ローゼライトの日記
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忘れられない音がある。 夏が来る都度に思い出すその音は…。 聞くたびに、胸が熱く…そして締め付けられそうになるほど切なくなる。 それは、ある一夏のヒグラシの声だ。 俺が王国に来て、みんなと出会った夏の日の。
今でもはっきりと覚えている。 夜と朝の狭間の時間に染みいるように響き渡ったヒグラシの声。 鳥も鳴かず、他の音も、雑音も一切聞こえない。 静寂と不思議な清々しさに満ち溢れた魔法のような時間だった。 俺はその時間がたまらなく好きだった。 長くはない…朝がくるまでのほんの一時だけの希少な時間。 もともと、早寝早起きだったこともあって。 よくヒグラシの音を聞きながら、王国の浜辺を散歩したものだ。 …俺の愛しい人は蝉が苦手だったから嫌がってたけど。 …その嫌がる顔も…俺にとってはとても愛しかった。
…あれから何度目かの夏が来て、去っていた。 けど、あのヒグラシの音に出会うことはなかった。 魔法の時間は、あの時だけのものだったのだろうか。
もう一度、…できればもう一度、あの音を時間を味わってみたい。 …そう思うのは俺のわがままだろうか…。
ローゼライト
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