あきら
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1992年07月13日(月)

過去からの手紙



 夏が始まったと感じたある日。
私は前日に原チャリでコケてしまって原チャリに乗る気がしなくて、
会社の先輩に家の前迄送ってもらって、帰って来て、
いつものごとく、郵便ポストを開けた。

母宛のガンセンターからの手紙や新聞と一緒に、
見慣れない大きくて綺麗な字で、
自分の名前の書かれた封書を見つけた。
、、、違う。
見た瞬間に誰だか分ったはずだ。
裏を見て、納得。
彼だった。

イヤな予感がした。
私は最初、開封するのが恐かった。
4月から2度、夜中に彼から呼び出されて、逢って居た。
別れてから丸1年以上も経っていて、
私には、その時、最高に優しくて分りあってる彼が居て、
もう私の心の中に彼の居場所は無かった。
ただ、別れる時の約束として、
「話し位は聞くよ。」
って、伝えていたから、会っていた。
会ってる内に、途方に暮れてすがりついて来る彼が、
うっとおしくもあり、可愛くもあった。
憎さ百倍って所もあったかなぁ。

 私には、全く無口な彼の事、、、
何を考えているのか、さっぱり分らなかった。
1年前、「疲れる」と言って私の事を振ったのは彼だったのに、
何故、今更、、、?
4月に初めて呼び出された時にも、
何故、呼び出されたのか、、、全然、分らなかった。
ただ、お酒の臭をさせた姿で現れ、何も言わずに立って居た。

、、、。

私が寒くて震って居るのに、帰してもくれない。
私にとって、今の目の前にいる彼は、
昔、、、色眼鏡が掛かってみて居た時とは、
全然違う、理解し難い、、、理解しようと努力する相手でも無かった。

私は昔、頑張った。
何も言ってくれない、会えない、、でも、来年、受験が終わったら、
きっと、、って、、、。
でも、振られた。

、、、理由は自分で一生懸命に日記からも探して、
これまた頑張って自分を納得させた。

きっと私が待ってる事が重荷だったんだ。
会う度に不安を募らせてる私がイヤだったんだ。

って。

 数カ月後。
私は今の彼(真ちゃん)と出会った。
真ちゃんは優しい。
私のちょっとした心の動きも敏感に感じ取って、
「どうしたの?」
って聞いてくれる。
腕の中で甘えさせてくれて、髪を撫でて上手に話しを引き出して、
答えに導いてくれる。

 話すって、こんなに大切な事なんだ、、って、
とても実感出来た。
昨年の事なんて、全然思い出す事もなくなっていた。
もう戻りたく無かった。

 私は、4月に就職して、回りの環境が激変し、
身体も疲れていて、彼の呼び出しで、
寒い外で突っ立って、朝4時迄一緒に居る事は、
次の日の仕事に影響してしまうし、早く帰して欲しかった。
何よりも、目の前で、人が震えていたら、
何とかして挙げたいと思わないのかな?
それも、自分が呼び出した相手が寒さで震ってるのよ?
、、、

それでも、一度、自分が好きだった相手。
約束もあるし、何か言ってくれるんじゃないかな?って、
何度か会ったンだけれど、、、

でも、何も話さない。

なんか呆れて来てしまって、最後には、子供をあやすようだった。
寒いし、抱き締めてよしよしって、真ちゃんが私にしてくれる様にした。
そうしたら、力を入れて来て、キスしてしまった。
それもディープキス。
なんか頭の中、冷めちゃった。
一体、誰とこんなキスの練習して来てたのよ。
その人の所に行きなさいよ。
全然、感じない。

彼もこの時の私の態度で察知したのか、この頃は全然連絡が無かった。

私もすっかり忘れて居た。

前日には、真ちゃんが就職試験だったし、
自分も原チャリコケ事件でどうにも参っていたし、、、
相変わらず、自分の会社での新しい世界も手一杯だった。

きっとこの手紙は、私の冷たさを非難する言葉が
綴られているんだろうな、、、
冗談じゃないよ、、、
私だって精一杯したよ。
一浪する事も教えてくれなくて、やっと今年大学に入って、
友達も居なくて寂しい時だけ、、、
何か話してくれて相談に乗るとかなら良いけれど、
身体で慰めてくれなんて事だったら冗談じゃないよ。
。。。
私はボランティアじゃ無いんだもの、、、勘弁して、、、。
考えてて落ち込んで来た。


開封して、もっと落ち込んだ。


 
「暑い日が続きますが、お元気ですか。
御無沙汰してしまいましたが、実験・実習のレポート
提出に追われていて、やっと一段落したところです。
でも、来週から試験が始まるので電話する暇もなく
忙しい毎日が続いています。
手紙を出すのは二通目だと思うけれど突然の手紙で
ビックリしたと思います。
最初に出したのは、ずっと前の事のようで、
あの頃がとてもなつかしいです。

  彼氏がいるあきらさんでも、忘れることが
できません。とっても大好きです。

  七月十三日

           西○ ●◎

○◎ あきら様」

、、、

彼は、私がする邪推なんかとは、縁の無い人だった。

ーーーーーご免なさい。ご免なさい。
罪悪感。

私に一体、どうしろって言うのだろう。




H13,12,8
今は分る。
彼はすがって居ただけ。
寂しかっただけ。
多くを望んでいた訳じゃなくて、
ただ後悔していただけ。
自分の多くを語る言葉を持っていなくって、
もどかしくて、寂しくて。
別れた事も後悔していて、、、ただ唯一話せる様になってた女の私に、
傍に居て欲しかっただけ。

この時は知らなかったけれど、
彼は私が待っててくれるモノだと思ったらしい。
ずっと彼も作らずに居るモノだと思ったらしい。
私の言うことなんて全然聞いて無かったんだなって思ったけれど、、、
浪人中に、私に彼が出来たことを知ってショックだったって、
後々に言って居た。
毎日、ずっと勉強していたけれど、
知った日の次の日には、ショックで一日遊んだってさ。
それでも諦められなくて、連絡して来たんだって。

この後、秋に一度連絡をするけれど、
その時にはすでに、彼は落ち着いていて、
私は必要とされてないのを感じて、安心して、連絡をしなくなった。

タイミング悪いよね。
お互い。

私が今、唯一持って居る現存するラブレターでした。





      

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