おひさまの日記
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昨日、父がいる老人介護施設から電話があった。 父が大量に下血したため、病院に運ばれたというのだ。
大慌てで指定の病院に向かった。 私達が病院に着く頃、診察が済んだ父は施設に戻ったらしく、 結局病院では父に会うことができず、その足で施設へと向かった。
施設に着くと、口をぽかんと開け、どこを見ているかわからないような目で、 斜めに体を傾けて、放心したように車椅子に座っている父がいた。 みんなで声をかけるものの、あまり反応しない。
そこには、私に暴力を振るった父はもういなかった。 老いという人間の宿命に身を任せたひとりの老人がいるだけだった。
心の中では何かを感じているのだろうけど、 必死に感覚を閉ざしている何かが私の中にある感じで、 思考と感情は制御され、至極冷静に父を見ていた。 お父さん、もう死ぬのかしら…無感情にそんなことを考えた。
父の暴力と支配への恐怖を感じないように感覚を閉ざすことを覚えた私は、 今また、老いて衰弱する父を感じないようにしている。 幼い日も父へのあらゆる感覚を閉ざし続けたように。
私の深い心の傷は、ただ痛むだけではなく、 私を傷つけた父の傷の痛みを感じる力をも備えていた。 私は、自分が、父の心の傷の痛みがわかる世界でたったひとりの人間だと思っている。 父は自分の心の傷と同じ傷を私につけたから。
あまりにひどく、あまりにむごく、許すことのできない行為だったよ、お父さん。 けれど、そう思うと涙が出てくるのは、 私のことを本当に大切にしていてくれたお父さんがいることも知っているからだよ。 愛したいのに愛せない時間があまりに長かったからだよ。
一緒に凧上げしたことを、 お化け屋敷がこわくておぶってもらったことを、 寝ている私の枕元に旅行のお土産を置いてくれたことを、 覚えているんだよ。 決して多くないあたたかい思い出が、今、キラキラ輝いてるんだよ。 そして、どんどん奥の方から出てくるんだよ、忘れいていたそんな思い出が。
私はあなたの娘です。 私として生まれてきてよかったと思ってます。 この人生を生きてきてよかったと思ってます。 今私は幸せです。
お父さん、私とあなたの距離を縮める魔法があったのなら、 神様にお願いしましょう。 どうぞそれを与えてくださいと。
お父さん、引っ越して部屋を片付けていたら、お父さんのメモが出てきました。 私が憎いと書いてありました。 復讐してやると書いてありました。 今でも私が憎いですか? 今でも復讐しようと思っていますか? 一体私が何をしたのですか? 私はただありのまま生きていただけなのです。
お父さん、お願い、 それを許してくれないまま、逝かないでください。
私はただ愛してほしかっただけなのです。 ありのままの私を。
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