DEAD OR BASEBALL!

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Vol.99 2002日本シリーズ回顧(第四戦)
2002年10月31日(木)

◆2002年日本選手権シリーズ第四戦 
西武ライオンズ×読売ジャイアンツ(西武ドーム)巨人4勝

巨人 020 003 100 │6
西武 000 020 000 │2

勝ち投手 高橋尚1勝
負け投手 松坂2敗

【巨】高橋尚、河原−阿部
【西】西口、松坂、森、豊田−中嶋聡、野田

本塁打 斉藤1号2ラン(2回・西口)、エバンス1号2ラン(5回・高橋尚)
    
【戦評】最後まで走攻守で圧倒し続けた巨人が4連勝で日本一に駆け上った。二回に斉藤が西口の抜けたスライダーを捕らえ先制の2点本塁打。五回にエバンスの2点本塁打で追い付かれたものの、直後の六回には二死球に代走鈴木の盗塁でチャンスを作り、斉藤、後藤の連続適時打で3点を加え突き放した。巨人先発・高橋尚は低目を丁寧に攻める投球で西武打線を翻弄。西武は先発・西口が粘り強く五回まで試合を作ったが、スクランブル登板の二番手・松坂が試合を壊した。



 実はこのシリーズ前、私は松坂をリリーフでフル回転させれば西武有利と考えていた。松坂はリリーフにも高い適性を持ち、スタミナも充分。事実、高校時代も含めて松坂のリリーフミスというものを私は見たことがない。松坂を後ろに回せば、実質先発は5イニングまで投げきればいい計算。4イニングを松坂→森→豊田で繋げば隙の無いリリーフになる上、5イニングで先発を回せば西口、石井、張誌家、許銘傑を中四日で回すことにも無理は無いからだ。

 短期決戦だからできる継投策……これを考えたのは、シーズン最終戦での松坂の登板をビデオで見た時。この時点で私は、松坂がシリーズの先発マウンドに登ることは難しいと踏んでいた。この出来なら、一巡はともかく二巡目以降はどうか……その懸念が第一戦で現実になったことは今更語るまでも無い。

 松坂をリリーフで使うべきだと私が考えたのは、それでも松坂の力が大きな武器になると信じていたからだ。松坂をリリーフに回せば、森→豊田という磐石の方程式を抱えているだけに、中盤以降相手にかけるプレッシャーは並々ならぬものになる。

 凶に出る可能性もあるが、吉に出た場合はこの上無いプラスをチームにもたらす……松坂大輔とは、そういう存在だと思っている。

 自身が出場した98年夏の甲子園、準々決勝の明徳義塾高戦。前日に250球を投げながら、6点差を八回に2点差まで追いすがった横浜高は、9回のマウンドに松坂を送り、奇跡的な大逆転劇の扉を開いた。

 昨年のワールドシリーズ第七戦、前日に先発して勝ち投手になったランディ・ジョンソンは、24時間の休養のみで1−2とリードされた八回に登板。2イニングを撫で斬りにすると、九回にウォマックとゴンザレスの適時打でダイヤモンドバックスは逆転サヨナラ勝ちし、ワールドチャンピオンに輝いた。八回にブルペンからノッソリと出てきたビッグユニットからは、まるで後光が差しているかのような威厳と神々しさを感じた。

 エースのリリーフ回転が一発勝負において切り札になることを、この二つの例は端的に示している。松坂が甲子園のマウンドに上がった時も、ジョンソンがバンクワンボールパークのマウンドに上がった時も、私は流れが激流となって変わっていったことを感じた。

 それでも伊原は敢えて松坂を初戦の先発に持ってきた。西武で唯一大舞台の経験を豊富に持った投手であること、「怪物」と呼ばれ続けたプライド、そして松坂の力無くしてはこのシリーズを勝つことは難しいということを、伊原も伊原なりに理解していたのだろう。結果はともかく、そうであるならばなぜ伊原はこの後に及んで松坂をスクランブル登板させたのか。

 伊原が松坂を全面的に信頼して初戦のまっさらなマウンドに送ったならば、なぜ「先発・松坂」にこだわらなかったのか。松坂を全面的に信頼して先発させたのなら、なぜ第一戦後の公言通りに松坂を第五戦の先発に回さなかったのか。確かに三連敗という剣が峰の状況において、後のことを考える余裕は無かっただろう。しかし、仮に松坂にとってのリベンジマッチの機会が無くても、松坂を先発で使った以上は先発にこだわり続けるべきだったと、私は思う。リリーフで使うなら、始めからリリーフでフル回転させた方が巨人にとっても脅威だった筈だ。

 恐らく伊原は、松坂を全面的に信頼できていなかったのだ。伊原は松坂を全面的にエースとして信じることができなかったから、ここで松坂をリリーフに回した。リリーフでフル回転させることも初戦の先発として心中することもできなかったのは、松坂に対する伊原の微妙な気持ちを表しているように思えてならない。

 そんな伊原の気持ちは、伊原から常々エースと呼ばれ続けてきた西口の眼にどのように映ったのだろう。チーム勝ち頭の15勝、7年連続二ケタ勝利、勝ち星こそ無いがシリーズでの先発も4試合経験している西口は、文字通り西武の屋台骨を背負い続けたエース。少なくとも第四戦に先発するような投手ではないことを、恐らくは誰もが知っている。

 形の上で、松坂は西口よりも優先的に起用された。昨日の西口は、このシリーズで登板したどの西武投手陣よりも素晴らしい投球を披露していた筈だ。斉藤によもやの一発を食らったものの、ストレートの伸びも変化球のキレも、インコースを果敢に攻める度胸もコントロールも……マウンド上で全身を躍動させる西口の表情は、さしずめ最後の砦を死守する弁慶のような頼もしさに溢れていたように見えた。

 5イニングを斉藤の本塁打2失点のみに抑えた西口に、まだ余力は残っていた筈。しかしエバンスの本塁打で追い付いた直後、伊原は西口をあっさり引っ込め、松坂をマウンドに送る。そしてその松坂が死球二つから試合を壊し、西口がもたらせた熱気を霧の様に散らせていった。

 伊原が松坂にこだわった理由、松坂に求めた何かは、こちらから窺い知ることはできない。だが、長期離脱の松坂を敢えて先鋒に立て、シーズン中の先発陣を引っ張り続けた西口が第四戦の先発。西口が作った流れを松坂が壊すという、皮肉と言うにはあまりにも残酷な巡り合わせ……西口に対するあまりにも軽い扱いが、西口を軸にして戦ってきた西武ベンチに微妙なズレを生じさせたように思えてならない。

 巨人に完璧に力で捻じ伏せられた格好の西武だが、がっぷり四つに組んだ結果、納得して負けたと言うよりは、抜くべき武器を間違えた結果の敗戦のように思えてくる。少なくとも、チームのまとまりという点では巨人と西武には雲泥の差があった。力量差が浮き彫りになったことは間違いないが、「らしさ」の欠片も見せられないまま沈んだ西武に消化不良を感じたことも事実だ。



 歴史は繰り返すと言うが、黄金時代の西武に4連敗を喫した90年の巨人は、今年の西武同様に公式戦で投げていなかった槙原を初戦の先発に立て、リズムを完全に掴み損ねた。

 総合力で席巻の西武、個人能力の高さで圧倒の巨人。噛み合わなかった歯車は、最後まで名勝負を生み出さなかった。

 西武ドームに広がる巨人ファンの歓喜。裏腹に、狭山丘陵を吹き荒ぶ風はどこまでも冷えていたかも知れない。少なくとも、野球ファンの眼は冷ややかではないだろうか。

 11月は近い。原の胴上げで迎えた野球シーズンの終幕は、パ・リーグの弱体化という制度面の限界を提示し、重い宿題を残すことになる。


Vol.98 2002日本シリーズ回顧(第三戦)
2002年10月30日(水)

◆ 2002年日本選手権シリーズ第三戦 
西武ライオンズ×読売ジャイアンツ(西武ドーム)巨人3勝

巨人 012 400 120 │10
西武 100 000 010 │2

勝ち投手 工藤1勝
負け投手 張誌家1敗

【巨】工藤、条辺−阿部
【西】張誌家、三井、許銘傑、土肥、潮崎−伊東、中嶋聡

本塁打 清原2号ソロ(2回・張誌家)、二岡1号満塁(4回・三井)
     高橋由1号2ラン(8回・土肥)、松井稼1号ソロ(8回・工藤)

【戦評】巨人打線の止まらない勢いが西武を圧倒した。1点を先制された直後の二回には清原のソロ本塁打であっさり追い付くと、三回は3本の二塁打などで2点を勝ち越し。4回は好調二岡の満塁弾で勝負を決めた。甘い球を見逃さない集中力は恐ろしさすら感じる。西武は今シリーズ初の先制点を挙げたものの打線が繋がらず、中盤からペースを掴んだ工藤の投球を捕まえられなかった。



 39歳の年齢に14回目の日本シリーズ。そんな数字は、時に「シリーズを知り尽くした男」「勝つツボを知った投球術」という言葉に置き換えられそうだが、少なくとも昨日の工藤にそんな余裕はなかった筈だ。



 連勝して敵地に乗り込む巨人。しかし伊原の頭の中に、過程はともかくこの結果は頭の中で最悪の場合として想定されていた筈。松坂と石井はハマった時の勢いは手の付けようが無いが、悪い時はとことん脆く崩れるタイプ。短期決戦で勢いを付ける為のリスキーな選択のように思えるが、仮に連敗しても張誌家と西口、安定感ある二枚で差し返せると踏んでいたと思うのだ。

 言うなれば、バクチ要素の強い松坂・石井という二枚は実質的な裏ローテーション。安定度を武器にできる張誌家・西口は表ローテーション。常に最悪の場合の保険をかけておく危機管理に長けた伊原なら、それぐらいのことを考えていてもおかしくない。

 同じことを原も考えていたのではないか。修正能力に進歩を見せた上原・悪いなりの投球に長けた桑田は、言うなれば巨人の表ローテーション。裏ローテーションに表ローテーションをぶつける以上、本拠地で五分の戦績では苦しい戦いになることを、恐らく原は覚悟していた筈。

 最高の範囲で計算通りの巨人、最悪の範囲で計算通りの西武。それだけに第三戦は只の一試合ではなく、事実上シリーズの分水嶺だったと言っていい。ここを制した方がシリーズを掴む……星の上の話ではなく、実際にそうなると私は思っていた。



 こう言っては失礼だが、それだけに工藤にとっては厳しい試合になると考えていた。自軍にとっていい流れが短期決戦で変わるなら、工藤が張誌家に投げ負けた時ではなく、工藤が西武打線に捕まった時だと思っていたからだ。つまり、第一戦・第二戦の逆を再現されることである。原にとっては表ローテーションにぶつける裏ローテーション……大袈裟でなく、工藤の左肩にはシリーズの命運そのものがのしかかっていた。

 立ち上がりの悪い工藤らしく、初回は苦しんだ。先頭の松井稼に左前安打を浴び、続く小関。思えば、この打席の初球に投じたカーブが、この試合のキーポイントだったように思う。縦に割れずに大きく外角ボールゾーンに流れたカーブが阿部のミットへ。立ち上がりの工藤は明かにフォームのバランスを欠いていた。

 小関には2−1と追い込みながら、真ん中低目のストレートを見事に打ち返された。自身の右太腿に当たる内野安打。治療の為にベンチに下がりながら、工藤は必死で考えていた筈だ。カーブは武器にならない。ストレートは狙われている上に走りがもう一つ。スライダーだけで凌いでいくにも分が悪い……マウンドに戻った工藤は、ためらうことなく懐刀を抜いてきた。

 相手がストレートを狙ってきているなら、それを利用すればいい。工藤の結論は、フォークボールの大盤振る舞いだった。カーブとストレートを見せ球に、スライダーとフォークで打者の目線を揺さぶり、自身のエンジンが暖まるまで凌いでいく。シーズン中よりも明らかにフォークの比率が多いその投球は、エンジンがかかり始めたように見えた西武打線を手玉に取っていった。

 初回に1点を先行され、なおも一死二、三塁で和田を迎えた場面。これまで当たりの出ていない和田のバットで追加点を許したら、恐らくこの試合の展開はガラリと変わっていた筈だ。しかし、ここで工藤が本領を発揮。低目のフォーク、スライダーで目線を揺さぶられた和田は、高目のストレートにバットが合わない。「恐怖の五番打者」をそのまま眠らせた工藤は、結局この回を1点で凌ぐ。

 もがいてもがいて1点しか奪えなかった西武と、0−3からの甘い球を完璧に捕らえた清原の本塁打で追い付いた巨人。同じ1点でもまるで成分が違うことを知った時、既に勝敗は決していたのかも知れない。トップギアに上がった工藤は、西武打線に連打を許さない。結局八回まで投げきり2失点。メリハリのきいた投球で、最後まで西武打線の照準を狂わせ続けた。



 二岡の満塁弾に象徴される華やかな破壊力。その裏で、苦しみながらひっそりと巨大なプレッシャーを背負い、ノラリクラリと持ち味を出した工藤の魔術。余裕の無い中でも切ることのできるカードを持っている、そういう無手勝流の強さが、今年の巨人にはある。無意識のうちにおっかなびっくり投げているような西部投手陣との差は、一言で言えば「懐の深さ」ではないだろうか。

 今年の巨人が「巨大戦力」という一言だけではくくれない強さを持っているのは、個々人の修正能力が非常に高いからだろう。巨大戦力を維持し続けたからこそ、全く苦しむことなく下馬評どおりにシーズンを制した。そして日本シリーズも、全く苦しむことなくここまで三連勝。西武に打つ手を与えていない。

 ついでに言うなら工藤は、松坂を7番、石井を8番に置いてまでこだわった「9番・高木浩」を、宮地と並んでスタメンから外した西武のオーダーにも救われたかも知れない。工藤は関川、立浪、坪井という左の巧打者には割と打ち込まれている「左嫌い」。結果的にマクレーンの起用は成功し、振れている平尾は外したくないということだったのだろうが、やはり短期決戦では先に動いた方が憂き目を見る。これについては多くを語る気は無いが。



 これまでの歴史の中で三連勝スタートしながら日本一を逃したケースは、たったの二度。そのどちらも巨人が絡んでいて、58年は西鉄相手にまさかの三連勝→四連敗、89年は近鉄相手に三連敗→四連勝。

 今の巨人の戦い方を見ていれば、余計なデータなど何の意味も無いように思えてくる。


Vol.97 2002日本シリーズ回顧(第二戦)
2002年10月28日(月)

◆2002年日本選手権シリーズ第二戦 
読売ジャイアンツ×西武ライオンズ�◆陛豕�ドーム)巨人2勝

西武 000 001 021 │4
巨人 106 000 20X │9

勝ち投手 桑田1勝
負け投手 石井1敗

【西】石井、許銘傑、三井、森−伊東、野田
【巨】桑田、岡島、前田−阿部

本塁打 カブレラ2号2ラン(8回・岡島)

【戦評】巨人が一気呵成の攻撃で試合を決めた。初回に松井の適時二塁打で先制すると、三回は5連打を含む7長短打で一挙6点を奪い勝負あり。巨人先発・桑田は要所を締める粘り強い投球で7回まで1失点。西武は反撃が遅く、序盤の好機を走塁ミスや併殺打で潰したのが大きく響いた。



 巨人に向く順の目、西武に向く逆の目。もし野球の神様がいるのなら、時に気紛れという名の残酷を演出するものなのかも知れない。それだけこのシリーズ、流れという要素がハッキリと分かれている。

 西武の野球がどこかおかしい。全体的にチグハグさが目立ち、特に攻撃面では荒さが目立つ。淡白と言い換えてもいいその歯車は、第二戦でも空回りを続けた。

 第二戦の一回表、二死満塁。桑田の二塁牽制を仁志がこぼし、一瞬そのボールを見失った。その隙に三塁ランナー小関が本塁を狙ったが、落ち付いた仁志の送球と阿部の好ブロックがそれを阻んだ。立ち上がりに迎えた絶体絶命のピンチを桑田が脱した時点で、この試合の流れも八割方決まったと言っていい。

 GOの指令を下した伊原の判断が間違っていたとは思わない。恐らく少しでも送球がミットより逸れていたら、小関の足はホームベースに潜り込んでいた筈である。ただ、打席には前日の第一戦で2安打を放ち阪神時代に桑田と対戦経験のある平尾。結果論だが、西武らしからぬリスキーなギャンブルだった。

 確かに西武野球の持ち味は、僅かな相手の隙にもつけこんでくるしたたかさとソツの無さだ。そしてそれは、言い換えれば「伊原野球」と言ってもいい。87年の日本シリーズ、クロマティの緩慢な返球と川相の無警戒を瞬時に見極め一塁から辻を生還させた判断、タッチアップで二塁から清原を一気に本塁に突入させた機知・・・例に挙げるまでもない「伝説」の側には、常に伊原の姿がある。

 だが今の西武は、そんな自分達が築いてきた「野球玄人」の足枷が邪魔になっているような気がする。「西武らしさ」を出そうとする余り、野球が余所行きになっているような気がしてならない。

 第一戦、先頭打者の松井稼がいきなりプレイボールヒットを放つものの、小関の送りバントが捕手前に転がり二塁封殺。続く2回も、先頭の平尾が中越え二塁打で絶好機をつくるものの、7番に入った松坂が初球を簡単に打ち上げて走者を進められず、そのまま好機を潰した。

 いつもの西武らしさを出したかったのなら、松井稼をいきなり走らせたりエンドランを仕掛ける方が驚異的だった。好機を潰した直後の絶好機、確率論に立ち戻ってまず主導権を握るなら、そこで走者を進めることを考えてもいい。先発陣を信頼するあまり試合が壊れるまでマウンドに集まらなかった松沼コーチや内野陣も含めて、どうにも試合の流れを掴めないまま個人ばかりにスポットが当たる。普段着野球と言うよりは殿様野球で、少なくともこれは私の知っている西武野球ではない。



 昨年の日本シリーズを思い出す。スターティングオーダーを固定し、シーズン中と全く変わらない野球を展開したヤクルト。遊撃に中村を回してまで「いてまえ野球」を過剰に演出してしまい、ローズの度重なる走塁死や方程式の定めない継投で傷口を広げ続けた近鉄。ヤクルトが4勝1敗と圧倒した要因は、その意味通りの「普段通り」を出せたか否か、その差でしかない。ヤクルトは100%の力でシリーズに望んだが、近鉄は「普段通り」を意識し過ぎて半分の力も出せなかった。

 「普段通り」を意識に入れ過ぎると策がどうしても後手後手になる。終盤の1点ビハインドという山場で守護神・大塚を投入せず流れを引き寄せられなかった近鉄と同様に、西武も試合が壊れるまで継投のカードを切ってこない。

 バース、掛布、岡田らを擁して「新ダイナマイト打線」と呼ばれた85年の阪神だって、6試合で総得点は僅か27。常識の範囲で考えるならば4〜5点の争いになるのが日本シリーズだが、それ以上に踏ん張ってくれると先発陣に過剰な信頼を置き、松井稼、カブレラ、和田らがいれば4〜5点は簡単に取れるという野球をやっているように見える。シリーズにはシリーズの闘い方があるが、「普段通り」をベースにしたシリーズの闘い方というものは、そこまで簡単なものではない。

 巨人の闘い方には迷いが無い。走る場面では積極的に塁をかき回し、シーズン中と変わらない奔放で豪快、かつ細かな野球をしてきている。第一戦先発の上原はシーズン通りフォークに頼らない投球で立ち直り、桑田は焦りにはやる西武打者の心理を逆手に取るような、普段通り捉え所のない投球を見せた。アマ時代を含めて大きな舞台の経験の差というものは小さくない要因の筈だ。

 西武がシリーズの流れを逆転させるには、所沢で3連勝することが最低条件になってきた。それだけの崖っぷちに追い込まれたということだが、DHが使える所沢でシーズン中の野球を思い出せなければ、焦りと歯車の狂いはスパイラルのように大きくなっていく。そうなれば、まさしく終戦。

 対戦相手の“光”を消すことが、西武野球がイヤらしいと言われる最大の要因であり強みでもある。だが今は、巨人の文字通り巨大な“影”の前に、西武の“光”が消されている。その巨大さこそが、巨人の強みである。


Vol.96 2002日本シリーズ回顧(第一戦)
2002年10月27日(日)

◆2002年日本選手権シリーズ第一戦 
読売ジャイアンツ×西武ライオンズ� 陛豕�ドーム)巨人1勝

西武 000 000 001 │1
巨人 004 000 00X │4

勝ち投手 上原1勝
負け投手 松坂1敗

【西】松坂、三井、後藤、土肥−伊東、中嶋
【巨】上原−阿部
本塁打 清水1号2ラン(3回・松坂) 清原1号2ラン(3回・松坂)
     カブレラ1号ソロ(9回・上原)

【戦評】効果的な本塁打2本で巨人が先勝した。清水・清原ともに松坂の失投を見逃さない一発で、そのまま主導権を手放さなかった。上原は12奪三振の快投、最終回にカブレラに本塁打を浴びたものの、危な気ない投球で完投した。



 エースの猛々しさと22歳の幼さが、同居しているようなマウンドだった。しかし、その対価は幼さのみに支払われたと言っていい。

 伊原にしてみれば、松坂を第一戦に持ってくるローテーションは勝負手ではなかったのかも知れない。上原に対して松坂で取れれば上出来……それぐらいに考えていた策だったのかも知れない。しかし、短期決戦における第一戦の流れというものが決して軽くないことも、恐らく伊原ほどの監督ならば知っている。

 それでも敢えて松坂を第一戦に立ててきたのは、松坂がその意味を理解していると踏んだからだろう。さしもの伊原も、松坂の無邪気なまでの愚直な勝負への欲求は読みきれなかった。

 立ち上がりから松坂の調子はあまり良くなかったように見える。体がやや開き気味で、ストレートがあまり走らない。スライダーは抜けたり指に引っ掛かったりで、中々制球が安定しない。リードする伊東も、もしかしたらブルペンの時点で気付いていただろう。その証拠に、普段よりも随分とカーブの比率が多かった。

 巨人の桑田や千葉ロッテの黒木は、自身のフォームバランスをマウンド上でチェックする為にカーブを投げるという。カーブが横に流れれば、体が早く開いて腕が横から出てきている証拠だからだ。逆に言えば、カーブがきっちりと縦に割れればフォームのバランスがとれているということでもある。

 伊東の思惑は、半分まで当たっていた。1回を乗りきった松坂は、徐々に球の走りが戻ってきていたからだ。松坂本人も、その手応えを感じていた筈だ。そこに落とし穴が待っていた。

 2回は松井稼のエラーから招いたピンチを凌いだ松坂だったが、3回先頭の上原にこの日初安打を与える。追い込んでからややインコース寄りに入ってきたカーブ、食らいついた上原の打球は三遊間の人工芝の上に決して綺麗とは言えないラインを走らせた。

 その時、松阪の中で何かが狂い始めたに違いない。1アウトを見込んでいた投手相手に、決して失投ではない球をヒットされたことで、松坂の気持ちがキレてしまったように見える。清水に先制弾を浴びた球は、ド真ん中のストレート。見入られたように甘く入った球に、本来の力はなかった。

 続く二岡に安打を浴び、高橋由には四球。無死一、二塁で松井を迎えた時には、もう崩れるしか道はない筈だった。しかしここで松井が三振ゲッツーに倒れ、ここを凌げば試合の流れはまだまだ分からなかった筈。しかし、ここで松坂の中で“持病”がムクムクと首をもたげ始める。

 松坂は、シリーズ開幕前からずっと口にしてきた。『キヨさん(清原)とは真っ向から勝負したい』と。よく知られていることだが、清原は松坂の憧れであり、共に食事をする仲でもある。松坂にとって最高の勝負ができる相手、しかし未だ公式戦では対決してこなかった両雄。その巨大な存在が、目の前にいる。松坂の血が騒いでも、無理はない。しかし、場が悪かった。

 松坂は、半ば「試合」を度外視して二人だけの「勝負」に没頭しようとしていたのではないか。清原をただただ力で牛耳りたいという、アスリートとしてある種当然の、しかしエースとしては甚だ幼稚な思惑は、清原の全く曇りのないスイングによって完全に粉砕される。左翼席後方の壁にブチ当たる超特大アーチ。ドームを壊さんとする強烈な打球は、同時に試合まで壊した。

 伊原の決断は早かった。次の回、松坂に回ってくる筈の打席には代打貝塚が入り、松坂に残った数字は3回4失点KO……同様に立ち上がり不安定ながら、外角の制球重視に投球を切り替えて立ち直った上原とは、完全に対照的な結果になった。

 伊原の目に、松坂が身勝手な勝負に固執した姿は歯痒く映ったのではないだろうか。個人の感情や私意をシリーズに持ちこむ奴に大事な試合は任せられん……あまりにも早い伊原の決断は、この登板が松坂を全面的に信頼して送り出したものではないということを表しているような気がしてならない。同時に、このシリーズでもう松坂を使う意思がないということも表している……というのは深読みだろうか。

 伊原は松坂を試金石にかけたのだと思うのだ。松坂が、最も大事な時にチームを勝利に導くことができるエースであるか……伊原はシーズン中、何度も『ウチのエースは西口』と言ってきた。それは西口の力に全幅の信頼を置いているのと同時に、松坂にはチームの勝敗を託すことが絶対的にはできないという焚きつけでもあったに違いない。松坂には、試合の中でも自分の世界に入り込んでしまう悪癖があり、それによってこれまで何回も試合を壊してきた。

 松坂がいなくてもローテーションを回してこられた先発陣の厚みは、確かに西武のアドバンテージである。しかし、松坂というリスキーなカードで初戦を落とした意味は、決して小さくない筈。果たして今後、伊原は松坂をどのように使うのか。中継ぎか、或いはメンバーから外すか、或いは先発でリベンジの機会を与えるか。

 この初戦、結果的にはまだ伊原の計算の域を出ていないと思われる。伊原の中で松坂が崩れるということは想定の範疇だろう。だが、流れという要素は確実に伊原の思惑の外でも動いている。その流れを掴むカギは、松坂で失った以上は松坂でしか取り返せない。そして松坂が「試合」よりも「勝負」にこだわる幼さを捨て切れないなら、伊原にとっての最大のリーサルウェポンは最大の不良債権になる。



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