DEAD OR BASEBALL!

oz【MAIL

Vol.185 プロ野球は何の為に存在するのか
2004年07月03日(土)

 端的に言って、今回の一連の騒動は、「プロ野球は何の為に存在しているのか」という問題提起を、様々なベクトルから喚起させたように思う。選手の立場、ファンの立場、オーナーの立場、親会社の立場、マスコミの立場、そこには様々なベクトルが介在している。本来プロスポーツとはそういうものであり、どのベクトルが正しいなどということは一概に言うことはできない。

 各球団のオーナーやリーグ首脳のコメントが、連日マスコミを通じて発せられる。「球界の将来」というような、いかにも耳障りのいいような言葉が飛び交う。だが、実質的に野球そのもののベクトルを持って話している首脳陣は、聞き受ける限り誰一人としていない。

 ライブドアという聞き慣れない企業が近鉄球団を買収したいという話が出てきた。個人的な意見としては、球団が1つ消滅するよりは、買い手が付いて残った方がいいと思っている。何故かと言えば、球団数削減・1リーグ制という縮小均衡路線に球界が向かうことは、結果的に野球というスポーツの底辺層を狭め、自らの首を絞めることに直結すると考えているからだ。

 スポーツライターの玉木正之氏が、ライブドアの近鉄買収に対する球界の反発について『「野球を知らん奴は入れない」とか「売名行為だ」とか言うなら、いまのオーナー達だって誰も野球を知らないし、売名行為をしていますよ』とテレビで言っていた。これは的を射た物言いだと思う。

 日本では、スポーツビジネスのプロフェッショナルが球団運営をするという認識が薄い。その上、球界の構造そのものが球団を所有するオーナーや親会社の宣伝媒体である以上、少なくともオーナー達にとっての球団の存在意義は売名行為というベクトルそのものであると言っていい。だからこそ、ユニフォームのロゴをTOKYOからYOMIURIに変えるなどということがまかり通ってしまう。

 ライブドアへの反発の件については、近鉄の選手会長である礒部公一が『ちゃんと説明がないまま勝手に話が進んでいる感じがする』と不満を漏らしている。プロ野球選手会長の古田敦也の見解まで含めると、選手側の意向としてライブドアの近鉄買収は、概ね『合併で球団消滅よりはいい話だ』という感触のように感じる。

 1リーグ制移行を推し進めたい御仁達は、1リーグ制に移行することでプロ野球の全てがいい方に進んでいくと考えているのだろうか。1リーグ制という言葉には、判で押したように球界再編やら球界改革という言葉が並ぶが、1リーグ制になるということでどれだけの具体的なメリットがあり、それが運営面にどのような具体的好影響を与えるかということについて話した人間は、知る限りでは誰もいない。

 1リーグ制のメリットとして、巨人×ダイエーや阪神×西武のような魅力的なカードが増えるということをよく聞く。それならばMLBのインターリーグのようなセパ交流戦を実施すればいいだけの話だ。巨人戦の放送権料に群がるセ5球団が猛烈に反対することで、交流戦の話はいつも壇上から引き摺り下ろされる。そんな議論がこのタイミングで出ること自体がナンセンスで、魅力的なカード云々を言うならば、本来はもっと早く実現していなければならない話の筈だ。

 悪い意味で巨人主導・渡邊オーナー主導の膿は、球界に様々な矛盾を生み続けている。何故なら、そこに最も肝心な野球そのもののベクトルが一切シャットアウトされているからである。

 誤解を恐れずに言うならば、球界再編やら改革などという言葉を今回やたら口にしている人間は、その実はプロ野球という文化のことも、野球というスポーツのことも、一切考えていないに違いない。スポーツが公共財であることや、プロスポーツが何の為に存在しているかということは、考えたこともないのではないだろうか。そこにあるのは、既得権益にしがみついた姿だけであり、そのみすぼらしさには哀れみすら抱くことができない。

 そもそも、赤字球団の運営を苦しめてきた要因は何なのか。よく「自助努力が足りない」という言葉が使われるが、親会社にぶら下がってきた球団の体質上、確かにそういう面もあると思う。

 だが、近鉄がヘルメットにつけるスポンサーに消費者金融系のロゴを入れたら品がないと言って横槍を入れ、球団を買収して新規参加するには30億円の加盟料を払えなどと独禁法違反のような参入障壁を築き、外国企業の持ち株比率には制限を儲け、ネーミングライツを売るとなれば法外な圧力をかける。そんなことをしてきたのは、一体どこの誰だったのか、よく思い返して欲しい。

 一球団のオーナーという枠を遥かに飛び越えた権力を、傍若無人に行使し続けているあの人間の為に、プロ野球は存在しているとでも言うのだろうか。だが、事実この十数年はそのようなことにされてきた。繰り返すが、そこには野球というスポーツに対するリスペクトも、プロ野球という文化に対する愛着もない。野球というベクトルが存在しない以上、選手もファンも置き去りにされてきた期間だったと言うことはできるかもしれない。

 話を聞く限り、ライブドアの堀江貴文社長はそのようなしがらみのない人間だ。考え方も合理的で、ビジネス的にはかなりシビアな人のように見受ける。副作用はあると思うが、これぐらいの劇薬の投入はあってもいいと思う。球団運営に対するシビアさは、その球団の野球に対する取り組みそのものをシビアなものにする可能性も大いにある。

 球界はスクラムを組んでライブドアを排除しにかかっている。だが、運営面の問題で合併を進めている以上、それはビジネス的な話の筈だ。ライブドアが、近鉄球団の運営面にとってオリックスとの合併よりも旨味のある話を持ってきた場合、それを蹴ることはその時点で矛盾が発生する。自分たちはバカですと白状するようなものであり、恐らく堀江社長は近鉄の逃げ場を全て封じた上で買収にチェックメイトを打つつもりの筈だ。

 大阪に球団がある限り、運営母体が近鉄からライブドアに移ったところで、実際にファンは離れないと思う。シアトル・マリナーズの親会社は日本の任天堂だし、サッカープレミアリーグのチェルシーのオーナーはロシア人大富豪だが、地元のファンにソッポを向かれているという話は聞いたことがない。

 ファンにとっては、オーナーが誰だろうが、おらが街のチームであればいいのではないだろうか。地元のチームとして、応援し甲斐のあるチームがそこにあれば、必ずファンはソッポを向かない筈である。そしてその為のベクトルは、必ずそのスポーツそのものの為、チームとそのファンの為という形で存在しているのだろう。

 地域に密着し、親会社だけでなく、地元の有力企業から個人単位まで広く資本を募り、その資本を利益という形で株主やファンに還元する。そのようなサイクルが確立すれば、球団にはファンを集めようという自助努力も自然発生するし、チーム強化にも長期的なビジョンを持つことができる。ファンもチームに愛着を持って応援することができる。プロスポーツとファンの健全な関係というのは、そういう部分にあるのではないだろうか。

 地域密着型の運営努力というのは、チームの運営を安定させ、ファンから資本を募ることのできる可能性を更に拡大する可能性を持っている。Jリーグのアルビレックス新潟などは、正しくその典型と言えるだろう。J2時代から抜群の集客力を成長させていった要因は、アルビレックスがおらが街のチームとして愛されたからだ。愛されたのは、運営側が本当にサッカーを愛し、アルビレックスを愛し、新潟という都市を愛したからではないだろうか。

 プロ野球でも、ダイエーや日本ハムは、プロ野球のない地域にプロ野球を持ち込み、そこで生き残りを図ろうとしている。ダイエーの方は親会社の問題もあるが、球団運営としては確実に成果を挙げた。日本ハムの方はまだ時間がかかるだろうが、少なくとも既に取り掛かりは掴んでいるように見える。

 今後もそのような自助努力の芽を摘み続け、一部の球団さえ儲かればいい、そこにぶら下がっていればいいという考え方を排除しない限り、どんな手を打っても球界の未来は明るいとは言えない。プロ野球が親会社の宣伝媒体として存在し続け、オーナー達のパワーゲームとしての場という形を変えない限り、改革などという美辞麗句は幻想ですらない。

 1リーグ制は、プロ野球に介錯を加える最後のパンドラの箱でしかない。だが、恐らく球界首脳はそれでもいいのだろう。所詮は野球を愛していない人間の集まりである以上、プロ野球が立ち行かなくなっても道楽が一つ減ったという程度の認識しか持たないに決まっている。

 そして、その頂点にいるあの人間にとっては、少なくとも自分が生きている間だけ「巨人軍は永久に不滅」であればいいのだろう。書いているだけで頭が痛くなってきた。

 平たく言えば、なんて器の小さい人間の集まりであろうか、ということである。そんな器の小さい人間が我が物顔で牛耳るプロ野球とはこれほどまでに不幸な存在だったのか、そんなことを今回は露骨に思ってしまう。

 唯一言えることは、野球は所詮野球の為にしか存在しないのだということである。野球を支えるのは、野球というベクトル以外に存在しない。その認識が首脳陣から決定的に欠けている以上、いまのままでは悲観的にならざるを得ない。

 だから、私としては堀江氏が旧態依然とした球界をぶち壊せるならそうしてほしいと思うし、正常なスポーツビジネスとしての一石を投じることができればいいと思っている。その壇上に上がりすらせずに封殺している球団首脳は、ただの臆病者にしか見えない。彼らは、明らかにライブドアという予期せぬ“敵”の出現を恐れている。

 もっとも、堀江氏が野球を愛せず、ただの野心の塊で近鉄買収に乗り出しているのなら、いずれ私は堀江氏のことも批判する立場に回ることになる。そうならないことを願っているが、現時点で堀江氏の出現は数少ない光に見えて仕方ないのだ。



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