。ならばチームの順位も変えていきたい。くれぐれも悪い意味で新庄一色にならないように。


Vol.169 2004年プロ野球戦力診断 ロッテ編
2004年01月29日(木)

<投手分析>
先発……清水直、ミンチー、小林宏、渡辺俊、小宮山、加藤、小野、薮田、黒木
右中継ぎ……戸部、神田、舩木、山崎
左中継ぎ……川井、藤田、高木、成瀬
クローザー……小林雅

 チーム防御率はリーグ3位の4.37とそこそこだった昨期。この成績を支えたのは、リーグ2位の19完投を挙げた先発陣の踏ん張りによるところが大きい。規定投球回数に達したのは清水直、ミンチー、小林宏、渡辺俊の4人で、これは日本一になったダイエーの3人より多いリーグ最多。この4人で48勝33敗だから、この勝率はなかなかのものがある。

 リーグ最多の204回1/3を投げて15勝10敗のエース清水直を筆頭に組む先発4人に続くのは、日本球界復帰の小宮山、巻き返しを期す加藤、実績組の小野と薮田といった辺り。小宮山がどれだけやれるかは爆弾要素だが、キャンプ期間でブランクをある程度埋められれば、大勝ちは期待できないにしても7〜8勝程度の計算は確実に立つ。貴重な先発左腕の加藤も含めて、4人に続くのは誰かという競争が機能すれば先発陣は充実した顔触れ。

 安定感に乏しいリリーフ陣は、何とか小林雅に繋ぐ形を確立させてきたい。ロングリリーフも可能なタフネス右腕シコースキーを失ったのはかなり大きいが、その穴を埋める人材は現段階では見当たらないというのが正直なところ。川井のように力はあるがムラっ気が強いというタイプが多く、特に右投手に際立った特徴や決め球を持つ投手が見当たらないのが不安材料。欲を言えば新興勢力の台頭が欲しいところで、高校卒ルーキーのサウスポー成瀬は安定したコントロールが持ち味の完成度の高い投手。手薄な左のブルペンにいきなり食い込む可能性はあるかも。

 クローザーの小林雅は一昨年ほどの圧倒的な投球を取り戻せるかがカギ。昨期は33セーブを稼いだものの、47回を投げて45被安打、防御率2.87と絶対的な凄みには乏しかった。シコースキーの穴を埋められないまま開幕すれば、1イニング限定という鎖が外される機会が多くなる可能性もある。小林雅を生かす為にもリリーフの整備は重要課題。

診断……先発陣の充実は、小林宏の先発転向に象徴されるように中継ぎの軸を移行させたもの。そこに上積みがなければ投手力全体の底上げにはならない。未確定要素が大き過ぎるが、黒木の復帰がもしあれば再び小林宏辺りを中継ぎに回す余裕ができる。新興勢力がどれだけ出てくるか、待ったなしの勝負。



<野手分析>
1(中)サブロー
2(遊)小坂
3(一)福浦
4(指)李承ヨプ
5(二)堀
6(三)フランコ
7(左)ベニー
8(捕)里崎
9(右)立川

控え
捕手……清水将、辻、田中雅
内野手……渡辺正、原井、西岡、早坂、初芝
外野手……波留、諸積、井上純

 アジア記録のシーズン56本塁打を放った“韓国のライオン・キング”李承ヨプばかり話題に上がるが、額面通り56本塁打でも放ってくれなければ、得点力不足を解消するきっかけにはならない。かつては弱点とされていたインハイをうまく打てるようになったとは聞くが、.280、30本塁打ぐらいを計算できれば御の字という気がする。戦力アップには間違いないが、それだけでリーグブービーの628打点という問題を解消できるとも思えない。

 昨シーズン前に退団したローズの穴を埋め、.302、32本、100打点という立派な記録を残したフェルナンデスが西武に移籍。ポッカリ空いた4番に誰が座るか、というのがポイント。昨期終盤は堀が座ったが、堀の成績にムラがあることを考えれば、年齢的にもそれで解決する訳でもない。恐らく今年も新外国人選手が収まりそうだが、和製4番の候補がほとんど見当たらない以上、いくら福浦が安定して.300を打っても計算が立たない怖さが先に立つ。

 もし新外国人がピタリはまれば、去年のように主軸にはある程度の格好はつく。ただそうなれば、今年もリードオフマンをどうするか、という問題が再浮上してくるのも事実。昨期はシーズン中盤から井上純が頑張ったが、伸び切らないサブローや喜多も含めて決め手が弱く、主軸候補同様に帯に短し襷に長し。内野全体の手薄さを考えれば、若い今江や西岡の抜擢は意外に早いかもしれない。

 捕手は名前こそ多いが横一線。昨期は持ち味の打撃で里崎が躍進したが、マスクをかぶったのは清水将の方が多かった。盗塁阻止率でも上の里崎が暫定正捕手という感だが、田中雅の加入で正捕手争いはさらに激烈になりそう。投手陣の為にはできるだけ早く固定してもいいが、今年1年は更に面白い競争が見られそうだ。

診断……新外国人頼みのクリーンナップだが、現時点では固定するのが難しそうなリードオフマンと相俟って、折り合いを付けるのに頭を悩ませそう。メンツはそこそこ揃っているが、爆弾要素と決め手の弱さが尾を引けば思い切った抜擢があっても笑えない状況。バレンタイン監督の用兵に注目したい。



<総合分析>
 充実した右の先発陣以外は、総じて帯に短し襷に長しという状況。新戦力への期待値は軒並み高いが、裏を返せば高く設定しないと厳しいというのが本音だろう。オーダーを組む以前に、まず選手の適材適所を洗い直すことからバレンタイン監督は始める必要があるかも。

 今年も不安要素が強いのは打線の方で、投手は状況的には磐石と言えない中でも軸がある。去年も同じことを書いたが、こういう状況なら新興勢力にとってチャンスはあちこちに転がっている。主力の平均年齢が若干高いだけに、思い切った切り替えがあれば予想以上にはまる可能性も。


Vol.168 2004年プロ野球戦力診断 近鉄編
2004年01月28日(水)

<投手分析>
先発……岩隈、パウエル、バーン、高村、阿部健、香月、川尻、加藤、戎
右中継ぎ……岡本、愛敬、藤崎、宮本
左中継ぎ……吉田、小池、山本、栗田
クローザー……福盛

 一昨年は12球団ブービーだったチーム完投数9が、昨年1年で18に倍増した。チーム防御率もリーグ2位の4.30と、以前ほどの極端な打高投低ムードは薄らいできたように見える。その原動力は、昨期15勝の岩隈と14勝のパウエルという2枚エース。先発の軸がしっかりと確立できたことで、投手陣全体のムードがガラリと変わった印象を受ける。

 今年もその2人がエース。8勝から上積みが望めるバーン、昨期終盤に台頭した阿部健が続き、自由枠獲得の香月に阪神からトレードで移籍の川尻まで数えれば、先発陣の顔ぶれは相当充実している。若手、ベテラン、外国人のバランスも良く、様々な面から見て香月と川尻の加入は相当に大きい。特に期待したいのが川尻で、星野政権下では冷や飯を食わされた感があるが、持っている球自体に衰えは見られず、振り回すタイプの多いパ・リーグでは10勝しても笑えない力量はある。実績組の高村や加藤がこの競争に割って入るのは簡単ではない。強いて言えば、左投手が不足していることがネックか。

 昨年大塚を失ったリリーフ陣は、横浜からトレード移籍の福盛がどれだけ働けるかで陣容が変わってくる筈。もし福盛が軸として動ければそれだけで随分と遣り繰りは楽になるが、もし裏目に出れば昨年のように手を変え品を変えで凌いでいくことになりそう。

 昨期は小池が65試合、吉田がクローザー兼任で60試合に登板しブルペンを支えたが、年齢的にも同じ活躍は期待しにくいというのが本音。岡本が一昨年ほどの神通力を取り戻せれば話は早いが、そうでないなら右で最も安定感のあった三沢を失った以上、藤崎や宮本という新興勢力にかかる期待は途端に大きくなる。

診断……バランスの取れた先発陣は充実の顔触れで、大きな不安は故障以外に見当たらない。香月と川尻が額面通りに稼げば、ここ数年の先発陣とは様相を変えた投手力を見せつけるかも。確固たるクローザー不在のリリーフ陣は、福盛に対する期待値が大きいが、岡本の復調も同じぐらいに大きい要素。



<野手分析>
1(中)大村
2(遊)阿部真
3(左)川口
4(三)中村
5(右)磯部
6(一)吉岡
7(二)星野
8(指)北川
9(捕)藤井

控え
捕手……的山、長坂
内野手……水口、前田、永池、山下
外野手……下山、鷹野、益田、森谷、バーンズ

 最大の焦点はローズの穴がどのような影響を与えるか、ということ。結論から先に言えば、中村さえ復調すればそこまでローズの穴は目立たないと見る。昨期は中村がドン底から脱せない中、大村や磯部の復調があり、吉岡の.300到達や星野、北川ら控え層の活躍、阿部真の成長で打線の地力が底上げされた感すらある。ローズが抜けるのは確かに痛手だが、それが致命傷にはならないだけの層の厚さが「いてまえ打線」にはある。

 これまでとはイメージの違う怖さを感じさせた昨期の近鉄打線だが、それは中村が不振の中でリーグ2位の695打点を稼いだこと以上に、一昨年32で12球団ダントツ最下位だった盗塁数を83まで持ち直させた点が大きい。大村が走る意欲を取り戻し1盗塁→27盗塁と躍進し、走るイメージがなかった星野も2ケタ10盗塁で成功率は.909と新たな味を出した。大村は.300も復帰し、16本塁打に61打点の打棒を1年通じて発揮できれば、やっとリードオフマンとして収まるところに収まるかなという感。

 今年もこの流れが続くかは要注目ポイントだが、ローズの退団がそのベクトルを加速させる可能性は低くない。新外国人バーンズがローズと同じだけの数字を稼げれば話は別だが。

 正捕手が固定しきれない弱点は毎年言われていることだが、今年もその悩みは抱えたままシーズン開幕を迎えそうだ。昨期はバットで猛威を振るった北川が正捕手に収まれば手っ取り早いが、昨期は99試合出場でマスクをかぶったのは僅か15試合。キャンプで誰が抜け出すか、という問題ではなく、今年も複数体制で臨むことになりそう。

診断……ローズの抜けた穴はカバーできるだけの人材がいる。ポジション的にも、同じ左打者の川口がそのまま3番レフトに入れば話は早いが、下山、益田、鷹野、バーンズもいてこの競争は見所の一つ。捕手は心配だが、サブメンバーの失速があると方々の目論見が崩れそうなのは少し怖い要素。中村の復調は絶対条件。



<総合分析>
 投手力、特に実力派の右投手が揃う先発陣はかなり期待できるだけに、ここ数年の近鉄とは違う形の強さが見られる期待はある。岩隈や阿部健に象徴されるように、若手の抜擢に意欲と実績のあるチームだけに、地力がついてきた今年は不気味な怖さを感じる。

 ローズのことばかり言われるが、投手力や走塁力で一味違う近鉄というチームを見せられる下地は整ってきた。後は野手で若さが出てくればさらに勢いは加速する筈。今年の期待株は坂口、筧といった辺り。「いてまえ打線」という看板だけで今年の近鉄を見ていると、痛い目に遭わされること必至。


Vol.167 2004年プロ野球戦力診断 西武編
2004年01月27日(火)

<投手分析>
先発……松坂、後藤光、西口、三井、張誌家、許銘傑、鳥谷部、石井貴、帆足
右中継ぎ……森、潮崎、長田、小野寺、大沼
左中継ぎ……土肥、山崎、星野
クローザー……豊田

 12球団トップクラスと目されていた鉄壁の投手陣が、昨年は崩壊に次ぐ崩壊で最後まで手当てができなかった。チーム防御率4.43はリーグ4位で、完投数13はダイエーの26と比べると半分という有様。大エース松坂は安定した力を発揮して16勝、最優秀防御率と最多奪三振のタイトルを獲得したが、それに次ぐ筈だった西口、石井貴という実績組が軒並み不振だったのが痛かった。

 今年も名前は一応揃っている。西口を筆頭にした実績組に台湾コンビが復調すれば、一応どころかかなり強力なメンバーであることは間違いない。昨年は規定投球回数に達して10勝を稼いだ後藤光に安定感があり、終盤に2勝した鳥谷部に殻を破る気配があることを考えれば、2年続けて同じ状況になるというイメージは沸きにくい。

 慢性的な左不足は、自由枠獲得の山崎で若干厚みは出た感。小柄だが勢いと斬れ味はあるタイプで、中継ぎだけでなく先発としても面白い存在。三井や帆足がうまく先発で機能すれば、土肥に信頼感がなくなった左のセットアッパーとしてうまくはまる可能性はある。

 森→豊田という鉄壁のパターンを擁するリリーフ陣だが、そこに持っていくまでの中継ぎは若干不安が残る。昨年は便利使いされた長田だが、森の前という役割を固定してやれば昨年以上の数字は出せる気がする。先発陣が軒並み崩れた昨年は、中継ぎの安定感の乏しさがジワジワとチームの首を締めた。今年はある程度実戦の中で手当てしていきたい。

診断……全ては主力の調整具合にかかってくる。名前の額面通り数字を出せれば、依然として強力な投手陣であることは間違いない。そろそろ世代競走の機運が高まってきてもいい頃合だが、長田、小野寺、鳥谷部、山崎らが伸びてくれば手当てはできる。五輪期間中に松坂、張誌家、許銘傑らが抜ける見込みだが、ここで新興勢力がうまく出てくれば鬼に金棒。



<野手分析>
1(指)柴田
2(中)小関
3(左)和田
4(一)カブレラ
5(右)大島
6(三)フェルナンデス
7(遊)平尾
8(捕)細川
9(二)高木浩

控え
捕手……野田、椎木
内野手……後藤武、中島、石井義、上田、�睫畋�
外野手……佐藤友、赤田、高波、高山

 松井が抜けたことで、トップバッターを誰にするか頭を悩ませることになりそうだ。一応は昨期チーム盗塁王で打撃好調だった柴田を置いてみたが、1年を通せる地力には疑問符の方が大きいというのが本音。和田を指名打者に置けば守備範囲に難があるフェルナンデスを三塁に置くことにもなり、ベストの選択肢を探すのも難しい気がする。

 それほどに松井の穴は大きいが、いまからどうこう言っても仕方ないので、これはある程度実戦の中で競わせていくしかない。ポスト松井と言われてきた中島は三塁の方に適性が高そうだが、平尾、水田を交えた競争の中で遊撃のポジションを掴めれば大きな底上げにはなる。松井が抜けたことで内野、特に二遊間の危機的な手薄さが浮き彫りになった格好だが、裏を返せば競争激化のこの上無い契機。この争いは注目に値する。

 打線の主軸はなかなか迫力がある。和田、カブレラという安定感充分の強打者がどっしりと腰を下ろしていることで、その周辺の融通が効きそうなのは大きい要素。大島が昨期に見事な伸びを見せ、今年はさらなる成長が期待できる上、昨期ロッテで3割・30本・100打点を達成したフェルナンデスが額面通りに働けば、得点力と爆発力はより大きなものになる。キーマンは大島で、カブレラとフェルナンデスの間をうまく繋げるバッティングの柔らかさがあるのが魅力。

 伊東が監督になったことで正捕手争いは待ったなし。この争いの折り合いをどうつけていくか注目したいところ。それよりも問題は、内外野共に控え層が帯に短し襷に流しという状況を脱せていない部分。�睫畋腓�故障と不振から抜けられず、期待されている赤田、高山、佐藤友もはっきり若手と言える年齢ではなくなりつつある。この中から大島に次ぐ成長株が出てきてほしいところで、打撃なら後藤武、総合力なら佐藤友に期待したいところ。大島が作った機運を今年さらに加速させたい。

診断……松井の穴は誰か1人で埋められるものではないだけに、チーム全体でカバーしていきたい。その状況を逆手に取って一気に内野陣の層が持ち上がれば、現在の手薄さはある程度なら先行きに目処が立ちそう。内外野共に熾烈な競争から誰が出てくるか、と言うよりも、そもそも熾烈な競争が欲しいというのが本音。火種は出てくるか。



<総合分析>
 看板だった投手陣だが、主力が額面通り機能すればそこまで問題は大きくないと見る。松坂という絶対的な軸がいる以上、松坂さえ万全ならある程度の計算は立てやすい。森→豊田に繋ぐまでのパターンをもう1枚厚くできれば万全に近いが、焦点はサウスポー。

 打線の軸はしっかりしているが、和田とカブレラに頼り切っている部分が大きいのも事実で、その後の備えをどうするかという時間的猶予は松井の移籍で現実的なカウントダウンに入ってきた。大島の活躍が今期頭打ちになると、この機運は萎んでいく可能性もある。「キーマンは大島」というのはそういうことでもあり、ある意味で和田やカブレラの打棒よりも大島の成長は要注目かも。大島の浮沈がチームの今後を左右する、というのはあながち大袈裟ではないかもしれない。


Vol.166 2004年プロ野球戦力診断 ダイエー編
2004年01月26日(月)

<投手分析>
先発……斉藤、和田、杉内、新垣、寺原、馬原、水田、ナイト、田之上、星野
右中継ぎ……岡本、佐藤、山田、吉武、飯島
左中継ぎ……篠原、吉田、柴田、三瀬
クローザー……メルカド、グーリン

 一昨年までローテーションを支えた田之上、星野といった辺りから一気に世代交代を推し進めたダイエーの先発陣。20勝投手の斉藤、新人王の和田、日本シリーズMVPの杉内、シーズン半ばまで和田と激しく新人王を争った快速右腕の新垣、2年目で7勝を稼いだ寺原らで形成した若さ溢れるローテーションが、完全優勝を達成した原動力になったことは疑い様がない。

 この5人の平均年齢が23.8歳ということを考えると、ダイエーの先発ローテーションは非常に強固で、12球団トップクラスの陣容と言っていい。昨年は自由枠獲得の和田と新垣が1年目から主軸級以上の働きをしたが、今年の自由枠獲得の馬原にとって、今年からこのローテーションに食い込むのは容易ならざる状況とすら言える。実績組の田之上、星野、永井らまである程度の計算に入れるなら、先発陣が崩壊するということは余程のことがない限りは考えにくい。

 怖いのは俗に言う2年目のジンクスで、5人とも1年を通じて戦力になったのは去年が最初。一軍戦力として実質的に2年目ということを考えれば、今期は相当マークが厳しくなる筈。今年そのマークを掻い潜れば、向こう10年はこのローテーションが維持できておかしくない。今年は先発陣の未来を占う1年になりそうだ。

 中継ぎ陣は岡本と篠原が左右の両輪を維持できれば計算は立つ陣容。裏を返せば、この2人のうちどちらかでも戦力にならなかった場合は途端に薄さが目立ってくる。昨年は佐藤と吉武が踏ん張ったが、左の中心だった吉田に現実的な衰えが見え始め、渡辺が退団した左は特に薄さが気になる。ルーキーの三瀬、テスト入団の柴田に期待がかかるが、不安の方が大きいというのが本音。先発完投にかかる期待と負担の大きさが、磐石の先発陣の歯車を崩すきっかけになる可能性はあるかも。

 ペドラザに味をしめる以前から、ダイエーはクローザーを外国人で計算するのが通例。去年はスクルメタでコケて終盤は篠原が後ろに回ったが、今年も恐らく開幕は新外国人にクローザーを任せるのだろう。うまくはまれば大きいが、はまらなかったときは昨年のようにリリーフの弱さが影を落とす怖さもある。

診断……若さと実力を兼ね備えた磐石の先発陣に忍び寄る“実質2年目のジンクス”は杞憂に終わるか? リリーフ陣の弱さが明るみに出たとき、その負担が先発陣のしわ寄せになると少し怖いかも。



<野手分析>
1(三)川崎
2(右)柴原
3(二)井口
4(一)松中
5(捕)城島
6(左)バルデス
7(指)ズレータ
8(中)高橋
9(遊)鳥越

控え
捕手……田口、的場
内野手……本間、稲嶺、瑞季、中村
外野手……大道、出口、荒金、宮地

 昨季のチーム打率.297はプロ野球新記録。破壊力にスピードを加えた超強力打線は、小久保と村松が抜けても決して衰えたイメージを抱かない程に充実した顔触れ。松中が爆弾を抱えているのは毎年の懸念だが、指名打者にうまく組み込んで1年を通せれば今期も相手投手陣に恐怖を存分に振り撒きそうだ。

 ただ、昨年があまりにも磐石な打線で、そろそろ推し進めないといけない世代間競走が一歩遅れた感はある。主力が揃って充実期を迎えた為にレギュラーと控えの層が大きくなり緊急時の手当てに不安がある、という状況はここ数年のヤクルトと状況がよく似ているが、このまま世代間競走が進まないと、レギュラーと控えの間に年齢的・実力的に埋め難い谷が広がる懸念があるのも事実。

 昨年は川崎が見事な成長を見せ、小久保の穴を違ったタイプで見事に埋めてプラスアルファに転換した。今年もその循環をある程度期待していきたいが、期待に適いそうなのが高橋ぐらいしか見当たらないのがネックと言えばネック。投手陣はここ数年で血をガラリと入れ替えて結果を出しているだけに、身体能力とスピードでは一軍のキップに手が届きそうなドラフト2巡目の城所は今年から抜擢があるかもしれない。

 ポスト小久保で獲得した松坂世代のドラ1内野手・吉本が今年で早6年目。本来はこの選手が伸びていれば小久保の穴が全く気にならなかったのだが、投手陣とは逆に若い層が中々芽吹かなくなったのは野手陣全体に漂う不安材料。井口の残留にホッとせず、昨年川崎が形にした流れを今年も引き継いでいきたいところだ。

診断……小久保と村松が抜けても強力打線は健在と言える。ただ、そのことが控えの層の薄さやレギュラーとの谷の大きさを、否応なく浮き彫りにしたのも事実。レギュラーの圧倒的な力量は恐怖の的だが、全体的な層を考えればそこまで圧倒的ではないというのが実感。未来のことや緊急時の手当てを考えれば、新興勢力の台頭は一枚も二枚も欲しい。



<総合分析>
 連覇を充分に狙える戦力であることは間違いないが、磐石という感じを受けないのも実感としてある。投手・野手共に勢いに乗れば手の付けられない陣容だが、出足で躓くとそのままズルズルいく可能性はゼロではない。ただ、川崎に次ぐ若手の台頭があれば話は違ってくる。

 厳しいマークをかけられること必至の先発陣、新外国人クローザーが機能しなかったときに襲う全体へのしわ寄せ、歯車が欠けたときの手当てが万全ではない野手と、不安要素はいくらかあるが、それも昨年に圧倒的な強さを示したことの反動。地力はあるだけに、はまればあっさり連覇ということも。


Vol.165 プロ野球が真に問われているもの
2004年01月22日(木)

 正直なことを言えば、前回のコラムを書いた時点では、まだ希望の方が大きかった。これまでプロ野球のみならずスポーツ界全体に多大な恩恵をもたらしてきた、他ならぬ長嶋茂雄監督の要望である。意地の悪い言い方をすれば、これまで様々な恩恵を授かるために、散々長嶋監督自身やそのネームバリューにたかってきたプロ野球界が、まさか長嶋監督たっての願いを斬り捨てるとは思わなかったからだ。

 しかし、その見立ては甘かったようだ。21日にコミッショナー事務局で行われた五輪日本代表編成委員会で、代表チームの選定については各球団2人枠というオーナー会議の決定事項に従うことが確認された。長嶋監督が熱心に要望した各球団2人枠の撤廃は、これで完全に消滅したということになりそうだ。

 長嶋監督も巨人の監督を長年務めてきた以上、積極的な派遣に対して現場からノーという声が上がることは予想していたことだと思う。しかし、最強チーム編成の為には2人枠が充分なチームを組む要件ではないことも、痛いほどに認識しているに違いない。それは、昨年11月に行われたアジア予選での戦い振りに十二分の手応えを掴んだことで、逆説的に実感したことでもあるだろう。

 前回も書いたように、この問題に対して完璧な正解はないと思う。それぞれの立場によって、最も優先すべきことが完全に分化しているからだ。現場には現場で優先することがあり、五輪代表には五輪代表で譲れない部分がある。これ以上の泥沼化を避ける為に長嶋監督の方から降りた形になったが、それは恐らく、これ以上要望を通そうとしても事態が進展することはないという諦めの気持ちが、最強チーム編成と言う熱意の先に立ったからかもしれない。

 苦汁の決断だったことは間違いない。この決定により、アジア予選で編成したチームからの戦力ダウンは避けられない状況となったと言っていいだろう。1年前に各球団2名ずつでチームを考えたこともあったが(こちら参照)、ポジションの問題もあり、言い方は悪いがどうしても数合わせのような選手が入ってしまう。チームとしてのバランスが非常に悪くなるのだ。

 プロ野球の現場からも、積極的な派遣に対して賛成意見がなかった訳ではない。横浜・山下大輔監督や近鉄・梨田昌孝監督は、2人枠の撤廃に対して肯定的だったと伝えられている。彼らには、五輪の舞台に選手が立つことで、日本野球の発展という観点ではなく、そこでしかできない経験を糧に派遣した選手が大きく伸びてくれるという期待があったのかもしれない。平たく言えば、多少の期間戦力がダウンしたところで、それは無償のボランティアではなく投資のようなものだ、と考えることは可能であるということだ。

 中日・落合博満監督らは、しきりに不平等性を2人枠撤廃の反対理由に挙げていた。1人も選手を派遣しない球団と主力が3人も取られる球団が戦うのは不公平だ、という理屈である。確かにこれは一理あるのだが、よくよく考えてみれば、そもそも各球団が最初から抱えている戦力自体が不平等で当たり前なのではないだろうか。

 全く同じだけの戦力を持ったチームが存在するということは有り得ない。ただ、かねてから球界では、FA制度やドラフトの関係で特定球団に戦力が偏ることが問題視されてきた。「戦力の均衡化による群雄割拠のプロ野球」を標榜する声が、プロ野球界に存在することも事実である。均衡化というキーワードに則って考えるならば、強いチームからはいい選手を3人派遣し、弱いチームからは派遣しないというのは、戦力の均衡化と言えなくもない。この辺りの論理の整合性は、落合理論に乗るならば噛み合わなくなる。

 一方では戦力の均衡化を叫ぶ声があり、もう一方では五輪への選手派遣に対しては自分のチームだけが弱体化するのは嫌だと言う。私が今回の問題で居心地の悪さを感じるのは、そのとき・その立場によってその場にある理屈をコロコロと使い分ける、球界全体に漂うご都合主義に他ならない。無礼を承知で言うならば、何か卑怯な感じを受けるのだ。

 恐らく今年、日本の野球ファンの関心の中で五輪代表は、かなり大きなベクトルを占めるだろう。肝心なのは、野球五輪代表に向いている関心のベクトルは、野球ファンだけに限ったものではないということである。今年からオリックスの監督に誰がなったのかを知らなくても、長嶋監督率いる日本代表が五輪に出るということを知っている、そんな一般人はきっと少なくない。

 五輪に肯定的でない球界関係者は、恐らく五輪のことを目の上のたんこぶだと思っている筈である。なぜそういう風に考えてしまうのだろう。いっそのこと、五輪を積極的に利用してやろうというぐらいの、いい意味での図々しさがほしい。五輪に対して貢献するという事実は、その球団のファンにとっても誇りになり得る筈であり、その選手を球団がアピールしていけば、それは営業面でも一定の効果を上げておかしくない。

 「五輪に選手を取られる」と考えるのではなく、五輪への選手派遣をプロ野球全体でキャンペーンするのも悪くない選択肢の筈である。派遣される選手は、確かに球団にとっては所有物という感覚のものかもしれない。しかし、我々ファンは、特に五輪での金メダル獲得を心から期待しているファンにとっては、そんな感覚は微塵もない。選手は球団の所有物ではなく、球界全体の宝物だからだ。

 私は中日ファンではないから、福留孝介も岩瀬仁紀も中日の選手だとは思っているが、中日球団の所有物だとは思っていない。日本球界を代表する素晴らしい選手、そう思っているだけである。これは各球団のファンに聞いてみたいのだが、恐らく各球団のファンも、選手を球団の所有物だとは考えていないと思う。高橋由伸は巨人の所有物ではないし、和田毅はダイエーの駒ではない。

 目線の置き方そのものが、どうも五輪とプロ野球を無理やり敵対関係に置いているような、平たく言えば二律背反で共存できないものに仕立て上げている気がする。本当にそうなのだろうか。本当に五輪とプロ野球は共存できないものだろうか。野球は他のスポーツとは共に歩めないスポーツなのだろうか。

 サッカーワールドカップ開催時、プロ野球はワールドカップとは共存できない、いや、共存しないという結論を選んだ。それは全くもって閉鎖的な考え方であり、何の進歩も望めない寂しい結論だった。

 30日に次回のオーナー会議がある。恐らくもう結論は動かないのだろうが、このままでは、本当にプロ野球は裸の王様になってしまう。従業員1名の会社で社長を名乗っているのと同じ状況になってしまう。

 長嶋監督は巨人監督時代、FAやドラフトで大物選手を片っ端から獲得し、多くの非難に晒されてきた。私も戦力の一極化には難色を示し、ここで幾度となく批判してきたクチではあるが、いまこのとき長嶋監督がこう言うならば、話は別である。いや、いまだからこそこう言うべきだと思っている。

 『私はかねてからプロの最強チームを組んで五輪代表の監督をやりたかった。私が巨人監督時代に大物選手を集めたのは、来たるこのときに対して巨人からいい選手をたくさん派遣する為だった。巨人はそれだけの巨大戦力を持っているのだから、シーズン中の1ヶ月、何人か主力選手が欠けても他球団に比べれば問題はない筈です。球界やファンの為に、金メダル獲得に全力を注ぎたい。その為にも巨人は積極的に五輪に選手を派遣してほしい』

 プロ野球は、本当に他のスポーツとは共存できないのだろうか。真に問われているものは、それである。 


Vol.164 アテネに向けてささやかな願い事を
2004年01月06日(火)

 いよいよ今年に迫ったアテネ五輪。昨年11月に札幌ドームで行われた野球のアジア予選では、周囲の心配を余所に中国・台湾・韓国に3戦全勝と危な気なく予選通過を決め、様々なメディアで取り上げられた。今年も日本代表チームへの注目度は相当に高くなりそうだ。

 チーム編成については、アテネでの本戦がプロ野球のシーズン開催と重なる為に、今回こそ各球団から2名ずつという枠が適用される見通しだった。しかし、ここにきて長嶋茂雄監督が2人枠の撤廃を各球団に求めたことで、これからもう二転三転あるかもしれない。

 この長嶋監督の要望に対して、真っ先に反応したのが中日の落合博満監督。和歌山県・太地町の落合博満記念館で『この球団は3人、この球団は1人となるなら、一切出しません』と断言し、長嶋監督の要望に真っ向から背を向けた。

 恐らくこの落合発言に賛同する球団関係者は少なくない筈である。チームの利益を考えれば、ペナントレースにおいて最も重要な夏場の期間、主力選手を五輪に持っていかれるだけでも痛いのに、そこに球団毎に人数の差ができれば、素直にイエスと言うことは難しいだろう。「こっちは主力選手を3人も持っていかれて、向こうはゼロ。そんな不公平な状況になる可能性を見過ごすことはできない」という理屈は、各球団の首脳陣やフロントにしてみればかなり本音に近い筈だ。

 落合監督も、アテネ五輪への選手派遣に対して否定的である訳ではない。『各球団が同じ人数ならいくらでも出す。でも、一つの球団が3、4人、一つの球団が0人ではペナントレースが戦えなくなるじゃないか』と言うように、各球団に空く戦力の穴に格差ができることは呑めないということだ。

 国際大会へのプロ野球からの選手派遣に対しては、シドニー五輪で初めてプロ選手が派遣された時から議論が紛糾したままだ。シドニー五輪の際には、パ・リーグは足並みを揃えて各球団から主力級の選手が1人ずつ派遣されたが、セ・リーグは非協力的な態度を変えず、中日・鈴木(現近鉄)、広島・河野(現ダイエー)の2人だけの派遣に留まった。渡邊恒雄・巨人オーナーの影響力も多分にあっただろうが、セ・リーグ各球団に共通していたのは、五輪よりもペナントレースの成績を重視する、企業としての自衛意識だった。

 一昨年の10月に韓国・釜山で行われたアジア大会でのプロ派遣は、主力選手が派遣されることなく一軍半〜二軍クラスの若手選手に留まり、韓国に惨敗を喫している。この結果に危機感を抱いたのかどうかは定かではないが、シドニー五輪で初のプロ派遣をしたことがチームに対するファンの関心を呼び、相当の注目を集めた事実は大きかったのだろう。五輪に対して完全に反旗を翻していた渡邊オーナーが五輪に歩み寄る姿勢を見せたのは、その掌の返し方や思惑はともかく、代表を組む上では取り敢えずプラス材料にはなっている。

 主力選手が夏場にチームを離れることは、戦力ダウンはもちろん、観客動員にも多少の影響が出るだろう。企業としての論理を優先させるか、日の丸の下に選手を派遣する栄誉を取るか。このジレンマは、恐らくアテネ五輪の後になっても解決されない。

 日本代表にベストメンバーを組み、勝利のパーセンテージを限界まで引き上げる努力をするなら、各球団から2名の選出という枠は障害にしかならない。選手の選出に制限を設けた上で最強チームなど組める道理がないからである。もちろん、各チームから2名ずつの枠で代表を組んでも、勝てる可能性はあるだろう。だが、そのパーセンテージは確実に上限値の下になる。

 個人的には2人枠の撤廃には賛成だが、落合監督の言い分も一理ある。と言うより、現場の戦力を預かって戦う身にしてみれば、「不公平があるなら許さない」という論理は至極真っ当とも言える。ここにこの問題の難しさがある。

 韓国では、シドニー五輪にプロ最強チームを送り込む為に、その期間のシーズンを中断する日程を組んだ。ベストチームを送り、尚且つ各球団から選手派遣の不公平感を極力なくすには、確かにこの方法はベストである。日本でそれができないのは、球場のスケジュール問題や試合日程の調整など、野球の外の論理が強く働き過ぎる為に他ならない。

 それはいわゆる「企業の論理」であって、「野球の論理」とはかけ離れた部分にあるものである。そして、五輪の選手派遣に反対している球団関係者の中には、落合監督が問題視しているような「野球の論理」ではなく、恐らく「企業の論理」に縛られている人間も少なからずいるだろう。

 五輪とペナントレース、どちらを優先させるべきかという問題に、正解はないだろう。どちらの立場にいるかによって、その答えはいくらでも変わる。ただ、全面的にプロ選手を派遣してベストチームを組むという掛け声があるのなら、例えそれが建前でも、全力で勝ちにいくことは礼儀である。何に対しての礼儀かと言えば、五輪を取り上げられた形のアマチュア野球に対しての礼儀というのが私の意見だ。

 「長嶋JAPAN」「ドリームチーム」という掛け声の下、アマチュア野球はプロ野球に五輪出場を取り上げられたという事実を忘れたくはない。言い方はきついが、これは紛れもない事実である。ならば、全力で勝ちにいかなければ、アマチュア野球に対する礼儀が立たない。今回のオールプロによる代表を目の上のたんこぶだと思っているアマチュア野球の選手は、きっとそれなりにいる筈である。

 サッカーの日韓ワールドカップが行われた一昨年、日本代表の試合が行われる当日にプロ野球は試合開催を休んだ。私はそれを「サッカーに尻尾を巻いて逃げた。そのことは熱心な野球ファンに対する背信行為だ」と思った。そして今回のアテネ五輪、ベストの戦力を組むことに障害が多いのは予想していたことだが、そのことはアマチュア野球に対する背信行為である。そういう自覚があって、それでも「企業の論理」を盾にしている球団関係者がいるなら、私はその人に野球を語る資格はないと思う。

 ペナントレースの日程を調整することは、本当にできなかったのだろうか。加えて、方策はそれだけではなかった筈だ。ペナントレースを重視する論理も充分わかる。だが、これだけ野球五輪代表に注目が集まっている現状、今回こそ球界はそこから逃げてほしくない。「企業の論理」を守ることで、日本野球そのものに禍根を残してほしくないのだ。

 阪神の星野前監督は、サッカーワールドカップ期間中に試合を休むということに対して、『この日は日本代表を応援する日だから野球を休む。これならば分かる。だけど視聴率が取れないから休むというのは、あまりにも消極的じゃないか』と語ったという。それならば、野球の日本代表を応援する為に、他ならぬ野球ができることはもっとある筈だろう。 

 私は、アテネ五輪で野球日本代表に金メダルを獲得してほしいと本気で思っているし、アメリカや韓国が出場権を逃した今回は、本気で金メダルに手がかかっていると思っている。その意味で、私は「企業の論理」に縛られてもいないし、そこに寄ってもいない。だから言えることかもしれないが、本気の日本代表をアテネで見たいと思っている野球ファンは、きっと少なくないだろう。

 140試合に影響することではない。2週間ばかり主力選手が抜け、その数にバラつきが出たぐらいで、不公平感が出たり屋台骨がグラつくほど、プロ野球は弱々しいものなのだろうか。そうではないだろう。ならば、金メダルに向けて全力を投じることは、プロ野球全体に対する意義も大きいし、それだけの責任はある筈だ。

 アテネで、ベストメンバーの野球日本代表を見たい。そして、勝ってほしい。これは、一介の野球ファンのささやかな願い事である。



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