月の輪通信 日々の想い
目次|過去|未来
朝、ベランダに出たら、ふわふわと花吹雪。 対岸の山桜が暖かい春の風に花びらを散らしている。 はらはらと舞っては流れてゆく春のひとひら。
オニイの入寮の日がきまった。 引越し準備のダンボールが少しづつ部屋を占領していく。 衣類や自炊道具、布団やTV。 最低限に揃えた家財道具で、送り出す。 相変わらずの朝寝坊、相変わらずの仏頂面で、残り少ない家族の時間を過ごすオニイ。 ほんとにちゃんと一人で生活していくんだろうか。 毎日三食、まともなご飯を食べられるんだろうか。 落ち着かない思いに駆られて、引越し荷物の隅にオニイの好きな即席めんやレトルト食品を少しずつ忍ばせる。どこのスーパーでも売っているようなありふれた食品をついつい買い足してしまう母の愚かさ。 「そんなの、あっちでも買えるし・・・」とふてくされながら、「いらない」とも言わないオニイにも、どこか不安はあるのだろう。 それが正しい巣立ち前の心境。
アユコ、アプコとともに10年近く通った書道教室が突然閉まることになった。 指導のTさんが、離れて暮らす母上の介護に通うことが必要になったため。 とても勉強熱心な先生で、私も娘たちも本当によく教えていただいた。 一年生から習い始めたアプコは、アユ姉のように小学生のあいだに特待生になるのを目標に頑張っていたので、とてもショック。 私もこのまま、おばあさんになるまでお習いできると思いこんでいたので、突然の決定に呆然としてしまう。 今日はその最後のお稽古日。 ずっと置かせてもらっていた書道用具を片付け、在庫の半紙や墨汁を沢山いただいて持ち帰った。 とりあえず、アプコのためには早々に新しい教室を見つけてやらねばとは思いつつ、なかなか気持ちの切り替えが出来ない。
焦ったり、足掻いたり、拳を固めたり、嘆いたり。 慌しく走り回るうちにあっという間に冬が通り過ぎていった。 見上げると、春。 たった1日、暦が変わっただけなのに、なにやら世間には新しい風。 まだ、グダグダの混沌の中に溺れる私を取り残して、巣立ちの季節は着々と進む。 待って!待って!と伸ばした手の指の隙間から、サラサラと春の時間がこぼれ落ちていく。
|